とある神の子の物語2
わたしたちはそれから様々なことを学んでいった。
魔法、剣術、そして知識
剣術はあまり重要ではないので自由参加だったが、魔法と知識はいっぱい学んだ。
ここでの生活はとても楽しい。穏やかな父と仲の良い兄弟姉妹たちがいて自由に過ごせる。
神様というものは凄い。基本何をしても許される。だがお父様は言いつけを破った子にはすさまじい勢いで怒る。そのあとこういうのだ。
「ちゃんと言うことを聞きなさい。でなければ守ってやらないぞ。
神の自由は強力で、それは他の神にも言えるのだから。
それに親の言うことは聞くものだ。聞かないのなら追い出してしまうぞ」
どうやら『悪い子には悪魔がやって来て黒くされちゃう』というたぐいの子に言い聞かせるたとえが思いつかなかったらしい。そのせいか怒るたび言うことを聞けという。
だが、言いつけを守っている子を理不尽に怒ることは無い。
わたしたちのために怒ってくれる、いいお父様だ。
魔法と知識は毎日授業があった。
世界を創るのも管理するのも、この二つがないとできない。
そんななか、注目されている子がいた。
薄い紫の女の子。名前はルミリアで、魔法が上手。
だけれど、皆が注目しているのはそれじゃあなかった。もっと魔法が上手な子もいるから、それだけではあまり注目されない。
あの子はまだ人でいるつもりらしい。
人のころの家族や友人の魂をお父様にねだったのだ。割り切れないほどやさしい子なんだろうなってみんなで話した。
あと格好もだ。私たちの容姿は、自分でいったらなんだが系統の差はあれどとても優れている。こんな容姿をもっているので、おしゃれが楽しいのだ。男女関係なくいろんな服を作るし、着る。
けれどルミリアは、シンプルなシャツとスカート以外を着なかった。見かねたお父様がイベントをしていろんな服を着せようとするほどだ。自分に無頓着で危なっかしい子なのかもとみんなで話した。
そうしていたらある日急に、皆騙されているって不安げな表情で言ってきた。
やっぱり人のときの感覚が抜けきってないようだ。環境になかなか慣れない人の感覚が残っており、精神的に不安定なのだろう。みんなで落ち着かせた。
ルミリアは不安定な子だ。心配性ともいえる。そして無頓着なところがある。
――兄弟姉妹であっても、年の差がない私たちの中で末っ子だと思われるほど、注目される子だった。
ある日皆でペアを作ることになった。
ペアを決めるのはお父様だが、皆仲がいいので問題ない。
わたしのペアはエムルという男の子(と言っても皆異性がペアだ)だ。もちろん仲良し。
少し見たらあの子のペアは黒髪の子、セルシエだった。
わたしはあの子を羨ましく思った。この時私はセルシエに恋をしていた。接点は、昔の常識から来る好奇心で話したぐらいで、それ以外は他の子たちと同じだったのに。
ある時からおかしくなったのだ。
男の子たちが皆剣術の試合をしている中、セルシエだけを見てしまう。
彼が笑っている姿を見るだけで、どうしようもなく嬉しい。
そんな些細な違和感が重なって、ついに私は自覚してしまった。兄妹のハズなのにと思いつつも…それから、いつも通りに接せなかった。
そんな私の態度の変化に、兄弟姉妹はあっさり気づいた。
そしてこういったのだ。
「恋は女の子を綺麗にするのよ!」
「血は繋がっていないんだ。それくらい些事だろう」
「頑張って、応援してる」
ここは優しい世界だった。
皆私の恋を応援してくれた。
だからペアもわたしと彼を合わせようとしてくれたんだけれども、お父様に蛇蝎のごとく怒られてしまった。
この時から、あの子を妬む生活が始まった。
羨ましかった。
恋を覚えてから、彼にも彼女にもうまく接することができない。
知っている皆は優しい。けれど肝心な二人は知らないの。
彼に告白する勇気はまだないし、不器用な彼女に負担をかけるのはかわいそうだったから、わたしの恋に気づいたメンツの中にいなかったのでそのまま隠した。
しかし、わたしのこの行動で私自身が傷付いている。そしてそれはわたしの所為なのに、彼女に苛立って、自分の首を絞めている。
ほら、やっぱりまたやっちゃった。
「ちょっと!邪魔しないでよ!わたしが今やろうと思ってたのに!」
「え?ご、ごめんなさい」
「気を付けてよね!」
お門違いなことで責める。
だれが言い始めたことでもないが、魔術の修業は皆で協力して順番に練習するようになっている。流れ的にルミリアの番だった。
そこにわたしは待ったをかけて、感情のまま叫んだ。
ルミリアは困惑しつつも、眉を下げて謝った。
彼女は何も悪いことをしていないのに、彼女は謝る。そして自分が失敗したと思い込むのだ。
彼を見ていたら、必然的に彼女もよく見ることになってしまうのでわかるが、彼女は誰かが『怒ること』を怖がる。最初にいたって普通の家庭で育ったと聞いたが、それにしては人の怒りや痛みに過敏すぎる。実際どうなのだろう。
だがそんな思考が頭の片隅にあることを理解はしているが、今のわたしに気遣えるほどの余裕はない。
どんなに自己嫌悪に陥っても、本人を前にすると頭の中が真っ白になってしまう。
出来るなら、彼に近寄らないでと叫びたい。けれども彼とルミリアはお父様が決めたペアだ。近寄らないなんて不可能。
過ごす時間がほかの人より長いから、仲が良くなるのもまた必然。
だから‥‥‥彼が凹んだ彼女を励ましに行ってしまうのも家族として当然のことであって、ペアとしてもまた然り。わたしの自業自得だ。
ある時わたしはあの子に魔法の試合を申し込んだ。
彼女は混乱していたが、確かに断ろうとしていた。
そこでみんなが誘導してくれた。やってみたら?と真剣でない様子で軽く声をかけ、彼女は最終的に受けてくれた。
「嫌いじゃない人を嫌いになってしまうのはつらいことなんでしょ。心の中で一区切りつけよう?」
「ぶつかって認め合うの!」
八つ当たりでもいい。一回すっきりして、次にどうするか冷静に考えよう。と言ってくれた。
わたしは皆に感謝した。
そしてわたしはルミリアの正面で杖を構えている。
服はいつものように、ひらひらとした水色のワンピースで紺のマントを羽織っている。
対し彼女もいつものように、白い長そでシャツに膝ちょっと下まである赤い無地のスカート。右手に杖を構え、左手にはいつからか持っていて離さなくなったランタン。
「よ~~い…はじめ!」
審判を頼んだエムルの声が響いた。瞬間まずは小手調べに簡単な魔法を詠唱した。
「火よ!我がもとに集い燃え上がれ!ファイアー!」
詠唱は人それぞれ、我流で作る。
わたしの詠唱は、元々いた世界のものだ。対しあの子は
「水よ、掻き消してちょうだい」
その時々で違う。凛として命じることもあれば、お願いするように言うこともある。
後だししたのがあの子なのに、魔法はちょうど私たちの真ん中で衝突して相殺された。
「雷よ!彼の者に天罰を与えよ!サンダー」
「神鳴よ、打ち消して」
また中心で衝突する魔法。反属性ではないせいか相殺ではなくはじく形となり、地面のところどころに焦げ跡ができる。
「水よ!我がもとに集え!」
大きな魔法の詠唱に入る。魔法は複雑化すればするほど、詠唱も長くなる。
つまりこれは賭けだ。賭けるには早すぎるかもしれないが、先の二回の打ち合いで実力差は明確。
余力があるうちに大きいダメージを叩き込み有利にしたい。
「其が姿を変え我がために動け!」
彼女はまだ動かない。
複雑な魔法を掻き消すためには、その姿を的確に知るのが定石と習った。
彼女もそれに沿い、集中力を高めつつわたしの魔法を防ぐつもりだ。
―――それが分かっていてわかりやすい魔法を使うほど馬鹿じゃあない。わたしも魔法は得意なの。
剣の姿や槍の姿になった魔法、でもこれで終わりじゃない。
あの子が詠唱しようとしたのを遮るように叫ぶ。
「氷に転じ貫け!」
「―ッ!」
鋭く息をのむ音が聞こえ、無数のそれらがルミリアに殺到する。
神の子のわたしたちは頑丈だ。これくらいじゃ肌に切り傷ができる程度だ。
衝撃音共に立ち上がった土煙が視界を覆い、ルミリアの姿を隠す。
周りの子たちは少し焦った様子だ。飛び出そうとする彼を周りが必死に押しとどめている。どれだけ敵にこれ以上の強力な魔法を撃っていようと、対象が妹だと不安になってしまうようだ。
「風よ!」
「きゃあ!!」
煙の中から強風が吹く。わたしは吹き飛ばされて視界の端に軽傷のルミリアが映る。切り傷はあるものの血は浮かんでおらず、目立ったものはあざぐらい。
いや、よく見たらあざも右腕に集中している気がする。恐らく体を庇ったからだろう。杖を持った手で庇うのは愚策だ。
だが杖を取り落としていないなら、取り落としてさえいなければ、未熟なわたしたちでも魔法は使える。
「台地よ、あの子を止めて!」
彼女の掛け声とともに地面がゆがむ。
周辺がグネグネ曲がって足首までを地面に埋めて固定する。回避ができなくなった。選択肢が相殺と攻撃のみに絞られる、あの子が攻撃を開始した今これは心理的にきつい。
「植物たち、手伝って!」
そこに畳みかけるようにとぶ呪文。周りから蔦が出てきて両手を拘束する。
これでは、杖の先はどうやってもルミリアの方を向かない。
…戦闘不能だった。
「そこまで!」
エムルの声がどこか遠く響いた。
ぶつかっても全然すっきりしない。今この状況―傷ついたルミリアにセルシエが駆け寄り他の子たちも心配して様子を見に行く―を見せつけられただけだ。そして彼女は見せつける気すらない。断ろうとしていたところを無理やり戦わせたのはわたしたちだ。
ああ、ただ惨めになっただけだ…
一方的な八つ当たりは、相手の勝利という形で、苦い後味を残しただけだった。
もう、近づくのはやめよう。恋も全部捨てて、家族に戻ろう。決意してもそう簡単にできないだろうが、現状何も変わらず『いつも通りの意地悪が続きました』となるよりはましだろう。
ああ、せめてズタボロに負ければ諦めきれたのに、わたしにはあざの一つも出来ていない。
緩く、動かせない最低限で固定された手足に一切の怪我はない。
こちらの思惑なんて知らないあの子は、自分の良心が儘に一切の障害行為を行わなかったのだ。
そんな彼女に比べ、わたしはどんなに卑しいことか!
相手が悪気がないと分かっているからこそ、今回含め私の今までの行為が悪いことと自覚できてしまっているからこそ、煮え切らない思いは止まらなかった。
「ソティー…」
「解ってる。大丈夫」
思わずけがをしたルミリアの元に行ったが、自分に治癒魔法をかけている彼女に一安心した皆はこっちにやって来ていた。
気遣うようにそっとかけられた声に短く返す。
彼は悪くない。自分含め人の感情に疎いから
彼女は悪くない。精神的に不安定なあの子にそんな余裕はない。
悪いのは、勝手に好きになって勝手に感情を持て余して行動した私だけだ。
だから、二人が笑っている様子につらくなるのは、わたしの所為なのだ…
恋愛要素って書くの難しすぎない?
恋愛主体をうまく書ける人ほんと尊敬します…