表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/77

33

 次の日、クレイは空腹で目を覚ました。

 昨夜、お菓子しか食べなかったので、ものすごくお腹が空いていたのだ。

 しかし、まだ日は出ておらず、食堂へ行っても開いていないはずだ。

 「……とりあえず、顔洗って着替えよう……」

 クレイはタオルを手に、部屋の外へと出た。するとそこに、見覚えのある木箱が置かれていた。木箱の上に、フクロウの羽が一本、置かれていた。

 フクロウ便に頼んだ、クレイの荷物だ。

 「わ!コウさん、アカシさん、ありがとう!」

 フクロウは誰もいなかったが、クレイはお礼を言って木箱を部屋に押し入れる。

 箱を開けて、荷解きをして、服や本を片付けた。

 今日、授業に持っていきたいノートも、この中に入っていたのだ。間に合わなかったら、メモ帳で間に合わせようと思っていたので助かった。

 顔を洗いに寮の庭へ行くと、既に先客がいた。背の高さや体の大きさからみるに、おそらく上級生だ。談笑しながら、顔を洗ったり歯を磨いたりしている。

 「お、おはようございます」

 「あ、おはよー」

 「一年生?早いねー」

 「どうぞ、使って」

 上級生たちは、クレイに場所を譲ってくれた。

 クレイは井戸の前に立ち、困った。

 クレイが知っている井戸には、水をくむための桶と、それを上げ下げする滑車がついているものなのだが、この井戸にはそれが無い。

 「? ?」

 井戸の中を覗き見ると、底に水が溜まっているのが見える。しかし、どこにも桶が無い。

 「あ、ええと、君、後ろ来てるよ」

 そう言われて振り向くと、取っ手のついたガラス製のポットがクレイの後ろに浮かんでいた。

 「え!?」

 クレイが、さっと避けると、ポットは井戸の中に入っていき、水を一杯にためてから上がって来た。

 そして、そのままふよふよと寮へ帰っていく。

 「…………あ!そうか、魔法だ!」

 クレイはやっと気づく。

 ここは魔法が楽に使える土地だ。何をするにしても、魔法をその手段にして良いのだ。

 井戸の隣には、水を溜められるようなポットや桶が置かれている。

 上級生たちは、顔を洗い終えると、ポットをそこに返していた。

 「あの、これ、使っていいんですか?」

 「うん、いいよ。あ、そっか、初めてだもんね。使ったら、軽く洗ってひっくり返してから置いておいてね。水に濡れたままだと、かびちゃうからさ」

 獣人の上級生が、丁寧に教えてくれた。

 「もし、水漏れしてたらエーテ先生に言ってね。放置しておくと怒られるからね」

 きれいな水色の髪をした、おそらく魚人系かと思われるお姉さんも、そう教えてくれた。

 「わかりました。ありがとうございます」

 クレイはお礼を言って、使いやすそうな桶を手に取った。手に取ってみてすぐにわかる。クレイの練習用の箒と同じく、魔法のかかった材質でできている。

 (あ、これなら杖無しでもいけるかも……)

 クレイは呪文を唱える。

 桶はクレイの意のままに動き、水を汲んできてくれた。

 クレイは水で顔を洗い、言われた通り、桶を軽くすすいで、ひっくり返して元の位置に戻した。

 その頃には、他の学生たちも顔を洗いに出てきた。時々、桶やポットだけが、水を汲みにやって来る。(ちゃんと汲む順番を守っているからすごい)きっと、持ち主は部屋で顔を洗うのだろう。   

 「あー、お腹空いた。なあ、もう食堂行こうぜ。おばちゃんいるだろう?」

 「いるよな」

 上級生がそんな話をしながら、フラフラと食堂へと向かっていった。

 (え?もう開いてるの?)

 「あいつら、本当に食いしん坊よね」

 「気持ちいいくらいの食べっぷりよね」

 他の学生たちが、くすくすと笑っている。

 お腹が減って困っていたクレイは、食いしん坊の上級生についていく事にした。

 食堂は寮の隣にある。

 煙突からは既に煙が上がり、食堂の職員たちが仕事をしているのがわかった。

 上級生が入口へと入っていく。

 「ねえ、おばちゃん、何かない?」

 「腹減ったー」

 「またお前たちかい?良く食べるねえ、本当に」

 食堂のおばちゃんらしき声は、笑っていた。

 (オレもなんか貰えるかも!)

 クレイはそう思って、食堂へ入った。

 食堂は広かった。

 入り口から入って左側に調理場があり、今、そこでは沢山の人が作業していた。

 右側に、食事スペースがあり、イスとテーブルが並んでいる。

 先に入った上級生二人は、トレーを持って、調理場と食事スペースの境にある受け取り場所で、料理が出てくるのを待っているようだった。上級生の一人は獣人で、長い尻尾が盛んに左右に揺れている。

 「うっほ!美味そう!」

 「ありがとう、おばちゃん!」

 「いっぱい食べな!」

 料理を持って現れたのは、タコの魚人だった。吸盤のついた手足がうねうねと動いている。

 「む?あんた……」

 タコのおばちゃんが、クレイを見つけてきらりと目を光らせた。

 「あ、あの……」

 「あんた人間の子だね?新入生の」

 「は、はい、そうです」

 おばちゃんは、何やら怒っているようだった。

 「何で、昨日来なかったんだい!ここに座って待ってな!」

 そう言って、座席の一つを示し、調理場の奥へと行ってしまった。

 クレイは恐る恐る、席に座って待った。

 まさか、食事に行かなかった事で怒られるとは思わなかった。というか、誰が来て、誰が来なかったなんて把握しているとは思わなかったのだ。

 学生は何十人といる。

 あのおばちゃんは、全員を見ているんだろうか?

 その時、とてもいい香りが漂ってきた。

 タコのおばちゃんが調理場から出てきて、手に持っていたトレーをクレイの前に置く。

 トレーには、クレイが見慣れた料理が載っていた。

 パン、野菜具だくさんのスープ、鶏肉の蒸し焼き、カボチャのサラダ。

 「♡」

 魔界でこんな料理にありつけるとは思わなかった。

 タコのおばちゃんを見ると、怖い目でクレイをじっと見ていた。

 「あ、あの……すいませんでした。昨日、食欲が無くて……」

 「今は、どうだい?お腹空いているかい?」

 「は、はい」

 クレイが頷くと、タコのおばちゃんはにっこりと笑った。

 「そうかい、それは良かった。いっぱい食べな。食欲が無くてもね、お腹にはあったかいものを入れた方が良い。ちょっとでもいいんだ。スープとかなら食べやすいだろう?」

 「はい」

 「子供はいっぱい食べて大きくなるんだよ。食欲が無いってときは、何でもいいから食べられるものを言いな。おばちゃんが用意してやるから」

 「はい」

 「よし、お食べ」

 お許しが出て、クレイはパンにかぶりついた。良く知っている味だった。 

 「あの、これって……」

 「ステア先生が持ってきてくれた食材で作ったんだよ。最初の内は食べ慣れたものがいいだろう?こっちの料理にも慣れてもらわなきゃいけないけどね」

 おばちゃんはそう言って、ウィンク一つ。

 調理場へ帰っていった。

 クレイはカボチャのサラダをかじる。良く知った味だ。このカボチャはきっと、ミックが育てたカボチャだろう。

 (えへへ、美味しい)

 安心できる味に、クレイの心とお腹はほっこりと温かくなった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ