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 「学校の費用というと、授業料の事か?」

 「他にもありますよね?俺の場合は寮にも入るし、寮代?食費とか?とにかく、俺がマーリークサークルに行くことになった時にかかる金額です!」

 クレイの質問に、マデアは「全部となると……」と計算し始めた。

 オレはクレイの顔を見て

 (やっぱり、こうなるか……来る時が来た)と思っていた。

 クレイは金銭面にはかなり厳しい。

 まだ、自分ではお金を稼ぐことはできないが、食料や日用品、村に収める税金の内容まで知りたがる。

 学校で算数を勉強し始め、近所のおばちゃんたちに家計簿という存在を教えてもらってからは、生きていくのにいくらのお金が必要なのかという質問を散々された。

 オレの家計管理はものすごく杜撰だったため、まるでお手本にはならなかった。

 ステアも、人間の世界のお金については疎い。

 しかし、クレイの質問の嵐が、ステアの勉強魂に触れ、今、三人で家計管理を勉強している最中なのだ。

 マーリークサークルに行くにしても行かないにしても、授業料の話は絶対に出てくると思っていた。

 クレイが、その金額を聞いて、入学を躊躇う可能性もあると思っていた。

 マデアの計算が終わり、「一年生の授業料と寮費だけの計算だが、ウィンディール金貨10枚ほどだな」 

 「ウィ……?」

 「私達、魔族が使う金貨だ。すまないが、人間の世界のお金に換算することはできない。する事が無いからな……」

 「…………ケビン、人間の魔法学校の授業料っていくら?」

 クレイに質問され、オレは噂で聞いていた金額を答える。目が飛び出るほどの大金だ。

 「でも、正しいかどうかはわからない。それに、単純に人間の魔法学校の授業料と比較はできないと思うぞ」

 「そうだな。マーリークサークルの一年目の授業料は無料に等しいんだ。この金額は、ちょっと金を稼げる家庭なら楽に出せる」

 「そうなんですか!?」

 クレイが驚く。オレもだ。

 「ああ。一年目はお試し期間のようなものだからな。本気で魔法を研究したかったら、研究材料を揃えるのに、もっとかかるようになる」

 「ええと……そのウィンデール金貨10枚で……そうだな、メーラみたいな3人家族は何日くらい食えるもんなんだ?」

 「…………」

 マデアの顔が、難しい問いを受けたかのようにゆがむ。

 「その、な……我々吸血鬼は人間の血を吸う生き物だから、食べるのにお金はかからない。しかも、食べるのは一週間に一度だ。しかし、人間は毎日三食だろう?だから……その質問に答えるのは難しい」

 「あ、そっか……」

 単純に比較ができない。

 オレとクレイはそれに気づいた。

 「人間はいろんなことにお金を使うよな。食べ物もそうだが、土地、着るもの、様々な道具。生きていく事にお金がかかる。そうだな?」

 マデアの問いに、クレイは大きく頷く。

 「お前たちにとって、お金はとても大事なものだと最近気づいた。クレイはそれで、授業料の事が気になるのだな?」

 「はい、そうです。お金が無いとご飯も食べられません。俺は子供だから、お金を稼げない。稼げてもほんのちょっとです。俺のご飯も、家も、服も全部師匠が出してくれています。この村に住まうのにだって、税金ってやつがかかるんです」

 クレイは悔しそうな顔をする。

 お金の話をする時はいつもだ。

 生きていくための金を稼げないことが、もどかしくて仕方ないらしい。

 「お金はすごく大事なんです。だから、お金は大切に使いたい。マーリークサークルにお金を払って入るなら、迷いながら入れないって思ったんです。師匠のお金を使わせてもらうんだから……」

 マデアは、クレイの言葉に頷く。

 「我々吸血鬼がお金を使うのは、人間と違って、もっと限られたときだけなんだ。魔法学校に通うときや、珍しい何かを手に入れられる場合……私も、長く生きているが、お金を使う事はほとんどないんだよ」

 「そ、そうなの?でも、吸血鬼って金銀財宝溜め込んでるじゃん」

 「あれは、ほとんど魔法実験で使う実験材料なんだ。あと、人間の冒険者たちの標的になるためのものでもある」

 「なんて!?」

 元冒険者であるオレは、思わずひっくり返った声をあげてしまった。

 「人間の魔法使いと喧嘩別れしてから、冒険者の無断侵入を防ぐためにどうするかという問題があってな。魔界に魔法研究のためのお宝がざくざくあると知ってしまった人間たちは、魔界の住人たちを殺してでも魔界に押し入ろうとしてきたのだ。これでは静かに生活ができないと、あちこちから苦情が入ってしまい、仕方ないので、ステアのような魔法の使い手に囮になってもらう事にしたんだよ。人間が喜びそうなものを溜め込んで、それ以外の被害を最小のものにできるように、な」

 マデアはにっこりと笑顔でそう言った。

 「そ、それじゃあ、オレって……」

 「そう、手のひらで転がされた人間の一人だ」

 「そんな……」

 オレは脱力感に襲われ、その場に膝をついてしまった。魔界の森に入って、死に物狂いで闘ってきた記憶が蘇る。

 アレは全部、魔界の魔法使いたちによって作り上げられた罠だったとは……

 「話が逸れたな。クレイ、我々吸血鬼にとってお金は、生きていくためには必要ではないのだ。別の事に使う。私の使い道は魔法の研究だ。ステアもそうだろう。他にも他の魔族の縄張りに入らせてもらうための資金にしたり、人間の作り出す絵やワインに使う者もいる。海の底が見たくて、潜水艦を作ろうと、お金を使って知恵を集めている者もいる。我々吸血鬼と人間とでは、お金に対する価値観が違うんだ」

 「…………」

 「クレイの授業料は、ステアが払うと言っている。ステアはお前がマーリークサークルに通う事に、お金を使う価値があると思っているのだ。ステアとお金について話をする時は、今言ったことを思いだしてほしい」

 マデアがそう言い終わると、まるでタイミングを計ったかのように、ステアが現れた。

 「おや、どうしたのだ?皆そろって」

 「師匠、お金の事で話をしたいです」

 クレイの言葉に、ステアは頷いた。

 



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