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今日からお盆の間だけ連続投稿します。




 城に戻ると、帰ったはずのマデアがいた。

 「え!?また来たのか!?」

 「ああ、驚かせてすまんな。ちょっと気になることがあったので、戻って来た」

 ステアの隣に腰かけ、マデアもお茶を飲んでくつろいでいた。

 「自己紹介が遅れてすまない。吸血鬼のマデアだ」

 マデアはそう言って、オレとクレイに手を差し出した。

 「あ、ああ、オレはケビンだ」

 「僕はクレイです」

 「よろしく、ケビン、クレイ」

 マデアの手はひんやりとしていた。ステアよりも冷たくて、びっくりする。

 「クレイ、ステアの弟子になって、数か月だそうだな。魔法は好きかな?」

 「はい、好きです」

 「君の将来の夢は魔法使いかい?」

 「はい、もっとたくさんの魔法を覚えたいと思っています」

 「そうかそうか……」

 マデアは笑顔で頷きながら、しゃがみ込み、クレイと視線の高さを同じくする。

 「ところでクレイ。失礼な質問をさせてもらう。できれば答えてほしい。君は孤児だと聞いたが、両親の事は何も知らないのか?」

 クレイは吃驚した顔をしたが、すぐに「はい」と頷いた。

 「俺は覚えていません。世話してくれた人がいることは、うっすら覚えているんですけど……」

 「ふむ、なるほど……」

 マデアはしばらくの間、じっとクレイの顔を見ていた。

 クレイは緊張したようにマデアを見返し、困ったように手をもぞもぞさせていた。

 「いや、すまなかった。答えてくれてありがとうクレイ」

 マデアはにっこりと微笑み、立ち上がる。

 「君が勉強熱心な事は、ステアから聞いている。将来有望だとも」

 クレイは嬉しそうにステアを見る。

 ステアも、自信のある笑顔で微笑み返す。

 「もちろん、メーラもだ。二人とも良い生徒だそうだな」

 マデアはメーラにも笑顔を向ける。

 「そこで、どうだろうか?二人とも、魔族の魔法学校に入る気は無いか?」

 マデアのその言葉に、一番驚いたのはメイヤー、タロル、ステアの三人だった。




 魔族の子供たちが通う魔法学校、その名はマーリークサークル。

 マデアはその学校の理事の一人だった。

 人間の魔法学校よりも、はるかに長い歴史を持ち、何人もの大魔法使いを世界に送り出してきた学校だ。

 基本、魔法を勉強したいものなら、誰でも入学できる。

 吸血鬼だけでなく、獣人、エルフ、ピクシー……様々な人種の子供たちが、親元を離れ、全寮制のこの学校で魔法を勉強している。

 しかし、長い歴史を持つこの学校が、約100年前、とある種族の魔法使いの卵を入学禁止にした。

 それが人間だ。

 「正確に言えば、人間の魔法使いと関係の深い者の入学を断っている」

 マデアはステア達の質問に、そう答えた。

 人間の魔法使いの卵は入学禁止。

 吸血鬼の世界に至っては、人間との接触は必要最低限にとどめること、というお触れさえ出ている。

 なのに、学校の理事であるマデアが、人間のクレイに入学を勧めるなんて、いったいどういう事なのか?

 ステア達はびっくり仰天して、「いいんですか!?」「あの規則は取り止めですか!?」「また、人間たちとの交流ができるのですか!?」とマデアを質問攻めにした。

 オレとクレイは、ステア達が興奮する理由が、いまいちわからず、蚊帳の外にいる気分で大騒ぎを眺めていた。

 「100年前、我々、魔法学校の理事と校長は話し合いの末、人間の魔法使いを入学禁止にした。その理由は理解しているな?」

 マデアはステアに目をやる。

 「ええ、人間の魔法使いたちは危険な魔法の実験を繰り返しました。我々が再三忠告したにもかかわらず、無視され、最終的には17か所の人間の村、4か所の吸血鬼の住処が破壊され、他にもいくつかの種族の住処や餌場、土地が壊されたと聞いています」

 「その通り」

 (おいこら政府!魔法学校!)

 オレは思わず心の中で叫んだ。

 大昔に、人間側が魔法でやらかした事は知っていたが、オレの知識は氷山の一角だったらしい。

 「知っていたか?ケビン」

 「ほとんど知りませんした」

 マデアの質問に、オレは正直に答えた。

 怒り出すかもしれないとも思ったが、ここで嘘を言っても仕方ない。

 「だろうな……これが、人間の魔法使いを遠ざける理由だ。人間の魔法は、今も発達途中だ。沢山の可能性に気付き、日夜、様々な実験が繰り返されている。この300年で、人間の住む土地のほとんどが魔力を帯びた。これは恐ろしい速さだ。我々吸血鬼でも、ここまでの速さで魔法の理解を深めることは無かった」

 マデアの瞳が煌めいた。

 「本当に素晴らしい勤勉さだ。我々は驚き、人間の魔法使いたちを称賛した。しかし……人死にがでてはいけない。魔法の発展のために、人や獣が住む場所を追われるような事態になってはいけない。……我々の祖先も同じことをしてしまった。それを繰り返させてはならないのだ」

 マデアは悲しそうに首を振った。

 「我々は、人間の魔法使いに忠告した。我々が歴史から学んだことを打ち明けた。幸い、人間の魔法使いたちは一か所に集まっていて、情報の伝達も容易いかと思われた。我々吸血鬼も、他の魔族も、魔法に関しては人間の一歩先を行っている。何が危険で、何が安全かは人間よりも理解できていた。なので、それを伝えようとしたのだが……どうも、伝え方が悪かったようでな……」

 マデアは、少し目を逸らし気味にそう言った。

 「我々が先達を気取って、人間の魔法使いたちを子ども扱いしてしまったようで……」

 「あー……」

 その場にいた大人全員の口から、似たような声が上がった。

 魔法学校や政府のお偉方が、見た目だけは若い吸血鬼の魔法使いたちに、あれこれと技術の拙さを指摘されている光景が目に浮かんだ。

 「いや、うん、あれは我々も悪かったと反省しているのだ。人間を完全に食料扱いしていた頃だし、全く新しい白魔法を編み出した人間に脅威も感じていた。他の魔族との関係も、あまり良好とはいえない時期で……言い訳をしても仕方ないな。まあ、そういう次第で、我々魔族の代表と、人間の魔法使いの話し合いはうまくいかず、喧嘩別れになってしまった。人間は魔法の実験を止めるつもりは無いようだったし、事実、その後も何度も危険な事が起きた。なので、魔族の間では人間との接触、特に魔法使いとの接触はほとんどない。吸血鬼に至っては禁止に近い形をとっている」

 マデアは「これからしばらく、その決まりが覆ることは無いだろう」と言った。

 「しかし、クレイは違う。彼に人間の魔法使いの知り合いはいなさそうだ。人間で魔法の勉強のする子供は、大抵、その親も魔法使いで、人間の魔法学校出身で、人間の常識にずぶずぶに浸っている者が多いんだ。なので、我々の規則を受け入れてもらえない事が多い」

 「だから、入学を?」

 「そうだ。どうかな?クレイ?どう思う?クレイの先生?」

 マデアはクレイとステアを見て、聞いた。

 ステアは「願っても無い申し出です!」と興奮していた。

 「近い将来、絶対に七官を説得しようと思っていたんです。クレイの実力をみせれば、必ず入学は叶うと信じていました。クレイには魔法使いになる素質が十分あり、本人にもやる気があり、勉強に熱心な子です。魔法学校へ通えれば、必ずや大魔法使いとしての道を切り開くでしょう!」

 「うん、素晴らしい推薦文だ。クレイ?どうかな?」

 「お、俺は……」

 その場にいる全員に見つめられ、クレイは大いに困っていた。

 

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