5 女王1
「この方が女王陛下?」
こんな女の子が女王様だなんでビックリだ。
王様って政治とか難しいことをしなきゃならないんだよね。
小さい頃はデンとふんぞりかえっているだけだと思ってたけど、実際はそんな楽なものではないことくらいは知ってる。
たった一人で国民全体に責任があるんだから。
王様のイメージとしては、パパやママの年代の人を想像していたから、いやあ、これはビックリだわ。
「私、てっきりおばさんかと思っていたわ」
私の少々失礼な感想に、彼女は微かに苦笑いした。
「少々事情があってな。十四の時に即位した」
なんか聞かれたくない事情のようだ。
ふと隣を見ると、アルファさんも影のある表情をしていた。
「本題に入りましょう」
私は慌ててリューンの方を向いた。
そうだよ、それを聞かなきゃ。
「まず、僕たちが今いるここは、東の国イスターラヤーナと言います。この国の他に、西の国ビスラ、北の国ツェズーナ、南の国コルム、これら四つの国がワルファラーンという巨大な島を分割して統治しています」
ふむふむ。
「そして、僕やルーラ様、我々の国は風の神殿を祀るビスラです。けれども、ビスラは三年前に風の神官長、つまり貴女の父君ですが、彼が殺され、国王自らによって魔物に明け渡されました」
私の本当のパパ、死んじゃってるの?
なんだかショックのような、気が抜けたような、ごちゃ混ぜな感じ。
「魔物の横行が激しくなって、ビスラの王子が父王を倒したのは良かったのですが、神官が一人もいないために精霊の加護を回復することが叶わなかったのです。それで、ビスラの新王はこの国の女王に協力を求められました」
女王様も腕組みして頷く。
「うちも国境あたりが魔物の被害に遭って困っていたからな。承知したんだ。アルファがリューンを弟子にして神官にしたんだが、神殿に行っても鏡に風を灯すことが出来ない。魔物の結界が邪魔しているんだ」
アルファさんがその言葉を継ぐ。
「私の水鏡に貴女の姿が映ったのです。結界を解く者として」
ちょっと待てよ………結界を解くったってどうするの?
「私、何にも知らないよ。普通の女子高生やってたんだから」
知るわけないじゃん。こっちの世界で生まれた事だって、まだ信じられないし。
「…………でしょうね」
「たぶん、貴女が鏡の『鍵』なんだと思います。今、ビスラは魔物の結界に囲まれて、精霊の力は封印されています。特に鏡は神殿をぐるり取り囲む一際強力な結界によって包まれ、神殿の中に入ることすらできない状態です。仮に入れたとしても、鏡に風を灯す呪文だけでは、結界を破って風を呼び込むことは出来ないでしょう」
アルファさんの手が私の額に触れる。
「!」
バチバチバチッと火花があがった。
「キャア!」
痛い!と思ったけど、実際は全然痛くなかった。
「アルファ!」
女王様の驚いた声にアルファさんを見ると、彼の手は火傷したように赤くなっていた。
「すぐに治ります。それよりこれを」
スイッと彼が空中に指先で円を書くと、それはそのまま鏡になって私の顔を映し出した。
「何これ」
額に淡く紅色の痣が浮き出ていた。
不思議な幾何学模様。
美しく開く花のような、渦巻く水の流れのような。
「それは風の紋様です。風の神官長が精霊の加護を願うときに刻む、本来目に見えぬ刻印です」
「これが鍵?」
「いいえ、これ自体は持つものがいないわけではありません。ですが、これが貴女に刻まれているということが鍵なのです。貴女の血は古くから風の神殿を護る一族の直系のもの。その上貴女は血筋以上のものを持っている。刻印の力はより増し、異世界においても効力を発揮したように、離れていても精霊との繋がりが絶たれることはありません。つまり、魔物の結界の中で、唯一精霊のアクセスポイントになり得るのです」
ふっと息をつく。
「水鏡で貴女の素性はわかりましたが、まさか『翼を持つ者』だとは思っていませんでした。リューンの目を通して見た時は、本当に愕きました」
私の胸がドキンと大きく鳴る。
「やっぱりこっちでも変なの?」
こんなコウモリみたいな翼なんて………
「まあ、そうそういるものではないが、なんで変だと思うんだ?」
「だって、悪魔みたいだし。気持ち悪くない?」
恐る恐る聞くと、リューンがブンブンと首を左右に振って否定した。
「とんでもない!それは竜の翼ですよ!」
「竜?」
この黒い棘付きの翼が?
「竜は水に近い。水の加護も持つものですから、私の鏡で貴女を知ることが出来たのでしょう。普通は風の加護の元に生を受けたものは、風鏡でなければはっきり映らないものなのです」
「こっちの世界には竜がいるの?」
「いるぞ。滅多に姿を見せないがな。ルーラがいたところにはいなかったのか?」
いないよー、そんなの。
うわー、精霊だの魔物だの、いまいちピンと来なかったけど、なんだかいよいよファンタジーの世界。
「ルーラ様はこちらの世界についてご存知ないでしょうから誤解されているのですね。遥か昔には精霊の加護あつき者には、度々翼を持って生まれることがあったのです。特に、各国の神官一族はほとんど当たり前だったのです。その種類も色々で、虫の羽や鳥、竜の翼などがあるらしいのです。しかし、大陸から神々の力である魔法が消えていったように、いつしかワルファラーンの翼も消えてしまいました」
女王様がにっこり笑った。
「ルーラは特に強い加護を受けて生まれて来たのだな」
「え、そ、そう?」
そうしみじみ言われると照れちゃうな。
「でも私ぜーんぜん加護なんて感じたことないんだけど」
「それはおそらくこの世界ではなかったからだと思います。ルーラ様のいた世界は精霊の力が薄いところみたいですから。リューンは?」
「はい、僕もそう思います。向こうでは精霊の気配がとても希薄で、呪の効果も半分以下でした。ですから見つけるのも遅くなってしまったのです」
ま、考えてみればそうかも。昔はともかく、いまはビルとアスファルトで覆われていて自然なんて微々たるものだし、精霊なんていそうにないもの。
アルファさんがフフッと笑った。
「それでも、お気づきになられませんか?」
「え?」
「言葉です」
私はハッとした。どうして日本語が通じるの?どうして私、こっちの言葉がわかるの?
そういえば最初からそうだった。
私の耳に入ってくるのは聞いたことない変わったイントネーションの言葉だ。
英語じゃない。もちろん日本語でもない。
そう、すごく変なの。私は日本語しか喋ってない。
彼らもこっちの言葉しか話してないのに、互いに通じているの。
あんまり自然だったから、今の今まで気に留めなかった。
「風は空気、音は風の振動です。風が間で通訳しているようですね」
「そんなこともできるの?」
「ワルファラーンが一つであった頃ならともかく、普通の精霊には創始の言葉しか届きません。それを呪文なしに通訳までするとなると、ルーラ様の守護精霊は余程高位の精霊らしい」
「翼も竜だしな」
女王様も考え込むようにする。
「竜って偉いの?」
「んー、精霊とは異種のものだが、かなり強い部類に入る。どちらかと言えば神の使い、神獣だろうな」
はららー、もしかして私凄いものに護られてるの?
しかし、護ってもらえるほど何か出来る気がしないんだけど。
運動神経はそこそこ良い方ではあったけど、本当に普通だったんだよ。
ちょっと私は心配になってしまった。
見返すと誤字脱字がいっぱいですみません。
不定期更新続きます。




