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 「マーリークサークルの授業料についてだな。ふふふ……私もしっかり考えてきたぞ」

 ステアは自信満々に胸を張った。

 キッチンにはオレとクレイ、マデアとメーラがいる。

 ステアはこほんと咳払いして、話し始めた。

 「マーリークサークルに5年通うとすると、授業料と寮費込みで600万~1000万ドール必要になる」

 ステアの言葉に、オレとクレイは驚いた。ドールは人間の通貨の単位だ。

 「その値段はどこから出てきたんだ?お前らの使っているお金はウィンデールとかいうんだろう?」

 オレの質問に、ステアは「なんだ、知っているのか」と嬉しそうな顔をした。

 「そう。我々、吸血鬼の通貨と人間の通貨は違う。だから、ざっと計算して換算してみた。たぶん、それほど間違ってはいないと思うぞ」

 ステアが自信ありげにそう言った。

 どういうふうに換算したのかはわからないが、ステアの事だから、適当な事は言っていないはずだ。

 (……ってことは単純計算、一年で約100万~200万ってところか……。一年生の授業料は激安だって言ってたから、進級するごとに金がかかっていくんだろうな……)

 5年で生活費込みで1000万円で学校に行くとすれば、確かに高いが、人間の世界の魔法学校よりは安い。

 ステアが溜め込んでいるであろう宝石や金貨を使えば、楽に支払える金額だ。

 「1000万ドール……」

 クレイが呟いた。

 子供にしてみれば、大きすぎる金額だ。これを支払う事がどういうことかを理解するには、クレイはまだ幼い。

 (……どう説明すべきだ?)

 考えていると、ステアが口を開く。

 「いきなり1000万ドールなどと言っても分からないだろう。わかりやすいように説明するぞ」

 と、楽しそうに言った。

 (あ、こいつも誰かに説明してもらったな。ウォルバートン先生あたりか?)

 オレはピンときたが、口は挟まない事にした。

 「まず、ジャックの家を参考にした。ジャックの家は野菜農家で、8人家族だ。聞いたところ、年収は150万ドールほど。これで一年間暮らしていくのだ」

 クレイはステアの言葉に頷いた。

 「本当は違うんだが、わかりやすいように1000万を5年で割るぞ。そうすると、マーリークサークルに一年間通うには100万~200万ドール必要になる。ということは?」

 「……そ、そんなの無理だ!」

 クレイは叫んだ。

 「8人家族が一年間で使う金額が必要ってことだ!高すぎる!!」 

 クレイの言葉に、ステアは満足そうに頷く。

 「その通りだ。それを5年続けるとしたら、1000万ドールが必要になる」

 「師匠、俺、無理だ。マーリークサークルには行けないよ。そんなお金出してもらう訳にはいかない!」

 「うむ、そう言うだろうと思っていた。クレイ、私はお金持ちの類に入る。お前を5年間マーリークサークルに通わせたとしても、私の生活が困難になることは無いのだ。吸血鬼と人間では、生活に使うお金の額も違うしな」

 「で、でも……」

 クレイは、そんなことは納得できないとばかりに、首を振る。

 「それは師匠のお金だ。師匠が師匠のために使うべきだ!生活費を出してもらっている俺がこんなこと言っても、馬鹿みたいだけど、1000万なんて……俺、返せない……」

 「……返せると言ったら?」

 ステアの言葉に、クレイは驚いて顔を上げる。

 「え?」

 「マーリークサークルへ行き、5年間真面目に魔法と魔界について勉強すれば、1000万ドールを返せるくらいの技術が手に入る。保証する」

 「…………本当に?」

 ステアは自信たっぷりに頷いた。

 クレイはオレの顔を見る。

 「……まあ、そうだろうな。マーリークサークルで空飛んでた子供くらいの実力がつけば、それくらいは楽に稼げるようになる」

 「……本当に?」

 疑っているというよりは、どうして稼げるのかわかっていない顔だ。

 「オレが冒険者だったのは話したよな。魔界はお前も経験した通り、かなり危険な場所だ。そこへわざわざ足を踏み入れるのは、金が稼げるからなんだよ。魔界の植物や動物は高い値段で売れるんだ。主に教会や魔法学校関係に」

 「……それじゃあ、俺も冒険者になれば、師匠に1000万ドール返せるってことですか?」

 「それも良いが、金を稼ぐ手段は冒険者だけじゃないぞ。魔界にも人間と同じ職業というものがある。仕事とは私が思うに、沢山の人々が必要としているものを提供して、お金に換えるものだ。私のように魔法の知識を教える者は教師と呼ばれる。ウォルバートン先生のように、知識をもって人に健康を提供する人を医者と呼ぶ。薬を作る人を薬剤師、食料を作る人を農家、家具を作る人を職人、食料や家具や生活に必要なものを売る人を商人と呼ぶ。人間の世界と同様、魔界にもこういう職業はある」

 クレイはステアの言葉に頷く。

 これはとても大切な話だ。クレイが将来を考えていく上で、必ず考えなければならない事だ。

 「クレイ、私の弟子になるときに、お前は言ったな。永遠の炎が作りたい、と。今はどうだ?」

 「今も思っています!」

 「では、それから何をしたい?永遠の炎を作れるようになった先は?」

 「…………」

 クレイは答えに窮してしまい、うつむく。

 ステアはにっこりと微笑んで、クレイの肩に手を置いた。

 「今はまだ答えられなくても良い。しかし、近い将来、答えを出さねばならない。この問題は、お前が一生抱え続けるものとなる。これから何をしたいか、そのために何をすべきか。何が必要か……マーリークサークルへ行くことは、お前が将来を考えることの手助けになってくれる。実は、言ってしまうと、お金はそれほど心配することではないのだ。マーリークサークルへ通う学生の中にも、授業料を自分で稼ぎながら学んでいる者がいる」

 「え!?そうなの!?」

 「そうなのか!?年間200万ドールだぞ?どうやるんだ?」

 「まあ、色々だな。魔法薬学の知識で高価な魔法薬を作って売る者もいれば、害虫駆除技術を磨いて顧客を捕まえる者もいる。床下小人の駆除には、どの家庭も手を焼いているからな……長距離宅急便は常に人手不足だから、休暇中に荒稼ぎする生徒もいるし、獣人や巨人の住む地域には腕の良い魔法使いが少ないせいで、魔法学生アルバイトの仕事が多いのだ」

 「……へえ~……」

 「マーリークサークル在籍の、特に3年生より上の学年の生徒は、それだけ信用も高い。なので、優先的に雇ってもらえる。家庭の事情で金銭面に不安な生徒も、そこそこ頑張れば授業料くらいは払えるようになるのだ。一番手っ取り早いのは、教授の助手になる事だな。そうなれば、ちゃんとお給料が出て、寮費はタダになる。私もそれで学費を稼いだ」

 ステアは自慢気に言った。

 クレイを見ると、顔が輝いていた。

 「マーリークサークルは魔法を学ぶための学校だ。しかし、ただ学ぶだけではない。学んで得た魔法を将来どう使うかを考えることができる場所なのだ。もちろん、ここでもそれはできると思う。メイヤーとタロルがやっているように、この地の人々の手助けになるような魔法を研究するのも一つの道だろう。知識に対する価格設定をすれば、ちゃんとした仕事になる。仕事にしないとだめだぞ、メイヤー。タダではだめだ。ここで暮らしているんだから、ちゃんと経済を回すのだ」

 「はいはい」

 いつの間にか、メイヤーも食堂の一角にいた。マデアと一緒にお茶を飲んでいる。 

 「すまない、話が逸れた……つまりだ。マーリークサイクルの授業料については心配することは無い。行きたいと思ったのなら、お前は自分で金を工面できるようになる。2年生くらいまでは無理だと思うが、それまでは私から借りれば良い。ただ、私は返してほしいとは思っていない。お前が魔法を勉強するためにお金を使うのは、私の希望だからだ」

 クレイはこくりと頷いた。


 「わかりました。考えてみます」

 「うむ。考えてくれ。わからない事があったら、また、話をしよう。お金の事については、私もだいぶ勉強したぞ。何でも聞いてくれ」

 ステアは胸を張ってそう言った。


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