社長と管理者と天使
デタラメな位置情報について、超能力をもつ特務機関の存在と、クロウが瞬間移動能力を使えるようになった事を説明する。
アスワドがゲーミングチェアを揺らしながら、パーソナルディスプレイで何か高速操作しているけれど、何をしてるのか、こわくて聞けない。
「なかなかチートな話だね? その御影さんと社長が出会ったら、どうなるか、やばいな」
「お兄ちゃん、そういう風に仕組まないでよね?」
アイフォが淹れてくれた紅茶の香りに、エイトはほっと息をついた。
「それにしても、社長はまだ戻らないんですか? 俺がここを出てから、結構経ったと思うんですけど」
「ああ、当初の確認事項はクリアした。連邦政府の目論見も見えたから、擦り合わせをしてるんじゃないかな。まじで彗星が避けてくれる事があるなら、各計画の宇宙船が軌道上に無いようにしないといけないだろう」
作業を終わらせてパーソナルディスプレイを閉じたアスワドが、アイフォの白衣をつんと引く。
「アイ、僕にはソイミルクを頂戴」
「はいはい」
ミルクを温めに立つ天使を見送る。
黒猫は目を擦って、あらためてクロウに向き直った。
クロウも手元で触っていたパーソナルディスプレイを閉じる。
「彗星の位置情報はオープンだな。一体今までの破砕活動ってのは、何をしたんだ? 物理的な対策を打つには遠くないか?」
いきなりクロウの疑問がとぶ。
パブリックディスプレイを展開して、破砕方法が省略された箇所を目敏く見つけたのを示す。
選択肢のひとつに、4:あくまで彗星の破壊に死力を尽くす、というのがあったけれど、そこにも具体的な攻撃方法の記載は無いようだ。
「地球連邦政府の発足と同時に全世界が合意した戦力破棄の規約を、いち企業が破っちゃ駄目だろ? 破砕活動は、あくまで建造物破砕の規定に則っている。レーザーと量子音波の計画照射だよ。僕達は世界のルールに従ってる。納得した? 国家公務員さん」
「俺が荒探しするとでも思ってんのか、黒猫」
「普通の事を言ったまで。捉え方は自由さ」
腕を組んだクロウをじっと眺めながら、アスワドはアイフォがもってきたミルクを舐める。
「G社が提供するのは、実際は冬眠ステーションと仮想現実ネットワーク、それと外宇宙探索に特化した複合型ステーションだ。破砕活動については、政府規約に抵触する事は出来ない。所詮はいち企業だからね。大企業ってのは監査も厳しいんだ。堂々と商売する秘訣は、法律の順守だよ」
アスワドがにこやかに語る背後で、部屋の奥の扉がシュ、と開いた。
「よし、あと1年だし、法律なんてそろそろ無視しようぜ!」
少し前にLiveネットニュースに真顔で出現した男。
アイフォの父として出現し、オートカーをマニュアルでぶっ飛ばした男。
世界のインフラであるGrand-systemの現役創業者。
素性不明の世界的企業の社長―――。
あと、なんだ。
いろいろ二つ名がある。
そういう男が、滅茶苦茶満面の笑みで、破壊力充分な一言を放った。
「……」
「何だよアスワド。社会情勢の変化についていかないと、モテないぞ? 大体、破砕活動を本気で続けるなら必要だし」
どこにでもいそうな若い会社員の顔が、きょとんとした顔で黙った黒猫と天使をみる。
「……父さん。俺、父さんのGrand-systemアカウント、強制停止していい?」
「え?! ちょ、やめて??!」




