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 魔界のマーリークサークル見学から帰って来て二日が経った。

 「ああ、平和だ。平和って良いな」

 ケビンは、一日に何度もそう呟いていた。

 魔力の薄い土地では、鶏が突然牙をむくことも、妖精からいたずらされて落とし穴に落とされることも、でっかい昆虫が(このでっかいは手のひらサイズとか可愛いものではなく、ケビンの頭ほどあるという意味である)突然上から降ってくることも無い。

 魔界のびっくりは、人間の世界に慣れた人間には心臓に悪い。

 (おまけに、クレイとメーラの子供二人連れだったからな……メーラはまだ慣れてるみたいだったけど、クレイは本当に危なっかしくてハラハラしてしまった……)

 魔界から帰って来たその日は、夕食も食べられないほど疲れていた。

 「確かに平和だが、少し詰まらなくないか?この地の動植物は大人しすぎる。あれで食べて行けるのか?牙しかない動物もいるじゃないか」

 マデアが呟く。

 「……まだいたのか?」

 「クレイの気持ちが気になるのでな。ううむ、魔界の生き物たちをみせたら、絶対に乗って来ると思ったのに……」

 「あんな危ない奴らを次から次へと見せておいて、何言ってんだよ。っていうか、魔界にいた時は何も言わなかったけど、あんた、魔物ホイホイ使ってただろう?」

 「魔物ホイホイ?」

 マデアの隣で牛乳を飲んでいたメーラが、「それは何?」と聞いてくる。

 「魔物を呼び寄せる魔法道具だ」

 「ああ、使っていたぞ。クレイにはいっぱい見てほしかったからな!あまり手強そうなのがくると怖がらせてしまうと思ったので、一番威力の弱いものを使ったんだ。しかし、コカトリスがかかってくれるとは思わなかったな。良いものを見た」

 「いや、普通に怖いから!クレイの奴、コカトリスの蛇の方見て固まっちまったじゃねえか!」

 「え?アレは感動で震えていたのだろう?コカトリスなんて、5年生でもめったに見られない珍獣だぞ?なあ、メーラ?」

 「……オレもちょっと怖かったです」

 メーラが小さな声で言った。

 「ほらみろ!」

 「なに!?どうしてだ!?お前、珍獣好きだろう?私があげた珍獣図鑑を楽しそうに見ていたじゃないか!」

 「……それ、いつの話ですか?」

 「お前がまだ、ハイハイしているころだ。あんなに小さな頃から珍獣の写真を見て笑ってくれたから、私は嬉しかったんだぞ」

 「……マデアさん、あんたもしかして、危ない動物が好きなのか?」

 「大好きだ!特に毒を持っている奴が良い」

 マデアは目を輝かせて、そう言った。

 「……魔物ホイホイってやつを使ってたってことは、マーリークサークルの森はもっと安全なんですか?」

 メーラがマデアに質問する。

 「ああ、もちろんだ。少なくとも、学校の近くにコカトリスが来るようなことはない。面白い動物に会うには、もう少し森の奥へ行かねばならない。火山の近くには竜もいるんだぞ♡」

 「絶対に行くなよ、メーラ。っていうか、メーラもそこまであそこに詳しくは無いんだな」

 「オレが行ったことあるのは、ベーベクラスだけだからね。それ以外は初めてだ」

 「そうか……クレイにはあとでその話してやらないとな。森の様子見て、かなりビビってたし……」

 「ビビってた!?クレイは怖がってたのか?楽しそうだったじゃないか!」

 マデアがショックを受けたように言う。

 「必死に魔法で逃げてたじゃねえか」

 「そ、そりゃあ、逃げないと……しまったな、やりすぎたか……」

 マデアがブツブツと独り言を言いだしたころ、キッチンの扉が開いた。

 息を切らしたクレイが飛び込んできた。

 「マデアさん!学校の費用っていくらですか!?」

 ただいまも言わずに、クレイはマデアにそう質問した。


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