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 オレ達が案内されたのは、城の裏に建てられた離れのような建物だった。

 ここは森から遠く、小さな湖と城に挟まれている。

 (静かだな……)

 魔界の森の騒がしさを知っているオレは、そう感じた。湖は透明度が高く、何かが泳いでいれば一発でわかるほど澄んでいる。

 「ここがベーベクラスの教室だ」

 「ベーベ?」

 「赤ちゃんクラスだ」

 ステアの説明にクレイは驚く。

 「赤ちゃんも学校に通うの?」

 「毎日じゃない。来れる時に親子一緒に来る。早めに魔法に慣れさせたい親や、将来マーリークサークルに入学させたいと思っている親が連れてくるんだ。あと、時々、赤ん坊の頃から魔法が使えて、危ない子も来る」

 「危ないんですか?」

 「遊び感覚で何でもするから、とても危険だ。そういう子を持つ親には、先達からのアドバイスがとても必要なのだ」

 クレイとメーラはわかったような、わからないような顔をする。

 オレはなんとなくわかった。

 魔法は便利だが、使い方によってはとても危険だ。だからステアのように魔法使いの先生がいる。

 これから魔法を覚えて行く子に、危険のない安全な魔法の使い方を教えるために。

 危険は魔法を使う者に降りかかる事もあれば、周りにいる者に降りかかる事もある。

 赤ん坊はまだ、それを理解できない。

 親が見ている必要があるが、24時間完全監視などできようはずもない。魔界の赤ん坊が、どれくらいの魔法を扱えるのかはわからないが、物を動かす魔法を使えるだけでも厄介だ。刃物などに興味を示せば、怪我をするのは赤ん坊だけではない。

 親だけでは安全は守れない。

 誰かの助けが必要になるはずだ。

 (そのためのベーベクラスか……)

 マデアが扉をノックすると、どたどたという大きな足音が響いてきた。

 思わずクレイとメーラを抱きかかえ、オレは後ろに下がる。

 「大丈夫だよ、ケビン」

 メーラが笑いを含んだ声で、そう言った。

 扉が開くと、そこにかなり大柄な女性らしき魔物がいた。女性らしきと言うのは、ピンクの花柄のエプロンと、同じ柄のバンダナをつけているのを見て判断した。実際の性別はわからない。

 なにせ、そこに立っていたのはオーガだったからだ。



 「いらっしゃい、マデアさん。人間のお客様はどこ?あら!メーラちゃんじゃないの!久しぶりねえ!」

 「……ピッティー先生、こんにちは」

 「はい、こんにちは。ああ、大きくなったわねえ」

 オーガののピッティー先生は、嬉しそうにメーラの顔を覗き込む。

 ピッティー先生の声は、驚くほど高い。

 いや、声だけ聴けば普通のキーなのだが、オーガの声音として聞くと、驚くほど高い。

 (っていうか、オーガって喋れたんだ……)

 そんな事を考えていたら、ピッティー先生と目が合った。

 「あなたは人間ね?ということは……」

 ピッティー先生の視線が、オレが右わきに抱えているクレイに向かう。

 「あなたがクレイ君ね?」

 「は、はい、クレイです」

 オレはクレイとメーラを下す。

 「私はピッティー。マーリークサークルのベーベクラス担当よ。ベーベクラスは、学校一安全な場所だから、何かあったらここに来なさいね」

 「は、はい」

 「ちゃんとお返事できて偉いわ。あ、子供扱いしちゃったかしら?人間の年齢ってよくわからなくて」

 「人間の6歳は子供です。メーラよりは少し年下です」

 ステアが説明すると、ピッティー先生はにっこりと微笑んだ。

 「それじゃあ、まだまだ、私達の力が必要な子ね。嬉しいわ。わからないことは何でも聞いてね。さあ、お入りになって!」

 ピッティー先生はそう言って、オレ達を中に招待してくれた。

 ベーベクラスはパッパース村の公民館くらいの大きさだった。

 内装はものすごく派手だった。ピンクの壁に明るい緑の床。天井には黄色と水色と白で水玉模様が描かれている。

 赤いカーペットに紫色のソファー、部屋の隅には子供用のおもちゃらしきものが山になっている。

 中には5組の親子がいて、当然ながら、全員魔界の住人だった。

 (獣人に吸血鬼、ドワーフと……あとの二人ははなんだ?) 

 オレは失礼にならない程度に、5組の親子を観察する。しかし、向こうの方が興味津々でオレ達を凝視していた。

 「人間?」

 「ここに入学するんですって」

 「人間は久しぶりに見るなあ」

 正体がわからなかった人型の魔族の首が、突然伸びてこちらに近づいてきた。

 「わあ!?」

 クレイは飛び上がって驚き、ステアの後ろに隠れる。

 「あら、驚かせちゃったかな?ごめんね」

 ろくろ首の男性が、にっこりと微笑んでそう言うが、首が長く伸びた状態では謝罪になってない。親のいたずらを見た赤ちゃんまで首を伸ばしはじめた。

 「クレイ、大丈夫だ。彼らは……おどかすのが好きで……怖くは無いから」

 オレの説明に、クレイはそろそろとろくろ首を見る。

 ろくろ首の男性はにっこりと笑って、顔を180度回転して、にやりと笑ってみせた。それを見たクレイは固まる。

 「あんた、クレイを怖がらせて楽しんでるだろう?」

 「すまないねえ。私たち、人間の子供を驚かせるのが大好きで」

 男はそう言って笑うと、首を元に戻した。

 男の膝の上で、赤ん坊がまだ、短くしか伸ばせない首を精いっぱい伸ばして笑っている。

 獣人の赤ちゃんが、獣の姿で駆け寄って来た。赤銅色の毛並みの、犬に似ている魔物だ。母親の方は、同色のたっぷりとした長い髪をしている。

 「その子、火を吐くから気を付けてね」

 母親の言葉と同時に、小さな獣が火を吐いた。吐いたとは言っても、小さな小さな火だった。触れば火傷くらいはするだろうが、可愛いものだ。

 「わ!わ!」

 それにもクレイはびっくりだ。

 クレイのびっくりが気に入ったのか、小さな獣は楽しそうにクレイに近づこうとする。

 ステアを中心に、追いかけっこが始まってしまった。

 「ほら、クレイ。逃げなくても大丈夫だ」

 「で、でも……」

 小さいながらに、立派な牙が生えている獣を見て、クレイは及び腰だ。

 「大丈夫よ、これつけて」

 ピッティー先生が竜の皮でできた手袋を持ってきてくれた。

 「これで噛まれても、火を噴かれても大丈夫。さあ、挨拶してみて」

 ピッティー先生にそう言われ、クレイは逃げるのを止め、その場に腰を下ろした。

 ピッティー先生の腕から解放された小さな獣が駆け寄って来る。

 思いっきり体当たりされ、クレイはよろけた。

 「あ、あはは。可愛い」

 顔を舐められ、体を擦りつけられ、ちょっと火も吐かれたが、小さな獣はそれほど怖いものではないとクレイはわかったらしい。

 「名前はサーマンよ。私はジーラ」

 獣人の女性がそう言った。

 「この子の名前はタメコだよ。私はタケノリ」

 ろくろ首の男性が言った。

 後の三人もそれぞれ自己紹介してくれた。

 「クレイです。人間です。よろしくお願いします」

 「メーラです。吸血鬼です」

 「私も吸血鬼、ステアです」

 「オレは人間です。ケビンと言います」

 魔族たちはオレ達を見て、にっこりと微笑んだ。

 「ようこそ、魔界へ」


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