助けたのは天使でした
「……貴方は、誰?」
いきなり傍で囁かれた小さな声に、びっくりしすぎて変な悲鳴が出そうになった。
パーソナルディスプレイをギリギリの角度で覗き込むような位置に、銀色に光るさらっとした髪があった。
さらにその背中に、もふもふ、ふわふわとした質量が、温かく揺れている。
どうにか変な声は飲み込んで、静かに距離を取った。
いつのまに入ってきたのかっていう疑問は、俺がネットワークのアクセスに集中しすぎていて気付かなかったせいだから置いておこう。
それより。
滑らかに輝く銀の髪。
どこか頼りなげに見上げてくる蒼い大きな目元。
研究者のような白衣。
その背中にふわふわ揺れる、白い翼。
……天使かよ。
だけどこの少女はリアルの人間だ。ホログラムでもAIでもない。
MicroPCも身に付けているし、ちゃんと息もして部屋の酸素を削ってる。
「……えっと、ごめん、入ってきたの気付かなくてびっくりした。俺はエイト=ウサカミ。君はもしかして、コンテナにいた……?」
かろうじて冷静な言葉が出てきた。
返事の代わりに、小さな頷きが返ってくる。
看護師からコンテナの救護者が女性と聞いていて良かった。それにしても、こんな特殊な容姿を持っているとは予想外だったけど。
「ここ、災害救助艦じゃないの? エイト、民間人でしょ?」
ん? 看護師と話をしてないのか?
「救助艦だよ。ここは救護エリア。看護師から何も聞いてないの?」
「会ってない。寝てたみたい」
天使は額に手を当てて小さく溜息をついた。白くて綺麗な手。衛星大陸の人間かな。
「その……名前を聞いていいかな」
特徴的過ぎる容姿については、ちょっと置いておこう。
この天使、滅茶苦茶可愛い。
「アイフォ=アトューエルよ。エイトは貨物船にいたんじゃないわよね」
「俺は近くを通った定期シャトルに乗ってた。……君のコンテナを小型挺で拾いに出てたんだけど、飛来物でシャトルが大破して、救助されたんだ」
「……エイトが、私を助けてくれたの?」
少しだけびっくりした目が見上げてくる。
それはそうだ。俺は民間人。ここは災害救助艦。
「あー、隣に乗ってたのが偶然非番の災害救助隊員で、俺は運航に駆り出されただけなんだ。寧ろ俺が助けられた方だな。何があったかは分らないから、お礼を言うのも変かも知れないけど……俺は本当に幸運だった。ありがとう、アイフォ」
自分で言っておいて、なんだか照れてきてしまう。
じっと見上げてくる彼女の視線から逃げるように、部屋のコールパネルをみた。看護師が探してるんじゃないだろうか。
「ありがとうは、私の台詞。仕事じゃないのに動いてくれたんでしょ」
「救助隊員に引っ張られただけで、大したことじゃ……」
そっと白い手が触れてくる。
この、クロウに半ば強引に腕を引かれて来た時との緊張の違いは、なんだ?
「私、衛星大陸に、戻らなきゃ」
まさかクロウと同じように小型挺を出せってか?
いやいや、まさか、それはない。
「時間はかかるけど、衛星大陸に着艦するって言ってたよ。MicroPCで家族とかに連絡したら、今のうちにゆっくり休んでおこう」
……アイフォは貨物船に乗ってたんだよな。こんな可愛い少女が、なんで旅客機じゃなくて貨物船に?