第001話 プロローグ
俺はこの世界の神である……らしい。自覚は全く無いのだが。
しかしなぁ……、
「どうすりゃいいんだ!この状況を!!」
俺の背後は切り立った崖の麓。
今、そこには、半裸、全裸の女性たちが恐怖に顔を歪ませてへたり込んでいる。
皆、ガタガタという音が聞こえてきそうなくらいに震えながら、一塊になってへたり込んでいるのだ。
俺たちを取り囲んでいるのは……ゴブリンの群れ!
おおよそ50匹はいるぞ!半円状に弧を描くかのように取り囲んでいる!
ゴブリンたちは、突然俺が出現したことでたじろいだのか、俺たちからちょっと距離を置き、攻撃の機会を窺っているように見える!
なんてこった!絶体絶命のピンチじゃないのかっ!?
◇◇◇◇◇◇◇
この状況に陥る2時間程前、私はこの世界で目覚めた。
目を開けて最初に見たモノは、逆さになった美しい女性の顔であった。
ボーッとした頭で状況を把握しようとする……。
……後頭部には柔らかい感触、そして、背中方向には重力を感じる。
『ああ、私はこの女性に膝枕されているのか……』
私は出勤途中に駅のホームで目の前が真っ暗になったことを思い出す。
あぁそっかぁ、駅のホームで意識を失ったのかぁ?
……この人は私を介抱してくれているのかなぁ?申し訳ないなぁ……。
今朝もいつものように、布団に張り付いて離れたがらない意識を無理矢理に引きはがし、適当に身支度して、ひとり暮らしのアパートを出た。
少しでも長く寝ていたいので、いつも時間ギリギリまで寝ている。
無理矢理起きるためか食欲がわかないし、時間も無いので、最近は朝食をとったことがない。
まるで徘徊するゾンビがごとき足取りで最寄り駅のホームにたどり着いたところまでは何とはなく覚えているのだが……。
「あぁ、すみません。私は気を失ってしまったんですね?
ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
と言いながら体を起こそうとする。
だが、体が異様に重く感じられてうまく動かすことができない。
やっとの思いで体を起こし……『ちゃんとお礼を言わなければ……』と、女性と向き合うように正座した瞬間、私は目の前の女性のあまりの美しさに息を呑んだ!
私が呆けたように女性の顔を見ていると、女性の美しい目からはハラハラと涙が零れ落ちる。
えーっ!私は何かマズいことでもしたんだろうか???
私がドギマギ困惑していると……
「やはり上様はこの世界での記憶を失われてしまったのですね……お労しい……。 ですから、私はくどいように『視察に赴かれる前には、必ず記憶データをバックアップして下さい!』と申し上げましたのに!」
「えーっと、すみません、私には貴女が何を仰っているのか……」
と、その時、爽やかな風がスゥーと私の頬を撫でた。
ん?その風のお陰で、私の灰色の脳細胞は漸く女性以外の、周囲の状況を認識し始める……。
あれぇ?ここは……駅のホームでは…ない?よ・な?
えっ?大草原のど真ん中なのか!?……どこなんだここは!?
しかし…この清々しさはなんだ。ひょっとして天国なのか!?
私は駅のホームで息絶えてしまったということなのか!?
「あのぅ?付かぬ事を伺いますが……ここはいったいどこなんでしょう?
私は死んでしまったのでしょうか?……貴女様はひょっとして神様?」
私は、目の前の美しい女性の返答も待たず、思いつくままに、次々と口に出してしまった。
「いえ。上様、ここは貴方様が管理されている惑星のひとつです。
そして、この第10911実験宇宙空間の者たちからすれば、貴方様こそがまさしく『神』であらせられます」
「……」
理解が及ばず固まっていると、遥か上空をドラゴンのようなモノ?が飛んで行くのが見えた!
んん!?
あぁ、うんうん、そうだぁ…きっと私は夢を見ているんだぁ……。
最近、"異世界転生モノ"にハマっていたからなぁ~。
だからこんな夢を見ているんだな~。うん、きっとそうだ。うんうん。
私はあるIT企業で社畜なんていう生やさしいものじゃない、苦役奴隷のように働かされている。
会社は残業代を払いたくないのだろう、名ばかりの管理職にされて……。
まさに地獄だ。
たまに取れる休日は外出する気力すら湧かないが、そんな中でも、この現実から一時だけでも逃避できるからなのか、最近は"異世界転生モノ"小説、アニメを読んだり、見たりして過ごすことが多くなった。
しかし、勇者や賢者、スライムじゃなくて【神】になる夢とはな……。
誰にも邪魔されることなくやりたい放題、好き勝手に暴れたいという願望の現れなのだろうか?
ふっ、笑っちゃうよなぁ~まったく。
今はまだデスマーチってほどには忙しくないんだけどなぁ……。
いや、死の行軍前だからこんな夢を見る余裕があるのか??
いずれにせよ相当ストレスが溜まっていることは確かだなぁ……。
ふぅ、これじゃぁ先が思いやられる……。
一瞬、目の前の美女の顔に……
『何をスットコドッコイなことを考えているんだか!』
というような、あきれたかのような表情が浮かんだかと思うと……彼女の両手がスッと私の顔の前まで伸びてきた。
「上様、ご容赦を!!」
「いひゃい!いひゃいーーーっ!!!」
出し抜けに、目の前の美女が両の手で私の左右両方の頬を思いっきりつねった!
「上様、今ご確認いただいたように、この状況は"夢"ではございません」
痛タタタッ……。
ん?何?……ひょっとしてこの人は私の心が読めるのか?
「はい上様。貴方様と私は心の奥でつながっておりますから」
と、美女はドヤっ!と言わんばかりの顔をしながら言った。
緑の黒髪をゆるふわシニヨンにまとめたフェミニンな髪型をした女性……。
白のブラウスに黒のスカート……どういうわけか白衣を着ており、まるで医師か研究者のような服装をしている。
瞳はダークブラウン、二重まぶたで切れ長、クールな印象を与える綺麗な目だ。
その唇は薄く、鼻筋が通った端正な顔立ちをしている……。
『それだけに……うーーん、このドヤ顔はいただけないなぁ。残念だ!』
「うぐっ……」
女性はダメージを受けたかのように一瞬たじろいだ。
「そそそ、そんなことより、まずはこの世界についてご説明申し上げます」
彼女の説明によると、彼女の名前は"シオリ"。年齢はひ・み・つ!とのこと。
この惑星ディラックにおける私の助手兼秘書であるらしい。
女性だから年齢は隠したいよね。うんうん納得。
「上様の忠実なる"シモベ"ですわ」
とのことらしい?うーん、シモベって???
高度な科学技術力を有する精神生命体種族である私の『存在そのもの』は、この時空よりも高次元空間にあり、今、この場にいる私は、その"存在"?のこの時空に対する射影のようなもののひとつらしい。
意味がま~ったく分からん???
このディラックという名前のMクラス実験用惑星が属するのは、ワイル銀河系内にある恒星ランダウ系の第3惑星であり、これらは、通称、アファインと呼ばれる第10911実験宇宙空間内に存在するとのことだ。
このアファインは、主にヒューマノイド種族文明の発展観察実験用の宇宙空間であるらしい。
この宇宙空間内で適当に抽出された数百兆個程度のMクラス惑星を対象にして、それぞれにヒューマノイド種族文明を芽生えさせる……。
そして、その後どうなるのかを経過観察することを目的に作られた宇宙空間なのだそうだ。
この宇宙……アファイン内で監視対象となっているすべてのMクラスの惑星に、私の"存在"の"射影"が存在していて、実験と管理をしているらしい。
各々の"射影"は、神域グローバル・ネットワークにアクセスすることで、互いに繋がりを持っているということなのだが……。
私の場合は、そのネットワークへアクセスするためのIDもパスワードも忘れてしまっているため、現在、神域からは孤立している状態であるらしい。
今の私はこの惑星のローカル・エリア・ネットワークにのみアクセスできる状態となってしまっている。
他宇宙を含めた他の神々というか、管理者とのやり取りは、グローバル・ネットワークへのアクセス権を持つ"管理助手"のシオリさん経由で行わざるを得ないとのことである。
ただ……シオリさんはあくまでも管理助手であるため、私が本来持つ権限よりもかなり制限されたアクセス権しか持たないということだ。
「シオリさん、グローバル・ネットワークの管理者にお願いして、私の新しいアカウントを発行してもらうことはできないのでしょうか?」
「はい。そう仰ると思いまして、勝手ながら新アカウント発行を、私の方で手配しました」
『おおっ!シオリさんは美しいだけでなく、かなりできる人だな!』
あれ?シオリさんが頬を染めている?なんだ??
「それでは、すぐに新アカウントを発行してもらえるんですね?」
「それが……担当者が多忙とのことで、発行までに、300年ほど時間をくれとのことでした」
「300年!……えっと、それはこの惑星での300年ということでしょうか?
でしたら、地球時間に直すとどれくらいに相当するんでしょうか?」
「全く同じです。300年です。
ちなみに、この宇宙は地球が存在する宇宙と同じ既製品の開発キットを使用して創られており、地球とこの惑星ディラックは宇宙開発キット上では全く同じ惑星に相当するものを利用しています」
「開発キットですか?」
「はい。ゼロから宇宙を構築するのは大変ですから、"既製品のキット"を利用することがほとんどです」
「なるほど」
「この惑星ディラックは、名前が異なる他、生命体の種類や大陸の配置等々、オプション指定したものについては地球のそれらとは異なっていますが、1日の長さや1年の日数等は地球と全く同じなのです」
そして、この惑星ディラックで行われている実験のテーマは……
『管理者である私と、各ヒューマノイド種族との間に生まれた子供たちに、
この惑星を分割統治させた場合、その後何が起こるのか……』
それを経過観察することらしい??
ん?各ヒューマノイド種族との間に……?
これって……一夫多妻になるよね多分? ハー……レ・ム?
必然的に私のハーレムが作られることになるんじゃないのかっ!?
さっきドラゴンが上空を飛んで行くのが見えたこともあって、一体どんな種族がいるのか怖くなって尋ねたら……
『"異世界転生モノ"のラノベ等に出てくるモノはほとんどいます!
どうぞご期待下さ~い』
との返答が返ってきた。
をゐをゐ、ファンタジー世界の生き物にハーレム、そして、主人公を支える美人パートナー……臭すぎるほどに異世界転生モノのテンプレートだよなぁ……。
と考えていると……。
「上様は転生者や転移者ではありません!
不当に監禁されていた監獄惑星"地球"から生還されたのです!
正確には、生還と申しましても『魂』だけの帰還なのですが……
もう少し発見が遅れれば、過酷な労働で"魂"がすり減り、完全に消滅してしまうところでした!」
「転生や転移ということではなくて……ん? 生還…です・か?」
「はい。上様は、この惑星ディラック内に、"極悪魂の浄化区域"を新設されようとなさっていて……。
その参考にすべく、視察するために、この惑星ディラックと環境がほとんど同じである監獄惑星"地球"に自ら赴かれたのです。
が……あの地球のクソ管理者めっ!!ヤツの手違いでぇ~~っ!
はっ、すみません、げ、下品な物言いを…お、お詫び申し上げます」
彼女の話では、地球の管理者のミスで私は極悪人として扱われ、保有する記憶を全消去された上で日本人として転生させられたらしい。
そして、私は過酷な人生を全うすることを強いられた……ということである。
地球が存在する"第1701宇宙空間(通称エンタープライズと呼ばれている)"は、その宇宙空間に存在する全惑星が刑務所の役割を担っている特別な宇宙空間であるらしい。
主に他の宇宙で重罪を犯したモノの魂を浄化・矯正するための役割を担っているということである。
私が "生きていた" 地球という惑星は、各宇宙空間に存在する地球型のMクラス惑星の重罪人を収容対象としているらしく……
それら対象となる惑星で凶悪犯罪を犯した者たちの魂だけが集められる、重罪者専用の"監獄惑星"であるということだった。
そして、地球での"死"は刑期満了……"出所"に相当するとのことだ。
なんか眉唾なんだがなぁ……。
でもそう言われてみると私の回りでは、皆から"いい人"と思われていた人たちは早死にすることが多かったなぁ……。
反対に、早くくたばって欲しいと願いたくなる "あくどいヤツ" ほど、なかなかくたばらず、しぶとく長生きするんだよなぁ……。
……まぁ、逆は必ずしも真ならずだし、単なる個人的感想ではあるのだが……。
「これで一通りの説明が終わりましたので、次に、管理者用のアプリケーション、管理補助用人工知能クライアント他を上様にインストールします。
その後に基本データのバックアップをリストアしますので恐れ入りますが、もう一度私の膝を枕にして、仰向けに寝転んで下さいませ」
いやはや、こんな美人に、また膝枕してもらえるなんて、こちらこそ恐れ入ってしまうなぁ……と思いつつ、シオリさんの指示に素直に従う。
「では。すぐに作業は完了しますので、その間はリラックスしていて下さい。
それでは、軽く目をお閉じ下さいませ」
シオリさんは、神域ローカルネットワークがどうやらこうやらとか、……インストール、リストアがどうのこうのといったことをブツブツと呟いている。
「リストア完了!
……事前に上様より与えられていた"管理助手シオリの権限"により、上様の基本システムを強制リブート!」
と、シオリさんが口にした瞬間、私の意識はブラックアウトした……。
◇◇◇◇◇◇◆
「システムの再起動が完了しました。
上様、もう目を開けていただいて結構です」
という言葉に、私は我を取り戻す。
一瞬"会社で居眠りしてしまったのか!"と焦り、"納期に間に合わなくなる!"と肝が冷え、脂汗が吹き出してきて、飛び起きた。
危うくシオリさんのアゴに頭突きを食らわせるところだった。危ない危ない。
なぜこんな寝ぼけたような状況になってしまったかというと、再起動し目を開けたら目の前には、某米国OSメーカー製の開発環境のような画面が表示されていたからである。
こんな画面を見ていると胃が痛くなりそうなので、何とか消せないかと、右手で空を掻く。 手を掻くように動かしている私を見てシオリさんが言った。
「あ、通常画面を表示させるには『通常画面へ移行』と念じて下さい」
指示されたように念じると煩わしい画面が消えた。
「通常画面、ステータス画面、マップ、開発画面等々……複数の画面がバックグラウンドで起動しており、念じることでその切替が可能なのです」
「シオリさん、仰るようにしたところ通常画面には戻りましたが、今、あなたの頭の上に何やら金色の矢印みたいなものが見えますが、これは何でしょうか?」
「それは"ターゲットカーソル"と呼ばれるものです。
何らかのアクションをする際、その対象を指定するために使用するものとお考え下さい。
上様の配下の者は、その等級によって
"金色"、"銀色"、"赤銅色"
で表示され、今申した順に階級が下がります。
一方、管理される側の生命体他は、魂の状態や性質等によって、
"スカイブルー"→"緑"→"黄色"→"赤色"→"黒色"
という順に無段階で表示される色が決まります。
管理システムの倫理基準に基づいて判定され、大雑把な言い方をしますと……
"スカイブルー"色のカーソルはピュアな魂を表し……、
逆に"黒色"のカーソルは、己の欲望のために多くの命を奪ってきた者等の魂を表します。
ターゲットカーソルの色は【魂の色】とも呼ばれます」
「なんか、ゲーム画面を見ているようですね」
「げーむがめん??
上様、申し訳ありません。仰っている意味を分かり兼ねます」
「あ、いいです。独り言です。お気になさらないで下さい」
「はい。ではターゲットカーソルに意識を集中し、"ステータス表示"と念じてみて下さい」
シオリさんは異世界転生モノのラノベの知識はあったよな?
でも……ゲームの事はよく分からないのか、ふーん……。
そんなことを一瞬考えてから、シオリさんのカーソルを注視し、言われた通りにしてみた。
するとゲームでお馴染みのステータス情報が画面上に表示された。
「17歳!!シオリさんは17歳なんですかっ!」
と、思わず叫んでしまった。
はっ!しまった!これは失礼極まりないこと言ってしまったぞ!!
やっちゃったぁ~~!
『肌がとても瑞瑞しく綺麗なので確かに十代なんだろうが……
彼女の雰囲気はクールで落ち着いていて、かつ、理知的なので勝手に24、5歳くらいじゃないかと想像していたよ。
この大人の色気を感じさせる艶やかな美人がまさか17歳とは思わなかった。
言葉遣いもしっかりしているしなぁ。いやぁ、びっくりした!』
「に、に、に、24、5歳ですかぁ……」
シオリさんは私の心を読み……まるで彼女の頭の上に『ガーン!』というような文字が浮かび上がってきそうな……ショックを受けたような表情をした。
そして直後、ションボリしてしまう……マズいっ!
「す、すみません。想像されているような意味ではなく……
年取っているというのではなく、年齢にしては美しすぎるというか、しっとりとした大人の色気が醸し出されているというか…であって……ごにょごにょ……」
どんどんドツボにはまっていく……。
「……」
シオリさんは無言。気まずい……。
このまま心の声がダダ漏れなのはやはり問題だと感じて……
「あのぉ~、シオリさん、私の心の声がシオリさんにダダ漏れなのを何とか……」
私が尋ね終える前にシオリさんが私の心を読み、気を取り直して答えてくれた。
「はい。上様。
ご自身をターゲットとして開発画面を表示して、プロパティウィンドウに意識を集中させて下さい」
「はい。プロパティウィンドウに意識を集中しました」
「では、表示されているプロパティの中から"テレパシーモード"をご選択下さい。 インストールされている開発環境のバージョンによっては、"念話モード"と表示されているかも知れません。
"選択"は対象に意識を集中することで可能です」
シオリさんは暫く間を開ける……。
「……選択できましたら表示されるドロップダウンリストの中から"必要時のみ"をお選び下さい。
そして、変更意思の確認画面が表示されましたら"OK"をご選択下さい」
「はい。選択しました」
「これで上様が必要と思われる時にのみ私に対してメッセージが送れるようになりました……ですが……ちょっと寂しいですぅ。とほほ」
ん?シオリさんの言葉の最後の方が良く聞き取れなかったけど…ま、いいか!
念のために心の中でシオリさんに呼びかけたが、シオリさんは無反応であった。
うん。これで一安心。
今度はシオリさんにメッセージを送るという意思を持って……
『シオリさん、モード変更が無事に完了しました。ありがとうございます』
と、心の中で呟いてみたら……
「いえ、上様。お役に立てたのでしたら幸甚です」
という返事が返ってきた。
なるほど。念話はこう送れば良いんだな。理解した。
しかし……幸甚だって?とても17歳の女の子が使うような言葉じゃないよね。
ん?この世界の言葉って日本語なのか?それとも異世界あるあるじゃないけど、何らかの仕組みで勝手に翻訳されているのかな? ま、どうでもいいっかぁ。
「では次に、世界管理システム補助AI【全知師】クライアントを常駐起動させて下さい。【全知師】を常駐起動と念じて下さい。
そうすることで上様にとって必要と思われる時、あるいは上様の要求に応じて、的確なアドバイスをするようにプログラミングされたAIが、起動し、常駐して、使用可能となります」
シオリさんに言われたとおり起動すると何かしたいときにどうすれば良いのかが自然と分かるようになった。 これは便利だ!
ん?アニメにもなった、あの異世界転生モノの大ヒット小説に出てくる"大賢者"のようなものなのかな?
「あのぅ……上様。僭越ながら……」
シオリさんが非常に言いにくそうに声をかけてきた。
「はい何でしょうか、シオリさん。遠慮なさらずに仰って下さい」
「はい、では上様。失礼ながら……そのお言葉使いを変更された方がよろしいかと愚考致します」
「どうしてでしょう?」
「かつての上様はもう少し……なんというか……乱暴な言葉遣いをされていましたものですから……、老婆心ながら、このままですとそのお言葉使いが"偽物疑惑"の火種にもなりかねないのではと私は心配でして……」
「なるほど。人格が変わってしまったかのように見えてしまうのですね?
しかし、今の私にはこれが普通ですので、このしゃべり方を変えるのはちょっと抵抗がありますし……難しいのですが、どうしたものでしょうね?
でも、この世界で生きていこうと思うのなら変えた方が良いのかなぁ……」
と、口にすると即座に【全知師】が、城 達也 さんのような渋い声でアドバイスしてきた。
>>お答えします。
マスター自身のプロパティウィンドウ内の【キャラクター設定】を選択して、表示されるドロップダウンリストの中から【俺様キャラ(弱)】を選択されるのがよろしいかと存じます。
シオリさんが私の疑問に答えようとしている。
それで、それを制止するように私は手を前に出す。
「あ、シオリさん、今【全知師】からアドバイスを貰いました。
プロパティの変更で対応できるらしいので試してみます。
少々お待ちいただけますか?」
「あ、はいどうぞ。私も同じことを申し上げようと思っていました」
しかし、"俺様キャラ"ってなんだ?
こんな設定があるとは……本当に現実なのか???
早速、【全知師】のアドバイス通りにプロパティを変更してみた。
その途端、心の枷が音を立てて砕け散ったような、何か吹っ切れるような感覚を覚えた。自分のキャラが変わった瞬間である。
直後に、地球における人生で、俺が背負ってきた色んな物事……人生のほとんどすべてがどうでも良い瑣末なことのように思えてくる。
そして、空虚というかなんというか……虚無感に心が押しつぶされそうになる。
虚しく、悲しい人生だったなぁ……。
日本人としての俺、【壱石 振一郎】は、いつも人の顔色を見ながら生きていたような気がする。
何を恐れていたのやら……バカらしい。バカみたいに人に気を使ってきた。
社会人になってからは特にそうだった。なんとも虚しくてアホらしくてしかたがない。切なくさえなるなぁ……。
日本人としての一生をすべて完全に消去してしまいたい思いに駆られる……。
……が、一瞬、ズキッと心が痛む。
ああそうだとも、忘れない!
いや、どんなことがあっても忘れられるわけがない!
……彼女との思い出だけは絶対に!!
慟哭と赫怒で締め括られる辛い思い出……だけれども、大切にしたい……。
しばらくボーッとしてしまった。いかんいかん。気持ちを切り替えねば……。
周りの風景でも見て気持ちを落ち着けようと見回す……。
が、開発画面やプロパティウィンドウが表示されたままで見にくい。
それで取り敢えず通常画面へ戻した。
通常画面に戻ると目の前にはシオリさんがいる。その彼女の姿を見て……
『やっぱり17歳には見えないよなぁ……しかし、美人だよなぁ……』
なんてことを考えていると、ふと自分のことが気になりだした。
そういえば、シオリさんは『魂だけの帰還』と言っていたよなぁ……。
となると、この世界での俺の肉体は、日本人だった頃の俺の肉体とは異なるってことになるよな? 論理的に考えればそういうことになるよな、当然?
気の所為かな?なんだか身体が若々しくなったようにも感じるが……この世界に戻った俺の肉体年齢は一体何歳なんだろうな?
やはり、日本で人生を終えた時の年齢なんだろうか?
気になって俺は自身のステータス情報を確認してみた。
「えーーっ!?俺も17歳なのか!?いやいやいや!これはあり得ねぇだろう!
あっちで死んだ時、俺はいい年こいたオッサンだったのにっ!?」
17歳に若返っていたため驚いて大声を出してしまった!
「……」
俺のキャラが、俺の言葉遣いが大きく変わったことが原因なのか、シオリさんが固まってしまっている!?
暫くしてシオリさんは我に返ったようで……
「お、お帰りなさいませ上様!」
目に涙をいっぱい溜めてシオリさんが言った。
シオリさんが喜んでいるようだな。キャラ変更は成功のようだ。
でも……な~んかまだ俺はシックリこないなぁ、このキャラは……。
「お、おうっ!ただいま!」
◇◇◇◇◇◆◇
「ところでさぁ、シオリさんや。
その"上様"っていう呼び方を……止めてくんねぇかな?」
「では、どのようにお呼びすればよろしいのでしょうか?」
「俺が日本人をやってたときは、
【壱石 振一郎】
という名前だったんだ。
それで、"シン"とか"シンちゃん"って友達には呼ばれてたんだが……。
俺とシオリさんは同い年ってことだし……敬称抜きで"シン"って呼んでくんねぇかなぁ?ダメか?」
「そ、それはどうかご容赦下さい……せめて"シン様"ではダメでしょうか?」
「じゃぁあ俺は"シオリ様"って呼ぶよ? それでもいいかい?シオリ様!」
「し、シオリ様だなんてっ!
お、おお、お戯れは止して下さいませっ!
"シオリ"と呼び捨てにして下さるようにお願いするつもりでしたのに……」
「からかってなどいないさ。シオリさ・ま!」
「ううっ、どうか後生ですから、せめて"シンさん"とお呼びすることでお許しを。
恐れ多くて……私には上様を呼び捨てなどにはできません」
「しようがねぇなぁ、じゃぁ、それでいいよ。
今のリアクションがかわいかったからなぁ……俺は"シオリちゃん"って呼びたくなったぜ。 だから、そう呼ばせて貰うな!? いいよな、シオリちゃん!」
「本当は"シオリ"と呼び捨ての方がシックリくるんですけど……ごにょごにょ」
シオリちゃんとの会話を楽しんでいると突然、頭が締め付けられるような強烈な感情と、必死に助けを請い泣き叫ぶ複数の女性の声が頭の中に流れ込んできた!
[[[[[[[神様!!助けて!!]]]]]]]
to be continued...
2019.11.10:加筆修正、及び、ルビ追加。
お読み下さりありがとうございます!
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