名前の響き
期待してた悪役のドヤ顔がそこにあった。
いや、悪役な訳じゃないか。
「クロウ= シュライサーの《牽引》と同じやつか]
「彼もお姉様が声をかけてるから、私と同じ所属になるでしょうね。クロウ=シュライサー。牽引と称した念動力能力者。彼とも接点のある貴方は、見逃せない重要人物なのよ。少しは状況を理解できたかしら?」
G社と地球連邦政府。どっちにも協力することが求められているってことだ。
滅茶苦茶面倒臭いことになった。
イオウス・グラディウスが地球連邦政府に情報開示を求めてた筈だけど、そっちはどうなったんだろう? まさに求めていた情報が目の前にいるんだけど。
「てか、俺はクロウを探してたんだけど、彼もここにいるのか」
「そうね、一旦ここが拠点になってるから。だけど今は、お姉様がチュートリアルをやってる筈よ。我流の超能力じゃ、充分に能力が発揮できないからね。」
さっきから時々話に出てくるお姉様ってなんだろう。仲間もしくは上司か?
アリスは彗星情報のオープンディスプレイを閉じて、さっき俺が寝てた赤いソファーに、ぽんと座った。
「さぁて、私から先行サービスで情報を開示したのよ。貴方からも色々聞きたいわね」
「……プライバシーポリシーにより、人様のことは回答できませんね」
「ちょっとー、AIの真似しないでよー」
「政府機関なら、俺より社長本人に聞けば良いだろ」
「社長。社長ね。カフェで突然姿が消えたのは、何だったの? 瞬間移動ならオートカーを持ってくる必要は無かったし、オートカーもいきなり動き出して途中で消えたわ。ステルス能力なのかしら?」
そのとき、いきなりぶわっと突風が吹いた。緊急用の消火窒素では、ない。
広い部屋の真ん中に、小さな竜巻を纏い人影が出現する。
さぁっと風が散ると、長い黒髪の女性がそこに立っていた。
「お姉様!おかえりなさい。あれ? クロウ=シュライサーは?」
ぱっと立ったアリスが彼女に駆け寄る。
え? 今のがもしかして瞬間移動か?
「彼は、最初から素直に従うタイプではないわね。少しずつ協力して貰いましょう」
「えー!お姉様直々にレクチャーしたのに? それってずるくないですか??」
「まぁ仕方ないわね。意思を曲げたら、能力は活かせないから……。あら、彼は?」
燕尾服のような黒いワイシャツとパンツスタイルが、長髪をまとめた赤いリボンによく似合う。
その美人は、無表情にすっと近づいてきた。
「JP自治区から来たの? なんか、同じ感じがする」
「あ、はい……」
何故か、緊張する。それより彼女は、オートカーで寝てた時に夢に出てきた、クロウに声をかけてた女性だ。
正夢だったのか。
「G社の社員と一緒にいて、イオウス=グラディウスが現れたところにいたんですよ。一緒に消えたんですけど、イオウス=グラディウスのオートカーで戻ってきたんです。絶対G社のこと、色々知ってますよ!」
「そうなの?」
目の前の美人が、無表情で、普通に聞いてくる。
「いやほんと、俺、一般人なんで!」
普通に聞かれると、普通に答えちゃいそうになるだろ。同郷みたいだし、なんだか親近感さえ感じる。
「……私は黒明 御影。あなたのお名前を聞いてもいい?」
JP自治区特有の名前の響きだ。
「えっと……宇佐神 詠斗です」
地元の言葉で答える。
それで、美人の無表情が、少しだけ和らいだ。
「詠斗。エイトね。数字の8。無限大の記号の縦版。宇佐神は古くからの知恵の神様。なかなか神秘的なお名前なのね」
そんなことは、言われたことがなかった。
それにしてもやばい。こう自然に打ち解けて来られると、何か口を滑らせそうだ。
「俺はG社の社員じゃないし、機密情報なんて知りませんよ。銃撃に巻き込まれたから助けて貰いましたが、もとの場所に戻して貰っただけです」
「銃撃?」
「ごめんなさい! 委託組織が麻酔銃でガンゲーム始めちゃったんです~!」
なるほど、御影さんはクロウにチュートリアルを施していて、現状をリアルタイムで把握してなかったのか。
「そんなわけで、俺を拉致ってもお役には立ちません。貴方達のことはネットに上げたりしませんし、解放して頂けませんか?」
ぷう、とむくれたアリスと、涼しい顔の御影が、対照的だ。
クロウも、地球連邦政府による彗星移動策の話には簡単には乗らなかったようだし、ここにいても仕方ない。
「いいわ。だけどひとつお願い。同郷のよしみで、フレンドリンク受け取ってくれる?」
「それは、いいですけど……」
「ありがとう。色々巻き込んだお詫びに、何か困った事があったら呼んで頂戴。詠斗くん」
御影がパーソナルディスプレイからフレンドリンクを送ってくる。
地球連邦政府の特務部隊とGround-systemでフレンドリンクって……。俺、もう一般人じゃないな。
自分のパーソナルディスプレイでリンクを承認して、時間をみる。標準時間の夕方が近い。
「ところで、クロウの行き先を知りませんか? 助けて貰ったお礼を言いたくて探してたんです」
「それなら、クロウのいるところに送ってあげましょうか。自力で瞬間移動できるようになったけど、まだ熟練度がないから、3th衛星大陸からは出てはいないわ」
なんか、凄い発言が聞こえた。すっと御影に腕を取られる。
ちょ、まさか……
「さすがお姉様~!行ってらっしゃい!」
アリスのドヤ顔が、視界から消えた。




