表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
61/77

61

 三時間目の授業が終わっても、クレイとメーラはジェンガのゲームを止めなかった。止められなかったのだ。

 授業の終わりごろになって、ようやく歪な塔が完成し、やっとゲームができるようになった。

 せめて、一本ずつくらい積み木を引き抜きたい。

 しかし、これが、抜くとなると、とたんに難しくなる。

 メーラが四苦八苦しながら、積み木の一つを押し出そうとしているのを、クレイはハラハラしながら見ていた。

 他の生徒たちはほとんど帰ってしまったが、ジャムと幾人かの生徒たちが、クレイとメーラの勝負を見守っていた。みんな拳を握りしめて、息をつめている。

 「・・・くっそ!!」

 メーラが悔しそうな声を上げた。

 同時に、塔がぐらりと傾く。

 「boooo!」という声を上げて、積み木が机の上に散らばり落ちていく。

 お前の負け、という意味なのだろう。

 「あー!メーラでも駄目かあ!」

 「でも、すごかったわ!」

 「うん。二人とも魔法が上手だね」

 周りの皆が口々に褒めてくれる。

 クレイは嬉しかったが、メーラは悔しそうな顔で積み木を見ていた。

 「さあさあ、終わりですよ。片付けして帰りましょう」

 ファヴァーヴァル先生が、手を叩いてそう言った。先生もクレイたちに付き合ってくれたのだ。

 積み木を片付け(片付けの時は手を使っても、大丈夫だった。いつまでもbooooと叫んではいたが・・・)、先生に返して、クレイたちは教室をでる。

 なんとなく、そのままのメンバーで寮の談話室に行き、おしゃべりすることになった。

 「どうやったら、あんなふうに魔法を操れるの?」

 人魚のジャミンがメーラに聞く。

 「うーん・・・慣れだな。反復練習が一番だと思う」

 メーラが答える。

 「練習はしてるのよ。でも、物をつかみ上げる時って、どうにもうまくいかなくて」

 ジャミンはイライラしたように、魔法の杖を手の中で転がす。

 「わかる。手を使った方が早いんだよなあ」

 ジャムが大きく頷く。

 「二人はせっかちなのよ。なんでも急いでやりがち」

 人魚のサミアが口を挟む。

 「力任せはやっぱり駄目だよ。魔法には集中が大事だって、先生も言ってたし」

 エルフの男の子、ミケランジェロ君が、そう言った。

 「アカーリアは、もう少し力任せにしてもいいと思うけどね」

 ミケランジェロ君がそう言って、吸血鬼の女の子、アカーリアを見る。二人はさっきの授業で組んでいたのだ。

 今日の授業にいた吸血鬼は、メーラとアカーリアの二人だった。

 「アカーリアって吸血鬼なのに魔法下手くそだよな!」

 軽い口調でそう言ったジャムの頭を、ジャミンとサミアがはたく。

 「失礼!」

 「そういうことは言っちゃ駄目!」

 「いいの。自分でも良くわかってるから・・・」

 アカーリアは苦笑する。

 吸血鬼の生徒たちは、どの授業でも優等生だ。だから、魔法基礎学で失敗するアカーリアを見たときは驚いた。他の吸血鬼達は来てもいないのに。

 「アカーリアは家庭教師いなかったの?」

 「いたわよ。他の吸血鬼の子と同じように、小さい頃から勉強していたんだけど・・・私って才能ないみたい」

 そう言って、困ったように微笑むアカーリアの胸ポケットから、小さなネズミが出てきた。ふわふわのオレンジの毛をした、可愛いネズミだった。

 「わ!可愛い!」

 「ペット?」

 「そう、名前はコーネリア」

 ネズミのコーネリアは、アカーリアの手からジャミンの手に移り、ソファーの背もたれの上に移動して、クレイ達を眺め回した。クレイの足元にいたコーチャーを見ると、仲間と思ったのか、近づいてきた。

 「そういえば、クレイ君の、その子。名前は?」

 アカーリアに聞かれ、クレイは、「ええと、コーテャー?」と答える。

 「コーテャーは生き物の名前でしょう?人間とか魚人、みたいな」

 コーネリアとクレイのコーテャーは、鼻をひくひくさせながら、顔を見合わせている。

 クレイは少しだけ、コーテャーがコーネリアに噛みつきはしないかと心配になったが、コーテャーはコーネリアに襲いかかることなく、大人しくしていた。鼻先をくっつけるようにしてお互いの匂いを嗅いでいる。

 「名前なんていらないよ。俺、こいつ嫌いだもん」

 クレイの言葉に、その場にいた全員が驚く。

 「あんた、魔法使いのクセに・・・」

 「スゲーこと言うな・・・」

 「え?だ、だってこいつ、すっごく意地悪なんだよ!」

 皆から奇異の視線を向けられ、クレイはちょっとムキになって言った。

 「そりゃそうよ、コーテャーだもん」

 「意地悪なのにも、理由があるのよ。しってるでしょう?」

 「まあ、知ってるけど・・・でも、それでも、嫌なものは嫌だ。師匠と会うのを邪魔するし、ケビンとも話せなくするし」

 「師匠って、ステア先生のこと?ケビンって?」

 ジャミンが首をかしげる。

 「ケビンも、新しく来た先生だよ。俺と同じ人間」

 「ああ、あの先生ね。そういえば、吸血鬼の先輩たちが、人間の大人が来た!って色めき立ってたよ」

 ミケランジェロ君の言葉に、メーラとアカーリアが顔を見合わせて苦笑する。

 「・・・ケビンの血は狙われているの?」

 クレイが聞くと、二人は頷いた。

 「血の方が美味しいからな。花より」

 「どうしたって、ね」

 二人の様子に、クレイは不安になる。いくらケビンでも、生徒に集団で襲われでもしたら、敵わないのではないだろうか?

 「大丈夫。先生たちが釘を刺してきた。この学校にいるときは、俺たちのご飯は血じゃなくて、あの花だってな」

 メーラがそう言ってくれた。

 「それより、コーテャーだよ!お前、要らないとか言ってたら、先輩たちから睨まれるぞ。欲しくても来てくれない人がほとんどなのに」

 ジャムが真剣な顔でそう言ってきた。

 「・・・そんなこと言われても・・・」

 「人間ってさ、人間の世界って魔法ってあんまり使われてないんだよ」

 メーラが口を開いた。

 何かを考えながら喋っているようで、視線が上を向いている。

 その場にいた全員が、メーラに注目する。

 「だから、コーテャーについても、クレイは最近知ったんだよ。つい、2、3日前?」

 「うん」

 クレイは頷く。

 ジャムたちは、ビックリした顔をした。

 「え!?コーテャーを知らなかったの?一昨日まで?」

 「魔法使いなのに!?」

 「コーテャーどころか、赤キノコも図書館にいる首なし騎手も知らなかったし、アオセグモも、二本角バイルも、クロムシも知らない。だろう?」

 メーラの言葉に頷くと、皆、驚きで口をOの字にあける。

 「人間の世界に、魔界の生き物はほとんどいないんだよ。いても、その姿形が違ったり、ほとんど無害だったり。だから、クレイには魔界の常識が無いんだ。あ、バカにしている訳じゃないぞ」

 「うん、わかってる」

 「知らないから、赤キノコにほいほい近づいて、気絶したりするんだ。アオセグモやクロムシを見つけても、たぶん、どうするべきかクレイは知らない」

 メーラの言葉を聞いて、みんなの顔が強ばる。

 それを見て、クレイは少し怖くなった。

 「それって、何?危ないの?」

 「アオセグモの毒を知らないってことね!?」

 「クロムシはヤバイんんだよ!見た目はどうってこと無いけど、あいつら危険なんだ!」

 「お前、一人でうろつくなよ!誰かといっしょにいろよ!っていうか、よく、今日まで無事だったな!」

 ジャムたちが大騒ぎし始めた。

 「だから、小人達をかわせなかったのね。あんなに魔法が上手なのに、どうしてかしらって思っていたの」

 アカーリアが呟く。

 「そう。こいつは魔法の腕は良い方だ。でも、俺たちと違って、知らないことが多すぎるんだよ。コーテャーのこともその一つなんだ。だから、色々教えてやってくれ」

 「任せろ。魔界の生き物についてなら、俺の得意分野だ。その代わり、魔法陣学は助けてくれ」

 ジャムがクレイの肩をぽんと叩いてそう言った。

 「私も他の子に言っておくわ。知らないとわからないことって結構あるし」

 ジャミンとサミアがそう言ってくれた。

 「ありがとう、みんな」

 クレイは、お礼を言った。

 メーラには特に感謝だ。

 「ありがと、メーラ」

 「べつに」

 メーラは何でもないことのように、そう言った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ