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 悔しいやら、恥ずかしいやらで、叫びだしたい衝動にかられた。

 (なんだよ絵本って!絵本を読めば、オレの機嫌が直るとか思ってるの!?)

 体がカッカしている。

 (オレは子供だけど、絵本が必要な子供じゃない!ここに入学した学生なのに!)

 クレイは寮の部屋に駆け込み、枕に顔を押し当てて思いっきり叫んだ。

 せっかく会えたケビンとは、コーテャーのせいでほとんど話せなかった。ステアの事も聞けたかもしれないのに。

 図書館には沢山の本があったはずなのに。

 クレイの沢山の疑問を、解決してくれたかもしれないのに!

 (一番悪いのは、あのキツネもどきだ……)

 クレイはむくりと起き上がる。

 部屋を見回すと、やっぱり居た。コーテャーだ。

 クレイと目が合うと、さっと身構えた。

 「お前、森に帰れよ。オレはお供なんかいらない」

 クレイが言うと、コーテャーは「それは嫌だ」とでも言うように、首を横に振った。

 「帰れよ!」

 枕を投げつけると、コーテャーはひらりと避けた。

 そして、魔法で投げ返してきた。

 クレイは無性に腹がって、魔法の杖を握りしめ、ベッドから降りる。

 コーテャーは危険を察したのか、扉の外へ逃げた。

 「待て!もう、許さない!」

 クレイはコーテャーを捕まえるために、魔法を使った。

 生き物に使う時には気をつけろと、ステアから注意を受けていた魔法だ。力加減を誤ると、生き物を握りつぶしてしまう。

 しかし、クレイは加減しなかった。

 コーテャーが魔法を使うところを見たし、何より、クレイは怒っていた。

 コーテャーが怪我しようが、もう、どうでも良かった。

 逃げるコーテャーを追いかけながら杖を振るう。コーテャーはクレイの魔法を難なく避ける。それが悔しくて、クレイは一層強く魔法を使った。

 廊下に生えていたキノコが、ぱっと舞い上がり、霧散した。

 そこでようやく、クレイの頭は少しだけ冷えた。

 こんな勢いで使っていては、本当にコーテャーを殺してしまう。他の生徒にあたりでもしたら大変だ。

 コーテャーは外に向かっているようだったので、クレイはひとまず、魔法を諦め、追いかけた。

 (……どこか、狭い場所に追い込めば、捕まえられる)

 クレイは必死に考える。

 ネズミを捕まえる時と、同じだ。

 追い込んで、檻に入れてしまうのだ。

 ただ、そういう狭い場所が、ここには無い。

 コーテャーは逃げ続け、クレイも追い続けた。そして、そこにたどり着いた。

 ベーベクラスだ。

 クレイはベーベクラスに入っていくコーテャーを見て、足を止める。

 「……こいつもオレを赤ちゃん扱いしてるんだ……」 

 クレイは腹が立ってどうしようもなかった。

 しかし、ここ以外に行く場所も無い。

 子供たちと魔法で遊ぶのは、ある意味いい練習になる。

 クレイはため息をついて、ベーベクラスに入った。



 「皆さん、こんにちは。今日は絵本を読みますよ」

 ピッティー先生が、赤ちゃんたちの前に立って、楽しそうにそう言った。

 ピッティー先生はいつも楽しそうだ。

 今日、来ているのは、赤ちゃんと、その親達だった。以前顔を合わせたことのある人もいる。

 あの、ろくろ首親子もいた。

 「今日は、魔界のお勉強もしましょうね。それじゃあ、はじまりはじまり~」

 ピッティー先生はそう言うと、魔法の杖を取り出して、一振りした。

 三角帽をかぶった人形が、ひとりでに歩き出す。

 その人形は、小さな槍を持っていた。

 (……小人みたい)

 人形はさらに増え、三体になった。全員三角帽をかぶり、槍を持っている。

 「さあ、問題です。この子たちは誰でしょう?」

 ピッティー先生の問いかけに、赤ちゃんたちは言葉にならない声を上げた。まだ、ちゃんとお喋りできない子が多いのだ。

 「そうそう。みんな、良く知っているわね。この子たちは、困った困った小人さんです」

 『ここを通りたかったら金貨を寄越せ!』

 小人の人形が喋った。

 マーリークサークルの城にいる小人達そっくりで、槍を振り上げている。

 赤ちゃんたちは大喜びで、手を叩いている。

 「今日は、小人のお話をします。小人が好きなもの、知ってるかな?」

 ピッティー先生が杖を降り上げると、ぬいぐるみの箱の中から、コインやお花や、ガラスの小瓶なんかが飛び出してきた。

 赤ちゃんたちの目の前で、踊るように宙を舞う。赤ちゃんたちは楽しそうに、それらに手を伸ばした。

 クレイもコインを掴む。

 小人は「金貨を寄越せ」と言っているのだから、これのはずだ。

 赤ちゃんたちは思い思いのものを手に取っていた。

 「はい、みんな、正解でーす。小人達は、いまみんなが持っているものが、だいすきです」

 「え!?」

 クレイは驚く。

 赤ちゃんたちが手にしているのは、コインもあるが、小瓶や花、ガラス玉のようなものから、虫まで様々だ。

 「小人は、キラキラ光るものや、珍しいものが大好きです。一番好きなのは金貨だけどね。それじゃあ、絵本を読みますよー」

 ピッティー先生は、絵本を広げた。

 膝の上に絵本を広げ、赤ちゃんたちに見えるようにしてくれている。

 クレイは膝立ちして、前のめりになって聞き始めた。

 絵本の中身は、とある6人の小人についてのお話だった。6人の小人は、それぞれ、好きなものが違う。

 金貨が好きな小人、朝露に濡れた花が好きな小人、キラキラと光る甲羅を持った虫が好きな小人、ガラス玉が好きな小人、銀でできた食器が好きな小人、宝石が好きな小人。

 6人は、どれが一番優れたお宝かで、話し合う。それぞれの良い所を言い合うが、6人とも自分が好きな物が一番良いものだ、と言って譲らない。

 小人達は喧嘩をして、別れてしまう。

 しかし、時が過ぎるうちに、6人の好みが変わってしまう。そして、再び6人で集まり、どのお宝が一番良いかを話し合う。そしてけんか別れする。 

 これの繰り返した。

 オチも何もない絵本だったが、クレイは感動した。

 ピッティー先生が読んでくれた絵本には、小人達の好みが事細かく描かれていたのだ。

 金貨を稼ぐことはできないが、ガラス玉や花や虫は見つけることができる。

 絵本が終わると、今度は歌だった。

 ピッティー先生がオルガンを弾き、親たちが歌い始める。赤ちゃんたちも、言葉にならない声で歌い始めた。


 ♬ 小人は金貨がだーいすき

   葉っぱの金貨

   お花の金貨

   金色銀色 だーいすき

   一番好きなのは 妖精金貨

   これをあげれば 穴の中

   いつまでたっても 出てこない


   小人はガラスがだーいすき

   お山に住んで ガラス作り

   くるくる ふーふー

   キラキラガラスで いっぱいだ


 歌は長くて、7番まであった。

 金貨、ガラス、虫にお花、それに、お酒が好きっていう歌詞もあった。

 歌が終わると、赤ちゃんたちはおっぱいを貰ったり、おむつを替えてもらっていた。

 クレイはその隙に、ピッティー先生の持っている本を見せてもらう事にした。

 「はい、どうぞ。ここにある絵本は、いつでも読んでいいわよ。寮へ持って帰るんだったら、借りて行くこともできるわ。コミュニティへは持って行っちゃダメよ。汚れちゃうから」

 「はい!」

 「ええと、クレイ君は、これ、見たことあるかしら?」

 ピッティー先生がほんの一部を示した。

 ほんの裏表紙に、六芒星の印が小さく描かれていた。光が当たるとキラキラと輝いている。

 「ええと、魔法陣で見たことがあります」

 「そうじゃないの。これは六芒星マークって言ってね、この本は事実に基づいて書かれてありますっていう、証明書みたいなものなの」

 「え?」

 「本はね、創作物であるものと、創作じゃなくて、事実に基づいたものの二種類に分かれるの。これはわかるかしら?」

 「はい、わかります」

 ピッティー先生は頷き、本棚から数冊の本を抜き出す。全て裏表紙を見てみると、六芒星マークがあるものと、無いものがあった。

 「無いものは完全な創作物。物語を面白くするために、事実と異なる事が書かれていますよって事。このマークがあるものは、事実に基づいているから、この本の情報は現実でも使えるわ」

 「……すごい!それって、すごいですね!!」

 クレイは興奮して、思わず叫んだ。

 ピッティー先生は、にっこりと笑って頷く。

 「そうなの。すごいでしょう?絵本は、魔法文字も優しいものばかりだから、一年生は絵本から入ってみるのも勉強になると思うわ。専門書はやっぱり難しいからね」

 「……あ、そうですね……」

 クレイは、校長先生の言った言葉を思いだした。

 今日、ベーベクラスで絵本の読み聞かせがあると言われたとき、クレイはコーテャーについて質問をした。

 あれは、校長先生なりの答えだったのかもしれない。

 「あの、ピッティー先生、コーテャーについての絵本ってありますか?このマークがついてる奴が良いです」

 「あるわよ。コーテャーの本は人気だから、たっくさんあるわ~。でも、気を付けてね、マーク無しの本の方が多いから、裏表紙をちゃんと見てね」

 そう言いながら、ピッティー先生は5冊もの絵本を見繕ってくれた。

 「これとこれは、特にお勧めよ。読み聞かせの時に、絶対に使う絵本なの。基本のきが詰まっているわ」

 「ありがとうございます!」

 クレイはその後、絵本コーナーに居座って、六芒星マークのついた本を探し、読み込んだ。アカキノコについて書かれている絵本もあった。マーリークサークルについて描かれている絵本もあった。その本には、あの首無し騎士についても書かれていた。イラストは実物よりもちょっとだけ可愛らしかった。

 (みんな、これを読んできたのか!だから、色々知っているんだ!)

 メーラもジャムもベーベクラスには通っていたと言っていた。赤ちゃんの頃から、こういう絵本で魔界について、マーリークサークルについて聞いていたのだ。

 皆、情報を得ていたのだ。

 (だから、校長先生もイゴー先生も、オレにベーベクラスへ行けって言ってたんだ……)

 だったら、絵本を読んでみろとか、そういってくれればいいのに、と、ちょっと不満を感じるが、ここの先生達はそうは言ってくれないのだ。

 くれるのは、きっかけになる情報のみ。

 それをどうするかは、クレイ次第。

 「これ、全部借りたいです!」

 ピッティー先生にお願いすると、先生は快く貸出処理をしてくれた。

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