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二部 第1話

二部開始です。誤字脱字、文法ミス、何かご質問あれば気兼ねなく聞いてください。

よろしくお願いします。



「九十九。やた国ガ気ニナッタノカ?」

 髪の毛が抜けない程度に掴んだレミュクリュが小首を傾げる。エルやミルの前では念話を使わない。そもそも四人の集団で誰が話そうが回りは気にしないのだ。通常の会話が届く距離には誰も近寄らないし。

「どうだろ。話だけじゃなんとも言えないかな……」

 気の無い返事だった。どうでも良いと思わせるが、気にしていると口にしているようでもある。拒否しているようなので、それ以上は誰もヤタ国を話題にはしない。

 その後は雑談をしながら歩いた。しばらくして到着したのはそろそろ通い慣れてきた傭兵ギルド。

 今日も依頼書が部屋の隅を占領し、大きな掲示板には隙間無く貼られ、それの前に相談しながらあれやこれやと話す者達や一人でぶつぶつと呟いている者。覗きこむように依頼書を見る者と人間が押し込められていると思うほどに固まって居る。

 満員御礼である。

 仕事を取りに来た人達はそれぞれが自分の、もしくは所属するクラスの力量と経験を踏まえて確実にこなせる仕事を探しているようだ。

 少ない労力で大きな報奨金を狙うため、仕事選びから殺気立っている。

 時々、離れた場所で足を踏んだだの、押すな、などの怒鳴り声が聞こえるが、それも傭兵ギルドでは当たり前の景色なのだろう。

 様々な喧騒に囲まれた場所に四者が現れた。視力が良くても目の前の混雑状況を見ると選ぶのも一苦労である。

 どうしようかと悩んでいると、ミルが乗り出すように手を伸ばし、九十九の頭をぽふぽふ叩いた。

 視線を向けると、それはとても良い笑顔で、

「エルに肩車すればいんだよ~」

 にっこにこの笑顔の提案。さすがに即断できずに間を空けていると、エルがぽんと手を叩き、

「んむ。やってみるか」

 九十九の意見を完全に無視し、軽々と九十九を持ち上げると肩車をする。成すがままに肩に乗った九十九の身体を登ってミルが九十九の後頭部を掴んで肩車、定位置をミルに奪われたレミュクリュがミルの頭に上がる。

 掲示板に群がっていた傭兵達が、背後に出来上がった異種族で作り上げられた塔を見上げ、唖然としていた。


 …………。


 若干引いていた九十九が虎頭の触り心地を少し堪能しながら、おそらく叶えられないであろうと確信しつつ突っ込む。

「ブレーメンの音楽隊じゃねぇんだから……」

 視線が高くなり、遠くは見える。だが、掲示板を見るためにやる行動では無い。そして、九十九の羞恥心は最高潮であった。悪足掻きに他人の振りをしようと視線をあらぬ方向へと向けたりするが、誰がどう見ても悪ふざけ一味である。

「満足したら下ろしてくれ……」

 諦めと共に悲痛な九十九の呟きだが、恥ずかしい状況から脱したのはなぜか楽しげなエルが五分ほど塔を維持した後だった。

 ここまで目立ってしまえば、後は簡単なものだ。

 顔を赤らめた九十九が掲示板に近寄ると誰もが道を譲ってくれる。頭に白竜を乗せ、背後に虎と灰猫を従えるような姿は魔獣使いというイメージを誇張するしかないだろう。周りから聞こえる囁き声の中には、すでに誤解をした者の発言がちらほらと聞こえてきている。

 曰く、白竜を頂点とした集団。

 曰く、魔獣使いに操られた三種族。

 曰く、中に小さな人間が入っている。

 などなど。訂正したところで信じないだろうし、新たな妄想を繰り広げるだろう。しかし、放置しておくとさらなる問題が起こりそうでもある。

 頭を抱えたい気持ちで一杯だったが、おそらく他の三者にも聞こえているはずだ。それなのに反論もしなければ反応もしない。ならば、黙っているのが一番良いのだろうか……。

 耳を真っ赤にしながらも、掲示板の前に辿り着くと、色々と手に取り依頼書を眺めていた九十九が、ふと口にした。

「そう言えば、エルとミルのランクはいくつなんだ?」

 二人の強さは伝わってきている。見た目だけでも伝わるエルはともかく、ミルに至っては普段はしゃべってくれる愛玩動物にしか思えない。だが、時々感じる雰囲気と言動の端々に危険な香りを漂わせているので、弱いとはまったく思えない。

「俺はBランクで、ミルはCランク。だが、再三昇格試験を受けろと言われているが、面倒なのでやってないのだ」

 二人仲良く肩を竦める。つまり、試験を受ければAランクとBランクに認定されるかもしれない実力者、という事だ。

 九十九はそれならと目ぼしい依頼書に手を伸ばし──引っ込めた。

 選ぼうとした依頼書にナイフが刺さり、衝撃に震えているのだ。

 背後を振り返る。すでにエルとミルは誰がやったのか理解しているようだが、九十九にはまだ見当が付かなかった。

 四者混合部隊を囲むように傭兵達が居る。珍しそうに見ている連中ばかりだ。

 当然、ナイフを投げた様子も無い。

 取り囲む連中も左右を見渡して、犯人捜しをしている。

『モット後ロダ』

 ぺちぺちと九十九を操縦するレミュクリュ。

 すでにエルとミルは一点を見ていた。取り囲む傭兵達のさらに後ろ。女性が脚を組んで自分の髪を弄くっている。

 エルとミルの視線に気づいたのか、女性が目を細めて微笑んだ。

 ゆっくりと近づく女性。その存在感は恐ろしいまでにあった。

 エルやミルの周りも人が近づかない。だが、それも半径数メートルほど。頭虎族は義を重んじる種族だと言われているために危険は無いと誰もが知っているのだが、見た目は畏怖を思い起こさせ、滅多に街で見かけないケット・シー族の言動や行動に興味があり、その境界が数メートル。

 だが、近づく女性は違う。十数メートル離れながらも、傭兵達がたじろぐ。九十九も少し気持ちが解った。

 金髪のストレートで腰まで届くほどのロング。出るとこは出て、引っ込むところは引っ込んでいる豊満と言う言葉が一番似合う身体。四肢は細く、力仕事などした事が無いと言われれば納得出来るし、力仕事をしている様子は想像出来ない。年恰好は二十代の半ばで身長は九十九よりも少し大きいくらいか。

 今の季節は春めいて確かに暖かい時期なのだが、着ている服が派手と言うか、扇情的というか表現に悩む格好だ。

 どこぞの踊り子のような薄く黒い布地が胸だけを隠し、腰には黒革のホットパンツ。下着が見え隠れするほどぎりぎりまで布地を少なくしている。その上に黒いロングコートを羽織っている。ロングコートはファーが付いた完全に冬用で厚手のもの。

 寒さにも暑さにも対応出来る格好とも言えるが、季節感が無い格好とも言えた。

 優しく微笑み、細めた瞳は綺麗な蒼。だが、どこかに鋭い刃を持っているような底暗く冷たい蒼だ。

 微笑んではいる。扇情的で目が離せないほどの肢体。だが、近づけない。傭兵達の視線を引き寄せる格好はしているが、滲み出る雰囲気が人を容易に近寄らせないのだ。

 その差はわずかなもののようで、大きい。それが近づく女性を見て思った九十九の第一印象だ。

「珍しい一団ね。興味深いわぁ」

 唇を少し舐める。獲物を狙うような危険な雰囲気に当てられたのか、傭兵達の一部が逃げ出した。

 それを面白そうに眺める女性。

「珍しいな……。ランクSの最有力候補の傭兵がこの街に居るとは」

 エルが口を開く。女性がまばゆいほどの笑顔を向けた。

「そんなぁ~。頭虎族のお兄さんとケット・シー族のお嬢ちゃん、さらに白竜の子に可愛いボウヤの取り合わせの方が珍しいと思うけどな~」

 首を傾げ、頬に手を置く。

「それで何か用か? こちらも仕事しなければ飯が食えないんだがな」

「そんな怒らないでよ~。ちょっと珍しいからお姉さんはおしゃべりしたいな~と思っただけよ?」

「ボクがおしゃべりの相手してあげようか~?」

 ミルはいつも通りに話をしているようだが、体毛が若干膨れている。警戒しているために毛が逆立つのを抑えているのかもしれない。

『フム。変ナ奴ニ目ヲ付ケラレタナ』

 呆れているような口調。それに同意したいところだが、九十九は何とも動き辛い。

「お嬢ちゃんには興味無いのよねぇ~。ねぇ、ボウヤはお姉さんと遊んでみたいと思わない? 色々大人の経験出来るわよ~?」

 蠱惑的な笑みを浮かべ、ゆっくりと九十九に近づく。

 顎に触れ、頬に触れ、顔を近づけてふっと息を吹きかける。完全に誘っている。

 が、それに乗るわけが無かった。見た目も、雰囲気も、とろける言葉も九十九の奥底に届いている。

 だが、身体が誘いに乗っちゃえよとけしかける横で、理性と本能が手を取り合って最大音量で警報を鳴らしている。

 そして、九十九は現在進行形で絶賛板ばさみ中である。

 目の前では露骨に怪しいナンパをされ、頭に響く念話ではレミュクリュが目の前の女性を色々と毒を吐いて罵倒しているのだ。それはこの世界では女性を侮辱する単語の羅列らしく、人前では言ってはならない禁句らしい。

 徐々にヒートアップしていくレミュクリュは九十九の頭に爪を立てて掴み始め、さすがにこのままでは死を覚悟しなければならない。

「どうする? ボ・ウ・ヤ」

「また今度って事で……」

 当たり障り無く断り、頬や喉、胸を触りまくる女性の手をやんわりと離した。

『次ニ誘ワレタラ、コノ女ト出カケルツモリナノカッ!』

 レミュクリュには気に入らない断り文句だったようで、今度は九十九が口撃対象となり、頭の中に色々な単語が響き渡る。

 断られた女性は気にした様子は無く、にこりと微笑んで翻る。

「どこかであったら、お茶でもしましょ~ね」

 背後を振り返る事無く、片手を振って去っていく。

 建物から出て行った事を確認した九十九が、万力の如く頭を抱えるレミュクリュの腕を取る。このまま好きなようにやらせると、頭を握り潰されるか、生肉で鍛えた顎の餌食になりかねない。信頼する仲間ではあるが、さすがに自らを餌にしてまでご機嫌を取ろうとは思わない。

 まだまだ暴れ足りないレミュクリュをエルにひょいっと投げた。上手に受け止めたエルが優しく撫でる。怒りに三角になっていた眼が、一本の横線となった。

 なぜか解らないが、虎の手に撫でられるととても落ち着くのだ。エルの持つ包容力なのだろうか。

 今回もその効力が十分に発揮された。

「で、あの人は誰なんだ? 綺麗は綺麗だが、危なすぎて怖いぞ」

 締め付けられた頭を揉み解すように頭を抱えた九十九が、まだ出入り口を見ていた。あの性格ならばもう少し遊びたいとか言いながら、また現れそうだったからだ。エルが髭を弄りながら答えた。

「ランクA。《狂獣》の異名を持つ女でラーカッド・エマルド・ベサイア。子爵家の娘だが、その異常な性格と異常な戦闘能力でランクAの最年少記録を持っている。それ以上は興味が無いから俺は知らん」

 首を振るエル。本当に興味無いようだ。


 ラーカッド・エマルド・ベサイア。エマルド家に生まれ、不自由無く幼年期を過ごすが、いつからか暴力に魅せられる。最初はエマルド家の執事やメイド達に振るっていた悪戯が、年々洒落にならない打撃力を身に付け、暴力と呼ばれるようになるまで数年も掛からなかった。そして、とうとう遊びで済まされない事故を起こす。

 エマルド家当主である父親は暴力の愚かさ、恐怖を覚えさせるために懇意にしていた老傭兵に預けた。

 ベサイアが十一歳の頃である。

 が、それが裏目に出た。形ばかりだが傭兵登録し、老傭兵の仕事を目の当たりにしたベサイアは最初の頃は大人しく見ているだけだった。老傭兵は仕事の過酷さ、厳しさ、そしてベサイアの能力は人を傷付けるためではないと諭し続けた。

 大人しく聞き入る様子に満足した老傭兵は、それ以上強く言わなくなった。幼い頃から知っている仲で頭が良い事も知っている。自分の娘か孫のように可愛がっていた。

 その親馬鹿な考えがベサイアを悪化させてしまう事になる。

 ベサイアからの質問には全て答えた。仕事のノウハウ、情報の真偽を判断するための経験則から身に付けた基準など。ベサイアは砂に水を流すように吸収していく。それは傭兵社会の生き方を教えているようなものだった。

 そして、とある仕事を終えた帰り道に世話になっていた老傭兵の目を盗んで姿を消した。

 そこからは噂が色々なところからあがった。

 少女の傭兵となれば嫌でも耳にする。が、老傭兵が噂の場所に辿り着くとすでに姿は無く、捕まえられない。子爵の娘が傭兵になったとはさすがに表沙汰には出来なく、大っぴらに行動も出来なかったのだ。

 それから二年。

 ベサイアは頭角を現すようになり、仕事を終えると逃げるように姿を隠していたが、それをしなくなった。

 昇級試験も率先して受けるようになり、十三歳にしてランクAになる。

 その頃は見た目と闘い方を賛美し、《舞姫》と呼ばれ、誰もがその美しさに酔った。それと時を同じく、名が売れ二つ名までも手に入れた娘を父親は大枚をばら撒いて家に強制的に戻そうとしていたようだが、全て撃退されてとうとう何も言わなくなった。いや、言えなくなった。

 父親からも、エマルド家からも離れたベサイアは少しづつ変わっていった。舞いと称えられていた闘い方に荒さが目立つようになった。

 逃げ惑う盗賊を執拗に追い、殺害した。町で出会ったスリを殺害した。人質を取った強盗を単身乗り込んで殺害した。その時はたまたま人質に被害が無かった。

 執拗で苛烈になり、その先の誰もが躊躇する世界に脚を突っ込むのに時間が掛からなかった。

 一人の潜伏していた盗賊を殺害するために小さな村一つを滅ぼした。

 依頼者であり、護衛する対象を気に食わないという理由で殺害し、襲いかかった盗賊を殲滅した。

 どこの国でも一般人を手にかければ法に引っかかる。

 当然、騎士や腕の立つ傭兵達が捕獲に乗り出したが、全て失敗に終わっており、最年少でランクAという尊敬を集めるが、悪名によって賞金首となる異例の存在になった。

 ちなみに複数の国家から賞金が掛けられ、総額で首だけでも金貨千五百枚、生かして捕獲すると金貨六千枚という破格の首である。


 事務員の女性が語り終わり、大きなため息を吐き出した。エルの説明では足りない情報を聞こうと話し掛けたのだが、予想以上に饒舌に語られた。

 色々と仕事で鬱憤が溜まっていたのかもしれない。

「……なるほど、ありがとう」

 礼を述べて離れるが、まだ語り足りないと視線を送られたが、無視してやった。


「……つまり、関わらないのが一番って事だよな?」

 九十九のリハビリも兼ねて、という理由で選ばれた依頼書を眺めながら九十九が問う。ベサイアの事だ。

 一緒に依頼書を見ていたレミュクリュも頷き、エルもそうだなと答えた。

 ミルだけが不満そうだが、大筋では同意しているようだ。

「ま、それはそれとして。このレジャムの森で妖魔退治ってのは?」

「うむ。もう一つ上のランクでも俺やミルならば問題無い。カウルドベアを倒せる腕ならばツクモも俺達と同じ仕事で問題無いはずだ……が、昨日の事を考えれば確実に大丈夫とは言い難いからな。いつもの仕事より一つランクを下げたのだよ。まぁ、表向きはリハビリと言ったが、全員の実力把握のための訓練だと思えば良い」

 エルが言いたいのは三人の力で戦ったときの上限を知りたいという事なのだろう。

 エルの見立てでは、あの出来事の顛末を聞いて、レミュクリュが人間形態を取れば一人でランクSほどの力があると予想している。本人は竜魔法の使い手でもあるし、牙に秘められた者達も剛の者だからだ。

 だが、基本的に白竜のままでいる事を選択しているのであれば、当然エルとミル、そして九十九の三人が主力となり、相手次第では連携も必要となる。

 そのための妖魔退治という事なのだろう。

「なるほど。でも、この依頼書ってもう少し詳しく書くのが普通なんじゃねぇの?」

 通常、依頼書には大まかに依頼内容が書かれている。

 いつ、どこで、だれが、なにを、どうするのか。最低限、この五項目は記載されているのが普通。中には細かい字でびっしりと書き込まれている依頼書もあるのだ。

 だが、九十九の手元にあるのは《レジャムの森》と《妖魔退治》としか書かれていないのだ。

「うむ。そのレジャムの森は特殊な場所でな。傭兵であれば誰もが耳にするほどで、妖魔が二ヶ月ごとに湧き出す森で有名な場所なのだ。居るのはランクDとランクCの二種類のみ。

 識者連中には森の中央部分にその二種類を誘い出す何かがあると言う者も居たし、地中に卵が埋めてあって、それが二ヶ月ごとに孵化すると言った者も居たな。

 色々と予測されているのだが、誰も中央部分に向かう者は居らんし、確かめようとも思わないのだ。

 ちなみに。その妖魔達は森から一切出ないので周りに被害が無い」

「あぁ~……。森に近づかなければ被害も無いし、傭兵にとっての稼ぎ場所だから潰さない程度に維持するって事か?」

「簡単に言うとそうだ。昔は俺達のように練習がてらに訪れる者が多く居たのだが、今では高い壁で森を囲んで、仕事を請けた傭兵のみが稼げる場所となっている。

 その妖魔を倒せる実力者ならば二ヶ月ごとに大金を稼げる場所だからな。人気の仕事だ」

 にっと虎の顔が歪む。九十九は慣れてきたので笑っていると理解出来ているが、エルの笑顔は正直怖い。

 今も道を譲って横へ逃げた中年親父がエルの表情を見て蒼い顔をしていた。

「まぁ、旅人や商人が良く通る道に近いから、傭兵ギルドが実費でレジャムの森を取り囲む外壁を作ったのだ。誰も文句は無いだろうな。人々を守るために建設したと喧伝したのだから」

 依頼書を眺めていると上から奪い去られる。頭を掴む住人がじっくりと眺めている。

「傭兵ギルドって一般人を守るための組織だから当然って事か?」

 九十九の疑問にミルがくすくすと笑った。

「人間は正直に言わないよねー。表向きはカッコイイ事言うけど、誰も本気で納得するわけないじゃ~ん。集まる妖魔の換金部位って、すごく良い値段で引き取ってくれるんだよー。身体の一部も魔術触媒に使える高額素材なんだよねー。つまりー、傭兵ギルドは魔術師ギルドの依頼で触媒を独占してるんだよー。外壁は人間を守るためじゃなくて、勝手に退治されるのを防ぐためだよー」

「うわぁ……。大人の世界ってどこも汚いな……」

 ミルに大人の事情を説明され、少し奇妙な気持ちになる。だが、言われてみると確かに変だと気づく。

 森から出ないという事実。もしもを考えて外壁を建てるのは流れとして変では無い。だが、二ヶ月ごとに湧くのであればそれを何とかするのが一番の解決方法である。

 しかし、森を正常に戻す事には一切、手を付けないのだ。

「人間ハ怖イ。脅威トシツツモ、魔獣ヤ妖魔ヲ生キルタメノ材料トシテイルノダ。我々ニハ無イ発想ダ」

「お金は誰でも欲しいもんねー。今回の報酬でボクはお菓子買うつもりなのー」

 目をキラキラと輝かせてミルが手を挙げる。見た目と相まってとても可愛い事を言っているが酷く現実的だ。

「よぉ~し。それじゃぁレジャムの森へ向かってぇ~……」

 景気付けに声を張った九十九が止まる。振り上げようとした拳が途中で止まっている。

「……ドウシタノダ?」

 一緒に拳を振り上げようとしたレミュクリュもぎゅっと握った拳を止めて問う。

「この森ってどこにあるんだ?」

「……あ、あぁ、ここから東に一ヶ月ほど行くと四つの国が同盟を結んで国家を作り上げた商業連合国がある。軍事力が国の国力を示す世の中で、それぞれの持つ技術や特産品を用いた経済力を武器に大国と対等に渡り合う珍しい国なのだが、そことの中間ほどにある」

「んじゃ、そこにしゅっぱ~つ」

『お~』

 灰猫と白竜は楽しそうに手を挙げたのだった。





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