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「ところでさ、なんでメーラは魔法基礎学にでてんの?」
ジャムが思い出したようにメーラに尋ねた。
「アカーリアはわかるけど、メーラは必要ないんじゃね?他の吸血鬼の奴らみたいに、二年生の授業の方がいいんじゃねえの?」
ジャム以外の子達も疑問に思っていたらしく、メーラに注目する。
「そういえば、やりたいことがあるって言ってたよね?」
クレイが言うと、メーラはにやりと笑って「まあね」と答えた。
その楽しそうな顔に、ジャムが興味津々で身を乗り出す。
「なに?なになに?」
「俺、サークル作ろうと思ってるんだ。お前らどうだ?入らないか?」
「サークル?サークルってなに?」
「サークルってのは、言っちゃえば趣味仲間の集まりってこと。学校で、授業以外の時間で、同じ趣味を持つ学生同士が集まるんだよ。ほら、あそこで練習してるのは、箒クラブっていうチーム」
談話室の窓から、広場の方が見える。今、その広場の上空では、箒に乗った学生たちが、くるくると円を描いて飛んでいた。
「あれ、なにをやってるの?あ!なんか投げた!」
「飛行ダンスっていう競技よ。箒に乗って空を飛びながらダンスするの。ボールとか布とかもつかうの。見てて面白いわよ」
サミアが教えてくれた。
箒に乗った学生たちは、大きな輪を作り、空中をくるくる回っている。その輪が大きくなったり小さくなったりする。乱れの無い、綺麗な動きだ。
「す、すごいな・・・」
「サークルを作るって言った?入るんじゃなくて、新しく作るの?」
アカーリアの質問に、メーラは頷く。
「魔界にはたぶん無い競技だからな」
「ってことは、人間の世界の?」
「へえ、なに?スポーツ?どんなの?」
クレイは、すぐにピンと来た。
メーラが大好きな人間の世界のスポーツと言ったら、あれしかない。
「野球っていうボールを使うスポーツ。最低でも、18人いないと試合ができないんだ。どうだ?やらないか?」
メーラが身を乗り出して聞く。
「え、ボール使うの?」
ジャミンとサミアは、眉を寄せて顎を引いた。少し不安そうだ。ボールを使うスポーツが苦手なのかもしれない。
「魔法は?どんな魔法が必要?」
ジャムは真剣な顔で聞いている。
「魔法は使わない。人間のスポーツだからな」
「魔法無し!?」
全員が驚いていた。
「魔界のスポーツは、魔法を使うの?」
「魔法ありきでルールが決められている。公平になるように、制限されているものが多いけどな」
「公平?」
「魔界の住人の住処って、大きく三種類に分けられるんだよ。本当はもっとあるけど、大体三つ。陸、空、海だ。スポーツは大体陸上の競技だ。でも、そうなると、海や空で生まれ育った人種には不利だったりする」
「そうそう。走ったり跳んだりは、私たちには不利なのよ」
ジャミンが大きく頷いた。
「だから、そこを魔法で補ったり、逆に魔法の使用に制限をかけて、有利すぎないようにしたりっていうルールが必要なんだ。スポーツは魔界の住人が全員参加できるように作られてる」
「でも、ルール無用、なんでもありって競技もあるんだぞ。それも面白いんだ」
ジャムが楽しそうな顔で教えてくれた。
「野球は魔界には無いから、これからルールを作ろうと思ってる。ひとまずは魔法無しでやってみようと思ってるけどね」
メーラがそう言うと、ジャムたちは興味が湧いたようだ。
「ルールもこれからか。なんか面白そうだな」
「そうね、人間のスポーツっていうのも、興味あるわ」
「でも・・・」
クレイは心配になってメーラを見る。
「道具は?」
クレイの言葉に、メーラはちょっと困った顔をする。
「わかってる、ボールにバッドにグラブ・・・正直どうしたらいいかわからない」
メーラはそう言って頭を掻く。
野球には沢山の道具が必要だ。パッパース村には、代々使われている道具が揃っている。しかし、買うととても高いので、全部修理しながら大事に使っているのだ。一から揃えるとなると、かなりのお金が必要になるだろう。
「え?なに?お金かかるの?」
「それだと、ちょっと無理かなあ・・・」
乗り気だったジャムも、お金が必要と聞くと、とたんに尻込みした。
「それはなんとかする!金出せとか言わないから!」
メーラがそう断言すると、ほっとした顔になった。
しかし、クレイは心配だった。
(なんとかって・・・どうするつもりなんだろう?)
野球の試合は最低でも18人いないとできない。
つまり、グローブは最低でも18個必要だ。ボールとバッドは一つでもいいけど・・・
手作りできるものではない。
(いや、まてよ。誰かが作ってるんだから、俺たちにだって作れないものじゃないんじゃないかな?)
クレイはそんなことを考えながらメーラをみる。
メーラはジャム達に野球がどんなスポーツで、どれだけ面白いかを楽しそうに語っていた。