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「俺、野球チームを作りたいんだ」
会話が一段落したところで、メーラが切り出した。今日はケビンにこの話をしに来たのだ。
「へえ、野球か・・・魔界じゃあ知ってる人は少ないんだろう?」
「うん、ほとんどいない。人間がそういうゲームをしてるって知識を持ってる人はいても、実際にプレーしたことのある人はいないと思う」
「見たことも、やったこともないスポーツに人を集めるってのは、色々難しいだろうな・・・」
ケビンは考えながらそう言った。
「そうなんだ。でも、同級生達は興味を持ってくれた。人は集められると思う」
メーラはケビンを見つめて言った。
「そうか。それで?オレに何をしてほしい?」
「野球の道具を揃えたいんだ。どうすればいいと思う?」
「・・・うーん・・・」
ケビンは難しい顔で唸ってしまった。
「バッドとボールはまだしも、グローブがなあ・・・粗悪品なら安くてあるけど・・・」
「金がない学生もいるんだ。俺もまだ働けない。粗悪品でも、安くてに入るところがあったら教えてほしい!」
「それでも、金はかかるぞ?」
「大丈夫。少しなら金が稼げると思う」
「え!?どうやって!?」
クレイはびっくりして聞く。ジャムも身を乗り出してきた。
「小人のお酒。クレイがこの前作った奴は金になる出来だった。俺も作る。そんで、市場に持っていって売る!」
「え!?あれって売れるの?でも、作り方は簡単だったし、誰でも作れるんじゃあないの?」
「いや、そうでもないぞ。マーリークサークルだから材料が近くに生えてるけど、そうじゃないところが多いんだ」
ジャムがそう言った。
「そう。作り方はそれほど難しくはない。でも、材料集めが問題なんだ。しかも、ここには清水もある。絶対に売れる」
「そ、そうなんだ!」
野球については置いておいて、それならばクレイも参加したいと思った。学生アルバイトは三年生までできないと思っていたが、それ以外にもお金を稼ぐ方法があるなら、やってみたい。
ケビンはクレイ達の会話を聞きながら、しばらく何かを考えていた。
「わかった。安く売ってくれる店を探しておくよ。それでも、まとまった金が必要になるからな。最低でも9人分だ」
「うん、わかってる」
「その、小人用のお酒な。ここにある材料を使って作って売るって言うのなら、勝手にやっちゃ駄目なはずだ。必ず先生に一言言えよ」
「うん、許可はもらう」
メーラは頷いた。
(そっか、勝手にやっちゃ駄目なんだ・・・)
雑草なのだから良いと思っていたが、お金稼ぎに使うとしたら、そうはいかないのだろう。後々、問題にしないためにも、ちゃんと筋は通しておかなくてはならない。
「あとな・・・メーラがやりたい事とは離れるかもしれないんだけど、バッドとグローブを使わない方法がある」
「え!?」
「使わない!?」
クレイとメーラはびっくりして叫んだ。
野球は小さなボールを投げて、それをバッドで打つゲームだ。走者をアウトにするために、小さいボールを力一杯投げるので、それを受けるためにグローブは必須だ、と思っていた。
「うん、よし、そうしよう!」
ケビンはポンと膝を打って、ひとり頷いた。
「オレの初授業は、魔界にはないスポーツ体験だ」
ケビンはそう言って、にやりと笑った。