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 クレイは友人たちの元へ向かった。

 魔界から帰ってきたら、お土産話をすると約束していたのだ。

 しかし、やはり、話はクレイの転校の話になった。


 「そんな怖いところやめとけよ!この村でいいじゃないか」

 「そうだよ。ステア先生は良い先生なんだろう?魔法の勉強はここでやればいいよ!」

 ローワンとミックは、クレイの魔界行きに反対だ。クレイが魔界の学校へ誘われていることは、既に村中の噂になっている。子供たちも知っていて、ほとんどの子供たちがクレイに「行くな!」「危ないよ」と言ってくる。

 しかし、ジャックは違う。

 「へえ、魔界って面白い所なんだなあ」

 「獣人の赤ちゃんって見てみたいわ」

 マーテルもだ。

 ローワンとミックが、魔界の森の話に身を震わせる隣で、ジャックとマーテルは目を輝かせている。

 「お前らおかしいよ!」

 「おかしくないわよ!子供たちが集まる場所なのよ。危険だらけじゃないはずだわ。赤ちゃんまで来てるんだから」

 マーテルの言葉に、ミック達は反論できない。

 「で、でも……危ないよ」

 「……それに、クレイが転校なんて嫌だよお……」

 ローワンの声が湿り気を帯びる。

 その言葉には、マーテルも暗い顔をした。

 クレイもだ。

 迷っている理由の内で、一番大きなものはソレだ。

 友達と離れ離れになる。

 しかも、行く先にはクレイと同じ人間の子供はいない。

 「魔族の子供たちの中なんかに、入っていけないよ!クレイ、いじめられちゃうよ!」

 「馬鹿言わないで。私達人間が、メーラ君を虐めた?」

 ミックの発言を、マーテルがたしなめる。

 「そ、それは……」

 「そりゃあ、どんな子がいるかはわからないけど、種族が違うからって、簡単に差別されるなんて決めつけちゃダメ!私たちもしちゃダメなの!」

 「……う、うん」

 「それに、ちゃんとステア先生やマデアさんがいるわ。ケビンも一緒に行ってくれるなら、絶対にクレイの事を守ってくれるはず。ミルドレッド先生がメーラ君を守ってくれたわ。魔族にも絶対そういう人がいるはずよ」

 「そんなのわかんないじゃないか!」

 「わかる!人間にできて魔族にできない事は無いわ!だって、向こうの方が進んでるのよ。私たちは人間しか知らないじゃない。でも、魔族の学校は色んな種族が集まるんでしょう?種族同士で差別しあってるなら、学校なんてできないわよ」

 マーテルの言葉に、子供たちの顔が明るくなった。

 「そっか!そうだね!」

 「そうだよ!」

 クレイも気持ちが軽くなる。

 初めての場所に緊張するのは、この村に来た時以来だ。学校へ初めて行く日の落ち着かない気持ちを、クレイは今も覚えている。

 ミック、ローワン、ジャックの三人とは既に顔見知りだったが、それでも緊張した。怖いとも思った。

 その時、ふと、気づいた。

 (メーラはどうだったんだろう……)

 メーラがこの村にやってきた当初、クレイとメーラの仲は険悪そのものだった。原因は主に、メーラにあったとクレイは思っているのだが、クレイはメーラのために子供たちとの仲を取り持つような事はしなかった。

 むしろ、喧嘩腰だった。

 (あ、あれ?メーラはどうやって他の子と仲良くなったんだっけ?ええと、野球チームの皆とすぐに仲良くなってたような気はするけど……)

 「ねえ、メーラはどうやって友達を作ってたっけ?最初の頃」

 クレイが聞くと、皆は笑いだした。

 「メーラの場合は、参考にならねえよ」

 「あいつは、なんていうか……特別?」

 「そうねえ。人を引き寄せちゃう吸血鬼よね」

 「?どういう意味?」

 クレイがわからずに聞くと、ジェナが口を開いた。

 「メーラって格好いいじゃない。それに、物怖じしない性格で、どんな子にもぐいぐい話しかけてくるし、おまけに野球のエース。勉強もできる。ついでに優しい所もあるしね。これでモテないはずないわ」

 「格好いい?優しい?」

 「そうよ。背は高いし、綺麗な顔立ちしてるし。他の子が困ってたら手伝ってくれるのよ」

 「私もおばちゃんと苗運びしてるとき手伝ってくれたの。こんな重いもの二人だけで持つなよって言って、こっそり魔法使って運んでくれたのよ。うちのおばちゃん、メーラ君にメロメロよ」

 マーテルがにやりと笑いながら言った。

 「要はアレよ。この村で言うところの、ココ姉ちゃんね」

 ココ姉ちゃんとは、この村一番の美人さんだ。ただ綺麗なだけではなく、とても良い人だ。彼女のいるところにはみんなが集まって来る。話し上手で、気さくで、鈴を転がすような笑い声を聞くと、皆が笑顔になる。

 「えー……メーラがココ姉ちゃん?」

 クレイの不満そうな声に、ジェナが笑う。

 「まあ、ちょっとタイプは違うけどね。人を惹きつけちゃうって言う点では同じだと思うな。きっと、魔界の学校でも人気者になるんじゃない?」

 「クレイ、魔界の学校行ったらメーラにくっついとけよ。そうすりゃ何とかなる」

 「いや、まだ行くって決まってないし!」

 「そうだよ!まだ決めてないんだよな?クレイ!」

 ミックとローワンが慌てて割り込んでくる。

 「お前ら、クレイがいなくなっても良いのかよ?」

 「いなくなってほしいとは思ってねえよ。でも、魔法学校だぞ。そんなの、人間の世界じゃあ逆立ちしたって行けないじゃないか」

 「そうよ。学費は高いし、コネが無いと入れないって言うし、しかも、学校か教会に行けなかったら魔法は禁止なのよ。今はこの村に見張りは来ないからいいけど、そのうち来るかもしれない。そうなったら、今度こそクレイとステア先生は出て行かなきゃいけないわ。そうなるくらいなら、ちゃんとした場所で勉強する方が良いに決まってる」

 マーテルの指摘に、ミックとローワンの表情が強張る。クレイも初めてその事に気付いた。

 人間の世界では、魔法の勉強は限られた人間にしか許可されていない。

 ケビンにその話を聞いて、クレイは驚いたものだ。ステアも知らなかったらしい。(師匠はその話を聞いて「なんだ、その意味の分からない決まりは!」と怒っていた)

 この村はもともと魔法から縁遠い場所であることもあって、クレイが魔法を勉強することに文句をつける人はいない。

 しかし、いざ、国の偉い人にばれたら、きっとものすごく叱られるはずだ。

 叱られるだけで済めばいいのだろうが……

 「ここで魔法の勉強をするのには限界があるわ。クレイは魔界の学校に行くべきだと思う」

 マーテルはそう言った。

 「オレもそう思う。餅は餅屋って言うだろう?ちゃんとしたところで勉強するのはすごく良い事だ、と思う」

 ジャックも言った。

 「やだやだ!そんなのやだ!」

 「クレイはここにいるんだ!この村で一緒に暮らすんだ!」

 ミックとローワンはそう言って、クレイの腕をつかむ。

 マーテルとジャック、ミックとローワンの視線がジェナに集まる。

 「え?私?」

 「ジェナはどう思うんだよ?」

 「賛成?反対?」

 「いや、私がどう言っても決めるのはクレイでしょう?」

 「この場の多数決を取るの。どっちよ?」

 ミックとマーテルに詰め寄られ、ジェナは「うーん……」とうなる。

 「魔界に行くのは怖いわよ。絶対。でも、魔法の勉強の場所としてはすごく良いと思う。でも……個人的なこと言うと、行かないでほしい。ケビンもつれてっちゃうんでしょう?」

 「おい、目的はケビンかよ?」

 「ごめんン!でも、クレイが行くなら一緒に行くって言ってたんだもん!そんなの嫌よ!」

 ジェナは叫ぶ。

 「うーん……ジェナの場合、動機が不純ね。しょうがないこの場は引き分けってことにしましょう」

 マーテルの言葉で、ミックとローワンはクレイから手を離した。




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