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二時間目の授業は、ジョルジュ先生の魔法陣基礎学だ。

 やっと二階にあがれる。

 クレイは、わくわくしながら階段をあがる。

 入り口の扉の裏の小人たちは、お酒の瓶を囲んでなにやら踊り回っていた。

 「酒を飲む前の儀式だ。あいつら飲むまでに時間かかるんだよな」

 小人たちの踊りも、少しみてみたい気がしたが、それよりも授業だ。

 二階の一番教室には、長机と椅子が沢山あり、教壇と黒板がその前にあった。

 「うう、やっと来れた」

 クレイは、喜びを噛み締めながら、空いている机に座った。メーラとジャムも同じ机だ。

 「あー・・・やだよ~。この授業が一番苦手だ~」

 ジャムが机につっぷして唸る。

 クレイは、すごく楽しみだった。

 魔法陣については、ステアからは簡単にしか教えて貰っていない。

 ステア曰く「魔法陣学は、記号の理解と暗記と描く訓練ができれば、難しいことは全くない」ものらしく、それよりも呪文と杖の振り方を先に覚えた方がいいと、そっちばかりやっていた。

 なので、魔法陣学を本格的にやるのは初めてなのだ。

 それでも、ステアに手紙を送ることには成功した。

 (やっぱり、図形をきれいに描けるようになるのが鍵なのかな?)

 そんなことを考えていたら、ジョルジュ先生が来た。

 サブリナ・ジョルジュ先生は、エルフの女性だ。エーテ先生と同じ長い耳を持ち、栗色の柔らかそうな巻き毛をしていた。ローブの色は若芽のような緑色だ。

 ジョルジュ先生は授業を始めた。

 魔法陣基礎学は、沢山の図形の意味を覚えることから始まった。授業は週に二回あるので、すでに二回の授業がおこなわれているはずだが、先生の説明は理解できた。

 「今日はこの三つの図形について勉強しましょうね」

 ジョルジュ先生はそう言って、黒板に三つの図形を描いた。三角が三つだ。しかし、全て意味が違ってくる。

 授業の前半は、図形の意味や働き、それを使った魔法陣とその使い方の説明だった。

 そして、授業の後半を使って、魔法陣を描く練習をする。ジャムが一番苦手な時間だ。

 三角の図形は火の魔法に使われることが多いらしい。三角の形が、火が燃える焚き火の様子を表してできたものだからだ。

 「図形が描けたら、魔法を注ぎ込んでみましょう。火が出るので十分気を付けてね」

 先生からそう言われ、張り切らない生徒はいない。いち早く試してみたいと、みんな、こぞって練習し始めた。

 まずは、薄いインクで魔法陣が描かれている紙を配られ、それをなぞって練習する。字の練習と同じだ。しかし、いざ、白紙の紙の上に描くとなると、うまくいかない。

 前に、ステアに手紙を送るために魔法陣を練習したときもそうだった。大抵の魔法陣は、丸の中にいろんな記号が含まれているものが多い。この丸が難しいのだ。バランスよく、きれいに描くには練習が必要だ。

 なぞって練習したものに魔法を注ぎ込んではいけない。これは魔方陣の本にも注意事項として書かれていた。魔方陣を二重に描いているせいで、ここに魔法を注ぎ込むと、どんな魔法が出現するかわからないからだ。なにも起きなければいいが、なにか起きたときに対処できるかどうかがわからない。危険なことが起きる可能性もある。

 「だから、ぜったいに練習用の紙に書いた魔方陣を使おうなんて思ってはいけません」

 ジョルジュ先生は相違って、生徒達を見回した。


 魔方陣の練習で、教室の中は騒がしくなる。

 あちこちで、「できた!」と「できない!」の声があがり、ジョルジュ先生は大忙しだ。

 しかし、ジャムはなかなか上手く書けずに「あー」とか「うー」とか、声をあげている。

 「魔法陣は練習あるのみよ!こつこつと練習すれば、必ず描けるようになるわ!」

 ジョルジュ先生は、そう言って皆を、特に、図形が苦手な生徒たちを励ましていた。

 メーラを筆頭に、吸血鬼の子達は上手い方だった。ちょっと練習すると、白紙に挑戦する子がでた。ちょっと不格好な図形でも、魔法を注ぎ込み、どんな具合か実践してみていた。

 やはり、魔法陣がきれいな方が、きれいで大きなな炎がでた。クレイは、丸の中に頂点が上向きの三角を描く魔法陣を練習し、実際に魔法を注いでみた。紙の上に火が現れ、しばらく燃え続けてから消えた。もう一度、魔法を注ぎ込んでみたが、今度は火は出てこなかった。

 面白くなって、教えてもらった魔法陣を全部試してみた。火が出てくるもの、火の玉になって出てくるもの、光の玉になるもの、小さな火が長い時間出るもの・・・。記号の組み合わせによって、色んな魔法を使える。

 「魔法陣って便利だ!ジャム!これができれば、難しい発音はいらないよ!」

 クレイが興奮しながら隣の席を見ると、すっかり飽きてしまって落書きをしているジャムがいた。

 「そうだよな~できれば便利だよな~」

 「もう!ジャム、練習しなきゃ、上手くならないよ!」

 「そうよ、ジャム君!ほら、描いてみましょう!ね?」

 ジョルジュ先生が、ジャムや上手くいかずにつまらなさそうな顔をしている子達を応援していた。

 丸の歪み、終わりと始まりの結びのズレ、線の歪み。魔法が失敗する原因は、図形を描くことに不慣れだからだ。それさえ克服すれば、絶対にできるようになる。しかし、克服するのに必要なのは、とても地味で根気のいる練習だ。繰り返し繰り返し、練習すること。

 (たしかに、できないとつまんないよなあ・・・でも、できると楽しんだよなあ・・・)

 クレイは、手元に描いた魔法陣を見ながら思った。



 

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