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 休日の二日で、ゆっくりと体を休め、とうとう月曜日がやって来た。

 「今日こそ教室に行くぞ!」

 クレイはやる気満々で、かばんにノートとインクと羽ペンと魔法の杖を入れて、寮を出た。

 手には、二日間じっくりと寝かせた、小人用のお酒がある。

 お酒は透明な、濃い緑色になっていた。

 本にあったとおりだ。

 クレイはお酒造りに成功したのだ。

 (あとは、これを小人に見せれば大丈夫、なんだよね?)

 クレイは足早に城の入り口に向かう。

 早くお酒の効果を試してみたくて、仕方が無かった。

 城の入り口には、いつも階段を使っている生徒たちが、クレイを待っていた。

 「あ!来た来た!」

 「お酒どう?作れた?」

 クレイが小人対策に、酒を作っている話が休日中に広まったらしい。巨人の生徒たちも、クレイの手元を興味津々で見ている。

 「はい!できました。それじゃあ……」

 クレイは小人を見る。

 階段の中腹にたたずみ、いつもと違う様子に戸惑いを見せている小人達は、警戒するようにクレイを見る。

 「なんだ?おまえ、それ、なんだ?」

 「何を持っているんだ?」

 「金貨じゃないぞ。なんだ?」

 槍を構えながら、こちらを見ている。

 「これ、お酒!。これで、ここを通して!」

 クレイはそう言って、緑色の液体の入った瓶を、小人に差し出した。

 「ばか!ここであげちゃだめだよ!」

 ジャムに腕を引っ張られた。

 小人達は、お酒と聞いて興味がわいたようだ。穴から他の小人達も出てきた。

 「え?でも、これ、あげないと……」

 「先に階段から引き離すんだよ。じゃないと、ここで酒盛り始めちまう」

 ジャムの言葉に、周りの生徒たちも、うんうんと頷く。

 「まず、ふたを開けて、においをかがせるの。そしたら、穴の中にいる小人が全員出てくるわ」

 翼人の女の子がそう教えてくれた。

 クレイは言われたとおりに、ふたを開ける。つんとした臭いが立ち昇り、階段の周りが臭くなった。

 「うぐ!?」

 ジャムが涙目になって、鼻をつまむ。

 クレイも咳込みそうになった。

 「う、嘘。俺、失敗しちゃった?」

 あまりの強烈なにおいに、くらくらしながらそう呟くと、ジャムや他の生徒たちが、鼻をつまみながら、首を横に振る。  

 「いや、成功。むしろ、大成功?ここまですごい臭いを出せるお酒は滅多に無いわ」

 翼人の女の子が、ちょっと距離を取りながら、そう言ってくれた。

 しかし、その場の生徒全員に一歩下がられ、クレイは少し寂しい思いをする。

 できる事なら、お酒を放り出してクレイも逃げたいが、そういう訳にもいかない。

 「酒……酒の匂いだ」

 気づくと、小人達がギラギラとした目でクレイに近づいてきていた。

 槍を手放し、まるでお酒しか見えていないかのように、両手をこちらに出して、近づいてくる。

 ちょっと怖い。

 「クレイ!階段からできるだけ遠くに行け!そこに酒を置くんだ」

 ジャムから言われ、クレイは駆け出す。

 小人も駆け出した。

 小人は今まで階段から降りたことは無かった。本にも、縄張り意識が強く、小人の生活の中での移動範囲は1メートルにも満たないと書かれていた。その代り、巣穴が広くて、とても入り組んだ造りになっているらしい。

 その小人達が、クレイの持つ酒を追いかけてきた。

 クレイは慌てて、どこに酒を置くかを考える。

 ジャムの言葉だと、酒を置いた場所で酒盛りを始めるようだから、人が通るところはダメだ。できるだけ邪魔にならない、隅っこが良いだろう。

 クレイは入口の扉の裏側へと回り込んだ。

 扉は、朝開き、夜閉じる。昼間は開きっぱなしだ。

 開いた状態だと、扉の裏側に、少しスペースがある。小人のサイズなら、きっと全員入れるはずだ。

 クレイは小人達が酒を見ていることを確認しながら、扉の後ろに回り込み、そこに酒を置いて、すぐに離れた。

 手が届く場所に酒が置かれ、小人達は俄然ギラギラした目で、走った。酒瓶を取り巻き、今にも飛びつきそうな目で見上げる。

 「……なにしてるの?」

 「ボスが来るのを待ってるんだよ。一番に酒を飲むのはボスだ」

 ジャムが鼻をつまみながら、説明してくれた。

 数人の小人が、小さな平皿を持ってきた。瓶のままでは飲めないから、それに酒を注ぐつもりなのだろう。

 クレイは、一瞬、手伝おうかなと思ったが、今近づけば、絶対に噛みつかれるとも思ったので止めた。

 小人達は協力して、大きな瓶を少しづつ傾けて、平皿に酒を移そうとしている。

 「おい、行かねえのか?」

 振り返ると、生徒たちのほとんどが、階段を上がろうとしていた。

 「ありがとうね、一年生」

 「助かったわ」

 「これで、一週間は楽にのぼれる」

 口々にクレイにお礼を言って、階段をのぼっていく。

 いつもは、飛んでいく翼人や吸血鬼の生徒たちも、今日は階段を使うようだ。

 「おはよ。成功したみたいだな」

 メーラが来た。

 眠そうな目で、扉の裏にいる小人達を見る。

 「それにしても、すっげー臭いだな」

 「お前、酒造り上手いなあ。小人はあの匂いが大好きなんだよ。オレは鼻が曲がりそうで嫌だけど」

 ジャムに褒められて、クレイはちょっと得意げになった。

 「料理は得意だからね」

 「よし、それじゃあ、行こうぜ」

 「うん!」

 ようやく階段がのぼれる。

 クレイは嬉しくて、駆けあがった。

 「あー、ちょっと待て、降りてこい、二人とも」

 「え?」

 メーラに止められ、クレイとジャムは振り返る。

 「今日の一限目は二階じゃねえよ。こっち」

 そう言って、外を指さした。

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