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グラタンの作り方は意外と簡単だ。
材料を切って、軽く火に通し、耐熱容器に詰め込んでソースとチーズをたっぷりとかけて、オーブンに入れるだけ。
オーブンの中で焦げないように見張っておくのも大切だが、それも、何度も作るとコツが掴めてくる。
「グラタン♬グラタン♪」
クレイと一緒にオーブンを覗き込みながら、ミックが歌いだす。
他の子供たちもキッチンに集まり、オーブンから漂い始めた美味しそうな香りを嗅いでいる。みんな嬉しそうだ。
焼きあがる頃には、ミックのお父さんとおじいさんも、キッチンに集まって来ていた。
「クレイ君、さっきステアさんとケビン君が来たよ。クレイ君はうちにいるって言っておいたから、安心して泊まっていいよ」
ダーパッドさんの言葉に、クレイは少しほっとした。
いきなり城を飛び出してきて、師匠とケビンが心配していないわけはない。でも、素直に帰る気にはなれずにいた。
二人が心配していない事がわかれば、クレイも安心できた。
「ありがとうございます。あの……」
「ステアさんもケビンも怒ってはいないよ。心配はしていたけどね」
「……はい」
「明日、じっくり話すと良いよ。明後日でもいいけど」
クレイは驚いて、ダーパッドさんの顔を見る。明日も泊まっていいということだろうか?
「今夜は嫌なことは忘れて、グラタンを食べよう。マギーのグラタンは世界一だと思うんだよね、僕」
「もう、おだてたって何も出ないよ」
マギーさんが、嬉しそうにそう言って、ダーパッドさんの背中をたたく。
「いやいや、本当に。マギーの料理は全部美味しいよ。肉のパイ包みも、野菜のスープも、魚のグリルも。でも、一番は今夜のグラタンだよ」
ダーパッドさんはそう言って、マギーさんの腰に手を回した。マギーさんは頬を赤くして嬉しそうな顔で、ダーパッドさんの顔を見る。
「!?」
「あ、クレイは初めてだっけ?うちの親いつもあんなだから、気にしないで」
ミックがそう言って笑うが、クレイは目のやり場に困ってしまった。
見つめ合い、抱き合う恋人同士の二人の時間というものを、クレイは初めて目のあたりにした。
スラムにいた時も、今のお城でも、こんなふうに仲睦まじい恋人たちの姿を見ることは無かったのだ。
他の子供たちも、ジェロームさんも慣れているのか、勝手にわいわいやっている。
マギーさんとダーパッドさんの唇がくっつきそうなのを見て、クレイはたまらず外に飛び出した。
無事、美味しい夕食を終え、クレイはマギーさんとミックのお姉さんを手伝って、キッチンの片づけをした。
ダーパッドさんとジェロームさんは、他の子供たちをお風呂に入れている。
片づけが終わる頃、お風呂の竈を見ていたジェロームさんが戻って来た。
「あーやれやれ、今日も終わりだな」
そう言って、椅子に腰かける。
「クレイ、そこに座りなさい」
ジェロームさんにそう言われ、クレイは素直に腰かけた。
これから、色々聞かれるのだとわかった。
「それで?なにがあった?」
「……師匠が、魔法学校に行けって……」
クレイの言葉に、ジェロームさんは驚いた様子だった。
「魔法学校!?白の塔に呼ばれたのか?」
「?白の……?」
クレイが首を傾げると、ジェロームさんもいぶかしげな顔をする。
「魔法学校って言ったら、アレだろう?王都にある白い塔って呼ばれているところだ」
「……ええと、たぶんそこじゃないと思います。魔界の魔法学校って言っていたから」
「魔界の!?」
今度はジェロームさんだけでなく、マギーさんもミックのお姉さんも声を上げた。
「はい、その……」
クレイはマデアの事を言いかけて、慌てて口を閉じた。
知らない間に吸血鬼が更に6人もこの村に来ていたと知ったら、ジェロームさんたちはびっくりするかもしれない。もしかしたら、怒り出すかも……
「……師匠の知り合いが、入らないかって言ってくれたみたいで……」
「ほお……魔界にもあるんだなあ……」
ジェロームさんは気持ちを静めるためか、髭をなで始めた。
「それで?魔界の学校に行くのが嫌だったのか?」