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 12月の半ば、もう試験まで2週間を切った頃、お昼ごはんのために食堂へと向かっていたクレイの元に、お客がやって来た。

 「久しぶり~、人間の魔法使い君」

 微かな羽ばたきの音と共に現れたのは、フクロウ便のお兄さんだった。羽と同じ色の髪、フクロウそっくりの真ん丸い目をもつ、リーダーだ。

 大きな翼を広げて、ふわりと地面に降り立った。

 「わ!久しぶり!どうしてここに?」

 「お届け物だよ。パッパース村からクレイ君に。はい、これ。こっちはメーラ君に」

 フクロウ便のリーダー、コウはそう言って、クレイとメーラに麻の袋を渡す。

 「え?何だろう?」

 貰った袋は膨らみがあり、軽かった。開けてみると、出てきたのはマフラーと手袋と毛糸の帽子だった。パッパース村で使われているお守りの柄が編み込まれている。

 手紙も入っていた。村でお世話になったおばちゃん達と、ジェナが作ってくれたものらしい。『魔界がどれくらい寒いのかわからないけど、これつけて頑張ってね』と、書かれていた。

 「悪いな、本当は昨日の夜のうちに届けるはずだったんだけど、迷っちゃって」

 コウが、申し訳ないと頭を下げる。

 「ううん!ありがとう!届けてくれて」

 「どういたしまして!それじゃあ、またな~」

 コウは手をふって、空へと飛び立っていった。

 クレイはさっそく、マフラーを首に巻き、帽子をかぶり、手袋を両手にはめる。

 じんわりと体が温かくなっていく。

 「へー、いいなあ、あったかそうだなあ」

 ジャムがマフラーの編み柄を見て言った。

 メーラの方はクレイと色違いだった。メーラはそれほど寒くないのか、マフラーだけを巻いている。

 「村のおばちゃん達が編んでくれたんだ。えへへへ、嬉しい」

 「いいなー、オレの母ちゃんも編んでくれないかなあ・・・あ、でも、これは母ちゃんの手作りなんだぜ」

 ジャムがそう言って、ローブをめくりあげて、下に着ている毛糸のセーターを見せる。最近ジャムがよく着ている黒のセーターだ。少しサイズが大きめだが、とても温かそうだ。

 「すごいね、セーター編めるんだ!」

 「おう!うちの母ちゃん、編み物とか刺繍とかスッゲー嫌いだけど、冬用のセーターだけは作ってくれるんだ。っていっても、これは兄貴のお下がりだけどね」

 「でも、すごいよ。俺も、一度やってみたことあるけど、編み物って難しいんだよ。穴が開くし、気づくと広がってるし・・・」

 三人は編み物の話で盛り上がりながら、食堂へと向かった。

 今日も北風がピュウピュウと吹いていたが、クレイはちっとも寒くなかった。



 (・・・おかしい)

 メーラは談話室で魔法の杖をふりながら、そう思った。

 今日の授業は終わり、夕食の時間まで、魔法基礎学の呪文の復習をしている。

 紙人形に魔法をかけて、オルゴールのメロディーに合わせて踊らせるのだ。

 メーラの相方はアカーリアなのだが、なかなかメーラのリードに合わせてくれず、さっきから音楽から外れっぱなしのステップを踏んでいる。

 しかし、メーラがおかしいと思っているのはアカーリアのことではない。

 クレイだ。

 いつもなら、授業が終われば、真っ先に談話室のテーブルを占拠して、ジャムやミケランジェロの襟首を引っ張る勢いで呪文の復習を始めるクレイなのだが、今日は違った。

 「今日は勉強したくない」

 と呟き、ジャム達と一緒に暖炉の前でボードゲームを囲んでいる。最近、寮の中で流行っているゲームだ。サイコロをふって自分の駒を進めるゲームで、駒ごとにいろんなイベントが起きる。クイズだったり、的当てゲームだったり、罰ゲーム的な指示が出されたり。メーラもやったことがあるが、結構面白い。

 クレイがサイコロをふり、駒を進めるとぽんっという音と共に、このゲームのいたずらキャラが表れた。「うわ!出た!」「今度はなんだ?」ゲームを囲む子供達が、楽しそうに声をあげる。このいたずらキャラは、意地悪な指示を出すのだ。腹筋10回とか、片足飛びで部屋を一周とか、キッチンから甘いものを盗んでくるとか。

 今度のお題は『怖い話をする』だった。

 クレイは少し考え、パッパース村の外れにある誰も住んでいないはずの空き家の様子を事細かに語りだした。とある、とても寒い日に、その空き家から物音がしたという話を、いかにも幽霊がいるように話していた。

 (ミックのネタじゃん)

 メーラは話を盗み聞きしながら、くすりと笑う。こういう話はミックが上手だった。怖い話や不思議な話が大好きで、どこからネタを拾ってくるのか、よく仲間達に話して聞かせていた。

 ようやく、アカーリアの人形が音楽に合わせてステップを踏むようになった。アカーリアを見ると、集中しているようで、額に汗をかいている。

 少し休憩した方がいいかな、と思ったが、せっかくうまくいっているのを邪魔したくもなかった。

 アカーリアの胸ポケットから、ペットのコーネリアが顔をだし、人形のステップに合わせて鼻先を動かしている。

 そこへ、もう一組の人形達がやってきた。ジャミンとミケランジェロの人形だ。

 二組の人形達が踊り出す。

 ダンスフロアはそれほど大きくないので、ぶつからないように気を使う。アカーリアの手に、更に力が入るのがわかった。

 (ああ、ダメだ。力みすぎると・・・)

 メーラの心配した通り、しばらくは順調に踊っていた人形が、だんだんとステップを崩していき、最後に、メーラの人形を巻き込んで転んでしまった。

 「ああ!ごめんなさい!」

 「おしかったな、途中はいい感じだったのに」

 「ううう・・・ジャミン達がきたら、なんかすごく緊張しちゃった・・・」

 「しょうがないよ、アレだもん」

 ジャミンの人形は、ミケランジェロの人形をぶんぶんと振り回す勢いで踊っている。

 「ダメだよ、ジャミン!もっとゆっくりだって!」

 「わかってるわよ!」

 ジャミンもさっきのアカーリアと負けず劣らず、肩に力が入っている。

 ジャミンの人形のダンスは、いきなりアクロバティックなことをしだすので、気が抜けないのだ。

 「ちょっと休憩しようぜ」

 メーラはそう言ってソファーに腰かける。

 開いたダンスフロアに、別の人形達がやってきた。こちらもまた、危なっかしそうなステップを踏む人形達だ。

 ダンスフロアのぶつかり合いを見つつ、クレイの方へ目を向けると、今度はジャムがいたずらキャラを引いたらしく、魔法を使って水差しからコップに水を注ぐという難題をやっていた。ジャムの成功率はかなり低い。ゲーム仲間達はちょっと距離をおいて、ジャムの様子を見ている。

 「クレイ君も遊ぶのね。珍しいわよね」

 アカーリアがそう言った。力を入れすぎていたのか、杖を持っていた手を握ったり開いたりしている。

 「そうだな・・・」

 クレイは、ジャムの様子をハラハラしながら見守っているようだった。

 案の定、ジャムは水差しをひっくり返した。みんなで笑いながら、濡れた床をふきあげる。

 (・・・なんか、変なんだよな・・・)

 メーラはクレイの様子に、首をかしげる。


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