とある神の子の物語1
本編で軽く出ていたルミリアの今世の話
‥‥‥の、別の神視点です
わたしの名前はソティー。一応神だ。
しかし普通の神とは違うところがある。人だった記憶があるのだ。
わたしは30を過ぎたころ、ある程度の貯蓄ができたので、昔から持っていた夢をかなえるための一歩を踏み出そうとしていた。
わたしは薬草栽培士になりたかった。もっとも薬草栽培は難しく、薬草の需要があるにもかかわらず数が少なかった。でも薬草栽培を始めるには元手がいるのだ。よって一向に数が増えない。
政府はあまり薬草栽培士に期待していなかった。よってろくな支援もされておらず、不安定な職だ。けど夢だった。
しかしながら、その夢がかなうことは無かった。
仕事を辞めた帰り道、偶然寄った食事処で強盗が来た。
その強盗は脅しの為に、小さな男の子の頭めがけて投げナイフを投げた。
わたしは咄嗟にその子を抱えて庇った。
そのナイフは運悪く、肋骨の隙間を抜けて心臓に直撃してしまったらしい。もちろん即死だ。
そして次の瞬間、私は神聖な美しい空間に幼く全く違う姿で立っていた。
当然のように混乱した。周りには同じように混乱する子供たちが50近くいた。
そんな時、神様が現れた。
年を取った、仙人をイメージする容姿をもった男性は、わたしたちに語り掛けた。
わたしたちは選ばれた。
新たな世界を創り管理する神になるために神の子として。
わたしは歓喜した。
最期にいい事をしたから、神様が私を拾い上げてくれたと思った。
他の子たちも喜んでいた。当然だろう。神様になれるのだから。
そのあと神様は『皆は兄弟姉妹だから交流しなさい』といって消えた。
わたしは周りを見渡した。
容姿はもれなく整っており、目や瞳肌の色も様々だ。
赤、黄、青はもちろん金銀に黒髪もいた。
そう認識した時、わたしは違和感を覚えた。
―――くろかみ?
黒い色を身体に持つ人は病気のはずだ。ソルサン(地球で言う太陽)にあたれないし、ソルサンにずっと当たらなければ弱ってしまって若いうちに死んでしまう(ソティーの世界の人間は一日一時間は日光浴をしないと弱っていく)。急いで神官様に色を抜いてもらわないといけない。
無色は病気だったことと一緒だからいじめられるかもしれないけれど、生きるためには言ってられない。
わたしはそうずっと思っていたはずだ。
身体にある黒いものを病原体と思っていたし、事実そうだった。何故あの黒を髪だと思ったんだろう?
わたしはまた混乱し始めた。
しかし、この混乱すら他の子たちも同じだったらしい。
思わずつぶやいたであろう声がわたしの耳に届いた。
『黒い肌はマモノなのに、なんで仲間だと思ってるんだろう?』
『紫の目は怖い魔女なのに、どうして敵に思えないの?』
『金の髪なんて遺伝子上存在しないのに、違和感がないのは何故?』
だが混乱の種類は同じでも、内容が違った。
誰一人黒は病気とは言わない。そしてわたしも皆が言っていることを言えない。
黒は病気だ。マモノじゃない。
紫も金も普通だ。魔女じゃないし、いでんしっていったい何だ。
皆他者と同じ価値観の人がいなくて、不安になっていた。
そんななか、誰かが言い出した。
「みんな不安なのは情報が足りないからだ。みんなで話そう」
そう言ったのはわたしが病気と思えなかった黒い肌の子。
反論も出ず、皆は順番に自分の事を話し始めた。
長い間話し合い続け、結論が出た。
それは“皆生きていた世界が違う”という事だった。
価値観もそれぞれ違う。が、今はもうその価値観を持っていない。持つことができない。そういう風になってしまった。別に悪いことではなかったが。
じゃあつぎは、自己紹介をしようという話になった。
だがこれには、半数が異議を唱えた。
どうやら彼らは記憶がおぼろげで、名前を思い出せなかったらしい。
それだけならともかく、彼らの中には生まれた時からずっと孤児で名前のなかった人すらいた。
名前を聞くのは無しになった。
「じゃあ、新しい名前を付けよう。自分に自分の、自分だけの名前」
俯いていたから誰が言ったのか分からなかったが、そんな声が聞こえた。
誰が言ったのか分からなかったが、わたしは賛成の声をあげた。
続々と賛成と声が響き、皆考え込み始めた。
そして、自分に新しい名前を付けた。わたしはソティー。
それから皆、自分の話をした。
いろいろとしか言えないほどたくさん。
好きな物嫌いな物得意なこと苦手なこと
家族関係交友関係近所同級生同僚
いっぱいいっぱい話し続けたし聞き続けた。
時間を忘れて話し合った後、とあることに気づいた。
というより、集中し続けていたから、今まで気づかなかった。
おなかすいてない
神は食べる必要がなかった。恐らく寝る必要もないだろう。
喋り続けて酷使したのに、顎も喉もいたくない。
情けない、というより格好付かない話だが、わたしたちはこれによって過去の自分(人)がもういないことを自覚した。
「話は、終わったかの?」
自覚したことで黙りこくったわたしたちに渋い声がかけられた。
バッと皆でそちらを見る。
予想通りだが、神様がいた。
「…かみさま」
誰かがぼそりとつぶやいた。
それに対して神様は、恐らく笑みを浮かべて(しわやひげ、眉毛の所為で全然わからないが動き的に口角をあげていると思う)
「父とお呼びなさい。我が子よ」
優しい声でそういった。
それに対して、わたしたちは驚いていた。盲点だった、というのが正直な心象だ。
わたしたちは神の子。なら親は神。
当然のことだったが、無数の世界に存在する共通認識、敬うべき神という先入観でそう思えなかった。
「お、とお様。おとおさま!」
誰かが初めに確かめるよう、二回目に心底嬉しそうにそう呼んで、神様に抱き着いた。
みんな驚いてその子を見るが、おとお様とよんで抱き着きに行った子は気にしていない。
その時またひとり「おとうさま!」と叫んで駆けて行った。
わたしは気づいた。あの二人は確か、孤児だった子。
きっと家族に、親にあこがれていただろう。
わたしたちはそれから”お父様”に連れられて行った。
そこは美しい場所だった。
崖の上の、澄んだ水に溢れた屋敷だった。50人で住むにも大きすぎる屋敷。
そこに一人一つ部屋を与えられた。広い部屋だ。お姫様になった気分。
お父様は屋敷は好きなように使っていいとおっしゃって、屋敷の地図を魔法で作り出しエントランスに飾った。
それから魔法はあとで教えると言ってくれて、その前に食事をしようと言った。
「でも、おなかすいてません。」
誰かが言う。手間をかけさせたくないという子供心からだった。
けど、お父様は
「食事はできるのだ。おいしいものを食べたいだろう。」
と教えてくれた。
わたしたちは食堂に案内された。地図はもう設置してしまったから持っていけない。
でもお父様が案内してくれるし、何なら地図を作れるから特に問題なかった。
食堂で皆は適当に座った。
なにせさっきまで初対面。仲良しグループなんてできていないので、順番に座った。上座一つは空けたけれど。
上座にお父様が座り、パチンと指を鳴らすと、天使たちが入ってきた。
比喩表現ではない。ガチ目の天使だ。
背の丈ほどある羽を一組、小さめの羽を一組それぞれ背中につけ、頭上に天使の輪がある。金のワゴンを押して、料理を運んでいた。
天使たちが入って来たとき、わたしたちはざわめいた。
当然だろう。神の子でも元々は人だ。
「獣人とは全然違う!」
1人が興奮したように叫ぶ。
じゅうじん…獣人だろうか。おとぎ話に出てきそうな人類だなあ。目の前にいるのは神話の天使だけれども。
白一色の服に金の装飾をまとった姿は美しく神々しい、が、わたしたちの容姿の方が優れているようだ。存在の階位の差だろうか?
並べられた料理はフルコースではなく、大皿料理が沢山だった。
わたしたちのいる卓には飾り付け、軽食、大量の皿や食器が置かれ、この卓以外には大量の料理が並べられた。そのあと全員の前にスープが配られた。
「さあ、いただこう」
お父様が声掛けし、皆がそれぞれの行動をとり始める。
そのまま食べる子やぶつぶつと何か唱える子、ほっぺや額を触る子など、それぞれの世界の風習であろうそれを行う。わたしは二礼しようとした。
それを見たお父様は苦笑したようで、皴が深くなった。
「これこれ、神の子が神に祈ってはならぬぞ。我らは人の子の願いを聞き、時に寄り添い時に叶える存在でなければならぬのだ。祈るのであれば神でなく、食材たちの感謝をささげなさい」
変わらぬ優しい声で諭す。
わたしたちははっとなり、慌てて祈りをやめた。だけど3人、やめない子がいた。
「その実りに感謝します」
「いただきます」
「‥‥‥」
神に祈っていたわけではない祈祷なのだろう。やめなかった。
そして3人もスプーンを手にした。
私以外にも手を止めていた子たちがいて、その子たちもスプーンを手にとった。早い子ならもう食べ終わりそうだ。
「スープを飲んだなら、自由に取りに行っていいぞ」
その声に目を輝かせる。
見た目もにおいもおいしそうな料理の数々が周りにあるのだ。年甲斐もなく食い意地が張っても仕方ないだろう。
そしてスープを食べ終わって立ち上がる。
「あ、これおいしそう!」
「ねえ、この料理ってどんな味なの?」
先に食べ終わっている子がにぎやかに食事を選んでいる。
思わずつぶやいている子や、その料理を取っている子に尋ねている子もいる。
ほぼ初対面と言っていい筈だが、わたし含めそのような意識はなかった。名前は覚えきれてないがわたしたちは”家族”なのだ!
唐突に浮かんできたネタなんです。
本編が詰まって出てこないので、これだけでも書かせてください!
(※この作品も作るのに数か月かけてます)