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 「白魔法の研究を禁止しはしたが、魔法の研究に人生を捧げる者を止めることはできないと考えている」

 マデアは最後にそう言った。

 「だから、我々は白魔法の基本にたどり着いた者に真実を教えようと決めた。後は自分たちで決めるのだ。続けるのか、止めるのか」

 マデアはメイヤー、ステア、タロル、そして、メーラの顔を真剣なまなざしで見つめて言った。

 「できる事なら、止めてほしい。この魔法の実験は危険が大きすぎる。我々は、もうこれ以上仲間を失いたくはない」

 マデルの言葉に、メイヤー達は「よく考えてみます」と頷いた。

 マデアはそんな四人の吸血鬼を見て、微笑んだ。

 「お前たちは賢い。よく考えるのだ。そして、自分の納得いく結論を出せ。幸い、私達は寿命が長い。時間はたっぷりとある」

 マデアの言葉に、メイヤー達はまるで子供のように頷く。

 まるで教師とその生徒のようだ。

 (もしかしたら、そうなのかもな……)

 おそらく、マデアの年齢はオレの予想をはるかに超えているのだろう。伝説級の吸血鬼、大魔法使いだ。

 (すげー人に会っちゃったな……)

 もうすぐお別れという空気になって初めて、オレはそれに気づいて、ちょっとドキドキした。

 「……ああ、それから、最後にこれだけは言っておく。お前たちは既に気づいていると思うが、体の出来上がっていない吸血鬼、つまり、子供は大人よりも免疫機能を高められる可能性が高い。怪我や病気に黒魔法無しで打ち勝つ可能性があるのは、子供だ」

 オレはその言葉にハッとして、メーラを見る。

 メーラはマデアの言葉を聞いて、目を煌めかせていた。どうやら、その可能性に気付いていたらしい。

 「我々のように何百年も生きた吸血鬼の体は、出来上がっていて、変化に弱い。しかし、まだ成長の段階にある子供は強い。病原菌騒ぎの時も、子供の死者は比較的少なく済んだのがその証拠だろう」

 メイヤー達はこくんと頷く。

 メーラのキラキラした表情とは違って、大人三人の表情は厳しい。

 「当然の事だが、子供を使っての実験は禁止だ。絶対にさせない。こっそりとやろうとしても無駄だ。我々は必ず気づく。そして、お前たちを拘束し、あらゆる手段を用いで実験を止めさせる」

 「なんで!?」

 メーラが叫んだ。

 「当然です」

 「当たり前です」

 「確認するまでも無い」

 メイヤー、ステア、タロルは異口同音にそう答えた。

 「なんでだよ!?オレならできるよ!クレイにだってできるんだから!」

 メーラは大人たちに食って掛かるが、両親も、師匠も聞く耳を持っている様子は無かった。

 いつもなら、もう少し粘りそうなメーラだが、彼らのその表情を見て、口をつぐんだ。

 「ど、どうしてですか?」

 メーラはマデアに質問した。少しでも突破口を見出そうとしたのだろう。

 マデアはメーラを静かな瞳で見つめて、その口唇を開いた。

 「お前はまだ、一人前の魔法使いではない。実験など、しかも、命を懸けた実験など早すぎる。実力の伴わない行為は、自殺に等しい。やるのなら、まずは師匠と両親から一人前になったというお墨付きを貰うのだな」

 マデアの言葉を聞き、メーラはそれ以上何も言わなかった。



 マデアとそのお供の吸血鬼たちは帰っていった。

 メイヤーとタロルは、ひとまず実験を止めた。

 「私はまだ死にたくはないわ。でも、白魔法についての研究も諦めきれないの。だから、何か方法が無いか考えてみるわ」

 「私も一緒に考えよう」

 メイヤーとタロルはお互いの手を握りしめ、そう言った。

 そして、メーラには「一人でこっそり実験したら、変身魔法で野球ができない体にする」と脅していた。

 「私たちからの魔法を防げるくらいの一人前の魔法使いになりなさい。そうすれば、どんな実験でもやり放題よ」

 両親にそう言われて、メーラはふて腐れて城の庭の木にぶら下がっている。

 そろそろ日が落ちる時間だ。

 (迎えに行くか……)

 オレが庭に出ると、クレイもついてきた。

 「メーラを迎えに行くだけだぞ」

 オレがそう言うと、クレイはこくんと頷いた。

 「俺も行く。メーラに話すことがある」

 オレの隣を歩きながらそう言った。

 メーラは蝙蝠の姿で、木の枝にぶら下がっていた。

 「おい、メーラ。そろそろ暗くなるから、中に入れよ」

 「…………」

 メーラは人の姿になり、木から降りてきた。

 不機嫌そうな顔だが、別段怒ってはいないようだ。

 「……母さんと、父さんは?」

 「キッチンでお茶を飲んでるよ。ステアも一緒だ」

 「……わかった」

 メーラは歩き出した。

 「ねえ、メーラ。俺、白魔法も勉強するよ。それで、メイヤーさんとメーラが安全に使えるようにできる方法を考える」

 クレイがメーラに言った。

 メーラは驚いてクレイを見る。

 「俺、黒魔法も知っているし、吸血鬼の事も少しはわかる。だから、俺ならできると思うんだ。もっと白魔法をうまく説明できる文章も思いつくかもしれない。そしたら、メーラも、メイヤーさんも、危ない事をしなくてもよくなるかも」

 「…………お前にできるのかよ?」

 メーラは唇を尖らせて、そう聞いた。

 感謝したい気持ちもあるが、白魔法を問題なく勉強できるクレイに対する嫉妬心もあるのだろう。

 「メーラは長生きするでしょう?だから、待っててよ。おじいちゃんになるまでには、何とかしてみせるから」

 クレイはそう言って、笑って見せた。

 「あははは。そうだな。クレイはたっぷり時間をかけられるな。これが逆なら大変だけど」

 オレは思わず笑い、クレイの髪をくしゃくしゃにして撫でた。

 メーラもオレにつられたのか、吹きだす。

 「じいちゃんになるまでって、長えよ。もっと頑張れよ」

 「だって、できるかどうかわかんないじゃないか。今だって、よくわかんないのに、できてるって言われるし……」

 オレ達は、落ちる夕日を見ながら、城へと戻って行った。


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