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そして、二週間後。

 試験が終わり、マーリークサークルの学生達は全校集会を終えて、寮を出た。

 家に帰れるだけあって、生徒達の顔は輝いている。試験が終わり、ほっとしている生徒も沢山いた。

 しかし、その中で、50名ほど暗い顔色を隠せない者達がいる。一年生だ。

 「試験があんなに厳しいなんて・・・」

 「くそう・・・甘く見てた・・・」

 「せっかく勉強したのに・・・」

 荷物を背負いながら、暗い顔でぞろぞろと歩く姿は、まるでゾンビのようだ。

 「もう、皆、そんなに暗い顔しないで!テストはまた次もあるのよ!次頑張ればいいんだから!」

 足取りの重い生徒達を、エーテ先生が励まそうとしてくれているが、一年生達の表情は変わらない。

 クレイもその一人だった。

 クレイには自信があった。満点とまではいかなくとも、授業で習ったことには全て答えられると思っていた。

 しかし、それができなかった。

 今回の初めての試験で、クレイは答案用紙すら触れなかった教科があったのだ。

 「先輩達がなにも教えてくれないわけだ」

 メーラが大きなため息をついてそう言った。

 クレイが受ける試験は6科目+面接だった。

 面接は対策のしようがなかったが、他の6科目に関しては教科書を読み返し、ノートを見返し、友人達と確認しあって勉強した。

 しかし、初日の2教科であった魔法基礎学と魔方陣基礎学では、教室に入っていきなり「クレイ君、持ち込み禁止の物を持ってきていますね。失格です」と言われ、退室となった。

 クレイだけではない。クラスメイトのほとんどがそう言われて、教室を追い出された。

 一瞬、なにを言われたのかわからずに、クレイは試験監督であるファヴァーヴァル先生とジョルジュ先生の顔をぽかんと見上げてしまった。

 教室の外の廊下に追い出された面々も同じだった。試験の初日、ヤル気満々で教室に来たのに、試験の問題すら見ることができなかったのだから。

 「え?なに?」

 「持ち込み禁止の物ってなに?」

 クラスメイト達はお互いの顔を見て、困惑していた。教室を追い出されなかった者も数人いたが、彼らもほどなくして出てきた。

 理由は、禁止事項を破ったからだという。

 「禁止事項ってなに!?」

 「どうして、試験が受けれないの!?」

 一年生はパニック状態だ。

 一年生全員が、退室状態となったところで、ファヴァーヴァル先生とジョルジュ先生が教室に入るように言ってくれた。

 そこで、どうして試験が受けられないのか説明をしてくれた。

 「皆さん、二ヶ月ほど前に試験についての注意事項を渡しましたね。それをきちんと読んできましたか?」

 ファヴァーヴァル先生にそう言われ、クレイは首をすくめた。

 確かに試験のスケジュールとは別に、細かい文字で注意事項が書かれた紙があった。ただ、その紙には、「遅刻は厳禁」とか「ペンやインクを忘れたり、きらしてしまった時は、友達に借りるのではなく、監督官に申し出ること」など、特別読まなくても良さそうな注意事項ばかりだった。

 「あの紙には、試験を受けるのにとても大切なことが書かれています。明日の試験を受けたい人は、その紙をしっかり読み込むこと。では、本日の試験はこれで終了です」

 先生二人はそれだけ言うと、教室を出ていった。

 それ以上の説明は無かった。

 当然、試験の問題や回答用紙が配られることはない。

 一時間目の魔法基礎学と、その次にあるはずだった魔方陣基礎学の二つの試験は、一年生全員が失格となって終わったのだ。

 クレイは大急ぎで寮へと帰り、試験の注意事項を読んだ。

 そこには、確かに小さな文字で「試験会場に筆記用具、杖、その他必要な道具以外の持ち込みを禁ずる」と書かれていた。

 クレイはギリギリまで自分の書いたまとめノートを見ようと、鞄の中に入れていたのだ。

 試験会場に持ち込むというだけで、それはカンニング行為になるとも書かれていた。カンニング行為をした生徒は、その日のテストを受けられなくなるともあった。

 「・・・・・・そんな・・・」

 クレイはショックの余り、寮の部屋で呆然としてしまった。

 この用紙が配られたのは、二ヶ月も前のこと。

 この注意事項を読み込むこ時間は十分にあった。しかし、クレイはちょっとと目を通しただけで終わり、勉強にばかり力を入れてしまった。

 (字が細かくて、そんなに大事なものだとは思わなかった・・・時間厳守とか常識的な事しか書かれていないと思ってたし・・・そんなことより、勉強って・・・)

 そう考えていたのはクレイだけではなかったようで、部屋から出て談話室にいくと、一年生のほとんどがそこに集まっていて、全員の顔色が悪かった。

 「ここの学校って・・・意地悪だよなあ」

 ジャムがポツリと呟く。

 「意地悪じゃないわよ。ちゃんとこうやって紙に書いて渡してくれてたじゃない」

 ジャミンがテーブルに突っ伏したまま、唸るような声でそう言った。

 「でも、一言くらい言ってくれてもいいじゃん」

 「そうだよ、こんな細かい字で書かなくったってさあ・・・」

 一年生達は口々に文句を言い放つ。

 しかし、それも長くは続かない。

 先生達は何度も注意を口にしてくれていた。やり直しはきかない。一度きり。試験に関することは自分で確認しておくこと・・・

 (甘かった・・・勉強さえやっておけばって思っていたのが、甘かったんだ・・・)

 試験以前に気を付けておかなければいけないことがあったのだ。

 試験を受けるための準備。

 勉強と平行してやっておくこと。

 体調管理、精神面の管理、そして、試験の注意事項の確認・・・

 「・・・確認しようぜ。明日の試験は、受けるんだろう?」

 メーラの言葉に、全員が顔をあげた。

 「そうだね・・・」

 「明日こそは・・・」

 「そういえば、アカーリア。どうして、失格になったの?教科書とか持ち込んでなかったんでしょう?」

 「コーネリアが見つかっちゃって・・・。お供も持ち込み禁止だったの」

 「そっか・・・」

 一年生達は気持ちを切り替えようと、注意事項が書かれた紙に目を落とす。

 しかし、ショックからすぐに立ち上がれるものはいなかった。


 「そうしょげた顔すんなよクレイ、メーラ。これから帰れるんだぞ。4ヶ月ぶりの我が家だ。休暇を楽しめ!」

 ケビンが荷物と茶太郎を連れてやって来た。

 もうすぐ、メーラの両親であるメイヤーとタロルが来る。ステアも合流して、6人と二匹でパッパース村に帰るのだ。

 他の一年生たちも、バスで帰る組、船で帰る組、箒で飛んで帰る組と別れている。

 「あ!母ちゃん!母ちゃん!!」

 「ジャムー!久しぶりだね!元気にしてた?」

 バスの第一陣から、生徒を迎えに来た家族が降りてくる。

 ジャムの母親はジャムそっくりの赤毛の髪をしていた。ジャムを抱き締め、力強い腕で抱き上げる。

 「か、母ちゃん!下ろしてよ!」

 「やだよ!4ヶ月も会えなかったんだから、抱っこさせて!」

 ジャムの母親は、恥ずかしがるジャムを抱き締めて離さない。

 「ママ!会いたかった!」

 「お帰りー!!まだ、お帰りじゃないけど、お帰りー!!」

 「背が伸びたんじゃないか?」

 「ご飯は美味しかった?風邪引いたりしてない?」

 あちこちで、家族との再開の歓声があがっている。

 「メーラ!クレイ君!!」

 空から声が聞こえたかと思ったら、メイヤーが空から降ってきた。軽やかな身のこなしで着地すると、メーラとクレイをいっぺんに抱き締める。

 「会いたかったわ二人ともー!!」

 ぎゅうぎゅうと抱き締められた。

 メイヤーはクレイ達から腕を離すと、今度はケビンに抱きつく。

 「初めての先生お疲れ様!大変だったでしょう!」

 「お、は、はい・・・」

 ケビンは予期せぬ事態に驚いている。

 そこへ丁度ステアもやって来たものだから、メイヤーはステアにも抱きついた。

 「し、師匠!子供扱いは困ります!私はもう、立派な大人で・・・」

 「先生としてはひよっこじゃない!わかるわ。なんでも初めては緊張するし、異常に肩に力が入っちゃうの。帰ったら、良いリラックス方を教えてあげる」

 そう言って、ステアの頭を撫でた。

 ステアは怒ること無く、顔を赤くしてそれを受け入れている。

 「頭があがらないとは、まさにこの事だな」

 ケビンがポツリと呟いた。


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