第078話 聖女シュフィーア
……痛ぇっ!
頭が痛くなるくらい強烈な思念が流れ込んできた!
シェリーからの念話が途絶えたのではない。別の強烈な思念が流れ込んだために聞き取れなくなったようだ。
『う、上様っ! 上様っ! 助けて!……』
『……ダンジョ……スターが……涙…』
『私ですっ!上様っ!助けて下さいっ!……』
『……隷従の……が……精神支……』
シェリーと何者かからのメッセージが混線している?
強烈な思念の発信源をマップ上で確認すると、どうやら第8階層から発信されているようだ。しかも、なんと、シェリーたちの目の前にいる?
いや、間には壁があるようだな?
どうやら他のハニーたちもその場にいるようだ。
ユリコたちはまだ風呂から上がってこないなぁ……さて、どうしたものか……。
取り敢えず、思念の送り主に念話を繋げて……
『えーと。どうした?俺はお前さんから救助要請を受けたんだが……
お前さんは一体誰だ?』
『助けてっ!助けてっ!助けて-ーっ!』
『助けてやる!助けてやるから、まずは落ち着け!落ち着くんだ!』
『せ、精神……逆らえない……犯される!助けてっ!ダメっ!そこはダメっ!』
マズいっ!何がどうあれ事は一刻を争うようだなっ!
◇◇◇◇◇◇◇
第8階層、ダンジョンマスターの部屋……
「ひゃぁはっはっ!どうだ?さすがにダンジョンマスターのお前でも奴隷にされてちゃぁ、手も足も出ねぇだろう!?はははっ!
けっ!教皇様も酷ぇことを考えるよなぁ~。管理権限だがなんだかがなくなって使い物にならなくなったからって、側近だったお前を、あんなアキュラスみたいなゲス野郎にくれてやるなんてなぁ!」
女性は地面に押し倒される……無表情で無抵抗。
だが、その目からは涙が溢れ出ている。男はそんな女性の着衣に手をかける!
シェリーたちは壁を壊して女性を助けようとするのだが、攻撃神術でも物理攻撃でもびくともしない。入り口も見当たらず、ただただ見ていることしかできない!
「魔物溢れに乗じて神都を攻めさせるための報酬なんだか知らねぇがよぉ、こんな上玉をあんな奴にくれてやるなんてもったいねぇ話だぜ。アホらしい。
どうせあいつの性奴隷にされちまうんだし、その前に俺がたっぷりと楽しませてもらったっていいよなぁ?ひゃぁはっはっ!たまんねぇなぁ~!」
男は女性の着衣をビリビリに破り、大事なところを覆い隠す布を、今まさに引き剥がそうかという時!……
女性が忽然と姿を消した! 危機一髪のところであった!
女性はその大事な部分をクソ野郎に見られることなく、もちろん貞操も守られたのである!
◇◇◇◇◇◇◆
ダンジョンマスターと見られる女性が、心配しているシェリーたちの目の前から消えるほんの少し前のことである。場所は第10階層……
思念の送り主をターゲット指定して……
「転送!」
『きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!やめてーーっ!上様ぁーーっ!』
助けを求めていた女性は、俺の前に転送されてきたというのに強烈な思念を送り続けている。パニック状態だ。
女性の服はビリビリに破かれているが胸や大事な部分はどうにか隠されている。
あれ?妙だ。彼女の表情は涙をボロボロと流してはいるものの、無表情なのだ。
これはさっきのユリコたちと同じだ。これまで何度も見てきたあれだ。
精神支配された者が見せる表情だな。
彼女は豪華で綺麗なネックレスを身につけているが、あれが隷従の首輪なのか?
ステータス情報を確認すると、彼女の名前はシュフィーア。17歳だ。
やはり、精神支配されている。
彼女はすべての属性について上級攻撃神術が使える。治癒系の神術も上級だ。
ん?魔法じゃなくて神術使いか?珍しいな。この子は神殿関係者なのか?
しかし、女性を精神支配して暴行するだとぉ?……自由が利かない状態の女性を犯そうとするとはなんたる卑劣漢!なんというクソクズゲス野郎だっ!
あの男がどこの誰だかは知らないが……決まりだな! 絶対に!ぶっ殺すっ!
「落ち着け。落ち着くんだ。もう大丈夫だから」
そう言いながら、身体は為すがままだが、助けを求める強烈な思念を送り続けてくるその女性を落ち着かせようとギュッと抱きしめた。
『やめて!わ、私は上様に操を立てているの!穢されるわけにはいかないの!』
へっ!?俺に操を立てている!?
いや、どこぞの領主のことをいっているのかも知れないな。俺とは限らない。
『シミュニオンから私には手を出すなって言われていたでしょっ!やめてっ!』
シミュニオン?シミュニオンって言えばシオン教の教皇の名前だよな?
この子はシオン教徒なのか?
「シュフィーア。落ち着くんだ。落ち着けっ!
お前さんをどうこうするつもりはねぇから、落ち着くんだ!」
少し力を入れて抱きしめながら頭を撫で、宥めようと……
「もう大丈夫だ。お前さんの貞操は守られたんだよ。落ち着くんだ。
お前さんが言う『上様』ってのが誰だか知らねぇが、俺はこの世の神だ。
お前さんに危害を加えるつもりはねぇから安心しろ。さあ落ち着いて……」
『…………う、上様?……あなたは上様なんですか?』
女性は相変わらず無表情で無抵抗だが涙をボロボロと流している。
「ああ。そうだよ、俺はこの世界の管理者、神だ」
『上様っ!上様ぁーーーっ!ううう……うわぁーーーん!』
「あれ?さっきシオン教の教皇の名前を言ってなかったか?
お前さんはシオン教徒なのかと思ったんだが、違うのか?」
『違います! 上様、私はシオンです。上様の助手のシオンなんです。
身体を奪われて、この身体に押し込まれて名前を変えられてしまったので分からないかも知れませんが、私はシオンです。
どうかプライマリーキー値を調べてみて下さい』
プライマリーキー値のことを知っているし……彼女の魂の色は銀色だから彼女が言っていることは間違いなさそうだ。
彼女が本当に捜していた管理助手のシオンなんだろうか!?
シオンは俺が地球に向かった後も、Suspended animation (コールドスリープ)せずにずっと生きてきたはずだ。
となると俺と同じで中身はいい歳のオバチャンであるはずなのに……
幼子のように泣きじゃくっていたよな。見た目から受ける印象が強いのかも知れないが……なんか若いな。
「えっ!?お前さんがシオンなのか?行方が分からなくなっている助手の?」
『はい。そうです。私がシオンです。お久しゅうございます。うう……』
<<全知師。彼女が本当にシオンなのかどうかを確認してくれ。
>>承知。
シュフィーアの魂の『プライマリーキー値』を取得……完了。
プライマリーキー値を管理スタッフデータベースで検索……該当者あり。
当該魂は、元人族管理助手のシオンと断定。
なお、現在シオンが使用している肉体は、肉体のシリアルナンバーから彼女が宇宙ステーションから持ち出した"5体の人族助手用肉体"の内の1体であることが確認できました。
<<ありがとう、全知師。
「プライマリーキー値からお前さんがシオンの魂を持つ者だと確認できたぜ。
ちょっと待ってろ、今、隷従の首輪を外して自由にしてやるからな」
『はい…ううう……。よかったぁ……操を守れて本当によかった……うう……』
何十年も……俺を一途に愛し続けていてくれたのか?
俺と対立して行方をくらましたと聞いていたので、てっきり俺のことが嫌いだと思っていたんだが……妙だな。シオリから聞いた話と食い違うぞ?
「よし!それじゃぁ……神である我が権限において、この者の奴隷契約を強制的に破棄する!……加えて隷従の首輪の除去と消滅を命ずる!」
すると、シオンの首元を飾っていたとても隷従の首輪とは思えない豪華で綺麗なネックレスは外れて、地面に落ちる前に粉々になりながら消え去る。
ついでにハニーたちにも施してある精神支配耐性関連の処理をシオンにも施しておこう……
そんな時、シェリーたちが俺のもとへと転移して来た。
「ダーリン!無事でよかったっす!」
野営用テントの前にシェリーたちが転移してくるや否やウェルリがいきなり俺に飛びついてきた。
他のハニーたちも目に涙を浮かべながら俺のもとへとやってくる。
確認すると……離ればなれになっていたハニーたちのすべてがいた。一安心だ。
「あ、やはりダンジョンマスターはダーリンが助け出したんですね。よかった」
「ん?シェリー、どういうことだ?」
「はい。ユリコさんとザシャア、そして、ダーリン以外のみんなとは、第8階層に戻ってきた際に合流できたのですが、ダーリンたちが見つからず……
転移でダーリンのもとへと行こうかとも話し合ったんですが、ユリコさんたちの姿もなかったので、取り敢えずみんなで一緒に周辺を捜すことになったんです。
それで……対岸にたどり着いた先にあった横穴を進んで行ったのですが……」
「そしたら、透明な壁に囲まれた部屋があったっす」
「その中で鬼畜の所行がなされようとしていた。その女性のピンチ」
ジーがシオンを指差して言った。
ハニーたちの話を聞きながら、ジーの魂の履歴に記録された映像を見せてもらうことにした。だが、当の本人であるシオンは絶対に見たくないだろう……
「シェリー。悪ぃんだがシオンを風呂に入れてやってくれねぇか。
それで、風呂から出たらこれを着せてやってくれ」
シオン用のハニー装備一式を生成し、シェリーに託す。
「承知しました。では、シオンさん。参りましょう」
「はい。では、上様、失礼します」
「ああ。ゆっくりと湯船に浸かってくるといいぜ」
「はい」
二人はテントの中へと入っていった。
あれ?そういえば……ユリコたちはまだ出て来ないな。大丈夫か?
逆上せてぶっ倒れているんじゃないだろうな?
……あ、出てきたか? ふぅ。よかった。
さてと、これでシオンに見られずにすむな。
ジーの記録映像により第8階層、ダンジョンマスターの部屋で何が行われていたのかを知ることとなった。
腸が煮えくり返る思いだ!
決まりだな。このシオンを凌辱しようとしたクソ野郎はフルボッコにしてから、ぶっ殺そう。
そうか。自身も隷従の首輪で精神支配された経験があるシェリーは、目の前で凌辱されようとしているダンジョンマスターの様子が変だと気付いたんだな。
ダンジョンマスターであるシオンは、目はうつろだが涙をボロボロと流していたもんなぁ……自身も経験済みだし、何度も見てきている姿だもんな。気付くよな。
なるほどな。これで途切れたようになってしまったシェリーからの念話の内容が漸く分かったぜ。ダンジョンマスターが精神支配されている上に目の前で凌辱されようとしているのを見たんだからなぁ……そりゃぁ、一大事だと思うよな。納得。
かつてのシオン教の聖女で、今はシオン教への信仰を捨てて俺の信者兼嫁候補になったマルルカが何やら言いたそうだ。
「シンさん、妙です」
「マルルカか。妙って、何が?」
「はい。私たちは教皇様の側近である聖女シュフィーア様を、このダンジョンから救出するためにここへ寄越されたのです。
アキュラスが言っていた事とも違いますし、シュフィーア様に襲いかかった男の言っていることが俄には信じられないのです。
あの男はデタラメを言っているんじゃないでしょうか?」
あの状況でデタラメを言うとは思えないけどなぁ……
「本当の目的の方は、戦士アキュラスと魔導士マリーネルカだけ知っていたのかも知んねぇな。お前さんとユリコは魂が綺麗だからなぁ。本当のことを聞いていたらアキュラスたちを助けようとは思わねぇだろう?」
「はい。それはもちろんそうです。女性が性奴隷にされる手助けなんて絶対にイヤです!手を貸したりはしません」
「だからじゃねぇの?
お前さんたちを利用するために嘘の理由をでっち上げたんじゃねぇのかなぁ」
無理矢理アキュラスの性奴隷にされ、このダンジョンで触手植物の餌食にされていたのを俺たちが助け、新しくハニーになった"ねこ族"のミョリムが言う……
「そういえばアキュラスが、『ここを攻略すれば新しい性奴隷が手に入る……』とマリーネルカに話しているのを聞きましたよ。
だから、やはりマルルカさんたちは騙されていたんじゃないのですか?」
「え!? ホント…シオン教っていうのは嘘ばっかり!もう絶対に信じません!」
マルルカは、ぷりぷり怒りながらテントから出てきたユリコのもとへ向かった。
多分、彼女…ユリコにも本当のことを教えるつもりなんだろう。
◇◇◇◇◇◆◇
誰もいなくなった第8階層。
ダンジョンマスターの部屋と思しき四方を透明な壁で囲まれた部屋の中で、男がただひとり呆然としている……
「シュフィーア!シュフィーア!?どこへ行った!?今すぐ戻ってこい!
これは命令だ!今すぐ戻れっ!…………ダメだ。どうしたんだ一体……
あの女……転移能力が復活したのか?となると厄介だなぁ……
いや、奴隷が勝手に転移などできねぇよな……何が起こったんだ??」
実は、シンは既にこの男をマップ上でマーキングしている。
シオンを転送で助ける際に、状況から判断して女性を手込めにしようとしているように思われたので、取り敢えずこの男をマークしておいたのである。
そして、もし想像通りだった場合……つまり、この男が女性を手込めにしようとしていた場合は、この男はボッコボコのギッタンギタンにした上でぶっ殺すつもりだったのだが……
シオンの話と、ジーの魂の履歴に記録された映像により、シンの想像通りだったことが……いや、想像以上にクソ野郎だったことが判明した。
精神支配下の抗えない女性を凌辱しようとしていたとんでもないクソ野郎だったのだ!
この男の末路は決まったようなものだ。恐らくは惨たらしい死が待っている。
そして、死後の魂にも安息はない。魂は地獄……"奈落システム"へと送られるに違いない。
もうこの男にはこの世界に逃げ場はない。
だが、この男にはそれを知る由もない。
◇◇◇◇◇◆◆
「シュフィーア様……私です。マルルカです」
シオンが風呂から出てくるとマルルカがシオンに話しかけた。
シュフィーアことシオンとマルルカは旧知の仲なのか?
シオン教徒だったから当然か……
「マルルカさん?どうしてここに?
シオン教の聖女であるあなたが……なぜ上様と行動を共にしているのですか?」
「勇者ユリコ様と私たちは教皇様からの依頼であなたを救出するために……
いいえ。そう騙されてこのダンジョンに来たのですが……
途中でシンさんと出会い、本当の、本物の神の存在を知って改宗したのです。
欺瞞に満ちたシオン教は捨てました。そして、近いうちにシンさん…上様の后になる予定です」
「マルルカ。実はな、この女性が前に話した俺の管理助手のシオンだ。
シオン教が見せてきた数々の奇跡を実際に起こしてきた、そのシオン本人だ。
つまり彼女が女神シオンってことだ」
「えっ!?そ、そうなんですか?
聖女シュフィーア様が……教皇様の側仕えの聖女様がシオン様!?えーっ!?」
「はい。私が上様の助手、シオンです。
数十年の長きに渡り、教皇シミュニオンに精神支配され続けてきて……
よ、漸く今日……うう……解放…されました……ううう……」
シオンは俯き、肩を震わせながら涙をボロボロ零している……
シオンの口ぶりから判断すると、どうやら、奴隷だったシオンの本当の所有者は教皇シミュニオンだったようだ。
シオンがこのダンジョンへ送り込まれる時に、教皇自らが一緒にここに来るわけにはいかないから、教皇は一時的にあのシオンを凌辱しようとした男にシオンへの命令権を与えたのだろう。
シオンは幼子が泣くかのようにおいおいと泣いている。
ああ…かわいそうで見ていられない……
俺は思わず彼女の手を引きギュッと抱きしめてしまった。何十年もの長き年月に渡る精神支配……さぞやつらかっただろうな…と思ったら我慢できなかったのだ。
「う、上様……上様ぁーーーっ!ううう……うわぁーーーん!」
シオンは俺の胸に顔を埋めて号泣する。
◇◇◇◇◆◇◇
ユリコがブラックドラゴンに凌辱されそうになったことを思い出した。
マルルカもユリコと同じ保険がかけてある。つまり、ハニーたちを攻撃しようとすると、即座にごく普通の女性レベルになってしまうのだ。
もうマルルカは完全に信頼してもいいだろうな。『保険』を取り除くか……
そうだ。シオンも管理助手レベルの能力にしてやろう。魂の色も管理助手たちと変わらぬ銀色のままだから、問題はないだろう……。
だが、管理権限を再び与えるのだけはまだやめておくか……念のためだ。
マルルカとシオンをテント内の俺の部屋へと連れて行き……
手早くプロパティ値等々を編集する。
シオンの方は名前を『シュフィーア』ではなく『シオン』に変更した。
「シオンとマルルカの基本システムをリブート!」
二人は再起動のために一瞬だけブラックアウトしたことに驚いている。
シオンが驚いた顔を見せているのはちょっと意外だった。久々の経験だったからなのかも知れない。
取り敢えずこれで二人ともちょっとやそっとではやられなくなった。一安心だ。
「酷ぇ目にあったんだなぁ……シオン。なんなら完全修復しようか?」
完全浄化は自分自身に施すことが可能であるが、完全修復の方は管理権限を持つ者じゃないと自分自身に施すことはできない。
シオンにはまだ管理者としての権限を付与していないため、シオンが自分自身に対して完全修復を施すことは、今は無理だ。
それで、彼女の希望を聞いて俺が施してやろうと思ったのだ。
「はい…是非…是非ともお願いします。
私はずっとそのう……上様に対する操を守り続けてきましたし、先ほども上様のお陰で凌辱されることはありませんでしたので、まだヴァージンなんですが、あの気持ち悪い男に身体中を触られて……どうも身体が穢されてしまったようなイヤな気分なんです。
ですから……完全浄化と完全修復を施していただけますと幸甚に存じます」
こ、幸甚!?ああ……やはりこの子の中身は俺と同じくらいの年齢なんだな。
は・は・は……。
「よし分かった。それじゃぁ、やるぞ!……完全浄化!……そして、完全修復!」
シオンの身体は一瞬だけ目映いばかりに光り輝き、光が収まると彼女は17歳の生娘に戻る……って、ほぼ変わらずそのままなんだが……。
「あ……ありがとうございます……うう……」
教皇シミュニオンは、その監視役の男、ガズーグという魔導士に対して、絶対にシュフィーアには手を出すなと厳命していたのをシオンは聞いていたのだが……
それなのに、その教皇の厳命があるにも拘わらず、その男はその命令を無視して彼女を凌辱しようとしたのだった。
教皇が彼女を大切に思っていたわけではないだろう……どうせ、アキュラスには生娘のままの彼女、シオンを差し出すとでも約束したんだろう。
教皇も、アキュラスも、このガズーグというクソ野郎も全員許せない!
だが、アキュラスは既に処断済だし、教皇についてはまずはシオンの身体を取り返してから、色々なことを全部まとめて思い知らせてやるつもりだ。
ということで、取り敢えずは実際にシオンを凌辱しようとしたガズーグっていうクソ野郎を懲らしめることにしよう……。
クソ野郎がっ!絶対にぶっ殺す!楽には殺してやらないからなっ!絶対にっ!
しかし……アキュラスの野郎はもっともっと懲らしめてやるべきだったかもな!
マップでガズーグを捜す……いた!
ダンジョンマスターの部屋にどうやらまだいるようだ。
「なあ、シオン。そのガズーグって野郎を今からぶっ殺すつもりだが、お前さんはヤツに復讐してぇか?」
「はい。悔しくてつらくて怖い思いをさせられた……
腸が煮えくり返るこの思いを晴らすためにも是非とも私に復讐させて下さい!
お願いします!」
「分かった。それじゃぁ、ヤツをそこ、そのシールドのすぐ外へと転送するから、攻撃の準備をして待っていてくれ。
あ、それから、さっき説明した極薄シールドを展開するのを忘れるなよ」
シオンも当然だが俺の庇護下に置き、ハニー装備一式を装着してもらっている。
シオンは俺が与えた指輪、この子も左手の薬指に嵌めている……をサッと撫でて極薄シールドを展開すると、俺の顔を見ながら大きく頷いた。準備OKらしい。
「よし!それでは……転送!」
「……はっ!?な、なんだぁ??ここはどこだ?」
ガズーグという魔導士の男はあたりをキョロキョロと見回している……
「なんだ?お前らは?おいっ!小僧!ここは一体どこだ。
お前らが俺をここに連れて……
あっ!?シュフィーアじゃねぇかっ!お前、こんなところにいやがったか!
なんでそいつらと一緒にいやがるんだ!?
さあ、こっちへ来い!さっきの続きをするぞ!いいなっ!」
俺たちが男を睨みつけていることに、そして、シュフィーアことシオンがヤツをじっと睨みつけていることに気が付いたようだ。
クソ野郎は状況を無視して、調子ぶっこいたことをぬかしている!
「おいっ!ガズーグ!てめぇ、クソ野郎!よくも俺の大切なこの女性をおもちゃにしてくれたなぁ?てめぇは絶対に許さねぇからなっ!
どうか殺してくれと懇願するくれぇボッコボコのギッタンギタンにぶちのめしてから、ぶっ殺してやるから覚悟するんだな!」
「教皇様はシュフィーア様に手を出してはダメだといったんでしょ!?
勇者ユリコ様と私たちがシュフィーア様を助けに来たというのに!なんてことをしたんですかっ!絶対に許されませんよ」
マルルカは、自分がまだシオン教徒であるかのような口ぶりで教皇を持ち出してガズーグを糾弾する!
「けっ!お前たちはなんにも知らねぇんだなぁ。お笑いだぜ!」
「なんですって!?どういう意味なの!?」
「教皇様はなぁ、その女を助けるどころかなぁ、戦士アキュラスが神都に攻め込む報酬として…、性奴隷としてヤツに与える約束をしたんだぜ。
アキュラスと一緒に行動してたんだろう?なんにも聞かされていねぇのかよ?」
「そんなことは、アキュラスはひと言も言っていなかったわよ!
私はシュフィーア様を助けに行くとしか聞いていないわ!」
「本当のことを聞きゃぁ、お前たちが絶対に反発するだろうからなぁ。
めんどくせいことになるのがイヤで、アキュラスは言わなかったんだろうぜ」
やはり想像していた通りのようだな。
マルルカたちもこれでよく分かっただろう。
「まさか魔物溢れに乗じて神都を襲い、神の后どもを隷従の首輪を使って拘束し、性奴隷にするために連れ去るのが任務ってことも聞いていねぇのか?」
「ば、バカなっ!そ、そんなの初めて聞いたわよ!嘘でしょう?」
「なぜ嘘を言わなきゃならん?バカじゃねぇのか?あのなぁ……
お前たちが第8階層に来るちょっと前だが、聖都からこのダンジョンにレッサードラゴンに乗って教皇様からの使者がやって来たんだぜ。
で…この部屋まで来て、魔物溢れが成功したらすぐにその女をアキュラスに引き渡すように俺に指示していきやがったんだよ!ったくよぉ!
その時に詳細を聞いたんだから間違いねぇ。嘘だと思うんなら帰ったら教皇様に直接聞いて見ろ。俺が言っていることの方が正しいってことがハッキリするぜ」
「……」
マルルカは黙り込む。
「へっ!俺んところに来た使いのヤツは、アキュラスはそのことをよ~く知ってるはずだと言っていたぜ?」
「そ、そんな……」
「けっ!本当になんにも知らされていねぇんだなぁ?
俺にはよく分からねぇんだが、なんでもその女が持っていた管理権限とかが無くなっただかとか、使えなくなっただかとかで、もう役に立たねぇらしいな?
だから、神都へ攻め込むことを条件にシュフィーアをアキュラスへの報酬としてくれてやることにしたってことらしいぜ」
ここまで言うとガズーグはニヤリと下卑た笑いを浮かべる……
「教皇様の厳命でシュフィーアに手を出すのをずっと我慢してきたんだがなぁ……
シュフィーアはあのアキュラスの野郎にはもったいねぇ上玉だろ?
アキュラスにそのまま渡すなんざアホらしくなっちまってなぁ。ははは。
だから、ヤツに渡す前にこの俺様が先にかわいがってやろうと思ったんだよ。
さあ、シュフィーア!命令だっ!続きをするぞ!さあ!こっちにこ……」
「しし……」
「四肢粉砕!」
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!
俺じゃないぞ。ノアハだ!
俺が"四肢粉砕!"と唱え終わる前に既にノアハが発動していたのだ!
自身も凌辱されたつらい過去を持つ彼女にはとても黙って聞いていられなかったのだろう。その気持ちは分かる。
シオン、そして、他のハニーたちも全員が怒りの表情を浮かべながらわなわなと震えている。クソ野郎のガズーグは女性たちすべてを完全に敵に回したのだ!
「ダーリン!ここは私に指揮権を下さい!」
「お、おう。シェリー、分かった。お前さんに任せる。
ただ、シオンにキッチリと復讐させてやってくれよ?頼んだぞ?」
「はい!もちろんですっ!」
ガズーグはあまりの痛さに意識を手放してしまったようだ。
「取り敢えず……修復!」
「……はっ!? はぁはぁはぁ……な、なにしやがるんだっ! くっそうっ……」
シェリーは振り返り、ハニーたちの方を向く……
「ヴォリル、ミョリム、ラヴィッス!あなたたちはあの男の修復に徹して!」
「「「はいっ!」」」
「バジリドゥ!あの男の足だけを石化できる?」
「はいっ!できますっ!」
「では、やってっ!」
「はいっ!石化っ!」
クソ野郎、ガズーグの膝から下だけに超速乾性コンクリートが出現して、即座に固まった。男はこれから何をされるのか不安なのか脂汗をダラダラと流し始める!
「リガーチャ、スサク、リクラ、トフル!」
「「「「はいっ!?」」」」
「あなたたちは、私たちが万が一怪我を負った時に備えてダーリンの横で待機していて! いつでも治癒系神術を施せるようにしていて!」
「「「「はいっ!承知!」」」」
「いい?みんな!物理攻撃はデコピンのみ!
攻撃神術も含めて即死するような威力のものは厳禁よ!いいわね?分かった!」
"はいっ!"
おやおや……どうやら今回は俺の出番はないかも知れないな。ははは。
「ダーリン!」
うっ!?俺の出番もあるのか?
「俺はどうすればいいんだ?」
「はい、もしもあの男が死んでしまった時には、お手数ですが、すぐに蘇生させていただけませんか?」
「おう。お安いご用だぜ!簡単には死なせねぇてんだな?」
「はい、そうです!」
「分かったぜ」
「さあ、みんな!シオンさんをメインに、あの男に女性をおもちゃにしようとしたことへの報いを受けさせましょう!」
"おーーーっ!"
クソ野郎のガズーグは、ボッコボコのギッタンギタンにされるだろうな……
「ダーリン」
「なんだザシャア?」
「性犯罪者には去勢が必要でしたね?」
ああ。さっき俺がブラックドラゴンを倒した際に言ったことを覚えていたのか。
「あ、ああ。まあな」
「うふふふふ。さっき見本を見せていただいた通りにやればよろしいんですね?」
「お、おう。そ、そうだな」
「分かりました!みんなにも言って、しっかりと踏んづけてやります!」
ちょっと想像して身体がビクッと反応してしまった………
「あ、ああ……た、頼む」
うわぁ~。
◇◇◇◇◆◇◆
クソ野郎のガズーグは泣き叫びながら『どうか殺してくれ』と懇願していたが、女性たちは許す素振りを見せない……
結局は、見かねた翠玉から、彼女の郷のアマゾネス・オークに子種を絞るためのオスとして提供するという提案がなされたことで漸く男への制裁は終了することになった。
ガズーグはこれで制裁が終わるのかと思ったのか、一瞬だけ、ホッとした表情を浮かべたがすぐにアマゾネス・オークという言葉を聞いて顔面蒼白になる……
考えてみればシオンへの暴行は未遂に終わった。
科された刑罰は適正だったのか?……うん。考えるのはよそう……
無抵抗の婦女を暴行しようと行動を起こした時点でアウトだぜっ!
当然だが、"輪廻転生システム"のブラックリストにコイツの魂を登録したことは言うまでもない。
◇◇◇◇◆◆◇
シオンは彼女が教皇シミュニオンの奴隷にされてしまった経緯については、一切話したがらなかった。今、ここでは話せないと言う。
地球に旅立つ前の俺との約束があるから軽軽には話せない。それは上様も覚えていらっしゃるはずだと言い……
当時、俺と対立していたように周りの思わせていたのも、すべてが俺の指示だということを、それとなくほのめかせていた。……何か裏があるんだな?
それで俺は、彼女は覚えているはずだと言うが俺はかつての記憶を完全に失ってしまっているため、その正否を確かめる術がないことを彼女には正直に話すことにした。
俺は地球で、すべての記憶を消し去られ、強制的に日本人として転生させられてしまったことや、つい最近この惑星に戻ってきたことなど、これまで俺が経験してきたことを語って聞かせたのだ。
だから、どんな約束をしたのかも含めて詳しく話して欲しいと頼んだんだが……
やはりこの場では話せないと言う。
彼女の話しぶりからすると……どうやら、ハニーたち、つまり、実験対象となるヒューマノイドたちがいる前では話せない内容のようだ。
ただ、俺が記憶を失っていると知って、俺と管理助手全員には話してもいいとは言っている。
だが、事はこの惑星の管理、及び、進行中の実験に係わる内容なので、俺と管理助手たち全員が揃う場所で、それ以外の者には絶対に聞かせないことを条件とするのなら話してもいいが、そうじゃないと話せないと頑なに言うのだ。
それゆえ、近いうちに司令部で、彼女が希望した条件を満たす場を設けることを約束して、その場で事の真相をすべて話してもらうことにし……
シオンを助け出すことに成功し、彼女の肉体は奪われてしまっているが魂の方は無事だったことを報告するためと、管理者会議開催の日程調整をしてくれるように依頼するために、シオリと念話で連絡をとった。
取り敢えず、シオンが話そうとしているだろう内容が、以前シオリが俺に話してくれた内容とは異なっているようだということはシオリには伏せておいた。
◇◇◇◇◆◆◆
第8階層へとみんなで戻り、ダンジョンマスターの部屋の中に転移してその中に野営用のテントを設置した。今夜はそこに泊まる。
俺が新たなダンジョンマスターになり、このダンジョンの掌握をするのは明日にしたのだ。
夕食の団欒を後ろ髪を引かれるかのような思いの中で終え、後片付けもみんなで行い、今は自室に戻ってきている。
まだ就寝にはちょっと時間は早いのだが特にすることもない。
ベッドに横になりながら、久々に大学生だったころによく聴いていたジャズでも聴こうかと思っていると……
トン…トン!
入り口のドアが、遠慮がちにノックされた。




