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この文明は終了します。


 目の前に表示した不透明度80%のパーソナルディスプレイを、指先の動きに合わせて滑らかにスクロールさせる。

 両耳に装着されたmicroPCが、最適な角度で表示する仮想画面。身体内蔵型の高性能機器だ。落として壊すことも紛失することもない。


 このmicroPCをはじめ、ほとんどの機関の基礎OSは、G社が開発したGrand-systemがシェア1位を占めている。

 大昔に群雄割拠したOSは淘汰され、地球連邦政府の関連機関が昔から使っているAndroid-systemを残すのみだ。


 Grand-systemがOS世界征服を果たした要因は、DNA言語を活用した膨大なストレージ規格にある。

 1人1デバイスの身体内蔵型microPCを末端端末(クライアント)とし、ネットワークを介してブロックチェーンのクラウドシステムが構築される。補助機能の人工知能systemがSEのシステム開発を支援し、OS基盤開発の参入障壁(わかりにくさ)をほとんどなくしているのも、大きなメリットだ。


 またこのOS開発会社は、DNA技術をファッションとしても商品化した。

 可愛い動物の耳と尻尾。天使のような背中の羽。成長に合わせて自分で選択できる性別。身体能力の向上は衛星大陸暮らしの人間の筋力向上や医療にも活用されている。


 いま地球の軌道上に浮いている衛星大陸の基幹システムにもGrand-systemが入ってるって話だから、世界はG社に支配されているといっても良いかもしれない。








「2周目の人類の為に、月には消えて貰います」



 当たり前の事のように言われた言葉を、ぼうっと聞き流すところだった。


 視界の隅で再生していた時事のlive放送を、急いで目の前に拡大する。

 スッと指先の動きに引っ張り出された不透明度80%の映像には、キャスターではない男が出ていた。誰だろう?


「我が社は地球破壊軌道にある彗星に対して、発見当初から軌道の変更や破壊等、あらゆる対策を講じてきました。しかし、質量が大きく速度もあり、十分な成果をあげることは出来ませんでした。最終手段として、月と衝突させ、大破させるしかありません。そのための軌道計算と誘導活動は、既に開始しています」


 この短い声明で、初めてオープンチャネルに姿を現した男の名を、世界中の人間がネットワーク上で一斉に叫んだ。


 《我が社って、まさか、イオウス=グラディウス本人か?!》



 イオウス=グラディウス。

 ここ数年で地球の周りを巡る宇宙大陸の生活技術を一挙に向上させ、民間の宇宙船市場をもほぼ独占するG社の最高取締役責任者(CEO)。今までこの天才社長は名前だけが知られていてメディアに姿を現した事はなく、彼に関する一切の情報は秘匿されていた。


 その世界的有名人が、オープンチャネルに突然現れる。その口から飛び出した言葉は、他の誰かのものなら、信じられなかっただろう。

 どうせ偽者だろう、という議論は、声明の内容の前に、あっという間に吹き飛んだ。声明と共にネットワークに公開されたG社の彗星に関するデータと対策活動の履歴の量が、彼の非凡な才能を物語っている。

 誰が見ても分るようなオブジェクトシュミレーション映像が用意され、その全てが地球をほぼ破壊していた。月を身代わりにする映像を除いては。


 他の誰が検証をしてもこれ以上の実証も対策も立てられない、と、すぐにエンジニアから悲鳴の声があがった。これは計算上の問題であって、外宇宙には不確定要素が数多あるからこの通りになるとは限らない、という反論の声もあがる。


 しかしG社は、もう破壊活動まで実施済みだ。

 つまり、最善を尽くした結末が、これ。


 オープンデータの映像とは別に、live映像では月を身代わりにした地球に月と彗星の欠片が降り注ぐシュミレーション映像が流れていた。地球の破壊は免れても、地表は壊滅的な状況になるらしい。

 live映像は、一連のシュミレーションを壊滅した地表の様子で締めくくり、再びイオウス=グラディウスが登場する。


「……既にオープンデータにアクセスが集中しているようですが、詳細は全て公開状態にしてあります。これは人類の存続に関わる問題です。衛星大陸は万能ではなく、地球と同様に衝突の余波は避けられない。我々が謳歌しているこの文明社会は、大きく変わる事になる」


 彼の言葉に、だれもが息をのんだようだった。

 現実か? 冗談か? G社の壮大なステマか? そもそもこの突然の声明は真実なのか?


 ……”大きく変わる”?


 彼は、ここまで絶望的なデータを提示しておきながら、終わる、とは言わなかった。

 地表が壊滅し衛星大陸も駄目だとすれば、それはつまり人類の終焉を意味する筈だ。けれど彼は、live放送を視聴する全世界の人類に、真っ直ぐに言った。


「我々には、選択肢があります。

 1:彗星の飛来と共に文明と運命を共にする

 2:地表が自然回復するまで凍眠する

 3:外宇宙へ出て居住可能な星を探す

 4:あくまで彗星の破壊に死力を尽くす

 5:仮想現実のデータ世界へ現実逃避する」


 声明に合わせてネットワークに公開されていく詳細データを、漠然と目でおいかける。この未曾有の事態(真実であれば)を、商機にするなんて、並の神経で出来る事じゃない。

 それにしても地球連邦政府は何をしているんだ。多くの人命に関わる事態の筈なのに、確実に民間の企業に完全に遅れを取っている状況だぞ。

 


「我が社は――私、イオウス=グラディウスは、この人類未曾有の危機に対して、可能な限り多くの人命を守り、個々の希望に寄り添う事が出来るよう最善を尽くします。公開した各種選択肢の具体策で申請が必要なものについては、衛星標準時間の明日0時より申込受付を開始します」



 

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