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【完結】竜の翼と風の王国  作者: 藤夜
本編

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23/27

23 風鏡4

神殿へと歩き出した私は、扉の前まで来て深呼吸をした。

白い大きな扉に手をかける。

一瞬のためらい。

そして、力を込めて一気に開いた。


「わあ…………」

神殿の中は神々しい光が満ちあふれている。

正面の祭壇の壁には、白銀の美しい草木をかたどった、大きな鏡の枠だけがある。

それは私の全身がすっぽり映って、なおかつ余るほど大きい。


一歩ずつ歩く。

私、知ってる。この鏡を。

だって、この鏡をくぐって跳んだんだもの。あの懐かしい世界へ。

私がこの世界に来た本当の理由がわかった。

今ならわかる。


教えられたルーンを唇にのせる。それは驚くほど滑らかにすべりでた。


風の精霊(シルフィール)よ。[北風](アクィレシエル)[南風](アウスティエル)[東風](エウロシエル)、そして[西風](ゼピュロシエル)よ』


ふわり、微風が私の指先に生まれる。


風の主(ビスラ)の名において、ルーラ=シェゾネ=フィーリアルが命ずる』


風は徐々に大きくなり、渦巻いて、私の服の長い裾をはためかせる。

薄い幾重にも重なったスカートは、ふんわり広がって花になる。


『我が命は風の主(ビスラ)の命にして、我が言葉は彼の言葉。彼は全ての風の精霊王にして、偉大なる風の(あるじ)


ゴオッと凄まじい音を立てて、風が神殿内を駆けめぐった。


『全ての風は風の主(ビスラ)に従い、その力捧げん』


綺麗だ。

光が風に宿り、小さな破片になって煌めいている。


『我が身に流るる紅き血は、風を護りし誓いをたてしもの。我が額の刻印は、風の加護せし者の証』


バサッと翼が開く。額が熱い。きっと刻印が出ている。

私は風音に負けぬよう、いっそう声を張り上げる。


『忘るるなかれ。遥か遠く、我等が無垢なる頃の事。我が翼は風の愛せし記憶のかけら。我等が風を愛せし契りの印』


爪先がゆっくりと地面から離れた。

うるさいほど唸っていた風の音も、もう聞こえない。

私は輝く風に包まれている。

綺麗、とても綺麗。

ああ、なんて清らかな光なんだろう。


『我は風に近しき者。我と風とを裂き得る者は無し』


私の腕に、脚に、身体に、風はくるくると戯れる。

そして優しく唇にふれる。


『風は自由なるもの。聡明なるもの。そして、凝り澱む魔を払うもの』


光の風が収束し始める。

一点に。私の額の刻印に。


『我の前に今一度辿る道を示し、風の主(ビスラ)の愛せしこの国に加護を与えよ』


お願い、風よ、私たちのもとに戻って。

もう一度、この緑の国を愛して!


『我は此処にあり、君が導く灯火(ともしび)とならん』


ブワッと目の前が白く染まる。

私の中から、何かがほとばしり噴き出してゆく。

枠だけだった鏡が風を纏い、みるみるガラスのような硬質の表面を形作る。

風が宿ったんだ。


神殿に風が満ちる。

それはすぐに神殿を飲み込んで、空へ、幾条もの閃光となってこの国を覆う。

清涼で瑞々しい、これは緑の風。

風の精霊達が、弾けるような歓喜とともに還ってくる。

再び、この国に。

影が吹き払われてゆく。

禍々しい黒き闇が、散り散りになって消える。全て。


(好き)

チリン、と小さな鈴が鳴るような囁き。


(愛してる)

透き通る精霊の姿が見えた。

長い手足、まろやかな肢体。

女の人もいれば男の人もいる。

どの精霊も共通なのは、すごく綺麗なの。

人間じゃない、人間じゃありえない。

美しいの。とても素敵。


(ありがとう)

(ありがとう、人の乙女)

耳元に息を吹きかけられるよう。くすぐったい。

くすくす笑ってしまう。


もう大丈夫。

鏡の中に、荒れたはずの森が癒やされていくのが見える。

緑の新芽がみるみる開いてゆく。

下生えの草に小さな花が咲く。

そして、精霊達は壊れ物を扱うように、そうっと私をおろしてくれた。


ーーーー終わった。

いいえ、始まったのだ。

ゆっくりと、私は鏡に背を向ける。


神殿の入り口には、みんながそろって立っていた。

レンディルム陛下、リューン、アルファさんとルイリーン陛下も。

温かな瞳が私を迎えてくれる。

よくやったねって。

私はとびきりの笑顔でそれにこたえた。

評価をいれてくださった方ありがとうございます。

ブクマ、評価等で応援していただけたらとても嬉しいです!

あと少しで完結します。

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