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 「授業が始まって一日目ですよ!こんなに早く規則を破ったのは、あなたたちが初めてです!」

 学校へと帰り、クレイとメーラとジャムは、一年生の担任であるミュゼ・イゴー先生に説教を受けていた。

 場所は城の入り口。

 お昼休みを終えた生徒たちが、教室へ向かうために必ず通る場所だ。

 ものすごく目立っている。

 「え?もう、森に入ろうとしたの?」

 「早くない?」

 「すげーな、あいつら」

 学生たちの声が、しっかり聞こえる。

 「よりにもよって、ムラサキバイツの縄張りに近い場所に入り込もうとするなんて……腕試しにしても、もう少し難易度の低い場所があったでしょう!いったい何を考えていたのですか!」

 「あ、あの……どうしても枝が欲しくて……すみません、オレがやるって言いだしたんです。メーラとジャムは手伝ってくれてただけで……」

 イゴー先生は、メーラとジャムを見る。

 「そうなんですか?」

 「えーと、まあ……」

 「はい……」

 二人は、もごもごと返事をする。

 「わかりました。メーラとジャムは、授業が終わった後、居残り掃除です。首謀者のクレイは別の罰を受けてもらいます。クレイは私についてきなさい。二人は魔法基礎学の授業に向かいなさい」

 イゴー先生に言われ、メーラとジャムは「すみませんでした」と謝って、二階へと行った。

 クレイは立ち上がり、イゴー先生の後を追う。

 入口から出て、寮へと向かっているようだった。

 (……もしかして、このまま荷物をまとめて帰れって言われるんじゃあ……)

 クレイの胸に、不安が湧き上がって来た。

 ここにきて、一日しかたってない。

 ここでクレイは何をした?

 授業に出ることもできず、階段すら上がれなかった。キノコの胞子で半日も気絶してた。

 おまけに、危険地帯に入って、命を落としかけ、先生に迷惑をかけている。

 (師匠がお金を出してくれたのに……ケビンは村から出て、オレのためについてきてくれたのに……村の皆だって、頑張れよって……)

 情けなくて涙が出てきた。

 しかし、これから罰を受けるのに、泣くわけにもいかない。悪いのはクレイなのだから。

 寮に入ると、イゴー先生は談話室に入った。

 「座りなさい」

 談話室のソファーを示され、クレイは言われるがまま腰かけた。

 イゴー先生は魔法の杖をふる。

 テーブルの上に、ティーセットが現れた。

 「さて、クレイ。何をしたかったのですか?」

 イゴー先生の声は、さっきよりも優しかった。

 お茶の入ったカップを渡され、クレイは戸惑いながらも受け取る。

 「ステア先生から聞いています。あなたはとても勉強熱心だと。この学校で授業を受けることを、とても楽しみにしていたと。先生を困らせるような事は絶対にしない子だと。違うのですか?」

 「お、オレは……違いません。授業を楽しみにしていました。でも、お、オレ……階段を上がれなかったんです。小人がいて……」

 「ええ、知っています。あなたは小人を見たのは初めてでしょう?」

 「はい。どうしていいかわからなくて……それで、箒があれば空を飛んで躱せるって思って……メーラみたいに……」

 イゴー先生は目を丸くした。ついで笑いだす。

 「ああ、そういう事ですか!」

 怒られると思っていたクレイは、イゴー先生の反応に困ってしまった。

 イゴー先生はひとしきり笑うと、「どうぞ、飲んでください」とお茶を勧めてくれた。カップを持ったままだったクレイは、一口すする。

 ほんのりバニラの香りがして、美味しかった。

 「私はてっきり、あなたが英雄にでもなろうとしているのかと思いましたよ」

 「英雄?」

 クレイは首を傾げる。

 クレイの反応を見て、イゴー先生は「ああ、そうか……」と呟く。

 「……クレイ、ホーニョル校長先生から言われたことを覚えていますか?」

 「……ベーベクラスの事ですか?」

 「そうです。行きましたか?」

 クレイは無言で首を横に振る。   

 「何故です?」

 「だ、だって……オレ、赤ちゃんじゃないです……」

 クレイは尻すぼみにそう答えた。

 また、イゴー先生が笑った。

 「いいですか、クレイ。ベーベクラスと言うのは……」

 イゴー先生が何かを言おうとした時、クレイのローブの陰から、何かが飛び出してきた。

 「え!?」

 「あら?」

 キーっと言う声を上げ、飛び出してきたのは猫のような狐のようなのような小さな生き物だった。茶色と黒の毛をしている。

 テーブルに飛び乗り、イゴー先生に向かって、毛を逆立てている。

 「え!?ど、どこにいたの!?」

 クレイは驚いて、ローブをバタバタと触ってみる。まるで気づかなかった。

 「この子はクレイのペットですか?」

 「ち、違います!」

 突然出てきた小さな生き物は、まだ、キーキー言っていた。何か怒っているように見える。

 「この子はコーテャーですね。きっと、森の中でクレイ君にくっついたんでしょうね。おめでとう、クレイ君。お供ができましたよ」

 「え?お供?」

 「ええ、小さいですが、立派な魔族です。魔法使いのお供にぴったり」

 イゴー先生はそう言って、コーテャーの胸元を撫でる。

 怒っていたはずのコーテャーは、興奮しながらも、イゴー先生の指を受け入れた。そのうち、ゴロゴロと気持ちの良さそうな声を上げだした。

 「……オレが、その子を飼うってことですか?」

 クレイがそう聞くと、今度はコーテャーはクレイに怒りだした。

 「飼うなんて言っちゃダメですよ。コーテャーはとても頭の良い生き物なんです。私たちの言葉も理解します。もちろん、魔法も使えます。友人と思いなさい。きっと親友になれます」

 クレイが内心で(えー……)と呟くと、それもばれたのか、また、キーっと怒られた。

 「こほん、話を戻します。うーん……」

 イゴー先生はコーテャーを見て、少し悩みながら口を開いた。

 「こんな言葉を知っていますか?『情報とは力である』」

 「初めて聞きました。でも、なんとなくわかります」

 「クレイ、あなたは魔界について知らない事が多すぎます。もっともっと、知ってください。それにはベーベクラスが一番なのです。クレイ、地図を出してごらんなさい」

 クレイは持っていた地図をテーブルの上に出した。その隣に、イゴー先生も地図を出す。

 「違いが判りますね?」

 「……はい」

 イゴー先生が持っていた地図は、クレイのものと同じ、学校の見取り図を描いたものだったが、色がまるで違った。

 イゴー先生の地図では、学校の中に赤や黄色の色は無かった。

 「これがどういう事か、わかりますか?」

 「……この地図は、オレにとっての危険を示してくれている、のですか?」

 「そうです。この地図の色分けは、地図を持つ人によって変わります。では、ここを見てください」

 イゴー先生が、入り口の階段を指さす。

 小人達がいる場所だ。

 クレイの地図は青色で、イゴー先生の地図は白だった。

 「ここは私にとっても、クレイにとっても、安全地帯です。森に入るような無茶をしなくても、必ず通れます」

 「……でも、どうすれば……」

 クレイの言葉を止めるように、イゴー先生は人差し指を唇の前に持ってきた。

 「『情報は力』です」

 「…………」

 「今はこれしか言えません。でも、クレイならば、きっと見つけ出せます」

 その時、三時間目の始業を告げる鐘が鳴った。

 「私は授業があるので行きます。もう、森に入ってはいけませんよ」

 「……はい」

 「ああ、そうだ。罰を忘れていましたね。今夜手紙を送ります。それでは」

 イゴー先生は微笑むと、魔法を使って姿を消してしまった。

 談話室にはクレイとコーテャーだけが残された。

 コーテャーは怒りが収まったのか、今度は楽しそうにクレイを見上げて、その場で飛び跳ねた。

 きっきっと鳴き、窓辺に駆け寄る。

 窓の外には、ベーベクラスの建物が見えていた。

 「……お前も、オレに、行けって言うの?」

 コーテャーは、ききっと鳴いて、その場で飛び跳ねる。行こうよ!と誘われているように感じた。

 「……わかったよ……」

 クレイは渋々と頷いた。

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