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人類は2周目に向けて突き進む  作者: 白山 いづみ


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20/25

日本の御影


 緑の苔。

 目に入ってきたのは、苔むした石があたりにひろがる、山麓の、見事な庭園だった。

 雨上がりのような、湿度のある重い空気を吸い込む。


 てか、山?雨?? 見上げた空には、ゆっくりと霞んだような雲が流れていく。

 そして、寒い。


「ここは……」

「JP自治区の、私の出身地よ」


 御影は苔むした岩のひとつの前に、ふわっとしゃがみこんだ。


「JP自治区は南北に距離があるわね。今は春。詠斗くんの出身地区は暖かいでしょう。こっちは、まだまだ寒いのよ」

「ちょっと、待って下さいよ。え?ここ地球のJP自治区ってことですか? たった今まで3th衛星大陸にいましたよね?」

「……貴方には、超能力の潜在能力がある。私を、夢でみたでしょう」


 オートカーでみた夢。確かにそれは正夢みたいだったけど。

 でも、どうして、この人は、それを知ってるんだ。


「……御影さん。貴方は、心を読むんですか」

 

 エンタメ小説には、そういう力もあった筈だ。だとしたら、彼女は、万能すぎじゃないか?

 苔石の前に背を向けてしゃがんでいる彼女の顔は見えない。


「私のことより、貴方のことよ。デブリ事故で生き延び、クロウと知り合い、イオウス=グラディウスと知り合った。この、タイミングでね。そして、私と話をしている。貴方の生まれ持つ超能力は《幸運》。形には見え辛いけれど、いま、人類に、必要なもの」


 しっとりとした春の雲から雨が落ちてくる。たぶん、ここは、墓地だ。

 長く風化して砂に埋もれた墓石が、苔に染まっているのだろう。

 ……そして、特務部隊の彼女がいう言葉は、湿気った空気に、とけていく。


「《幸運》……ずいぶん、ふわっとしていますね」

 

 光化学迷彩も瞬間移動も、物理的でわかりやすい。だけど幸運って。使い道がわからないじゃないか。


「私を夢でみたように《遠隔透視》も発現してる。クロウの現在地ぐらい、簡単に視えるようになるわ」


 しゃがんでいた御影の黒髪に、細かい雨粒が光る。

 振り返った横顔は、本当に、綺麗だ。


「あなたが望むなら、力の使い方を教えてあげる」

「……俺には、あなたに返せる見返りがありません」

 

 ぜひ教えて貰いたい。

 だけどそうしたら、俺はこの人の言葉に逆らえなくなるだろう。


「……生き残ること。そして、未来を作ること。それが、私に対する見返りよ」


 ふわりと立った御影の瞳が、深い、黒色をしている。

 さっきまでJP自治区の住人によくある、濃い茶色だった筈だ。


 黒。

 その奥に潜む、うねるような深い輝き。――宇宙の色。





 ざぁ、と音が鳴る。

 山麓の風景が掻き消えて、吸い込まれるような、宇宙の景色の中に、放り出される。


「……!? 息……あれ?!」

「大丈夫よ。私がいればね」


 足元に青く輝く地球。

 何度も操縦席に座って航行したから、感覚的にも、正真正銘の宇宙空間だっていうのは、間違いない。


「一体、あなたは何なんですか? 衛星大陸から地球に、地球から宇宙空間に、真空から身を守るところまで……こんなのSFでもチート過ぎです!」

「じゃあ、詠斗。あなたは何者かしら? あなたの存在は何処から来て、何処へ行くの?」


 キンと冴えた空気が拡がる。

 

 宇宙・地球・月――それを象る、放線の軌道。

 ――場所という、座標。

 Grand-systemの根幹にある、空間情報。


 この世界の、座標と空間情報を併せた認識と、感覚。

 視覚が、距離を飛び越えていく。



 そして、いま求めるもの。

 クロウという存在の空間情報を、現在の座標に落とし込んで、探す。


 存在の空間情報。

 顔、声、姿、仕草、態度――。



 Grand-systemのmicroPCを耳に埋め込んでいれば、大抵のことはsystemがサポートしてくれる。

 accountひとつ分かれば、地球と衛星大陸間に張り巡らされた情報ネットワーク網を使って、瞬時に探しだすことができる。

 

 だけど、systemが無かったとしたら?




 クロウ。

 彼は、何処に――









「おいっ! ミカゲ! 俺だけじゃなくこいつにまで手ぇ出してんのかよ!」


 キンと静かだった空間に、熱を帯びた声が響く。

 目の前に、思い浮かべていたクロウ=シュライサーがいた。機嫌の悪そうな顔を御影さんに向け、ぐいと肩を掴まれる。


「あっ……」

「あ、じゃない。エイト。こいつは危険だ。離脱する!」

 

 その声をききながら、強制的に、座標が変わる。

 視界が、また、急変する。









 3th衛星大陸。

 御影さんに2度も瞬間移動に付き合わされた身としては3度目の瞬間移動だが、こう何度も続くと、並行感覚がおかしくて、酔いそうだ。


「くそ、あの女、まじかよ。超能力は感染症かっての」


 耳元で毒づくクロウ。

 ぼうっとしている自分に、ゆっくり、気づく。


「……クロウ?」

「おうよ。救護した人間に改めて会うのは久しぶりだ」


 ニッと破顔したクロウ=シュライサーは、さっき宇宙空間で掴んできた肩を離さない。


「滅茶苦茶な話されただろ。地球連合政府は、ズルい。情報開示したG社のがまだマシだ」


 クロウの愚痴を受け止めた空気空間は、狭い個室だ。オフラインの書籍媒体が散乱した、プライベートエリア。


「え? ここって、クロウの部屋ですか?」

「ぱっと思いついたのが俺の部屋で悪かったな。ここもミカゲにばれてるだろうから、場所を移そう。お勧めの場所とかあるか?」


 そう急に振られても、情報が出揃っていない。……出会った時もこんな感じだったな。


「あ! その前にフレンドリンク承認してください。探してたんです」

「あぁ? なんだこんな時に。まぁいいけど。ほい」


 お互いにさっとパーソナルディスプレイからフレンドリンクを結ぶ。ぱっと反映された公開情報は、G社でアスワドが見せてくれた情報と同じだ。


「で、どこ行くよ」

「追跡されてる可能性はありますか?」

「わからん。ミカゲのやる気次第だろうな」

 

 至極ごもっともだ。Grand-systemのフレンドリンクでは現在地探索は許可しておかないと機能しないし、瞬間移動とかを使って公共機関の移動履歴を残さなければ、まず追跡されることはない。

 ただ、御影さんの超能力は、チート過ぎる。見つかるかどうかは、本当にやる気次第だろう。

 クロウを無理に追いかけなかった様子も考えると、追跡できても、干渉はしないのかも知れない。

 こうなると、賭けだな。


「座標を送ります。そこに跳んで下さい」


 クロウの額に、コツ、と頭を寄せる。

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