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【完結】竜の翼と風の王国  作者: 藤夜
本編

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22/27

22 風鏡3

「キャアァァッ!」

「レン!」

彼の身体が霧に包まれる。

嘘だ!嘘だと言って!こんなこと…………

私の身体から力が抜けて、へたへたと座り込む。


「あれ?」

絶望に顔を覆う私の耳に、ぽやんとした彼の声が聞こえた。

何?

すーっと黒い霧が消える。大地を溶かす毒の霧。

けれど、彼はきょとんとして立っていた。

不思議そうに自分の身体を見下ろしている。

まるで無傷。どうして?


「そうか!」

アルファさんが手を打った。

がしっと陛下の腕を掴む。


「レンディルム陛下、力を貸してください」

「なに?」

「あの魔物に対抗する手段を見つけました。もしかしたらいけるかもしれません」

ルイリーン陛下もぱっと顔を輝かせる。


「そうか、アルファ、あの手があった」

アルファさんも力強く頷いた。


「貴女を連れてきた甲斐がありましたよ」

話が見えない。一体どういうこと?

戸惑う私を振り返り、アルファさんはてきぱきと指示を与える。


「ルーラ様、合図をしたら精霊を呼んでください。リューンは精霊を使ってルイリーンを補佐する」

「ええ」

「レンディルム陛下にはあいつの動きを止めていてもらいます」

「どうやって?」

「先程魔物の霧を受けても無傷だったのは、ビスラ王族の遮断の力のせいです」

「ちょっと待て。いくら俺でもあれの塊を受けたら終わりだと思うぞ」

「呪で増幅して剣にうつします。そうすればしばらくは抑えられるでしょう」

「ルイリーンは………」

「わかっている。ちょっと貸せ」

レンディルム陛下の剣をとって、にっこり笑ったかと思うと、なんと自分の腕をざっくり切ったのだ。

ぽたぽたと血が落ちる。

驚く私達をよそに、アルファさんがその傷口を撫でる。すると、傷口はそのままに血だけが止まった。


「なにを………」

「まあ、見ればわかる。早くしろ、奴が起きるぞ」

彼女の言葉どおり、魔物は自らを拘束する大地を引き裂いて起き上がり、身を震わせて炎を振るい消した。


「まずいですね」

アルファさんが素早く呪文を唱える。するとレンディルム陛下の身体が薄く光り、その光は両手から剣へと移った。


「これは………」

ほんのりと輝く剣。

「すごい」

アルファさんは厳しい顔のまま、念を押す。


「一応、増幅の呪文はかけましたが、どれだけ耐えられるかは陛下ご自身の意志力にかかっています。くれぐれも過信しないで」

「わかった」

丘の上を見張っていたリューンが叫ぶ。


「来た!」

魔物が怒りと共に突っ込んでくる。

けれど、私達はもう逃げない。


「受け止めればいいんだな!」

レンディルム陛下が魔物に向かって走り出した。

向かって来る彼の姿を認めて、獣は唸りをあげる。

そして、その口を開いて毒の霧を吐き出した。


「ハァーーーッ」

気合いと共に、剣を振りかざす。

 ゴウン

何かがぶつかり合う響き。

レンディルム陛下の剣が魔物の吐く毒槍を受け止めている。

本当に止めた!


「ルイリーン!」

「がってんだぁっ!」

ルイリーン陛下が両手を組む。

滴り落ちる赤い血が不思議な輝きを放ち、両手の間に丸い光球を作っていく。

アルファさんが聞き取れないほど次々と呪文を紡ぐ。

リューンもそれにハモるように、呪文を唱える。


「ルーラ様!」

「まかせて!」

私は心の中で思いっきり叫ぶ。

(風の精霊達、私に力を貸して!)

呼び声に応えた精霊達が、丘の上に激しい風を巻き起こす。


「リューン!」

「はいっ」

私の呼び寄せた風をリューンの呪文が増幅する。


「行けえっ!」

ルイリーン陛下の手から、紅い光球が矢のように放たれた。

吹き荒ぶ風に乗り、鋭い軌跡を描いて飛ぶ。

その球はレンディルム陛下に気を取られている獣に真っ直ぐに向かい、そしてその身体に食い込んだ。


 ギャアァァァァァ!

ものすごい叫び声をあげて魔物がのたうつ。

 グオウッ ギャアァーーーン!

ひどく苦しんでいるようだ。口からたらたらと泡まじりの唾液を流している。

魔物の身体からは別に血が流れてるというわけではない。

あの球は魔物の身体に比べればとても小さく、めり込んだだけでダメージを与えそうにないのに。

魔物から解放されたレンディルム陛下が駆け寄って来た。


「一体何をやったんだ?」

アルファさんは淡々と答える。


「イゼルラーナの血は不死の血。しかし、それは使い方によっては滅びを与えるものにもなるのです」

ルイリーン陛下の血………


「この血のせいで魔物に付け狙われるんで迷惑していたんだが、アルファがこういう使い方を見つけてくれたんだ」

「まだ、魔物は死んではいません。仕上げはリューンとルーラ様ですよ」

私達は無言で頷いた。

天に向かって願う。閉鎖されたこの国に精霊を呼び込むことを。

私はここにいる。ここにいるから、彼等は来る。


風が膨らむ。

私が精霊を呼び、リューンが呪文を唱える。

二人の力は互いに増幅し合い、風を真空の刃へと変える。


風の刃が魔物の身体を切り刻んでゆく。

たてがみを、脚を、胴体を。

切られた所から赤い血が噴き出す。


切られるごとに獣は身悶えして、必死で抗おうとする。

しかし、弱った身では大した抵抗ではなかった。

ゆっくりとその身体を倒し、徐々に霧となって消えていく。

魔物が小さく、小さくなってゆく。そして漂う霧となる。

最後の風と共に、神殿の周囲の霧が吹き払われたように散り散りに消えた。


「ふ………」

「終わった………」

私達は茫然と立ち尽くしていた。


「よかった………」

私の呟きに、ルイリーン陛下が満面の笑みを浮かべる。


「おうっ、こんなにわくわくしたのは初めてだ!」

ガクッとこけたレンディルム陛下が彼女の頭をどついた。


「お前の精神はどうなっているんだ!」

「何をするっ!」

「黙れ、ばけもの!」

ああ、この二人は………

思わずくすくす笑っていた。


「もう大丈夫です」

アルファさんが私に優しく微笑む。


「うん」

頷いたとき、ふと心配になった。


「ルイリーン陛下の腕、大丈夫?」

「もー治ったぞー」

ぶんぶん手を振っている。腕には傷の跡すら無かった。


「良かった」

安心した途端、今まで忘れていたことを思い出した。


「そういえば、あの三人は?」

オーティスさん達の姿が見えない。確か、レンディルム陛下を押さえていたはずなのに。


「ねえ、陛下、オーティスさん達は?」

「しまった!忘れていた」

陛下が慌ててきょろきょろ見渡し、斜面の向こうの方へ走って行く。


「ここだ、ここ。無事だった」

陛下の後を追っていくと、斜面の木の根本に仲良く三人並んで伸びていた。


「気絶させたんですか?」

「気の毒に………魔物がこちらに来たらどうするつもりだったのです」

呆れたように尋ねる。


「悪かったな。すっかり忘れていた」

「三人一度にか。相変わらずの馬鹿力だな」

ルイリーン陛下の感想はシビアだけど、私は声もなかった。


「ルーラ、こいつら何していたんだ?」

「陛下が私を止めようとしていたから足止めを頼んだの。悪いことしちゃったかも………」

「ははは、レンは牛みたいな奴だから三人じゃ少なかったな」

「誰が牛だ!」

「牛じゃなきゃ、なんだ?猪か?熊でもいいな」

「俺を一体なんだと思っている!まったく昔っから失礼な奴だ」

「お前にゃ負けるよ」

「なにをっ!」

二人が再びぎゃいぎゃい言い争っているのを平然と無視して、アルファさんが三人を揺り起こす。

しかし、なかなか目覚めないことに痺れを切らして、何やら小さく呟いた。

その途端、


「ぎゃあっ!」

「うわっちちちっ!」

「熱ーっ!」

悲鳴をあげて、三人揃って飛び起きた。

火の精霊を使ったのね………この人も結構見かけによらず過激かもしれない。

冷や汗が私の額を滑っていった。


アルファさんが私を振り返る。


「残るは貴女の仕事だけです」

「さあ、ルーラ様」

リューンは促す。


「うん」

私は頷いて神殿へ歩き始める。

雪のように真っ白な神殿。

黒い闇は払われて、真の姿に戻ったのだ。

後は鏡だけ。

この中にあるはずの鏡に風を灯すだけ。


ふっと息を吐く。


いよいよだ。

これで私の役目は終わる。

終わるのよ。


ここまで読んでくださった方に感謝です。

あと少しお付き合いください。

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