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学校が始まって4週間目に、ケビンの初めての授業が行われた。
初授業は、クレイ達一年生のクラスだった。火曜日の四時間目、通常授業は入っていない時間だ。
前の週の金曜日には、クレイの時間割りに通達が来ており、魔法の杖でその時間をつつくと、ケビンの声が緊張ぎみに「人間文化学です。ノートやペンはいりません。動きやすい格好で第一グラウンドに集合してください」と言った。
メーラは火曜日をとても楽しみにしていた。
バッドもグローブも使わない野球というものが、どんなものかはわからないが、授業を通じて、マーリークサークルの学生達が野球に近いものを体験してくれるというのだから、メーラにとっては願ったりかなったりの授業なのだ。
「バットは足、グローブは手って言ってたけど、どうやるんだろうね?」
火曜日のお昼休みに、いつもの三人でご飯を食べながら、クレイはメーラに聞いてみる。
「わかんねえけど、ケビンが絶対に面白いって言ってたから問題ない。面白ければ人は集まるからな」
メーラは珍しく鼻唄などを歌いながらお茶を飲んでいた。
そして、三時間目の授業が終わり、クレイ達は駆け足でグラウンドへ向かった。
グラウンドは城の西側にある。きれいに整備された地面が広がっていた。
既にケビンはクレイ達を待っていた。今日は鎧や剣は身に付けておらず、動きやすそうな服装をして、帽子をかぶっている。
そして、グラウンドには他の先生達もいた。ステアもいる。
「師匠!久しぶりです、元気ですか?」
約3週間ぶりの再開に、クレイは飛び上がって喜んだ。
「やあ、クレイ。久しぶりだ。メーラも。二人とも元気そうだな。ちゃんと食べて寝ているか?慣れない場所では食欲不振や寝不足や便秘になるものだ。休日はゆっくり体を休めるのだぞ」
ステアはクレイとメーラの二人を交互に見つめて、ちょっと急ぎ口調で言った。
その目は、クレイの回りをさ迷っている。
「大丈夫。今日はキキは俺の部屋で寝ています」
「そうなのか?いや、別にコーテャーを怖がっているわけではないのだが・・・」
「今日はお前はオレの助手だからな。吹っ飛ばされたら困る。あんまりクレイに近づくな」
ケビンがそう言って、ステアをクレイから引き離した。
いるのはステアだけではなかった。他の先生達もいる。なんと、校長先生までいた。
どうやら、先生達は見学をするようで、どこから持ってきたのか、長椅子に腰かけて談笑している。
「楽しみですねえ」
「人間のスポーツを見るのは初めてです・・・」
という会話が聞こえてきた。
休み時間が終わり、授業開始の鐘が鳴る頃には、一年生全員がグラウンドに集まっていた。
「みんな、初めまして・・・ってわけでもないけど、入学式以来だから挨拶します。オレの名前はケビン・ガーディー。人間です。今日から人間文化学の授業を担当します。よろしく」
「よろしくお願いします!」
「おお、元気良いな・・・」
ケビンはにっこりと微笑む。
「ええと、それじゃあ、まずは服装からだな。動きやすい服装って連絡をしたんだけど、皆、持ってたかな?汚れたら困るって人は代わりの服を用意しています。エーテ先生にお願いしたから、綺麗だぞ。あと靴も。運動靴とか皆持ってたかな?必要な人は取りに来てくれ」
ケビンの言葉に、数人の生徒が前に出る。彼らが着替え終わってから、授業が始まった。(ケビンはなんと、魔法で大きな布を出して更衣室を作り上げた)
「それでは、授業を始めます。今日は最初の授業なので手始めに、人間の世界で親しまれているスポーツをやってもらおうと思います。ルールは簡単だから、皆、楽しめると思うぞ」
ケビンの言葉に、一年生達は嬉しそうな顔をする。
今日の授業はどれも座学だったので、体を動かしたいと思っていたのだ。
「おっと、言い忘れてた。この授業では特別ルールがあります。これから一時間、魔法を使うのは禁止」
ケビンの言葉に、子供達は一瞬呼吸を止めたかに思えた。
「?」
クレイが回りを見回すと、子供達は「え?なに言ってんの?」という表情でケビンを見ていた。
「わかったか?魔法を使うのは禁止だ」
ケビンは、にっこりと笑顔でもう一度言った。