小話 ルミリアと髪
「そういえばルミリア、あなたの髪って何で薄紫色なの?」
ある日、フィナイースはルミリアへそう尋ねた。
フィナイースはあまり真剣そうな表情ではなく、完全に暇潰しで聞いているのがわかる。
ルミリアは自身の、床につく程長い髪を眺め、軽い様子で答えた。
「う~ん、最初からこうだったけど…。
多分私がこんな髪がいいと思ったからじゃない?前(前世)からこの色は好きだったし。」
首を傾げながら、軽い様子で答える。傍から見たらまったく髪にこだわっていないように見える。が、ルミリアは地味に凝っている。といっても、他と比べてという意味であり、他の肌や服などは一切のこだわりがなく精霊の好きにさせているが。
なのでこだわりといっても、リンスとかにいい香りの物を使っている程度である。
「自分で決められるのだったら、案外念じたら色が変わるんじゃない?」
「なにそのアニメキャラ。」
「もしも髪色が変わるなら、目の色も変わりそう。」
「むしろ目のみ変わるほうが多いでしょ。」
「ちょっとやってみたら?」
「それもうただの変身魔法になっちゃうじゃん。」
フィナイースは本を読みながら、つまり視線を合わせずに会話している。
かくいうルミリアはしっかりフィナイースの方を見ており、時々フィナイースが視線をあげた時に目が合うと、その度嬉しそうな笑みをこぼしている。
…ルミリアにとって、それは自然な反応なのだが、フィナイースにとっては絶世の美貌を持つ少女が目を合わす度それはもう綺麗な笑みをうかべるせいで、目を合わせれなくなって、でも礼儀として目を合わせて話そうと努力していることを、ルミリアは知らない。
「もう魔法でもいいからやってみましょう。」
「いいけど…何色にするの?」
「まずは黒目黒髪!」
「OK!日本人スタイル最高!」
ルミリアは自身に魔法をかけようと黒目黒髪の自分を思い描き…
「なんか違和感!似合ってるような似合ってないような。」
「ほぇ?」
…魔法を発動させる前にフィナイースの歓声があがったことに驚き硬直する。
少しフリーズした後、ソファから立ち上がり、部屋に備え付けの大きな鏡の前に移動する。そうして見た鏡に映っていたのは、黒目黒髪な自分だった。
「なんでなんだろう。こうなんか………これじゃない感がすごい。」
「でしょう。元々の色が薄かったからか黒目黒髪は濃い過ぎるみたいね。」
「なるほど。そうだったのか。」
ルミリアは複雑そうな表情で、鏡を見ている。
『日本人で黒目黒髪だったはずなのに、これが似合わないとは…。』という心の声が盛大に漏れている。むしろ隠す気がない。
「でも、裏を返せば薄い色は似合うのかしら?」
近づいてきたフィナイースは、鏡に映りながらそう尋ねる。
「ピンクとか水色とか黄色、黄緑。オレンジは入るのかしら?でもどっちにしろオレンジは似合わない気がする。」と冷静に色を考えている。
そんなフィナイースを見て、目を輝かせたルミリアは振り返って質問する。
「金髪は薄い色に入りますか!」
「豪華な色カウントですので、残念ながら入りません。」
「ええ~。」
あえなく撃沈したが。
フィナイースのがっくりとした様子に苦笑をこぼすフィナイース。
「日本にいた時もこんな感じだったの?」
思わずといった様子でルミリアにそう問う。
ルミリアは『まさかそんなわけないじゃない』という心境を口をとがらせることで表現する。
「あっちでは私、人見知りだったし。けど、家族はいつもこんなように過ごしてたかな?
本当に仲良かった友達とかには時々素がこぼれてたような気がする。」
「それって結構こういう感じだったってことじゃないの。」
「言われてみれば確かに。」
納得した様子のルミリア。
それを見ていたフィナイースはふと思う。
「ルミリアは、お揃いの物とかを欲しがるタイプ?」
「う~ん…?
そうじゃないと私は思ってる。いつも使うものをお揃いにするより、使い易い物を欲しがるタイプ。というか、そういうの買ったらもったいなくて使えない。」
「使いなさいよ。物はまず使わないと意味がないでしょ。」
「もったいなくって。」
まさかのルミリア貧乏性説に、しかしフィナイースは顔をひくつかせたりはしなかった。
精霊界で過ごし、ルミリアの威厳の足りない姿に慣れてきた証拠である。
いや、ルミリアもちゃんとしないといけない時はきっちり威厳ある姿でいるが、オンオフが激しいようで、お祭りの開会宣言だの、パーティの挨拶だの、学園(精霊が通う)の入学式その他諸々の祝辞などでは、慈愛のこもった笑みで立派に王様をやっている。
…が、素は甘えん坊であり、親より子供が似合ってしまうことは否めない。
「…で、話を戻すけれど、やっぱりピンクか水色でしょうね。」
「赤とかに変えて城下歩いたらどうなるかな。」
「ただでさえ収拾がつかないのに余計混乱を招かないで頂戴!!」
「冗談冗談。」
漸く元に戻った話題は、しかしルミリアの真顔のボケで霧散した。
かつて変装なしで城下に降りた時、動けないほどの精霊に詰めかけられたのをフィナイースは忘れていなかった。
髪色大胆に変えてもばれるだろうし、それ以上に大騒ぎになりそう。いや絶対なる!と冷や汗をかきながら、ボケに過剰に反応してしまったようで、冗談だと言われた時の安堵の顔は本気だった。
「よしっ!話し戻してさっさと変えよう!」
「そうして頂戴。」
もう既に疲れたみたいで、投げやりにルミリアに言うフィナイース。
そんな事は考えず、自分で逸らした話題を戻し、さっさと色替えを始めるルミリア。
「赤!」
「合わない。」
「青!」
「微妙に合うようで反応に困る!」
「緑!」
「違う!なにかがおかしい!」
「黄色!」
「多分比較的に合ってる。」
「ピンク!」
「イメージと違って違和感が半端じゃない!」
「水色!」
「今まででは一番似合う。」
「草色!」
「ルミリアには渋すぎる!合ってない!」
ひたすら色を変え始める2人。
途中から『色二つ』と『グラデーション』も混ざり、楽しくなったのか夢中で変えまくること数十回。
そして、飽きてきたころに色を光沢のある薄紫、つまり元の色にもどして…
「やっぱこれが一番しっくりくる。」
「似合うし、最初の物が一番よね。」
―でも時々色替え遊びをやるようになったのであった。