滅茶苦茶危なかった
小型艇の前を何かが通り過ぎた。
それは一瞬で、シャトルにぶつかる。シャトルの側面に大きく穴が空いて、船体が、大きくこわれていく。
オート着艦の誘導表示が消失して、慌てて回避軌道を取った。
「な、な…………っ」
「よし、落ち着いてこのまま回避しろ。救難通報はする。お前、運が良かったな」
急速回避をしている隣で、男が救難通報のパネルを叩いた。
小型挺の装甲が青から赤の発色に変わる。
これで災害救助隊が可能な限り素早く飛んでくるだろう。
それよりシャトルが――
白い機体が一部爆発を起こしながら崩壊していく。
……さっきまであれに乗ってたんだよな。
俺、この脱出挺に乗って無かったら、死んでたってことか。
乗り合わせていた乗客も、航行士も、あれじゃ助からない。
「お前、1人で搭乗してたか? 連れは?」
「い、いません。1人です」
「そいつは良かった。取り乱すなよ。せめて救助隊の船に乗るまでは冷静でいてくれ。安心しろ。俺が付いている」
この状況で安心しろって言われても!
だけど確かにこいつが話しかけてきたことで、少しだけ落ち着いた。
「何が起きたんですか」
「彗星の先陣かデブリか何かだろう。デブリは予測してた筈だが、さっきの予定外の急加速で、軌道上に出ちまったのかもな……」
デブリ――宇宙ゴミ。人類が宇宙に出る際に試行錯誤の末放置した、高速で飛び回る鉄の凶器。
衛星大陸はその軌道外に建設されているし、航行の安全のために駆除衛星が何年もかけて清掃活動を続けている。それでもなかなか完全には撲滅できずにいる、負の遺産だ。
飛来物に注意していると、追従してくる何かに気付いた。
……さっきのコンテナだ。この状況でよく付いてきたな。というかあのコンテナは、どうして付いて来れるんだ?
「あのコンテナに生存者がいるっていうのは本当なんですか?」
「ああ。生命反応がある。密閉できるコンテナに逃げ込んだのかもな。こうして見付けて貰えるとも限らないし空気だって限られてるのに、頭の良い奴だ」
この男、そういうのを探知する端末でも着けてるのか?
見たところ身につけているのは俺と同じMicroPCだし、特殊な性能を起動している様子もない。
[崩壊]したシャトル。
[分解]した貨物船。
蒼い地球。白い衛星大陸。
全方位にひろがる星。
――――綺麗だ。
あと一年どころか、たった今この世界とお別れするところだった。
シャトルに積んでた荷物は失ったけど、こうして今この景色を眺めていられることに感謝だな。
装甲を青と赤に明滅させながら災害救助隊の特殊宇宙船が飛んでくる。
隣の男が口煩く色々指示してくるのを聞き流しながら、災害救助隊の通信に従って無事に着艦した。
俺はイオウスが提示した選択肢のうち、大人しくネットワークの住人になっていたかも知れない。
だがこの事件で、俺は、彼女と出会ってしまった。
それが数万年先の未来まで続く物語になるとは、このときはまだ、わからなかった――。
8th April 2350
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