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「魚を沢山釣って、売って、大金持ちになった!」
ジャムが言った。
「……魚屋を開いた?」
メーラが自信なさそうに言った。
「どっちも、ありそうだけど、もっと良いことだって」
クレイは夕食のシチューを食べながら答えた。
今日は一日、寝てばかりだった。
起き上がれるようになったのは、夕方だった。着地で打ち付けた肩が痛い。
夕食を食べに食堂へ来たら、ジャムとメーラがいた。
「もっと良い事って、なんだよ?金持ちになるより良い事?」
「舌が蕩けるほど美味しい魚をみつけるとかは?」
「……それは、最高だ」
ジャムは「舌が蕩けるほどの魚」を想像したのか、涎を垂らしそうな顔をする。
結局、エーテ先生の話の答えはわからないままだ。
答えを教えてくれと言っても、教えてくれるわけはない。優しそうな先生なのに、「考えてみてね」と言う先生の顔は、意地悪だった。
ジャムとメーラに相談してみたが、二人ともクレイと似た答えしか思いつかなかった。
「そういえば、階段飛び越えたって?ぶっ倒れて当然だよ」
メーラが花びらを口にくわえたまま言った。
「うん……でも、どうしても授業に出たかったんだ」
「別に焦る必要ないぞ。まだ、基礎中の基礎しか、やってない。お前なら聞かなくても全然問題ない」
「吸血鬼の何人かは、サボってるもんな」
ジャムが笑いながら言う。
「え?どうして?」
「吸血鬼のほとんどが、師匠みたいな家庭教師がいるんだよ。子供の頃から魔法について勉強している。基礎の基礎はとっくに知っているから、最初の内は来ても、復習にしかならない。杖の持ち方とか、振り方とか、古代文字の読み方・書き方とか、そんなもんだぜ。お前、とっくに知ってるだろう?」
「そ、そうなんだ……でも、メーラはちゃんと出てるんでしょう?」
「まあ、オレは他に目的があるし……」
「?目的って?」
「もうちょっとしたら教えてやるよ」
メーラはそう言って、にやりと笑う。
「オレは全然わかんないから、毎日でるぜ」
ジャムが胸を張って言う。
「出るだけじゃなくて、ちゃんと復習しろよ。古代文字くらい読めないと、アルバイトもできないぞ」
「わかってんだけどさあ……」
ジャムはどうやら、クレイと同じく、学生アルバイトをするつもりのようだ。
仲間を見つけてうれしくなる。
「うちの実家の集落は、山の隅っこでさあ。何かあった時に魔法を使えるやつがいると助かるんだよ。だから、村の子供たちは全員、マーリークサークルに行くことになっているんだけど……」
「だけど?」
「進級試験で躓くんだよ。ほぼ一年生どまり。二年生に上がれた奴が出た時は、お祭り騒ぎになったらしい」
「……そ、そんなに難しいの?」
クレイは不安になる。
「馬鹿。全然難しくねえよ。少なくとも二年生への進級試験はな。こいつら獣人が躓くのは、いつも決まってる。魔法陣学だ」
「そうなんだよなー。魔法陣学って、オレ達獣人には特に必要なんだけど、図形かくのが苦手ってやつが多くて……」
「どうして必要なの?」
「魔法陣さえ描ければ、呪文を唱える必要が無いものがあるだろう?特に、通信系とかはその典型。村で何かが起きた時に、助けさえ呼べれば何とかなる場合が多いんだ。獣人は自慢の足を持ってるけど、それだと間に合わない事もある……んだけど、まあ、大概は体力で解決しちゃってるんだよね、これが」
ジャムはどこか諦めたような目で、そう言った。
「必要だってわかってるんだけど、これまで何とかやって来たしなあ……」
「無くても困らないけど、あったほうが安心な技術なんだから、お前ちょっと頑張れよ」
「うーん、でもなあ……細かい図形見ると頭痛くなるんだよ。もっと簡単にしてくれればいいのに……」
ジャムはため息をつく。
「オレに助けてほしいことって、図形の練習?」
「ううん。課題で図形を書けってやつが出たら、手伝ってほしい」
あんまりまっすぐな目で言うもんだから、すぐにピンと来なかったが、数拍置いてわかった。
「それって、代わりに課題をやれってこと?」
「もちろんお礼はする。うちの母ちゃんの料理は美味いぞ。絶対に気にいる」
「なに馬鹿なこと言っているんだよ!課題は自分でやらなきゃ意味ないよ!」
「頼むよー。課題の提出が悪いと、進級試験も受けられないし……」
「自分でやるの!オレが手伝うとしたら、図形の練習に付き合うくらいだよ」
「そんなのやったって、意味ないよー。オレ達、獣人は下手くそなんだよー」
「やる前から諦めるなよ!絵ってのは、練習がものを言うんだ。絵描きの兄ちゃんが言ってた。コツさえ掴めば、誰だって上手くなる」
「ウソだね。うちの村のじいちゃんもばあちゃんも、誰も上手くいかなかったんだ」
「…………」
そう言われると、クレイも自信がなくなる。
「……でも、なんでオレ?メーラも魔法陣上手いよ」
「吸血鬼は、手料理でお礼はできないだろう?血で良かったらいくらでもやるんだけどさあ。オレの家族は血の気が多いから」
「無理だ。獣人の血は、なんていうか……くどそう」
「くどい?」
「実際に吸ったことは無いけど、臭いからしてダメ」
メーラは首を横に振る。
「なあ、頼むよ、クレイー。進級試験は絶対に受けたいんだよー」
「……とりあえず、どれくらい描けるか、今度見せてよ」
クレイはジャムとそう約束した。




