第075話 徒労に帰す?無用の用?
ズッガッ!…………
「上様!」「ダーリン!」「きゃぁっ!ダーリン!」
『断崖に立つ男』が俺の前を歩いていく……。
テントから十分離れたかと思った瞬間である。突然、クソ野郎が振り向きざまに右フックを俺の左脇腹に叩き込んだのだ!不意打ちである!
俺の脇腹に叩き込まれた拳はそのまま斜め上方へと振り抜かれ……
その勢いで俺は右上方へともの凄い勢いで飛ばされてしまったのだ!
戦いの場所からぐんぐんと離されていく……
人型になっているとはいえ、さすがはレッドドラゴンだ。そのパワーはすごい。
俺たちの戦いを見ようと全員がテントを出て見守っていた……
そうした中、全く予想していなかったのだろう……俺が殴り飛ばされるのを目の当たりにしたディープレッドとハニーたちから悲鳴に似た声が上がったのだ!
ディープレッド、そして、ハニーたちに念話回線を繋いで言う……
『みんな大丈夫だ。不意打ちを食らったが、ヤツのパンチは全く効いていねぇから安心してくれ。 さてとそっちに戻ろうかな……転移!』
空中から『断崖に立つ男』の背後へと転移した。
ちょっとからかってやりたくなったのだ。
「ガハハハハハハッ!なぁ~にが神だぁ!へっ!口ほどにもねぇっ!一発で終わりじゃねぇか!?
あれぇ?見えねぇぞ?一体どこまで飛んで行っちまったんだろうなぁ?
ガァーーハッハッハッハッ!ガァーーハッハッハッハッ!」
どうやらご満悦の体だ。
『断崖に立つ男』は勝利を確信し、得意げに高笑いする。……アホだ。
ヤツの背中をツンツンと突っつく……
「なんだよぉ、ったく!今いいところなんだから邪魔するな!」
ツンツン……
「ええぃっ!鬱陶しいっ!邪魔するなっつってんだろうがっ!」
『断崖に立つ男』が後ろを見るために顔をちょっとだけ横に向け、流し目を送るようにチラリと後ろを見てから再び俺が飛ばされて行った方向を見た。
その直後、男の背中がビクッとした!
男は前を向いたまま暫時身体を硬直させると、恐る恐るという感じでゆっくりと身体を右にひねりながら、後ろを見ようと首を回す……
その首は、まるで錆びた金属でできているんじゃないかと思えるような、そう、『ギギギギギギッ』と軋む音が聞こえて来そうな動きであった。
どうやら漸く俺が後ろにいることを認識したようだ。
「くそっ!食らえっ!」
俺を視認するや否や……
ヤツは一旦右腕を曲げながら右拳を自分の胸の前へと持って行ったかと思うと、次の瞬間手の甲を外へ向けて振り出し……身体を右へと回転させながらその回転の勢いをも右拳に乗せて手の甲を俺の顔に叩き付けようとしたのだ!
そう、今度は振り向き様に右手の裏拳を俺の顔に目がけて放ったのだっ!
さっき脇腹に撃ち込まれたパンチでヤツの力量はつかめた!……と思っていた。
俺は自信を持ってヤツの裏拳を右の手の平で受け止める!……はずだった。
ガッ!グワシャッ!ブチッ!…ブン…ブン…ブン……
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!
"きゃぁぁぁぁっ!"
『断崖に立つ男』は絶叫し、ハニーたちからは悲鳴が上がった!
えーーっ!?めちゃめちゃ加減してソフトに受け止めたつもりなのにっ!?
あちゃぁ~~~っ!
また失敗してしまったのだ。そう、力加減をっ!……とほほ。
ヤツの裏拳を止めるために、俺は右の手の平を前へと突き出しながらヤツの拳をキャッチしたつもりだったんだが……失敗してしまった。
ヤツの拳は潰れ、腕は付け根からちぎれ……
まるでブーメランが飛んで行くかのように回転しながら、そして、あたりに血をまき散らしながら飛んで行ってしまったのだ!
『断崖に立つ男』は地面でのたうち回っている。
レッドドラゴンも人型に変身すると身体はもろいようだ。
人型だからもろいん……だよな?それともレッドドラゴンってこの程度なのか?
「修復!」
「はぁはぁ……な、なにしやがるんだっ!い、痛ぇじゃねぇかっ!」
なんという甘ちゃんなんだ、コイツはっ!?
命のやり取りをしている最中だというのに『なにしやがるんだっ!』だって?
「殺し合いをしている最中だろうが!?
なにしやがるもへったくれもあるかってんだ!ったく!
それに、てめぇの卑怯な不意打ち2発をただ受け止めただけだっつうのっ!
てめぇが勝手にひとり相撲しているだけじゃねぇかっ!このクソボケがっ!
まだ俺は一度も攻撃してねぇだろうがっ!このスットコドッコイ!」
男は一瞬たじろぐが……
「う、うるせえっ!だ、黙れっ!」
「俺が何にもしてねぇのにその様だぜ?悪ぃことは言わねぇからさあ……
俺とディープレッドに詫びて命乞いしろ!今なら許してやるぜ?どうだ?」
「う、うう、うるせえっ!うるせえっ!誰が謝るかってんだ!
くっそうっ!俺が本来の姿なら……ドラゴンの姿なら負けねぇのにっ!」
はぁ~。
「俺は何も人型で戦えとはひと言も言ってねぇぞ?
なりたきゃ、ドラゴンでもなんでもなりゃぁいいじゃねぇか?ほら、なれよ!」
「ガハハハハハハッ!バカなヤツだ!後悔するなよ!」
そう言うと、ヤツの身体が一瞬輝き……
その輝きが収まるとヤツは体長が10m近いレッドドラゴンへと変身した。
人型の時は2m弱だったから、体長だけでもおおよそ5倍になったことになる。
「どうだっ!死ねっ!」
バァーーーーンッ!ブ…グチャッ!
……ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!
ヤツは本来の姿であるドラゴンタイプに変身するや否や、またしても不意打ちを食らわせようと俺を右手、いや、今は右前脚か?……を俺の頭の上から叩き付けたのである!
そう。まるで地面を這う虫を手で叩き潰すかのように、前脚と地面との間で俺を圧殺しようとしたのだっ!
だが、ヤツのその思わくは外れる。それどころか、ヤツにとってはとんでもないことに……痛い結果に終わってしまったのだった。
俺の身体がヤツの右前脚を突き破ってしまったのである!
俺の身体は足首くらいまで地面に埋まってしまったが、俺はなんともない。
ゾウの足で踏んでも壊れないようなモノでも、ずっとずっと体重が軽い女性が、ピンヒールで踏むと壊れてしまったりする。
地面に置かれた鉄の板を手で叩いたって平気だろうが、地面から突き出た鉄釘を手で叩けばその鉄釘が手の平も手の甲も突き破ってしまうことも起こり得る。
圧力。単位面積あたりに働く力について思考を巡らせていたら、ヤツがやろうとしたことがいかに愚かで危険な攻撃であるかに気付いたのであろうが……。
極薄シールドを身に纏った俺は『硬い』。非常に『硬い』!
それまでの2回の攻撃で、俺の『硬さ』は身を以て知っていたはずなのに……。
先端は尖っていないにしても、そんな地面に突き出ているかのような硬いモノ、そう、この俺を上から思いっきり叩けば、そりゃぁ足の裏も、足の甲も突き抜けるわなぁ……。
ん?そうか。日本人として普通に教育を受けてきた俺には当たり前の思考でも、この世界ではまだ物理学の研究すら始まっていないようだし、今回のような結果を招く愚かな行為であることを、ヤツだけじゃなくて、他のヤツらであっても事前に予測することは難しいのかもなぁ……。
せめてハニーたちには、古典力学の初歩の初歩程度の知識は持ってもらった方が良さそうだな……こんど勉強会でも開くかぁ……。
「修復!……てめぇも懲りねぇヤツだなぁ。また不意打ちしやがって……」
「はぁはぁはぁ……う、うるせえっ!俺は肉弾戦は得意じゃねぇんだよ」
ああ……負けず嫌いだ。実力もないのに妙なプライドだけはいっちょまえだ。
「なにを言ってやがるんだ?得意じゃねぇもなにも、てめぇは自分が放った攻撃で勝手にダメージを受けてるだけじゃねぇか?俺はまだ何もしてねぇぞ?」
「俺が得意なのは……これだっ!」
ゴォォォォォォォォォォォォーーーッ!
「うっ!……」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁーーっ!ダーリン!…ふぅっ……」
「えっ!? そ、ソニアルフェ!?ソニアルフェ!しっかりしてっ!?」
「ガハハハハハハッ!どうだ!今度こそやっただろうっ!?ガハハハハハハッ!」
今度は『断崖に立つ男』は高威力の火炎を放射してきたのだ!
放射された最大威力の火炎が俺へと襲いかかり、俺は炎に包み込まれてしまう。
傍から見ると、火達磨になりながら俺はそのまま焼き殺されてしまうかのように見えたに違いない。
今歓喜している『断崖に立つ男』の、その喜びが糠喜びに終わる時にどのような表情を見せるのかを見たいといういたずら心を抑えきれず、暫くは、されるが儘にして、その場に突っ立っていたから余計にそう見えたに違いない。
その様子を見たソニアルフェが悲鳴を上げながら、俺がやられてしまったのではないかと思ったのか気を失ってしまったのだ。
ソニアルフェが倒れそうになったところをシェリーが抱きとめ、介抱している。
あちゃぁ~、ハニーたちには無用の心配かけてしまったかぁ……。
念話で俺が無事であることを知らせておいた方がいいな。
『みんなぁ。俺は大丈夫だから安心してくれ。 ヤツの反応が見たくて、やられたふりをしているだけだからな。心配させて悪かったな。申し訳ない』
そうこうしている内に、暫く続いていた火炎放射も収まった。
俺は笑いを堪えながら男に話しかける……
「よう?嬉しそうにしているところを悪ぃんだがなぁ。俺は無事だ。無傷だぜ。
てめぇの攻撃なんざ全然効いてねぇぞ?ははは。残念だったなぁ。あははは」
「な、なにっ!?そ、そんなバカなっ!……くっそうっ!」
ズッガーーーーーーーーンッ!
「ガーッハッハッ!どうだっ!さすがに最大威力のファイヤーボールを食らっては生きてはい……いる?えーーっ!?なんでーーーっ!?」
『断崖に立つ男』はアゴが外れんばかりに口を開けて、目が飛び出さんばかりの表情をしながら驚愕する。
「おいおい。レッドドラゴンが放つファイヤーボールだからちょっとだけ期待したのになぁ……本当に今のが最大威力なのか?あんなので最大なのか?嘘だろう?
あれだったら、俺のハニーたちが放つファイヤーボールの方がすげぇぞ?」
「……」
「さあ、もういいかな?今度は俺が攻撃するぜ?」
そう言いながら、右の手の平をヤツに向けて突き出して烈火弾を生成する。
その大きさはゴルフボールほどだ。
「はあっ!?お前、神だってぬかしてやがるが本当はアホだろう?
まさか火属性の攻撃かよ? はっ!笑わせるぜ! 俺はレッドドラゴンだぜ?
火属性の攻撃に対する耐性はバッチリ完璧だぜ? はは。それをよりにもよってファイヤーボールで攻撃してくるたぁ……アホだな。ガハハハハハハッ!」
『断崖に立つ男』は攻撃を受ける前からまるで勝ち誇ったかのようだ。
まるで『ほら早く撃てよ』とでも言いたげだ。自信満々といったところか?
俺はそれが、つまり、レッドドラゴンの火属性攻撃への耐性がどれほどなのかを後学のために知りたかったのだ。何の考えもなくこんな攻撃はしない。
ただ、火属性だがなんか烈火弾ならヤツらレッドドラゴンたちにも通用しそうな気がしている。単なる俺の勘なんだが……
「烈火弾よ、行けっ!」
ズウンゥンゥン…………
烈火弾はゆっくりとだが確実に『断崖に立つ男』へと一直線に進んでいく……
「なんだそのしょぼいファイヤーボールは?
そんなものは片手で弾き返してくれるわっ!ガハハハハハ……ハァ?……
ぎゃあああぁぁぁぁぁぁっ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!痛ぇ!
う、腕がぁっ!?腕があーーーーっ!?…………」
ヤツは余裕を持って右手で烈火弾を弾こうとしたようだが、烈火弾がヤツの手に触れる前に、ヤツが前に突き出していた腕が!なんと肘の近くまで消滅したのだ!
灰も残らず、肘から先の腕が一瞬で焼失してしまったのだ!
『断崖に立つ男』はあまりの激痛に暫くのたうち回った後、意識を手放した。
ヤツに触れることがなかったので、烈火弾はまだ空中を先へ先へと進んで行っている。消えていない。
このままでは見物をしている者たちの方へと行ってしまうので、仕方なく軌道を変えて宇宙空間に向けて高速で打ち上げてやった。サイズも小さいし、大気圏外に出る前には消滅することだろう。
な~んか通用しそうな気がして試しに烈火弾を撃ってみたんだが……
なぁ~んだぁ。烈火弾でもレッドドラゴンに通用するんじゃないかっ!?
なんだ……俺たちのフェイザー銃連続攻撃の練習は一体なんだったんだ……。
とほほ。いや。人生に無駄なことなんてないっ!きっとその内に役に立つこともあるっ!……と信じたい。ふぅ~。
◇◇◇◇◇◇◇
『断崖に立つ男』の肘から先の腕は焼失したため、傷口からの出血はない。
意識を失っているので放置して、念話でディープレッドにコイツの身元について話を聞いた。このまま殺しても問題が生じないかを一応確認したかったのだ。
ディープレッドの話では、レッドドラゴンの郷には三大名家が存在するらしく、現在はその三大勢力の均衡はうまく保たれているらしい。
『断崖に立つ男』……この男は、その勢力を三分している"三大名家"の内のある一族の跡取り息子だということであった。
『ということは、ディープレッド。つまり、こいつを殺すとレッドドラゴンの郷の勢力バランスが崩れてしまう可能性があるってことか?』
『はい。まず間違いなく……崩れてしまいます』
コイツを始末することで、レッドドラゴンたちの間に無用の波風を立ててしまいかねないことがわかった。
初めはこの男はぶっ殺しても構わないと思っていたが、ダメだな。コイツは殺せないな。
『分かった。それじゃ、コイツはぶっ殺せねぇな』
『はい。鬱陶しいヤツではありますが、できれば生かしておいていただけますと、私どもといたしましてはありがたいです』
『ああ。そうするよ。さっきの攻撃でヤツの心が折れているといいんだがなぁ。
さもないと、もう少し痛めつけなきゃならねぇからなぁ。面倒くせえなぁ』
『ご迷惑をおかけしてしまって大変申し訳ございません』
『いやいや。お前さんが悪いんじゃねぇよ。気にするんじゃねぇよ。いいな?
ここでキッチリとけりをつけておかねぇと、コイツがお前さんに付き纏ってくるかも知んねぇからなぁ。ボッコボコにしてやらねぇとな。
とにかくコイツの心をへし折ってやってお前さんのことを諦めさせねぇとな。
大切なお前さんを守るためなんだ。全然迷惑なんかじゃねぇから気にするな』
『ははっ!ありがとうございます!』
さてと……まずは怪我を治してやるとするかぁ……
「修復」
ディープレッドとの話が一段落し、『断崖に立つ男』の怪我を治療してやった。
すると男はすぐに意識を取り戻す。
「……うう……ううう、うーん……」
「どうだ?まだやるか?
やるってぇのなら、今度は容赦はしねぇぞ? 全力でぶっ殺しに行くからな?」
「い、いえ。も、もも、もうやりません!ま、参りました。楯突いて申し訳ございませんでした。どうか勘弁して下さい。お願いします!」
「じゃぁ、約束しろやっ!
俺の大事なディープレッドは絶対に!てめぇなんかにゃ渡しはしねぇからな!
いいかっ!?今後二度と彼女には近寄らねぇと約束しろ!分かったな!?
さもねぇと……」
強烈に威圧しながら……
「てめぇを含めて一族郎党すべて………ぶっ殺す! いいな?」
「ひぃぃっ!わ、わわ、分かりました!に、二度とクイーンには近づきません!
や、やや、約束します!約束しますから、どうか!どうかご勘弁をっ!」
俺のことをなにも知らないヤツがこのやり取りを見ると、絶対に俺の方が悪者に見えるだろうなぁ……。ん?
あれ?ディープレッドが頬を紅潮させているぞ?どうしたんだ?
俺はまたなにかやらかしたのか?
『断崖に立つ男』はその後、一族の者たちからこっぴどく叱られたらしい。
◇◇◇◇◇◇◆
「ダーリン!よ・かっ…たぁ……ううう……」
意識を取り戻して俺の顔を見たソニアルフェは、そう言ったかと思うと、身体を起こしながら俺に抱きついて、おいおいと泣き出したのだった。
つい今し方まで意識を失って寝ていた彼女の側で跪いて様子を窺っていた俺は、その、ソニアルフェらしからぬ行動に少々驚いた。
こんなに泣くなんてなぁ。心配かけてしまったんだなぁ。
いとおしくて、いとおしくて、俺も彼女をギュッと抱きしめ……
「心配かけてすまなかった。俺はこの通りピンピンしているから安心してくれ」
「ううう……うわぁーーーん!よかったぁーーっ!」
他のハニーたちも俺たち二人を囲むように皆が跪いた。
そして、もらい涙なのだろうか……みんなは、涙を浮かべながら俺たちに優しい眼差しを向ける。
「みんなが心配した。ダーリンに要求する。……」
「ああ。分かっているって、ジー」
いつものパターンだ。
結局、ユリコとオークドゥを除く全員と抱擁することになったのだった。
みんなとの抱擁が終わったのを見てユリコが俺に近づいてきた。目はなんとなくうるうるしている。
「ホント、瞬殺できる相手だったら遊んでないでサッサと片付けてよね。
ソニアルフェさんじゃないけど、火炎放射をあなたが浴びた時には……あなたがやられちゃったんじゃないかとみんな……いいえ、私、心配したんだからね!
もう……お願いだからあんなまねはしないで……」
そう言い終えると俺に抱きついてきた。胸に顔を埋めてしゃくり上げる。
ユリコがたまらなくいとおしい!暫し逡巡するが思い切って俺も彼女をギュッと抱きしめたのだった。
◇◇◇◇◇◆◇
砂漠地帯に設置した野営用テント内の食堂で、パーティーメンバーたちとティータイムを楽しんでいる。
「それで、ディープレッド。あの階層にはお前さんたちレッドドラゴンだけがいたのか?他の敵に関する情報があったら教えてくれねぇかな?」
「はい。もちろんです。私が知っていることならなんでもお話しします」
「ありがとうな。よろしく頼む」
「まず、私たちのいたエリアを抜けますと、次に待っているのはブルードラゴンの群れです。彼等は肉弾戦の他にも水属性の魔法攻撃を行ってきます。
ですから相性が悪くて、私たちレッドドラゴンは彼等には敵いません。
ただ、私たちにとっては強敵ですが、みなさんにとってはどうなのか……正直、分かり兼ねます。
あ、それから、彼等、ブルードラゴンがいるエリアは湖になっています」
「なるほど。湖エリアか……船が必要になるかも知れねぇな。
それで……ヤツらとは話し合いができるだろうかな?」
「無理だと思われます。人族の言語は解しませんし……
彼等は力こそが絶対だと考えており、強い者に従う性質があります。
非常に好戦的です。出会った瞬間に戦闘が始まるものと思われます」
「なるほどな。リーダーをぶっ飛ばして言うことを聞かせるか……いっそのこと、殲滅した方がいいかもなぁ……。
ところで、ヤツらのリーダーというのは男か?」
「いえ。女です。ドラゴン種族の多くは女王が君臨しています」
「そうか……それで、そのブルードラゴンのエリアを抜ければ第8階層はクリアになるのか?」
「いえ。その後にはブラックドラゴンが控えております。それは1匹だけですが、ドラゴン種族の最上位種で、肉弾戦能力も高い上に、厄介なことに重力系の魔法と闇属性の魔法も使えますのでかなりの強敵です。もちろん、火炎放射等の火属性の攻撃も得意としていますので注意が必要かと存じます。
そして、最後、第8階層の最深部にある部屋にダンジョンマスターがいます」
「え?ダンジョンマスターの部屋が第8階層にあるのか?マップで確認するとまだ何階層か下にあるようなんだが……そうなのかぁ。いよいよ先が見えてきたな!」
「はい。今のところは第8階層が最深部です。ただ噂ですが、ダンジョンは勝手にどんどん広がっているらしいです」
「へぇ~、そうなのかぁ」
>>マスター。横から失礼します。……補足します。
現在攻略中のDJ0014型ダンジョンの仕様書によりますと、デフォルトで最大20階層まで作成可能ということになっています。
ダンジョンマスターが階層数を特段指定しない場合は、自動的に20階層まで徐々に拡張されていきます。
自動拡張された階層はデフォルトでは空の状態で、魔物もなにも存在しません。
階層内の魔物やトラップ等々の配置や区画割等のデザインについてはダンジョンマスターが別途行う必要があります。以上、補足致します。
<<なるほど。ありがとう、全知師。
「それで、そのブラックドラゴンも女性なのか?」
「いえ。ヤツはオスです。無類の女好きで、絵に描いたかのようなひひ爺タイプの男です。ただし、ヒューマノイド種族の女性にしか興味を示しません」
「うわぁ。最後の最後で女性の敵の親玉みたいなヤツが待ち構えていやがるのか?
これは十分に対策を練ってからじゃねぇとマズいなぁ。ハニーたちに嫌な思いはさせたくねぇからなぁ……。
しかし、重力系の魔法はともかく、闇魔法ってのが気になるなぁ……」
<<全知師。
俺や現在のパーティーメンバーたちに対しても、闇魔法は有効なのか?
>>お答え致します。
マスター、及び、マスターの庇護下にある者たちに対してはすべて無効です。
魔法の発動前にすべて強制的にキャンセルされます。
また、発動されたと仮定しても現在同行中のメンバーの内、ディープレッドとバジリドゥを除き、マスターが授けた耐性があるためダメージを受けることは一切ありません。
<<質問は以上だ。ありがとう、全知師。
どうやら闇属性魔法も、恐るるに足らぬようだ。まずは一安心だな。
一発で死に至るような強力な魔法は、俺はもちろん、俺の庇護下に置かれている者たちに対しても、使えないようになっているようだ。
放たれた魔法を途中で打ち消すのは困難であるため、発動前にキャンセルされる仕様のようである。
だが、魔物たちも普段は俺たちを襲って来ないのだが、ダンジョン内の魔物たちのように襲ってくるという例外もある。
だから、俺たちに対しては使えない禁則魔法であっても、何らかの例外もあると見ておいた方が無難だろう……油断は禁物であり大敵だ。
そう言えば……バジリドゥもディープレッドも、名前を授けただけでまだ加護をしてなかったな。魔物だから、ブラックドラゴンがちょっかいを出してこないかも知れないが、二人とも凄い美人だし、万が一って事もあるからなぁ。
バジリドゥには命名後にハニー装備一式をプレゼントしたので、てっきり加護もしたものだと思い込んでいた。早く気が付いて良かったぜ。
さてと、まずは彼女たちを加護しなくちゃな。
◇◇◇◇◇◆◆
バジリドゥとディープレッドはあれからすぐに加護したことは言うまでもない。
そして、当然、ディープレッドにもハニー装備一式をプレゼントしてある。
ディープレッドは深紅の鎧も格好良かったが、黒のキャットスーツもとてもよく似合う。バッチグーだぜ!
ディープレッドを除くレッドドラゴンたちを、彼等の郷へと送り届けてきた。
彼等の郷はこの未開の砂漠地帯と神国との境界付近、神国北西部に連なっている山岳地帯にあった。
ん?ハニーたちが何やら相談しているぞ?なんだろう?
「どうしたんだ?何か問題でも?」
「いえ。折角この砂漠地帯に来ているんですから、どうせならみんなで攻撃神術を練習しましょうという話になりまして……」
シェリーの答えを受けてミューイが口を開く……
「うん。でね。ここでダーリンの帰りをみんなで待ってたの」
「我らの提案を了承しますか?」
「ジー。もちろんだとも了承するよ。ちょっと待っててな、今から練習相手となるゴーレムを生成するからな。
う~ん……今度はゴジ○タイプにするかな。相手がブラックドラゴンだしな」
「ゴ○ラってなんっすか?」
うっ……説明するのが面倒くさいな。
「えーっと。今から生成するゴーレムにそっくりの生き物だ」
初めはドラゴン風のゴーレムにしようかとも思ったのだが……ディープレッドもこの場にいるので、さすがにゴーレムであってもドラゴンを敵に戦うのはちょっと無神経だと気付いて思い直し、ドラゴンとは姿形は異なるがなんとなく近いモノである○ジラ風ゴーレムを生成することにしたのだ。
「あらあら。今度のゴーレムはゴジ○なのね?うーん。私はどちらかというと首が3本あるキン○ギドラの方が良かったかな?うふふ」
「ユリコ。なんならキングギド○も生成しようか?戦ってみてぇのか?」
「うふふ。冗談よ。じょ・う・だ・ん!ふふふ。
でも、○ジラとは懐かしいわね。小さかった頃、両親に連れられて、怪獣映画を見にいったことがあるんだけど、その時の怪獣が怖くてね。途中で泣いて帰るって私が言い出しちゃって両親を困らせたことがあるんだよ。
小さい頃は怪獣って苦手だったんだよね~。って昔、話したかしら?」
「ああ。聞いたことがあるよ。
でも、小さい頃は…って、ユリコ、今はもう大丈夫なのか?
それに、確か爬虫類全般が苦手じゃなかったっけ? 今度の敵はドラゴンだぜ?
怪獣みたいなもんだし、爬虫類の親玉みてぇなもんだぞ?大丈夫か?
しかも、ダンジョンマスターの部屋を守るラスボスのブラックドラゴンってのは女性の敵、ひひ爺らしいしなぁ。お前さん戦えるのか?ちょっと心配なんだが?」
「心配しなくても大丈夫よぉ。シオン教徒たちが使役していたレッサードラゴンは平気だったし……それに、苦手意識があっても今からの練習で克服するわ」
「なんなら、ドラゴンたちとの戦いを終えるまで、お前さんは神都で待っててくれてもいいんだぜ?」
「うふふ。ありがとうね。でも、大丈夫よ。私、がんばるから。
さあ、練習を開始しましょう!ね?」
「ああ。そうだな。
でも、絶対に無理はするなよ。ダメだと感じたらちゃんと俺に言え。いいな?」
「分かってるって。うふふ。心配してくれてありがとうね。シン……好きよ」
「ん?ごめん、最後の方の言葉がよく聞こえなかったんだが?なんて言った?」
「な、何にも言ってないわよ。き、気のせいじゃないの。うふふ。ふぅ」
「そうかなぁ……なんか言っていたような気がしたんだがなぁ」
「き・の・せい・よっ!うふふふふっ」
ハニーたちの練習はお昼近くまで続くのだった。




