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第017話 ソリテアの優しさ

 我々の国、アウロルミア神国、通称"神国"。


 その北西部には"アエスオンギス"という大きな町がある。

 その町の神殿は、この国の7大神殿のひとつで、そこでソリテアは俺の后候補に選出された。


 彼女の実家は、その町から更に西へ30km程行ったところにある貧しい農村、タウトラドゥにあるということだ。


 俺たちはアエスオンギスの神殿には立ち寄らず、ソリテアの実家があるタウトラドゥ村近くの林に転移してきた。


 俺は更衣室となるテントを取り出し設置し、その中に女性5人分の町娘風の服を生成して入れておく。

 神子や神殿騎士の格好では目立つので、俺を含めて全員が、アエスオンギスから来た町人といった"てい"を装うつもりなのだ。


「俺たちはアエスオンギスの町人を装い、村を訪れようと思う。

 それで、このテントの中には町人風の服が人数分用意してある。

 まずは、それに着替えて欲しい。

 着替えてみて、おかしな点があったら言ってくれ。すぐに直すからな……」


 みんなは着替え終わると、互いに町娘としての姿におかしな点がないかを確認し合うと、顔を見合わせながら大きく"うん!うん!"と頷き合った。

 どうやら違和感は無いようだ。


「この服装なら大丈夫だと思います。シンさんの服も……大丈夫ですね」


 ソリテアが俺の周りを一周して俺の服装に違和感が無いかを確認してくれた。


「ありがとう。それじゃあ、行きますか?」

「「「「「はいっ!」」」」」



 村には誰でも入れるようになっている……門番はいない。

 村の中央にある広場まで足を進めると、村人たちが集まって何やら話している。


 ソリテアは無言で俺の後ろに隠れる。

 俺の背中に触れている彼女の手は小刻みに震えている。



「……ああ、もうダメだ。これ以上小作料が上がったら生きていけねぇ」

「去年値上げしたばかりなのに、今度はその倍にするだなんて……領主の野郎め!一家心中でもしろって言うのか!」

「うちには娼館に売れるような娘はいないし……もうここを出ていくしか……」


 ザワザワしている。

 どうやら小作料が大幅に値上げされたらしい。

 ソリテアの家族だけでなく、この人たちも助けてやるか……。


 ……そう思った時である。


「あれぇ?吸血鬼じゃねぇかぁ?てめぇ帰ってきたのかぁ?」

「けっ!縁起でもねぇ、赤毛の悪魔が戻ってきやがったのか!

 ……あっ、赤毛の女がもう一匹いるぞ!もう一匹吸血鬼を連れてきやがったぜ!

 ……ったくよぉ!

 小作料が上がるのもこいつら疫病神が来たからじゃねぇのかぁ!?」


 カッチーーン!許せんクソどもだな!どうしてくれようか!



 俺たちと同年代と思われる若造が数名こちらへと近寄ってくる。

 彼等の手には、いつの間にかこぶし大の石が握られている。


 ソリテアの震えは一層激しくなっている。


「大丈夫だよ、ソリテア。俺が守るからな……」



「サッサと出てけ!このクソ疫病神がっ!」


 若造たちが一斉に持っていた石を俺たちの方へ投げた!


 直後、若造たちは驚く!

 自分たちが投じた石が、俺たちに当たる前に、見えない何かに当たり、弾き飛ばされてしまったからだ!


 タネ明かしをしよう。

 実は俺が"見えざる神の手"を10本出して、飛んできた石を次々に弾き飛ばしてやっていたからである。


 ひとりの若造の手が俺の後ろに隠れるソリテアを掴もうと俺の前まで伸びる。


「やめんか!無礼者!」


 スケさんがサッと俺とソリテアを庇うように、若造と俺たちの間に身体を入れ、伸びてきた男の腕を掴んでねじ上げた!


 グシャッ!……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 男の腕がっ!……スケさんに掴まれた部分が潰れて細くなっている!

 しかも、スケさんがねじ上げたことで、男の腕は肩からもげてしまった!


「うわっ!」


 スケさんはひと声発すると、まるで汚いものでも掴んでしまったかのように男のちぎれた腕を放り投げる。


「しょうがねぇなぁ……修復!」


 俺は取り敢えず男の怪我を治してやった。

 だが、怪我が治った男は依然として白目を剥いて気絶している。


「な、なんてことしやがる!おうっ!みんな!構うこたぁねぇ!やっちまえ!」


 下っ端の男がやられたことに激高したのであろう、リーダー格と思われる若造が村人もけしかけて俺たちを襲う!


 ……ああ、村人は全部敵か……やはり救うのはソリテアの家族だけだな。

 こんなヤツらがどうなろうと知ったこっちゃねぇな。


 ソリテアの家族と一緒に救ってやろうと考えていたのに……バカなヤツらだ。


 俺たちを取り囲むようにして、村人たちはジリジリと詰め寄ってくる!

 俺は彼等を威圧する!


「えええいっ!愚か者どもが!ひかええいっ!」


 一瞬突風でも吹いたかのように村人たちは仰け反った後、地面にひれ伏す。

 みんな身動きが取れなくなった。


「おい!そこのクソガキども!

 俺の大事な大事なソリテアとヘルガに、よくもひでぇことを言いやがったな?

 それなりの覚悟はできているんだろうな!?」


 俺は威圧を強める!


「ぐっ、はぁはぁはぁ……ち、ちくしょう!ソリテア!

 や、やっぱりお前は悪魔だ!

 こ、こんなヤツらを連れてきやがって……。

 俺たちにこんなことをして、た、ただで済むと思うなよ?

 お前の家族を村八分にしてやるからな!覚えておけ!」


「かぁーっ!まだ言うか、クソガキが!四肢粉砕!」


 ぎゃあああぁあぁぁぁぁぁ!!


「ま、取り敢えず……修復!」


「はぁはぁはぁ……あ、悪魔め……」


 俺はこのリーダー格の若造について調べた。

 魂の履歴を見たのである。魂の色はオレンジ色。


 もしやと思ったが、やはり、こいつこそが小さい頃からソリテアをいじめていた連中を束ねていた主犯だった。

 俺は怒りが込み上げてきた。こいつだけは魂の色が何色だろうと許さん!


「さっきから聞いてりゃあ勝手なことをギャアギャアとほざきやがって!

 誰が悪魔だぁ? この眉間の"印"をよ~っく見てみろ!」


「!!!!!」


「そうだてめぇが思ってる通りだよ。理解したかね?クソガキ!」

「……」


「俺がこの世界の神だ!」


 クソガキの顔色がどんどん悪くなる。


「ソリテアとここにいる子はな、み~んな、俺のフィアンセだ!

 てめぇは俺の大切なフィアンセを罵倒したことになる。

 言い訳があるなら聞こうか?」

「す、すみません。

 まさか、赤毛の悪魔が……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 "見えざる神の手"で例のごとく"かる~く"両目を突いてやった。


「てめぇ、まだ言うか?……一応修復!」

「ご、ごめんなさい、ごめんなさい……」


「俺は知ってるんだぜ……。 てめぇが俺の大事な大事なソリテアを小せえ頃からずーーっといじめてることをなっ!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 あ゛!鼻がもげた!"見えざる神の手"で"かる~く"ひねっただけなのに……。


「めんどくせえけど……修復!」

「はぁはぁはぁはぁ……お、お許しを……」


「い・や・だ・ね!

 てめぇはソリテアが泣いてやめてくれって頼んでも、やめなかったよなぁ?

 俺はみ~んな知ってるんだぜ?」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 うわっ!クソガキの頭の皮が剥けた……。

 ヤツが昔ソリテアにしたように、髪の毛を掴んで引き摺り回してやったんだが、もちろん"かる~く"やっただけだ……ぞ?


「しょうがねぇなぁ……修復!

 ……今みてぇに、嫌がるソリテアの髪を引っ張って引き摺り回したよな?

 どうだ?ソリテアの気持ちが少しは分かったか?」

「す、す、すみません。すみません」


 俺は凄みを利かせて、若造を睨む。

 若造は"びくっ"とし、震え上がる。


「それに……ソリテアの家族を村八分にするだとぉ?

 たとえ誰にだろうが、それは一番やっちゃあいけねぇことだろう?

 しかも……俺の家族になる人たちだぞ、てめぇいい度胸してるよなぁ!?」

「し、しません。村八分にはし、しませんから、お許しを」


「手の平返しはいただけねぇなぁ?

 これだけ調子ぶっこいたんだ、まさか、今更謝って済むとでも思うのか?

 世の中、そんなに甘くはねぇぜ」

「す、すみません、すみません」


 俺は"見えざる神の手"を出し、このクソ野郎を掴むと、そのまま真上に向かって思いっきり投げてやった。

 俺は次に起きることが予想できていたので、即座にシールドを展開しておく。


 どれくらい時間が経っただろうか……数十秒といったところだろうか?漸く男は落下してきた。

 上空の風の影響か、この惑星の自転の影響なのか投げ上げた位置からは流され、広場の中心に向かって落ちてきた。


 グワッシャベチャッ!!!


 クソ野郎は地面に激突するとグチャグチャに潰れてしまった。

 あたりには肉片と血が飛び散った。

 多分、周りはひどい鉄さび臭がしていることだろう。


 俺たちはシールドの中にいるので、当然、肉片も血も全く浴びることはない。

 鉄さび臭もしない。

 だが、フィアンセの女性たち5人は目を背けて青くなっている。


「次は誰だ?ソリテアをいじめたヤツは俺が皆殺しにしてやる。名乗り出ろ!」

「し、シンさん、も、もういいです。みんなを…もう許してあげて下さい」


「しょうがねぇなぁ……ソリテア、お前さんは優しいなぁ。惚れ直したぜ」


 威圧を解き、村人たちを自由にしてやる。

 村人たちの間に安堵感のようなものが漂う……。


「おい、てめぇら……今回だけはソリテアの優しさに免じて許してやる!

 次は容赦しねぇぞ。ソリテアやその家族に酷ぇことしたヤツは、地の果てまでも追いかけて、俺が必ずぶち殺してやるからな。覚えておけよ」


 村人たちはすごい勢いで何度も頷いている。


「かーっ!皆殺しにしてぇなぁ~くそぉ!

 ソリテアさえ止めなけりゃなぁ……ああ残念だ!!

 てめぇら、ソリテアには感謝しろよ!」


 俺は全くそうは思ってなかったのだが、"皆殺しにしたくてしょうがない"という演技をしておいた。『ソリテアが助けてくれたんだぞ』と念押しをするために。


 まぁ……ソリテアの家族がここを離れるということになったら、二度とコイツらと関わることはないだろうけどな。



 ちなみに…地面に叩き付けられてグチャグチャに潰れてしまったクソガキも蘇生してやった。体中の毛をすべて"血の色"にした上で……だがな。はっはっはっ!


 しかし……俺も甘ぇなぁ~。

 でも……一度殺してやったからな、まぁいいかっ!

 これで今後赤毛をバカにすることはないだろうしな。


 なお、ヤツには、ソリテアが助けてやってくれと頼んだから仕方なしに蘇生してやったんだと、その点をしっかりと強調しておいた。


 ヤツはソリテアの前で土下座し、過去の酷い仕打ちを謝罪した上で、蘇生させてくれたことに心の底から礼を言った。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 なんだかんだあったが、今、俺たちはソリテアの実家の前にいる。

 入り口の扉は開け放たれていて、中から女性のすすり泣く声が聞こえてくる。


「……わ、私を娼館に売って下さい。そうすれば小作料は払えるんでしょう?」

「そ、そんなことは絶対にしない!してたまるか!」


「じゃ、どうやって小作料を払うのよ」

「お前を娼館に売るくらいなら、この地を捨てる!余所へ行こう!」

「そんな……そんな簡単に余所へなんか行けるわけないじゃないの!」


「大姉ちゃんに頼んでみたら?神様のお嫁さんなんでしょ?」

「ラスラン、ソリテアには頼れないよ。私たちは酷いことをしたからね。

 それに…ソリテアはまだお后様になったわけじゃないんだよ。お后候補に名前が挙がっているだけなんだよ」


「そうなんだよ。俺たちはソリテアを捨てたんだよ。口減らしのために」

「そう、だから今更家族面なんてしちゃいけないんだよ。ソリテアに頼っちゃいけないんだよ」


「それにね、ソリテアにとっては今が神様のお后様になれるかどうかの一番大切な時なんだよ。絶対に私たちが迷惑をかけちゃダメなんだ」

「じゃ、どうするの。ううう。もう一家心中するしかないの?」



「ただいまーーっ!」


 俺はソリテアの代わりに大きな声で帰省したことを告げた。


「えっ?あ、あのう…どちら様でしょうか?」

「お父さん、お母さん、ただいま……。セリーネ、ラスラン、元気?」


 ソリテアが俺の背後から恥ずかしそうに顔を少しだけ見せて家族に挨拶をした。


「「ソリテア!」」「「お姉ちゃん!!」」


「お義父さん、お義母さん、初めまして、私は、壱石 振一郎と申します。

 この世界の神をしているものです。 事後報告で恐縮ですが、この度、娘さんのソリテアさんと婚約致しましたので、そのご挨拶に伺いました」

「「「「か、神様!!」」」」


「はい。そうです。

 ……はぁ~、肩が凝ってきた。悪ぃがいつもの調子で話すぜ、いいな?」

「「「「……」」」」


 みんな目が点になっている。


「……というわけだ。お前さんたちが望むのならだけど、俺んところに来て農業をやらねぇか? もちろん、小作じゃねぇぞ、オーナーだぜ。どうだ?」

「ありがとうございます!是非やらせて下さい!お願いします!」


「おう!そう言ってもらえるとすげぇ嬉しいぜ!

 よろしくな!お義父さん、お義母さん!はははっ!」

「はい。よろしくお願いします!」


 よかった!ソリテアの家族は来てくれることになった。

 ソリテアの顔には、今まで見たことがないくらいの嬉しそうな笑顔!

 う~ん、この笑顔は特に素敵だ!なんて綺麗なんだ!


 移住はいつがいいか?と尋ねると、なんと彼等は今日にも移住したいと言う。

 これから色々回る予定だが……まぁ、4人くらい増えても大丈夫だろう。


 ソリテアの家族が持って行きたいと言ったものを亜空間倉庫にパッパと仕舞う。

 お義父さんにお義母さん、義妹のセリーネと義弟のラスラン、家族みんなが興味津津で大量の荷物が亜空間倉庫に仕舞われていくのを見ている。


 おっと、お義父さんとか言ったりするのはまだ早いのかな?

 ……まぁいいかっ!


 30分ほどで引っ越しの荷物の収納は一段落ついた。


 次の目的地へ転移する前にちょっと休憩っていうことで、天気もいいことだし、外でティータイムを楽しむ。

 ソリテアの実家の外にテーブルと人数分の椅子を生成し、今、みんなでお菓子と冷たい飲み物を楽しんでいる。自然と会話の花が咲く。


 みんなで談笑していると、そこへ暗い顔をしたひとりの若い女性がやってくる。


「ソリテアちゃん……」

「ニングちゃん!久しぶり!」


 話しかけてきたのは17歳、ソリテアの幼なじみで親友のニングという名の女性であった。


 ニングはソリテアに今生の別れを告げるためにここに来たという。

 今日、この村にソリテアが来てくれてよかった、ソリテアに別れを告げることができてよかったと、さめざめと泣いている。


「私はこれから奴隷商人に売られます。だからね、多分、ソリテアちゃんとはもう二度と会えないと思うの」


「そ、そんな……。なんで?小作料が値上がりしたから?」

「うん……それが一番大きな理由かな。

 でもね去年両親が相次いで無くなって、今、私はお兄ちゃん夫婦と一緒に住んでいるんだけど……義理の姉さんとはソリが合わなくてね……居づらいんだ。私には居場所がないんだわ」


「だからって、奴隷として売られるなんて……」

「姉さんから向けられる、『こんな時ぐらいだろ?お前が役に立つのは……』って感じの視線が痛くてね。恋人もいないし、私ひとりじゃ生きていけないし……もうどうでもいいかなって思ってね。OKしちゃったんだ」


「何とかならないの?」

「お兄ちゃんとこに厄介になっているからね、お金も無いしさ。どうしようもできないの。これが私の運命かなって。神様って残酷よね」


 ソリテアが俺の顔を悲しげに見る。


「さっき、村の人がソリテアちゃんが来てるって教えてくれたんだよ。もういても立ってもいられなくなっちゃってね、来ちゃったんだ。最後に会えて良かった」


「横から話に割り込んで悪ぃけど、いくらあればお前さんを救えるんだ?」


 俺は思わず口を挟んでいた。


「金貨30枚で売られることになっています。もう多分家の方には奴隷商人が来ていると思います。もう行かないと……」


 ニングはシクシクと泣き出す。


「分かった。俺が助けてやる。

 ソリテアの親友と聞いちゃぁ、ほっとけねぇからな。家まで案内しな」

「え、でも、そんなご迷惑をおかけするわけにはいきません」


「大丈夫よ、ニングちゃん、私のダーリンは神様なのよ。ドンと任せなさいな」

「おう!俺に任せておけ!

 ……ところで、お前さんは、ここを離れて、中央神殿で働く気はねぇか?

 折角助けても、またすぐに売られることにでもなったらたまらねぇからな」


「えっ?いいんですか!?私のような何もできない者が働けるのでしょうか?」

「ははは。誰でもみんな最初は素人だぜ。どんなことでも慣れるまでは大変だし、

慣れちまえばどうってことはねぇもんだ」


「……ううう……あ、ありがとうございます。か、神様……たすけて……」

「おう!任せろ!俺が絶対に助けてやる!安心しろ!」


「スケさんはここでみんなを守っていてくれ。

 ソリテア!カクさん!俺と一緒に来てくれ。他のみんなはここで待機だ!」

「「「「「はい!」」」」」


「さぁ、ニング!お前さんの家まで案内しな!」

「はい!」



 俺たちはニングの家、正確にはニングの兄の家が見えるところまで来た。

 家の前では、男女2人と、フードを目深にかぶり、薄汚れた暗いブラウンの僧服を着た怪しげな人物とが立ち話をしている。


 俺はフードをかぶった人物のステータス画面と魂の履歴をチェックする。

 ターゲットカーソルの色はほとんど黒だ。極悪人だな。しかも、闇奴隷商人だ。


 俺たちがいるすぐ側には、奴隷商人のものと思われる馬車が止まっている。囚人護送車のような、荷台に猛獣用の檻が載っているような馬車だ。

 その檻の中には、素っ裸で隷従の首輪だけを着けた美女が5人座っていて、外にうつろな目を向けている。


 彼女たちの魂の履歴を確認すると、みんな攫われて来たことが分かった。


 俺は彼女たちが入った檻を消滅させる。

 その直後……


「我が権限において、ここにいる者たちの奴隷契約を強制的に破棄する!

 加えて"隷従の首輪"の除去!、そして、消滅!を命ずる!」


 更に俺は……


「完全浄化!……完全修復!……下着&衣服装着!……」


 身体の内外を完全浄化。もちろん事前に完全浄化が適用可能かはチェック済だ。

 怪我や病気、精神状態も治療し、服なども装着してやった。


 下着と服等は毎度おなじみのヤツを装着させた。


 その後"見えざる神の手"を使って彼女たち5人を俺たちのもとへとそっと運ぶ。


「つらい目に遭ったなぁ……。もう大丈夫だ。俺が守ってやる。安心しな!」


「「「「「う、うわぁーーーあん!!」」」」」


 女性たちは大声を出して泣き出した。

 その声で気が付いた奴隷商人がこちらへと走ってくる。


「クソガキが何しやがる!」

「うるせえ!闇奴隷商人がっ!

 不当に監禁されてた可哀想な女の子たちを助け出しただけだ。

 四の五の言うと、てめぇ、ぶち殺すぞ!」


 威圧しながら俺が言うと、奴隷商人が一瞬ひるむ。

 だが……


「クックックック!こりゃあいい!

 上玉が3人、勝手にやって来てくれるとはな!今日はついてるぜ!

 飛んで火に入る夏の虫とはお前らのことだな。あははははははっ!」


「てめぇはついてねぇと思うぜ。だって俺に見つかったんだからな!」

「ほざくな小僧!お前を始末してその上玉3人は俺がいただいてやるぜ!」


 奴隷商人は、おもむろに僧服から黒色と紫色の光が混じり合うようにして光っているメロンくらいの大きさの水晶玉を取り出した。

 そして、俺たちの方に向けて何やら呪文を唱え始める。


 奴隷商人のもとへと高速移動してぶちのめしてもよかったんだが、何が起きるか興味が湧いたので、詠唱が終わるまで待つことにした。


「わははははははっ!これでお前たちは俺の言うなりだ!……絶対服従!」


 即座に、俺とカクさん、ソリテアは身構えた!


 奴隷商人が言い終わると、水晶玉からは、俺たちを包み込むように"黒紫の光"が放たれる!


 たった今俺が解放したばかりの無理矢理奴隷にされていた5人と、ニングが突如苦しみだした!


「し、しまったっ!これはマズい!!」






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