よく喋る隣の人間
それで、突然のlive放送は終わった。G社のオープンデータには一気に世界中からのアクセスが集中する。
ネット上に当惑と称賛と非難の声が爆発した。
完全におくれて連邦政府からこの事実を認める声明が出されたけれど、政府からの対応策は、何もない。
搭乗しているシャトルの中もネットワーク内の反応と変わらないどよめきが広がっている。
隣に座っていた男が、小さく笑う。
「まさかの、終焉か。はは、なんだそれ……。それにしてもやっぱりイオウス=グラディウスはやるな。今のたった数分間で、人類の選択肢は奴の手中に収まったって訳だ」
どこか他人事のように笑った彼の気持ちもわかる。提示された事柄が大きすぎて、ちょっと、実感がわいてこないもんな。
「……5つの選択肢。ふん、こいつ、神様にでもなったつもりか」
オープンデータを眺めながら腕を組んだ男は、ふとこっちに顔を向けてきた。
「君は、どう思う?」
思いがけなく冷静な青い瞳に、エイトは一瞬、戸惑った。
「えぇと……本当に、これしか出来ることがないのかな、と、思いますが……」
「そう、その通りだ!」
いきなり男のテンションが上がった。
できれば関わりたくないけれど、シャトルの座席から出歩いてみてもあまり逃げ場はない。
「G社の膨大なデータから出した結論がこの5つの選択肢なんだろうな。だがその他の道を排除する必要がどこにある? G社は慈善事業社じゃない。他の道を認識していたとしても、手を広げ過ぎる訳にはいかなかった部分があるはずだ」
不透明度の高いパーソナルディスプレイを次々と展開させながら、男は冷静に声のトーンを落としていった。
このままひとりでオープンデータに溺れていてくれ……。
これ以上話しかけてくる気配がないことに少しほっとして、自分はネットワーク内の反応にチャネルを合わせる。
隣の男のような反応は、ネットワーク内でだけしてほしい。リアルでいきなり話しかけられても、回答できるデータが出揃っていない。
ぐん、といきなりシャトルの速度が上がって、不意にシートに押し付けられた。
「うわ、何だ?」
よく喋る男の声に、黙って同意する。
自動航行中の定期シャトルが乗客に圧力をかけるほどの急加速をするなんて――?
小さな窓の外を覗き込む。
遥か彼方の綺麗な天体を背景に、眼下にひろがる蒼い地球と、白色に光る衛星大陸。いつ見ても壮観だ。
ふわりと目の前を何かが横切った。
ひとつだけではない。ばらばらと、連なりながら、何かの残骸が通りすぎていく。
宇宙ゴミだろうか?
それにしては、量が多いし、真新しい気がする。これほど近くに漂流物が来るなんて、危険な筈だ。
見間違いでなければ、窓の傍を、白い花がふわりと流れていった。
突然、独り言男に腕を捕まれた。
「君、運航免許持ってないか」
「は、はい?」
「見て分かるだろ、これはデブリじゃない。貨物船の残骸だ。緊急脱出用の小型挺を出すんだ」
冷静で真剣な男のとんでもない発言に、ひと呼吸おく。
「残骸はシャトルの航行士が避けてくれるでしょう。小型で下手に外に出る方が危険ですよ」
「めんどくせぇ奴だな、屁理屈はいいから手伝え」
少し苛立ちを見せた男にそのまま手を引かれて席を立つ。
こうなると、逆らうのも面倒そうだ。
仕方無く小型挺の格納庫まで引っ張られて、非常時解錠のボタンひとつで開いた小型挺の操縦席にストンと収まった。固定ベルトがビッと自動で身体を固定する。
「にしても、何故俺が航行免許を持っていると思ったんです? 持ってますが」
「外を見る視線が、それらしかった。こうして隣に乗ることは多いからな」
どんな職業だ。なんでそんな人間が格安の定期シャトルに乗ってる。
「じゃあ出ますが、シャトルに何事も無ければすぐに戻りますよ」
「わかってる。早く出してくれ」
ああもう本当に面倒臭い。さっさと出て、何事もないのを確認させて、さっさと戻ろう。
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