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 次の日、クレイはジェロームさんの畑を手伝った。

ミックと他の子供たちも一緒だ。

雑草を取っている時に、近くの木にコウモリが一羽ぶら下がっているのに気づいた。もしかしたら師匠かも知れないと、手を振ってみた。コウモリは飛び立ち、クレイの頭の上で円を描くように飛び、そのまま城の方へと飛んでいった。

 (今日はちゃんと帰って師匠と話をしよう)

 クレイはそう決めて、畑仕事を頑張った。一宿一飯の恩は返さねばならない。

 今日は、お客さんが来ていた。パッパース村で収穫量が上がるかもしれないという噂を聞きつけてきた、近隣に住まう農家たちだ。

 自分たちの所でも魔法を利用できないかと、メイヤーさんたちに話を聞きに来たのだ。

 「土地によって土の成分が違うところもありますので、一度そちらにお邪魔して……」

 メイヤーさんがお客さんたちに、畑をみせながら説明している声が聞こえた。

 ふと、そのお客の中に見覚えのある子供が混じっていた。背が高く、大人たちの中にいてもその体格の良さがひと際目立つ。

 「ジャーマン君!?」

 「え?」

 隣村、ポノノ村の少年野球のエース。

 今、クレイの中で一番のエーススター、サム・ジャーマン君だった。



 「あ、君、このあいだの試合にいた子だよね?」

 ジャーマン君はクレイの顔を見て、笑顔で近づいてきた。

 「お、覚えててくれたの!?うん!俺、ライト守ってた!」

 「そうそう!オレはファーストだよ」

 「知ってる!ボールのキャッチすごく上手だった!バッティングもすごかった!一番すごいと思った!」

 クレイの興奮する様子に、ジャーマン君は嬉しそうに「ありがとう」と笑顔を浮かべた。

 「ジャーマン君はどんな練習してるの?素振り100本とか腹筋100回とかしてるの?」

 「うん、やってる。素振り100回は毎日だよ」

 「っ!?すっごいなあ!」

 ずっと知りたかったことを聞けて、クレイは感動のあまり声が上ずってしまった。

 「そんなすごくないよ。オレよりすごい人はいっぱいいるよ」

 ジャーマン君は苦笑いを浮かべて、そう言った。

 「この前、都の方で、この辺の野球の強い子供たちを集めて、合同練習があったんだけど、そこに集まった子たちは、オレよりももっとすごかったよ」

 「合同練習?そんなのあるの?」

 「うん、うちのコーチの伝手で、オレも参加させてもらったんだ。オレ、自分はできる方だと思ってたけど、全然だった……」

 ジャーマン君は、肩を落としてそう言った。

 「そ、そんな事ないよ!ジャーマン君のパッティングはすごいよ!」

 クレイがこぶしを握ってそう言うが、ジャーマン君は首を横に振る。

 「オレくらい打てる奴が何人もいたよ。難しい球を打てる奴もいたし……悔しかったよ」

 ジャーマン君の言葉に、クレイはショックを受ける。

 ジャーマン君の野球は、クレイがこれまで見た誰よりもすごかった。本当にすごかったのだ。

 しかし、そんなジャーマン君よりも上がいるとは……

 「だから今度さ、強い子たちのいるチームに混ぜてもらって練習することになったんだ。ちょっと遠いけど、父ちゃんが交通費出してくれるって。そこで頑張ってうまくなったら、もしかしたら、プロの球団のテストを受けられるかもしれないんだ!」

 「ぷ、プロになるの?」

 あまりの話の大きさに、クレイはぽかんと口を開けて、ジャーマン君を見た。

 「なりたいんだ!プロのする野球、見たことある?オレ、一回だけ連れて行ってもらって見たんだ。大きな球場でやるんだよ。観客が沢山いて、王様専用の特別席まであるんだ。そこで野球をやるんだよ!」

 「……す、すごいね」

 クレイはほとんど想像すらできず、しかし、すごいという事だけは理解できたので、そう言った。

 「そうなんだよ、すごいんだよ!だから、負けられないんだ。強い子たちと練習するのはいろいろ勉強にもなるしね。皆もプロを目指しているから、楽しいんだ。目標が同じだから競争だけど、絶対に負けたくないって思うし!」

 ジャーマン君は、キラキラした笑顔でそう言った。


 (同じところを目指す子たち……)


 ジャーマン君の言葉が、クレイの胸にすとんと落ちてきた。

 クレイは魔法使いを目指しているが、この村でクレイと同じく魔法使いを目指しているのはメーラだけだ。他の子供たちは、将来、農業や他の事に使える魔法を欲しがってはいるが、魔法使いになりたいわけではない。

 メーラと暮らすようになって、クレイの魔法は確実にレベルアップした。一時期、メーラがクレイを攻撃魔法の的にしていたこともあり、必死に防御魔法を覚えたおかげでもある。

 (魔法学校に行けば、メーラみたいな子がもっと沢山いるんだな……)

 同じ目標を持つ子供たちと一緒に勉強するというのは、楽しいだろうか?ジャーマン君が言うように、勉強になるだろうか?

 「あ、父ちゃんが呼んでる。オレ、行かなきゃ」

 ジャーマン君の視線の先で、背の高い男の人が、ジャーマン君に向かって手招きしていた。

 「ここの魔法でもっと収穫量を上げるんだ。そしたら、もっと練習に行けるようになるからね」

 ジャーマン君は「じゃあね」と言って、走って行ってしまった。

 ジャーマン君はすごく楽しそうだ。

 きっと、強い子たちに囲まれてする練習が、すごく良いのだろう。

 キラキラした笑顔がまぶしいほどに。

 (俺も魔法学校に行ったら、あんなふうに楽しくなるのかな?)

 メーラと一緒に勉強を初めて、師匠が言うライバルという意味が少しだけわかった。競う相手がいると、勉強の進み具合が違う。今までも一人で一生懸命やってきたつもりだったが、その差をはっきりと感じた。

 特にメーラはクレイよりも魔法の使い方がうまい。そして、師匠よりは下手だ。どうして下手なのかが、師匠とメーラを比べてみるとはっきりとわかる。

 呪文の唱え方だったり、魔法陣の書き方だったり、杖の振り方だったり、二人を見比べると、その差は歴然だった。

 きっと、他の人が見たら、クレイはもっと下手くそなのだ。

 メーラと師匠のやり方を見て、自分の下手な部分がはっきりとわかった。

 こういう気付きは、きっと、様々なレベルの魔法使いを見て初めて、気づくのではないだろうか?

 魔法学校へ行けば、クレイと同じくらいの子が沢山いるだろう。きっと、皆、魔法の習得を目指していて、得意なもの、苦手なものがあるはずだ。

 メーラと魔法について話をするのは面白い。白魔法を勉強し始めてから、メーラはクレイに疑問点をバンバンぶつけてくる。ほとんど答えられないが、メーラの指摘が全くの予想外から来ることもあるので、色んな事に気付かされる。

 (たくさんの子たちと勉強すると、もっと魔法が楽しくなるのかな?)

 クレイは、ぼんやりと考えた。


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