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次の日、一年生は全員、顔をむくませて登校した。たっぷりと泣いた結果だ。
教室でお互いの顔を見ながら、苦笑いする。
昨夜の大泣きの原因は、パンジーだと全員が知っていた。しかし、皆、心のどこかでホームシックを抱え、この4ヶ月間、ずっと我慢してきたのだ。
たっぷりと泣いて、スッキリして学校に来ることができた。一人ではできなかったかもしれない。
友人達も同じ気持ちなのだとわかると、悲しみからの回復も早かった。
一時間目はファヴァーヴァル先生の魔法基礎学だったが、何故かジョルジュ先生も一緒に教室に入ってきた。
「今日の午前中は合同授業です。皆さん、この4ヶ月で学んだことの総復習をしましょう」
ファヴァーヴァル先生はそう言うと、黒板になにやら板書しはじめた。その間に、ジョルジュ先生が杖をふり、呪文を唱える。
先生の手もとにあった紙が浮き上がる。
それは、紙ではなく封をされた手紙だった。
「今日は家族やお友達にあてた手紙を作りましょう!」
そう言って、ジョルジュ先生は浮き上がっている手紙の封を破る。
すると、手紙がぽんっとはじけ、中から紙吹雪が飛び出してきた。
「クラッカーレターと呼ばれる魔法です。貰ったことがある人もいると思います。今日は、これを自分達で作ってみましょう」
先生の言葉に、教室中から歓声があがった。
「これ、作ってみたかった!」
「わたし、音楽出したい!」
「文字光らせたい!」
「僕も!僕も!」
教室中が大騒ぎになる。
ジョルジュ先生はそんな生徒達の様子を見て、にっこりと微笑む。
「はい、皆さん静に。まずは、クラッカーレターの作り方を説明します。午前中しか時間がないので、集中して聞いてくださいね」
ジョルジュ先生とファヴァーヴァル先生が交代する。
クラッカーレターとは、ビックリ箱のような手紙のことで、封を開けた人をビックリさせるような仕掛け魔法が施されている手紙を指すらしい。
魔界の雑貨屋さんには定番商品として売られており、その種類は毎年増え続けている。
さっきのように、紙吹雪を出すもの。
音楽が流れるもの、手紙の文字を光らせたり、踊らせたりするもの、動くイラストを仕込んでメッセージを伝えるもの・・・
魔法の組み合わせによって、パターンは様々だ。
ケビンの家でご馳走になった、ジュモジュリアンのケーキの箱も、クラッカーレターと同じ仕掛けがしてあったらしい。
「皆さん、もうすぐ年末のお休みでお家に帰りますね?それをご家族やお友達にこの手紙で伝えましょう。クラッカーレターには、たくさんの便箋を入れられませんから、手紙は短く書くようにしてください。そのかわり、魔法でびっくりさせましょう」
ファヴァーヴァル先生の言葉に、生徒たちは俄然やる気になった。
昨夜、故郷を想って泣いたばかりだ。
帰れないならば、せめて、会いたい人たちに手紙を。
先生達のそんな気遣いに、生徒たちは感謝した。
「これ、魔力が薄い土地でも、使えますか?」
クレイが手を挙げて質問する。
「大丈夫ですよ。念のため、たっぷりと魔力を込めましょう。魔力の定着がきちんとできていれば、問題なく発動するはずです」
ファヴァーヴァル先生の言葉に、クレイは顔を明るくする。そして、真剣な顔をして取り組みはじめた。
派手な爆発と、きれいな紙吹雪をクレイは選んだ。
ミック達は、連続する破裂音に大喜びするだろうし、マーテル達はキラキラする紙吹雪を見て目を輝かせるだろう。
手紙の字を虹色に煌めかせ、大きく見せる。村のお爺ちゃんやお婆ちゃん達にもはっきりと見えるように。
『もうすぐ、年末休みで帰ります。マフラーと手袋と帽子、ありがとう。すっごくあたたかいです。師匠とケビンも元気です。クレイ』
書きたいことは沢山あったが、書き出したらとまらなくなるので、本当に短くした。
そして、絶対に失敗のないように何度も魔法を確認して、手紙に封をした。
ジャムも、メーラも、他のクラスメイト達も、楽しそうに魔法をかけている。
最初に先生達が言ったように、クラッカーレター作りは、この4ヶ月の総復習のようなものだった。手紙を派手にしたければ、呪文も魔方陣も総動員して工夫する必要がある。もちろん、先生達も手伝ってくれたが、作業のほとんどは生徒自身が行った。 「こんな面白いものが作れるなら、オレ、もっと勉強頑張る!」
ジャムがこう言ったほど、クラッカーレター作りは面白かった。
手紙を作り終わり、宛先を間違いなく書いたことを確認してから、先生達に預けた。
午前中の授業を終え、お昼ごはんを食べる頃になると、みんなの顔のむくみは消えて、スッキリとした表情があった。
「うん、皆元気だね。いっぱい食べて勉強しな」
食堂のオーベンさんが、そう言ってお皿に山盛りのごはんをくれた。
テストまで残り2週間を切っている。
クレイはすっきりと気持ちを切り替えることができた。他の生徒たちもだ。
(良かった・・・昨日は寂しくてしょうがなかったけど、泣いて良かった)
素直にそう想えた。
(そんで、もう泣かない)
試験まであと少し。
試験が終わったら帰れるのだ。