3 幽霊
その日の夜、私は那智と一緒に学校の側のコンビニに来た。
私たちが着いた時、蓮と颯太はすでに来ていて、チキンを食べながら待っていた。
「よ、早速行こうか」
二人と合流してすぐそばの公園へ向かう。
怪談のスポットには到底見えない。
まだ空はほのかに明るくて、車も多いし、帰宅途中だろうか、スーツ姿のオジサンとかも歩いている。
郊外とは言え、昼間は結構賑やかな所だ。
近くにマンションがたち並んでおり、小さな子がよく遊んでいる。
「ねえ、本当に出るの?」
「目撃者が結構多いんだよ。十人や二十人じゃないってさ」
ふーん、じゃあ信憑性はあるのね。
「見間違いじゃないの?『正体見たり枯れ尾花』ってやつ」
那智が疑わしい、と言って空を見る。まだ何も出てこない。
私はなんとなく辺りを見渡した。
マンションの部屋にポツポツと明かりが灯っている。
まだ人が帰っていないのか暗いままの部屋もあって、外から見ると白と黒のモザイクみたい。
視線を移すと黒い空が見えた。
今日は星が見えない。
雲が広がっているんだなあ。
空に風が吹き抜けて、電線がヒューヒュー鳴っている。
公園の木もざわざわと大きく枝を揺らしていた。
「風が強いね」
「涼しくていいんじゃない?」
「ねえ、何時ごろ出るとかないの?」
「夜としか書いてなかったよ」
いつになるかわかんないのか。つまんない。
コンビニに並んでいた花火の袋を思い出したけど、花火してるわけにもいかないしねえ。
けれど、幸か不幸か、私達はそう待たずにすんだ。
ほんの十五分か二十分、それくらい経った頃、突然それは現れた。
「出た!」
颯太が叫んだ。指さす方向に蓮がスマホを向ける。
ふわり、空を横切る白い影。ちょうどマンションの五階くらいの高さ。あれはなんだ?
「ちょっと、マジ?」
さすがの那智も驚いている。
影は大きい。人の形をしている。けれど何もない夜の空に浮かんでいる。
ふいっと幽霊が私達の方を振り返った、そんな気がした。
「!」
二つの小さな金色の光。
それが私の目とあった。
ドキリとする。あれは幽霊の目?幽霊の目ってあんな猫みたいに光るんだろうか。
でも、不思議に綺麗な光だ。
影はこちらに気がついたのか、みるみる遠ざかってゆく。
「追いかけろ!」
公園の外までしばらく走ったけど、もうどこにも幽霊の姿はなかった。
「すっげ、本物?」
「動画撮れたか?」
「多分撮れた」
まだ自分が見たものが信じられない。
「あれなんだったんだろう」
「本当に幽霊?」
なんだか風がいっそう強くなった気がする。
半袖の腕が肌寒く感じた。もう七月なのに。
風が轟々と木々を唸らせている。髪がバサバサに吹き乱された。
空が怖いくらいに暗い。
夜だから暗いんじゃない。
雲が厚く覆い、月も星も一粒の光も閉ざしてしまっている。
その時、訳もなく不安が私の胸に広がった。
何かがずれている気がする。小さな違和感。日常が非日常になったような感覚。
その時、突如すさまじい突風が私達を襲った。
「うわぁっ!」
身体が吹き飛ばされそうな強い風。
木の葉が巻き上げられ、私達の腕や脚に叩きつけられる。
顔を庇う両手に、細かな砂粒が痛いほど吹き付ける。
「危ない!」
吹き荒れる風と埃で息をするのも苦しい。
変だ。この風は意志を持っている。
耳の奥で虫の羽音のような耳鳴りがする。
何か言っているような気がするのは、本当に気のせいだろうか。
風が私を包み込むように吹き上げる。優しく、そして激しく。
その時聞こえたのだ。
(目覚めよ)
風の唸りが。
そして、嵐のような風は消え、嘘のように静かになった。
「何だったんだ、あの風」
「帰ろっか」
那智がきく。
「うん、風強いし」
「早く帰ろう」
すっかり興奮も冷めて、私達は早々に帰る事にした。
ーーーそして、翌朝、私は彼に出会い、旅立ったのだ。




