表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/77

63

一週間が瞬く間に過ぎ、休日となった。

 授業に出られるようになった一週間は、あっという間にすぎた。

 小人たちは、月曜日から金曜日まで酒盛りを続けていた。歌ったり踊ったり、時々、真っ赤な顔で倒れていたりしたけど、楽しそうだった。そろそろ酒が尽きそうだったので、酒盛りはお開きになるだろう。来週から小人達をどうするかを考えなくては。

 マーリークサークルでの授業は、どれも面白かった。魔法薬学では、実験器具の使い方を教わった。二度目の魔法生物学では、山に登り、高山に住む魔物達を見て回った。魔方陣基礎学では相変わらず書き取りの宿題がでる。ジャムも他の子も文句を言いながら、みんなで談話室に集まって頑張っている。

 授業も面白かったが、授業にでることで、同級生達とやっと話をすることができた。クレイが魔界に慣れていないことは、ジャムやジャミンたちから他の子にも伝わっていたようで、「困っていることはないか?」と、いろんな人から聞かれた。ジャムやミケランジェロ君は、学校の中で魔物を見つけると、クレイを引っ張っていって、見せてくれた。時々、教室にまで持ってくるもんだから、女子達に怒られたりしていた。

 助けてくれる仲間がいると、本当に助かる。

 クレイはこの一週間、とても充足した時間を過ごすことができた。

 そして、土曜日。

 寮で朝御飯を食べていると、メーラがやってきて「今日、ケビンのところに行こう」と誘ってきた。

 「ケビンには午前中に行くって言ってある。途中まで迎えに来てくれるってさ」

 クレイはもちろん頷いた。

 ケビンの家には行ってみたかったのだ。

 ジャムも一緒に行くことになった。

 図書館へ向かう小路を途中まで進み、森へと続いている道に入る。

 「だ、大丈夫?」

 クレイは、自身の地図を見ながら、怖々と聞く。

 「大丈夫、この辺はまだ、大丈夫」

 メーラはあちこちをきょろきょろしながら、そう言った。ジャムは獣の姿になり、いつでも逃げられるように準備している。

 「見ろ、あそこから危ないんだ。どうしてかわかるか?」

 メーラが指差す方向に、黄色いもやが見えた。

 クレイは、そのもやをじっと見て、少しだけ、匂いを嗅いでみる。

 「酸っぱくて、甘い匂い。これって、キイロネムリキノコ?その胞子?」

 キノコについてはベーベクラスでいくつか勉強したおかげで、有名なものだけは言い当てる自信がついた。

 「そうだ。今丁度、胞子を撒き散らす時期なんだよ。あれ、たっぷり吸い込むと昏倒する」

 「でも、そのおかげで危険な魔物は出てこないんだよな。キイロネムリキノコを食べる満月熊も、この時期は近づきもしない」

 ジャムが鼻をつまんでそう言った。

 何事も、悪いことばかりではないのだ。

 しかし、黄色い靄は大分広がっているように見える。

 「どうやって、進むの?魔法で風を起こす?」

 「その方法は禁止されてる。危ないときはやっても良いんだけど・・・」

 「どうして?」

 「胞子はキノコの卵みたいなもんだろう?それを風で吹き飛ばすと、吹き飛ばした先にキノコが生えてきてしまう。今まで安全だった場所が危なくなるんだ」

 「そうなると、知らない誰かに危険が及ぶってさ。あんまり周りに被害を及ぼさないように、歩かないといけないんだよ、森の中は」

 メーラとジャムがそう教えてくれた。

 二人の口調は滑らかで自然だった。きっと、小さな頃から両親やきょうだい達から教わっていたのだろう。

 (きっと、沢山の人たちが森の中でも安全に動けるように、沢山沢山考えたんだ)

 クレイがちょっと感動していると、布を口許に巻いたケビンが現れた。こっちにむかって手をふっている。

 「やっぱ、防護布が一番かな?」

 メーラがそう言って、ローブに魔法をかける。元々、ステアの魔法がかけられているローブだ。これ以上無い防護布になってくれる。

 クレイも魔法を使った。ジャムはメーラの裾を借りる。

 三人でケビンのもとへ走ると、ケビンは笑顔で出迎えてくれた。

 喋ることはできないので、そのままケビンのあとについて歩く。

 しばらく歩くと、黄色い靄はだんだんと薄くなって、消えた。

 「ここまで来たら、いいだろう。ほら、これで体拭いとけ」

 そう言って、ケビンが近くにあった大きな葉っぱをむしりとって、渡してくれた。

 「これ、なに?」

 「体についた胞子を取ってくれるんだ。ほら、ちょっとべたべたしてるだろう?」

 「へえ、人間なのによく知ってるね」

 ジャムが感心したようにケビンを見て、そう言った。メーラとジャムは慣れた様子で、べたべたする葉っぱで、髪の毛や体を拭いている。クレイも真似する。髪の毛ひっぱられて痛かったが、ベタベタが体に残ることはなかった。

 「元冒険者だからな。君がジャムだな?よろしく、オレはケビンだ」

 「よろしく、ケビン先生」

 「うーん、先生って呼ばれると、こそばゆいな」

 体を拭き終わってから、ケビンの家に向かった。木々が開け、ぽっっかりと広場が現れる。丸っこい建物が広場の真ん中に建っていた。屋根は茶色、壁は白い可愛らしい家だ。戸口の前で、茶色い小さな犬がケビンの帰りを待っていた。

 クレイ達の顔を見て、嬉しそうに尻尾をふる。

 するとクレイのフードから、クレイのコーテャーが飛び出してきた。

 「あ!朝見かけないと思ったら・・・」

 「こいつらって、神出鬼没だよな。いつの間にか近くにいるんだよ」

 鼻先をくっつけるようにして、挨拶している二人のコーテャーを見ながら、ケビンが言った。

 丸っこい木の扉をあけて、家のなかに入る。

 「へえ、広いね」

 「本当だ」

 家の中は思ったよりも広かった。

 入ってすぐに台所があり、その奥にベッドが見える。

 「お茶淹れるよ。その戸棚からカップと皿を出してくれ。お菓子もあるから」

 ケビンはそう言って、やかんを手に取った。

 「やったー!」

 ジャムが大喜びで準備を始める。

 茶色い犬が立ち上がり、トテトテとケビンのもとへ行く。

 「あー、わかってるよ。魔法使えばいいんだろう?」

 ケビンは面倒くさそうに、腰に差していた剣に手を添える。

 一瞬、魔力の揺らぎを感じたと思ったら、やかんの中に水が入り、竈に火が産まれた。

 「え!?呪文は!?」

 クレイは驚いて叫ぶ。

 ケビンは今、確かに魔法を使った。しかし、呪文を唱えることも、杖を振ることもなかったのだ。杖すら持っていない。

 メーラもケビンを驚きの目で見ている。

 「その剣が杖代わりだな・・・でも、どうして呪文がいらないんだ?」

 「そんなこと後でいいだろう?お前らも皿出せよ!」

 ジャムが文句を言ってきたが、クレイとメーラはケビンの方が気になっていた。

 「なんで?どうして、呪文がいらないの?いつの間にそんなに魔法が使えるようになったの!?」

 「あー、ええっと・・・」

 「ケビン、ちょっとその剣貸せよ。見てみたい」

 「ちょ!おい!危ねーって!」 

 「お前ら、ずりーぞ!お菓子やんねーぞ!」

 クレイはケビンに詰めより、メーラは剣を握って離さず、ジャムはぶーぶー文句を言っている。

 ケビンはため息をつき、あまりやりたくはなかったが、うるさい三人の子供に魔法をかけて、宙に浮かせた。 

 ふわりと足が地面を離れると、さすがの三人も口を閉じた。

 「まずはお茶の準備だ。話はそれからだ」

 三人を床に下ろすと、ジャムは面白がって笑っていたが、クレイとメーラは違った。

 「お、俺、こんな魔法、まだ使えないのに・・・」

 「三人をいっぺんに浮かせるなんて・・・」

 非常に悔しそうな顔で、ケビンを見ていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ