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二部 第8話



「エルー。これ美味しいよー。食べるー?」

 灰猫が手に持った丸い菓子を隣にある虎頭の頬にぐいっと押し付けた。

「ミル。ちょっと寄りたいところが……あふんだふぁいいふぁ?」

 口が開いた瞬間に菓子を放り込まれた。一つだと思ったが、ほんの一瞬で三つ投げ込まれていた。

 ポーズを決めたミルがにやりと悪い笑みを浮かべるのを尻目に、もぐもぐと咀嚼して飲み込む。

 普通に渡してくれれば良いのだが、灰猫はこういう事が大好きな性格だ。

 何か飲み物が欲しくなった。


 街を歩く巨躯の虎と肩に乗る灰猫が目指すのは建物の壁に黒水晶をふんだんに使われて作られた大きな一種異様な建造物。貴族の館の規模を二つほど合わせた大きさの建物に研究、実験施設である黒水晶の塔が隣接している。

 隣接する国々を見渡して、二番目に大きい規模の魔術師ギルドである。

 建物の表面に使われた黒水晶は魔術による攻撃などの作用に干渉し、不発や拡散させるために取り付けられたものだ。

 絶大な効果は無いが、腕が劣る魔術師ならばまったく歯が立たない程度の効力がある。

 その建物の正面に辿り着いた虎と灰猫。

 二人仲良く下から上へと視線を移動させた。

「あんまりボクは好きじゃないんだよねー」

「先に戻るか?」

 ちらりとミルを盗み見る。だが、首を振って肩を竦めた。

「友達のためだもん。好き嫌いしないよー」

 さわさわと灰猫の頬を撫でて入り口に向かった。


 やはり大都市にある魔術師ギルドは豪勢な造りをしている。

 中規模、小規模の街になると、建物の建設には余り費用をかけたくないために、職人が薄く薄く切り剥がした黒水晶を貼り付ける。

 目の前のギルドは扉そのものが分厚い黒水晶で作られているようだった。

 ちなみに、厚さで効力が強くなるという事は無い。薄くても厚くても同じである。

 だが、魔法を学ぶために訪れる生徒達はそう考えない。

 大金を投入している魔術師ギルドほど偉大だと考えているようなのだ。

 知識を修め、魔力を高めるのは個人の努力次第であって、建物の良し悪しではないのだが、それがステータスになると考える者も多い。

 それはともかく。

 大きな扉の両脇には剣を構えた石像が鎮座していた。英雄と呼ばれた人の像らしいが、装飾のためのものでは無い。不法に侵入しようとすると排除するために動き出すストーンゴーレムである。

 扉の前、石像の横へと足を踏み入れると石像の瞳が青く光った。

「ふむ……」

 エルが扉の取っ手の脇に張り紙を見つけた。

《ノックを三回してください》

 指示されるがままに扉を三回ノックする。


トン、トン、トン。


 石像の起動解除用なのだろう。青く点滅していた瞳が収まった。

 エルが扉を抜けて中へ。

 目の前には大きな階段があり、その脇に受付と思われるテーブル。

 そして、暇そうに欠伸をしている少年が座っていた。

 じっとエルとミルが少年へ視線を送っていると、やっと気づいたのか、二人を見て椅子から転げ落ち、すぐに身嗜みを整えてから近寄ってくる。

「ど、どのような御用件でしょうか」

 おどおどとしながらも話しかけてくる少年は九十九よりも小さい。近寄ったために見上げて話すしかない。

 エルが片膝を付いて視線を低くすると、少年が少し表情を緩めた。暖かく、力強いエルの掌が少年の頭を優しく撫でたのだ。

 最近、九十九とレミュクリュと接して知ったのだが、エルが頭を撫でるとよほどの事が無い限り、心を落ち着かせるらしいと気づいた。

 もっと昔に気づいていれば、もう少し生活が変わっていたのかもしれない。

 少年を撫でながら少しだけ物思いに耽っていたが、すぐに意識を戻した。

「このギルドで最も《魔力》の分野で詳しい者に面会したいのだが」

「……あ、えっと購買や依頼では無く面会ですね……。ケンテル導師が一番詳しいですね。少々お待ちください」

 テーブルへと戻り、書類を眺めて一人頷くと、引き出しから白い水晶らしき鉱石を取り出して何か呟く。

 すると、水晶鉱石にぺこぺこと頭を下げ、エルとミルの用件を伝えると、水晶を引き出しへと戻した。

「すぐにお会いになるそうです。この人形が案内しますので、付いていってください」

 そう言うと懐から小枝を取り出して呟いた。

 掌に収まる程度の大きさだった小枝が膨張し、歪な人型に変わった。少年よりもさらにふた周りも小さい人形が、歩き辛そうに先導する。人形と表現したが、四肢と思える枝葉があるだけで、思うがままに書き殴った人間らしき物体と言った方が正確かもしれない。

 歩幅の大きいエルにはとても遅く、油断すると踏み潰してしまいそうになってしまう。

 案内されるままに階段を上がり、受け付けが完全に見えなくなった位置で、

「あの人間の子供はまだまだだねー。木製操り人形ウツドマリオネツトなんて創作魔術の初級なのに、こんな歪な形にしか作れないんじゃ、魔術の才能は無いねー」

 肩に乗って楽をしているはずのミルが、歩みの遅い案内に苛立ちを隠そうともせずに呟いた。

 少年の才能を完全否定しているが、魔術に詳しい者からすると評価は真逆だ。

 木製操り人形は創作魔術の初級。熟練すると複数の小人に命令を与えて仕事する事が出来るようになり、昔話や噂話に出てくる、職人を手伝う小人になるのだ。創作個数や人形の腕力、応用力については素材や製作者である魔術師の腕次第になる。

 そして、創作魔術は四大魔術の中にある付与魔術を基礎としており、付与魔術の派生系とも発展系とも言われ、付与魔術の特化型とも言われている。有名なのが上級創作魔術で創作人形クリエイシヨンゴーレムがあり、木製人形ウツドゴーレム鉄製人形アイアンゴーレムなど、財宝を守る守護者などに使われ、盗掘者と敵対する恐るべき相手として立ち塞がる事が多い。

 そういう類の魔術であり、才能が無い者が使える魔術では無い。それを十数年しか生きていない少年が使った、と考えると天才と言われる部類で、才能が無いはずがない。

 魔術の素養に優れたケット・シー族と人間の個体差をすっぽりと抜かしたミルの優しさの欠片も無い評価は的を外していると言わざるを得ないのだが、エルはそれを指摘しようとは思わなかった。

 的が外れた評価だとミル本人が気づいている。

 本当にそう思った時には本人の目の前で聞こえるように話すのが右肩に乗った灰猫の性格なのだ。それなのに苛立たしげにエルにしか聞こえないような音量で呟いた時点で八つ当たりでしか無い。

 苛立つ理由は明確で、魔術師ギルドの建物に入った途端に監視されたからだ。それも数十にも及ぶ微弱な魔力が二人を取り囲んでいる。

 警備目的は当然あるだろう。だが、いくつかは人外の種族を見ようと興味本位か研究目的で見ているはずだ。

 エルもそうだが、特にミルのように魔力に敏感であれば不快でしかない。

 遅々として進まない操り人形も観察対象を長く留めるためにわざと歪に作ったのではと勘繰りたくもなる。

 階段を上がり、五階の端の部屋へとやっと辿り着くと、人形が歪な身体を二つに折って戻っていった。命令したのか、少年の心が反映されているのか、礼儀正しい対応に二人は少しだけだが、ふっと表情を和らげた。


「開いとるよ」

 エルがノックしようと腕を伸ばしたが、相手はすでに気づいているようだ。

 扉を開け、中に入るとこれぞ魔術師の部屋と言わんばかりだった。

 左右には書架があり、天井までびっしりと本が並べられている。さらに読みかけなのか、開きっ放しの本に積み上げられた本。本の劣化を防ぐためか、窓は無く、壁という壁が本に占領されている状態だった。

 まさにこの部屋の主は本の虫と言う表現がぴったりだろう。

 部屋の中央にはテーブルがあり、来客も想定しているのか、ソファーもあるようだが、両方とも積まれた本に埋もれ、本来の役割を果たせそうも無い。

 正面に古い机があり、そこにどこか飄々とした感じの初老の男が座っていた。

 ケンテル導師だろう。

 受け付けに居た少年が着たローブとは異なり、導師の証でもあるのだろう金糸を使った文様があるローブを着込んだケンテルは、とりあえず整えたと言った感じの灰色がかった頭髪を肩まで伸ばしており、大半が白くなっていた。顔や両手には年月を思わせる皺が刻まれている。両耳に引っ掛けて視力を補う眼鏡という高価な装飾を身に付けていた。

「魔力に付いて聞きたいらしい……の?」

「……うむ。聞きたい事が二つあってな。一つはこの数ヶ月の間に大きな魔法実験、もしくは魔力暴走などの何か起こってもおかしくない状況はあったのか、もう一つはある噂を聞きつけたので、真偽のほどを確かめようと」

 エルが答えると、気づいたように立ち上がり、机の背後から木製の小さな椅子を取り出した。

 明らかに高い場所にある本を取り出すための足場であって、エルの体重を支えるとは思えなかった。

 だが、傍らに置いてある杖を手に取ると、もごもごと呟いた。

 すると、小さな椅子が膨張し、エルほどの大きさの人形へと変化した。

 木製人形ウツドゴーレムはエルの傍へ近寄ると中腰の体勢を取った。そして腰から二本の脚を生やして四足になり、腕を伸ばす。その姿勢のまま止まってしまった。

 エルが座るのに十分な大きさではあるが、元が小さな椅子だという事実と、ゴーレムという二つの事実が座る事を躊躇させた。

 が、教えを乞いに来た手前、断るのも問題かと思い、しょうがなく腰を掛けた。

 座ったのを見計らって、ケンテルが口を開いた。

「ふむ……。ここのギルドでは大きな実験は無いの~。それに事件という事件も無い。他の魔術師ギルドからもそんな話は無い。あるとしたら魔術師ギルドの探索範囲外なると思うんじゃが……平和そのものじゃよ。

 それでどのような噂なんじゃね?」

「無いなら結構だ。噂というのは杖や指輪などの発動体も使わず、さらに魔力を練る事無く、無限に近い魔力を操る人間が居る、と聞いてな」

 能力だけを説明したが、当然九十九の事である。

 驚くかと思ったが、ケンテルは少しだけ残念そうに、ふむ、と一息入れると、

「珍しい話じゃが、嘘ではないぞ。実際にそういう人間が居る事実はある。あるんじゃが、統計が取れるほどの事例が無くての、正確な数字は分からんのじゃが、数十万とも数百万とも言えるほどの中で一人らしいが、もっと珍しいかもしれん。それほど稀有な事例じゃよ。

 そうさな~……。近年で言うと南方のカラグ砂漠にある~……」

「熱砂の国のミンジャットか?」

「そこじゃ。そこの国軍隊長がその力を持っておるらしいぞ。その隊長は天才じゃとか神に愛されたとか言われとるようじゃが、魔力を塊にして撃ち出すように使っておるようじゃの。

 あの能力を持つ者が魔術師の道を志せば最強か最凶の魔導師になれるんじゃが、残念だのぉ~」

「その隊長は? そういう使い道しか無いのではないのか?」

「今も言ったがの。その事例は使う者によって異なるんじゃ。騎士や戦士の者であれば、撃ち出すか、身体強化に用いるようになるみたいじゃし、過去の事例ではオヌシの国の近くに《ボーナンの悲劇》と言われとる場所があるじゃろ」

「……あぁ、あるな。地が抉れ、草木を薙ぎ倒し、今も不毛な土地で魔物すら近寄らない場所だな」

「あれは稀代の魔導師ボーナンがこの世に残した最後の魔術実験跡じゃよ。まぁ、結果は名称通りに悲劇になってしもうたがの」

「つまり……どう言う事なんだ?」

「魔術師ギルドの見解なのじゃが、あの能力は全ての可能性を秘めていると見ておる。所持者の心を形にする力とでも言うんかの。

 所持者が創造し、想像する事を現実に持ってくる能力とも言えるかものぉ~」

「ふむ……」

「じゃが……、欠点というか一長一短があっての。一度でも魔力の質を決定してしまうと、その魔力性質の派生系しか使えなくなるんじゃそうな。方向性を定めると強力な反面、応用が利かないという事かの」

「つまり、身体強化で発現させるとその系統にしか使えないという事か?」

「そうじゃ、これも過去に実験したみたいでの。身体強化を発現した者がどんなに想像しても通常の魔術は使えなかったそうじゃよ。簡単に言うなれば、赤色に決定してしまえば、赤系統の色は使えるが、青や緑は使えないといった所かのぉ~」

「この国にも居ますか?」

 ケンテルが顎に手を置いて見上げる。

「そうじゃの~……。断定は出来ないんじゃが、潜在的に持っておる者は居るかもしれん。力が欲しいと強く願わなければ発現せんだろうし、己の力が魔力を使ったものじゃとは思っておらんかもしれんの」

「ふむ……。勉強になりました」

 立ち上がり、懐から銀貨数枚を渡す。

「うむ。また何かあればいつでも来なさい。しかし、魔力の事ならば、そこのケット・シーの方が詳しいのではないのかね?」

 素朴な疑問だろう。人間よりも魔力が高いと、魔族に匹敵するとまで言われる種族なのだから。

「ボクはそんな難しい事考える時間があれば楽しい事探した方が有意義だと思うよー」

 ミルらしい返答だった。そして、それはケット・シー族の考え方でもある。

 苦笑を浮かべながら、ミルの喉を撫でるエルは、

「魔術の使用に関してはケット・シー族が群を抜いているが、研究には興味が無いようなのだ」

「もったいないのぉ~。ワシがケット・シーじゃったら、魔術に革命を起こしてやるんじゃがの。ホッホッホッ」

 朗らかに笑うケンテルと握手を交わすと、魔術師ギルドを後にした。


 通りを定宿でもある酒場に向かって歩いていく虎と灰猫が居た。どこか寂しげで、まるで葬式の帰りのようにすら思えるほど沈んでいた。

「ねーねー。もしかしたら、ツクモって自分の能力を把握してたらー……いや、それよりも話しに聞いた洞窟でしばらくいたらさー……」

「ケンテルの話が真実であれば、そうかもな。だが……」

 エルは言葉を続けられなかった。明るいミルですら言葉を呑んだのだった。





やっと出来ました。

九十九の能力の説明です。

楽しんでいただけたら幸いです。


(´つω・`)現在朝三時……眠いわいな……。


練ったつもりではありますが、破綻していたり違和感あったりしたらご一報を。

自分では完璧と思っていても、他人から見ると変だと思う事は多々あるものですから。

それと誤字脱字、質問等あれば陽気にコメントしてください。


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