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次の日、授業が始まって、三日目。
少しだけ昨日の疲れが残っていたが、クレイはいつもの時間に起き、朝ごはんを食べに行った。
相変わらず、寮はキノコだらけだ。
入口辺りは、少し綺麗になっていた。
卵のサンドイッチと、スープとサラダの朝食を終えてから、クレイは、小人が守る階段へと向かった。
コーテャーが、クレイのローブを引っ張って、止めようとする。
「わかってるよ。今日は上らない。みんながどんなふうに階段を上るかを見る」
クレイがそう言うと、コーチャーはローブから口を離し、クレイの隣を歩き出した。
それを見た上級生が、驚きの表情でクレイを見る。
「あなた、新入生よね?もう、コーテャーがついたの?うわあ、羨ましい」
クレイにはよくわかっていなかったが、コーチャーという動物は、魔法使いにとって良いものらしい。昨日から、何人かに声をかけられ、何度も「いいなあ」と羨ましがられたり、「良かったね」と褒められたりした。
(何がそんなにいいんだろう?こいつがしたことといえば、師匠の使い魔を追っ払っちゃったことくらいなのに……)
クレイは、階段が見える位置で止まり、他の学生の邪魔にならない位置に座り込んだ。
飛ぶことのできる学生は、あまり参考にはならない。
参考になるのは、初日に見たような、小人の撃退方法を知っている学生の行動だ。
クレイは、じっと観察した。
ほとんどの学生は、空を飛んで小人を躱している。しかし、時々、小人の要求に応じて金貨を手渡す者もいる。
(あれって、ウィンデール金貨なのかな?だとしたら、かなりの出費のはず……)
学生がそんなことできるだろうか?
いくらアルバイトをやる学生でも、この道の通行料としては高すぎる気がする。クレイにはとても払えない。
そのうち、数人の生徒が集まり始めた。
きっと、集団で駆け上がる気だ。
しかし、今日は小人達も一味違っている。
なんと、沢山の釘を布に固定して(釘の先っぽは上を向いている)、それを階段のあちこちに仕掛けている。あれを踏むと、痛いだろう。
「やっぱり、出してきたわね。そろそろだと思っていたけど……」
先頭に立つ女の子が、悔しそうに爪を噛む。
小人達は得意げな顔で「痛い目を見たくなかったら金貨を寄越せ!」と叫んでいる。
そこへ、巨人が三人やって来た。
一人は、入学式で顔を見た、モーリス君だ。他の二人は上級生だろう。
三人とも、背は高いが顔つきはとても優しい。
小人達は巨人を見ると、慌てて逃げだした。穴に飛び込んで全員出てこなくなった。
「ありがとう、ゴダ先輩」
「助かりました」
学生たちは口々にそう言って、階段に仕掛けられた釘付き布をはぎ取って、上がりだした。
巨人たちは「どういたしまして」と言って、最後に階段を上って行った。
(今ならオレも……)
そう思ったが、コーテャーにローブを引っ張られ、止められた。
「……ダメなの?」
コーテャーの目は、ダメだと言っていた。
「……わかったよ。それじゃあ、図書館に行くからね」
そう言うと、コーチャーは満足そうに口を離した。