administratorの家
「エイト=ウサカミ。君はこの超能力者と一緒に旅客機を脱出したんだろう。コンタクト取るには適任だよな」
「そうですね。そのつもりでしたが……また銃撃されたり、しませんかね?」
「襲撃実行犯は通報して逮捕済だよ。アイフォを追いまわした罪も重い。黒幕はまだ掴めていないけど」
なんとなくこっちをみる目が笑ってないアスワドには、自然と敬語になってる。
危機に陥ってた妹が帰って来たと思ったら、一般人の男が付いてきたんだ。彼の気持ちはわかる。
それにしても、黒幕か。
「今までも狙われるようなことがあったんですか?」
「Grand-systemの権限は、DNAアカウントに由来するからな。ツール開発は自由だが、systemの根幹に関わる部分をいじろうとすると、管理者のアカウント権限が必要だ。悪意のある開発元はsystemのセキュリティを突破できないから、物理的に奪おうとしてくるんだ」
なかなか物騒だな。てか、そんな悪意のある開発元って、何をするつもりなんだろう?
「噂によると、政府機関が、Android-systemを改良するために、Grand-systemの根幹を握ろうとしてるとかなんとか」
アスワドがじっとこっちをみる。
「……俺、ただの一般人ですからね」
「知ってるよ。Grand-systemしか使ってないし、管理者権限でプロフィールはしっかり掴んでる。エイト=ウサカミ。22歳、出身はJP自治区、父母は物流会社の営業職、最終学歴はJPeastD大学、趣味は……」
「ちょ、調べがついてるならいいじゃないですか」
「恥ずかしがることはないだろ。オンラインの世の中でも、大事なのは信用だぜ。まぁ社会的にはステータス真っ白な状態だけど」
そういわれると、まじ本当に、なんで自分がここにいるんだか。
政府機関以外の世界中が使っているOS、Grand-systemの提供元、G社。systemの根幹を開発した世紀の天才、G社の社長、イオウス=グラディウス。
彼の子供達と一緒に、こうしてのんびり過ごしているなんて……。
「そういえば他の社員さんは? 別拠点とかで働いてるんですか? 彼らが標的になることはないんでしょうか」
system管理者に全プロフィールを握られているのは、仕方がない。話を逸らす。
「あー、社員……」
「社員……社員かぁ」
猫耳と天使が、ふわっと宙をみる。……え? 何かおかしいこと言った?
「もしかするお父さんは、そういう危険も考えてたのかも」
「そうだな。身内なら何とかできても、人を雇ったらその分も面倒見ないといけないしな」
「…………もしかして、社員、いないんですか」
ニッコリ笑ってくる兄妹。
だめだ。滅茶苦茶可愛い。
「ここに外の人が来たのも初めてね。お父さんが、エイトを信用してるって事だわ」
「まじ一般人だし、何の脅威にもならないしな」
誉められてるのか、馬鹿にされてるのか。いや、どっちもか。
「まぁとにかく、危なくなさそうならクロウに会いに行きます。フレンド登録してないけど、救助履歴があれば大丈夫でしょう。それと、社長が使っていたあのsystem命令。あれは、一体どうなってるんですか?」
なんとなく切り出せなかったが、光学迷彩やら電子重力のON・OFFやら、特殊装置が必要な筈の機能がmicroPCに備わっているなんて、なんだか信じられない。
アイフォが簡単に説明してくれたのも、正直よくわからなかった。
Grand-systemが周囲の空間に干渉して物理現象をいじれる、みたいに聞こえたけど、それって使い方によっては、まさに超能力と似たような事ができるんじゃないか?
「『全ての物理現象は空間情報で構成されてる』って定義はあるわよね。だから、空間情報を操作すれば、物理現象に反映される。パーソナルディスプレイも、身の回りの空間に光化学情報を生成して表示されるでしょ。それのリミッターを外した機能、みたいに思って貰えればいいわ」
「まぁ深く考えるなよ。進み過ぎた科学は魔法にしか見えねぇって言うだろ」
「18世紀の産業革命前と21世紀の情報革命後の格差レベルの、進みすぎですけど?」
「平均6時間の説明記録が12本あるぜ」
「……またこんど地球との往復時にでも、勉強させて貰います……」
不眠不休で3日とか。いや、Grandsystemの機密情報だとしたら簡単な方なのか?
でも、いま俺ひとりでゆっくり勉強してるような場合じゃないだろ。
俺の顔をじっと見るアスワドの満足そうな顔。
どうしてかは分からないが、とりあえず少しは気に入って貰えたみたいだ。
「クロウ=シュライサー本人が、どの程度の類似情報を持っているかわからない以上、交渉のカードにG社からの情報はナシだ。ただ、例の選択肢の優先IDを餌にするのは良いだろう。父さんからひとつ貰っただろ? 追加で欲しかったらいつでも渡すから、それを使え」




