第015話 フェイザー砲まであった!
俺は即座に、転移が完了した俺たちの周りにシールドを展開する。
直後、上空からファイヤーボールが撃ち込まれ、シールドに弾かれた!
きゃぁぁぁぁ!
うわぁぁぁぁぁっ!
獣人たちが怯えている。
「大丈夫だ!これくらいの攻撃ではびくともしねぇから安心しろ!」
ノルムの神殿上空には現在48匹のレッサードラゴンが飛んでいる!
あ……たった今シオリに撃墜されたので47匹になった。
ドラゴンの背中には黒いローブを着た魔導士がいる。レッサードラゴンを操っているようだ。
ドラゴンはファイヤーボールや火炎を放射し続けている。
地上は火の海、地獄である。
神殿は瓦礫の山と化し、神殿関係者の生死は全く不明だ……死者が多数出ているかも知れない。
このままでは神殿周囲の延焼防止用広場を越えて街にも火の手が及ぶ……。
俺は迷わず、上空を飛び交う敵であるレッサードラゴンすべてをも包み込むように巨大なシールドを展開した!
そこかしこで火の手が上がっているし、ドラゴンどもはガンガン火を噴く。
このままではシールド内が酸欠になってしまうので、巨大シールドの中に外気を大量に供給し続けている。
先ほどから、シオリはドラゴンに向けて何発も神術による攻撃を放っている。
だが、なかなかドラゴンを仕留めることができない……?
「なにっ!?シールド発生器か?敵はシールド発生器を持っているのか?」
なんとドラゴンの首には首輪型をした小型のシールド発生器が装着されている!
シオリが、神術によるあらゆる属性の攻撃をドラゴンにめがけて放っている。
しかし、シールドを破ってドラゴンを倒すには大威力の神術でも、最低10発は必要のようだ。それで彼女は苦戦している。
彼女は俺たちの方をチラリと見た。
だが、とても会話をする余裕は無いようだ。攻撃に専念している。
<<全知師、重粒子砲なら敵のシールドを破れそうか?
>>はい。可能です。ですが、使用した場合、この町に重大な被害をもたらす可能性があります。
<<じゃあ何か手はねぇか?
>>敵のシールドは、我々が展開しているシールドよりも数世代前のタイプです。敵シールドの防御力は弱いため、出力調整可能なフェイザー砲を使用するのが最も効果的と判断します。
<<ふぇ、フェイザー砲があるのかっ!じゃぁ光子魚雷もあるのか?
>>理解不能!光子魚雷とは何なのかが分かりません。
<<確か……反物質弾頭を搭載したミサイルのようなモノだったと思う……。
>>反物質弾頭搭載ミサイルでしたら保有していますが、今回のケースには破壊力が大きすぎるため適しません。
<<あ、いや聞いてみただけだ…フェイザー砲で行こう!準備ができ次第、攻撃を開始してくれ!
>>承知しました。出力はレベル4、敵のシールドを破壊し、敵を気化させる程度の威力ですがよろしいでしょうか?
<<ああ、そのへんは任せる。
>>承知しました。衛星の配置が完了しました。約30秒後に発射します。
暫くすると上空からオレンジ色をした光線が次々と放たれる。
レッサードラゴンの動きを完全に読み切っているかのように、光線は的確にドラゴンたちに到達する。そして、光線が到達すると一瞬で彼等は消滅する。
異変に気付いたドラゴン上の魔導士が慌て出す!
ここから逃げようとするが、俺が展開した巨大シールドに阻まれて失敗!
光線が飛んでくる方へファイヤーボールを放つが……当然無駄だ!
為す術もなく彼等は次々と消されていく。
一瞬で気化されてしまうので死の瞬間、苦痛は全く感じないのだろうが……。
ふっふっふっ!そんなに甘くはないぜ!
俺は片っ端からヤツら、魔導士たちの魂を"奈落システム"へ放り込んでやった。
たっぷりと苦しんでこいっ!
最初にフェイザーが発射されてから1分ほどで敵の殲滅は完了した。
いやはや……なんとも呆気ない。
しかし、シオン教徒の魔導士の数が異様に多いな……。
プロパティ値変更権限を持つヤツでもいないと、これだけの数の魔導士が敵側に存在する説明がつかない。
やはり……管理助手のシオンが背後にいるのだろうか?
<<全知師、ちょっと疑問があるんだが……。
>>はい。承ります。
<<俺が展開したシールドをフェイザーが素通りできるのはどうしてだ? やはり周波数変調パターンが把握できているからか?
>>はい。ご賢察の通りです。マスターが展開されたシールド周波数に同期させてフェイザーが放たれていたからです。
<<なるほどそうか……分かった。ありがとう。
全知師との会話を終えると俺は展開していた巨大シールドを消してから、火災を神術を使ってちゃっちゃと完全消化してやった。
シオリがゆっくりと近づいてくる……っと、その前に……
「だ~りん!おかえりなさいなのぉー!」
(にこにこ!)
「うわぁっ!」
キャルとシャルがすごい勢いで俺に飛びついてきた!
その勢いで思わず後ろに倒れそうになったが、なんとか堪える……。
「ただいま!」
「あのね、どらごんがおそってきたの~。おねえちゃんたちとね、シャルとね、
テントでぷるぷるしてたのぉ。こわかったのぉ~」
(うん!うん!)
キャルとシャルはテントの中で神子たちと一緒にいたらしい。
『ぷるぷるしてた』とは多分……怖くて震えていたんだろうな。
「怖かったよね。みんな無事でよかった!」
「うん!だ~りん、おそかったのよ…なのぉ!」
(ぷん!ぷん!)
お、シャルが腕を組んでふくれっ面をしている……でもかわいい!
「ごめんね、遅くなってしまって……」
「うん!ゆるしてあ・げ・る!…なのぉ!とくべつよ。ふふふなの」
(ふふふ……)
誰だろうなぁ……神子の誰かの言い方に似てきたぞ……?
「は・は・は……ありがとう」
側まで来てニコニコしていたシオリが、このタイミングだといわんばかりに口を開く。
「シンさん、お帰りなさいませ」
「おう。大変だったな?」
俺は、キャルとシャルに、ラフのところへ行って待つように言ってから、シオリとの話を続ける。
キャルとシャルは不満そうだったが、さすがは空気が読める幼女たちだ。
納得してテントへと向かった。途中、こちらをチラチラ見ながら……。
「遅れて済まなかった。向こうでもシオン教徒の襲撃に遭ってな……」
「そうでしたか。あの……念話に返事ができなくて申し訳ありませんでした」
「それは仕方ねぇさ。とんでもねぇ事になってたんだからな。
それよりも、ひとりでよく頑張ってくれた!ありがとよ!頼りになるぜ!」
「でも……神殿関係者がたくさん亡くなりました。守れませんでした」
「ひとりで戦ってたんだ。それは仕方ねぇよ。気を病むなよ。
それじゃ怪我人の治療と犠牲者の蘇生に取りかかるかぁ……」
俺はラフを除く神殿騎士見習いの3人と神子たち、スケさん、カクさんに手分けして、主に重傷者の治療を行うように指示した。
俺自身は死者の蘇生を行うことにする。
シオリには再度の襲撃に備えて周りを警戒してもらっている。
西部開拓者の獣人たちには彼等用のテントを亜空間倉庫から取り出し設置して、その中で待機してもらった。
テント前では、キャルとシャルがラフの付き添いのもと、軽傷者の治療を行っている。
これはキャルとシャルの、治療神術の練習を兼ねているのだ。
ラフがふたりを指導してくれている。彼女は頼りになるな。
キャルとシャルに軽傷者を見てもらっているのは治療を手伝いたがったふたりに遺体を見せないための配慮でもある。
居場所が無さそうにしていた神殿騎士試験受験生の3人には、キャルとシャルが診察する軽傷者の受付兼、誘導係をしてもらうことにした。
30分程度で今回の被害者すべての治療と蘇生が完了した。
俺は、サッサと神殿を修復することにする。
「修復!」
ガランの神殿の時と同様、見る見るうちに瓦礫の山から神殿が修復されていく。
俺たちを遠巻きに見ていた野次馬たちから一斉に歓声があがる……。
神殿関係者たちが俺の足下にひれ伏し、頻りに礼を言う。
「お前さんたち礼はいいから…こっぱずかしい、そんなことをしねぇでくれ」
「ああ……神様…ありがとうございます」
◇◇◇◇◇◇◇
「シオリちゃん、ガランにノルム……この一連の襲撃事件はシオン神聖国から我々アウロルミア神国への宣戦布告と捕らえられても文句は言えねぇと思わねぇか?」
「はい。本当にシオン神聖国が指示を出していたら……というのが大前提ですが、そうであればそのようには思えます。
しかし、シオン神聖国自体は、未だに"黙り"を決め込んでいますから断定はできないかと思います」
「どこか別の国か勢力が俺たちを争わせようと画策しているって言うのか?」
「現状ではその可能性も否定できません。
攻撃してきた者たちが本当にシオン教徒であるのかどうかを見分けるすべがありませんので……」
「なるほど……。シオン教徒が獣人を虐殺して領土を乗っ取ったという事実から、シオン教は悪だという先入観を持ってしまっていたのかも知れない」
「はい。それで、襲撃者がシオン教だと名乗れば、それをついつい鵜呑みにしてしまう……。
そのように何者かに思考を誘導されていた可能性もゼロではないのです。
現状ではデータが不足しており、すべてがシオン神聖国の仕業であると断定することは早計に過ぎるかと考えます」
「そうだな……いやぁ~シオリちゃんの思慮深さには恐れ入ったぜ。ホント頼りになるな!
シオリちゃんに相談してなかったら、俺は今頃、怒りに任せて、シオン神聖国の大聖堂をフェイザー砲で吹っ飛ばしちまってたよ。はははっ!」
「……」
ん?シオリの顔が心なしか引きつっている?
「まぁ取り敢えず外交特使をシオン神聖国へ派遣して、今回の事件に関係しているかどうかを問い質してくるように手配してくれ!人選は任せる」
「承知しました。中央神殿に戻り次第、早急に手配します」
近いうちに"シオン神聖国"へは俺が直接乗り込む必要があると強く感じた。
◇◇◇◇◇◇◆
俺は2つのテントを亜空間倉庫へと仕舞う。
いよいよ中央神殿へと転移するのだ。
「ようし!みんな、準備ができたら俺の側に集まってきてくれ!」
キャルとシャルは俺の両腕に抱かれている。
俺の右隣にはシオリが、そして、左隣にはなぜかインガがいる。
左前には神殿騎士のスケさん、右前にはカクさん。
俺の後ろには、ソリテアとヘルガ、そして、タチアナがいて俺の背中に手を触れている。
ソリテアたちの後ろに他の神子たち、ディンク、カーラ、ゼヴリンと神殿騎士見習いの4人、シェリー、ラヴ、ラフ、ミューイがいる。
そして、神殿騎士試験の受験者3人と獣人たちが俺たちを囲むようにして立っている。
俺は人数を確認する……48人。OKだ!
48人全員をターゲットに指定!
「それじゃぁ、神都エフデルファイにある中央神殿前の広場へと転移するぞ!
……転送!」
◇◇◇◇◇◆◇
……俺たちは中央神殿前の広場っていうとちょっとイメージが違うんだが、取り敢えず広場と呼んでおこう……そこに転移してきた。
目の前に神殿と関連施設。神殿の向こうには、つまり北には険しい山がある。
神殿の西側、神殿よりも少し離れた位置に山を水源とする川が流れている。
俺たちが立っている場所は広大な更地で、芝生のような丈の短い草が一面に生えている平坦な土地であった。ものすごく広い。
この更地の遙か南には、扇形の街がある。
円形のバームクーヘンを半分に切ったような形をしており、俺たちが立っているこの広大な更地と神殿を守るかのごとく街が取り囲んでいる。
この大きな更地は都合がよい!
俺は神殿の西隣の更地に獣人族の開拓者以外が住むための10階建てマンションを建設した。神殿へは地下道でつながっている。
1階は共有スペースで、ホールと厨房等。
2階から9階までは居住スペースとして、1階あたり4部屋で計32部屋。
10階には俺の部屋とシオリの部屋の2部屋をそれぞれ用意した。
日本での高級分譲マンションレベルの内装と設備を兼ね備えている。
もちろん、各室にバス、トイレは付いている。5LDK~10LDKの動線の
よい間取りだ。エアコンは標準装備、トイレはシャワートイレだ。
また、冷蔵庫に冷凍庫まで完備している。
この居住用マンションの西側1階に接続するように2階建てのビルを併設。
この中の1階が大浴場にサウナ、脱衣室に卓球もできるフリースペース。
2階にはトレーニングジムとラウンジを作った。
大浴場の湯には地下1000mまで掘削して湧き出てきた温泉が引かれている。
だから、源泉掛け流しだ。
疲れも取れるぜ!
神殿東側には、神殿と1階でつながるように5階建ての病院兼、神官たちの執務室を建設しておく。
神殿の南側には地上3階、地下2階の植物工場を全部で10棟建設した。
3階部分は居住スペースになっている。
10LDKの間取りで、ジェットバス機能付き大家族風呂もある。
風呂の湯は源泉掛け流しの温泉だ。
トイレはシャワートイレで、当然、エアコンは標準装備。冷蔵庫と冷凍庫も完備している。
獣人のみんなには、1家族に1棟このビルを与えて、農作物を作ってもらおうと思っている。
◇◇◇◇◇◆◆
「……ということで、獣人族のみんなには、どの家族がどの植物プラント兼住宅に入居するかを話し合いで決めて欲しい。
決まったら、早速今夜からそこで暮らし始めてくれ。生活に必要なものは一通り居住スペースに用意してあるから、心配するな。
冷蔵庫と冷凍庫には、食品や飲み物が入っている。それらは自由に使ってくれていいからな」
「ああ、神様!みんなを代表してお礼申し上げます。本当になんと、なんとお礼を申し上げたらよいのか……。
このご恩は一生忘れません。ありがとうございます!」
「いや、喜んでもらえてよかったよ。
このプラントでは、天候に左右されることなく農作物を生産できるから安定した収入を得られるようになると思う。色々と工夫しながらがんばってみてくれ!
ただし、無理はするなよ。困ったことがあれば些細なことでも構わねぇから俺に相談しなよ。いいか?」
「はい。ありがとうございます」
◇◇◇◇◆◇◇
今度は俺たち神殿関係者の番だ。
俺が最上階、10階の東側の部屋を使う。
多分、キャルとシャルもそこに同居することになるだろう。
そして、最上階の西側の部屋はシオリが使う。最上階はこの2部屋だけだ。
9階。ここには東から、スケリフィ、カークルージュ、キャル、シャルが住む。
8階。東から、ソリテア、インガ、ヘルガ、タチアナ。
7階。東から、ディンク、カーラ、ゼヴリン・マーロウ。と空室1部屋。
6階。シェリー、ラヴ、ラフ、ミューイ。
5階。神殿騎士試験受験生の3人が住む。1部屋は空室だ。
2階から4階はすべて空室。今後確実に増える仲間のための部屋として用意してある。
それから、このマンションエントランスでは、魂管理データベースに登録されているプライマリーキーがチェックされ、それによってマンション内への立ち入りを認めるか否かが判断される。セキュリティは万全だ。
マンションの共用部分、各階の廊下は室内にある。そして、ベランダにはシールドが展開されており、外部からの侵入を完全に阻止できる。
「さあ、それじゃぁみんなお疲れ様でした。よかったら今夜も夕食は1階のホールで、またまたバイキングでもしないか?
賛成してくれるんだったら料理を用意しておくが?どうだ?」
「わーいなのぉ!ばいきんぐだ~いすきなのぉ!」
(うん!うん!)
キャルとシャル、それに、みんなが嬉しそうに賛成する。
「それじゃあ、食事の時間までは自由に行動してくれ。さっき説明したように温泉大浴場があるから、ゆっくりと旅の疲れを癒やしてくるといいぞ。
ただ、このマンションからはでねぇでくれ。ちょっと心配なんでな」
みんなは各人の部屋へと向かった。
女性たちが必要とする着替え等についてはシオリが準備してくれることになっている。これは助かった。
◇◇◇◇◆◇◆
「さてと、これで夕食の準備はOKっと!みんな手伝ってくれてありがとうな」
「は~いなのぉ!ばいきんぐたいむなのぉ!」
(こくり!)
今日は全員が楽しそうに笑顔で手伝ってくれた。
キャルもシャルも一所懸命手伝ってくれた。みんないい子だな。
「それじゃあ、みんな!いつものように自分の好きな食べ物と飲み物を取ってきてくれ!中央神殿へ無事に到着したことを祝して乾杯しよう!」
"はーーーーいっ!""なのぉ!"
(わくわく!)
みんなが嬉しそうに、料理を装いに向かう。
そんな時であった。ホールの電話が鳴る。
今回の建築工事のついでに、神殿施設全体に内線電話を設置したのだ。
「はい、もしもし。はい、はい。そうですか。はい、お待ち下さい」
スケさんが電話に出たが……ん?なんだろう?
「シンさん、神殿の方にこの地の行政を担当している代官が面会を求めて来ているとのことですがどうしましょうか?お会いになりますか?」
「代官か……しょうがないな。追い返すのもアレだし、会うとするかな」
「もしもし、お会いになるそうです。ちょっと待っててもらって下さい。はい。
はい、失礼します」
スケさんが受話器を置く。
「みんな、悪ぃけど先に始めててくれ。ちょっと代官に会ってくる」
「え~なのぉ!」
(しょんぼり……)
「ごめんね。すぐに戻るからね。先に食べていてくれるかな?」
「はーい!さきにたべるぅ~!」
(こくり!)
「あ、お供します」
「「私たちも!」」
シオリとスケさん、カクさんが一緒に行ってくれる。これは心強いな。
◇◇◇◇◆◆◇
「ご尊顔を拝し、恐悦至極に存じます。無事のご帰還おめでとうございます」
「ああ、ありがとう。それで何か問題でも起こったか?」
この代官だという男の魂の色はどす黒い赤だ。ろくなモンじゃないな。
「いえ、お后候補の神子様方をお迎えに上がりました」
「えっ?なんで?」
「はい。明日のお后決定の儀に候補の皆様がお召しになる"ドレス"の試着と細かなサイズ調整等をおこなっていただきます。
そして、そのまま今夜は拙宅にお泊まりいただき、明日の朝、この神殿へは私がお連れすることになっております」
「そんなの聞いてねぇぞ?必要ねぇ!神子たちはここに泊まるから大丈夫だ!」
「いえ、それでは私が困ります。予定通りにしていただかないと…既に準備もしてありますので……」
「それって誰が決めた予定だ?」
「古式に則り、僭越ながら……私と統括神官様とで、お后決定の儀の進行等を決めました」
「そんなのはどうにでもなるな。よし、ドレスもこっちで用意するから問題ねぇ!もういいから帰りな!以上だ!」
「し、しかし……困ります……」
「俺が必要ねぇと言ってんだ!文句あるか!?」
「わ、分かりました。
……では、上様には今夜のうちによくよくお考えいただきまして、どうか明日は良きお后を"お一人だけ"お選び下さいますようにお願い致します」
「ん?なんだ?"お一人だけ"ってなんだよ。そんなの決まってねぇだろう?」
「いえいえ、そういう決まりになっております」
「誰が決めたんだ。聞いてねぇぞ、そんなの!? お前さんたちが勝手に決めたんじゃねぇだろうな?」
「いえいえ、昔から決まっておりまして……。で、では、し、失礼致します」
「ああ、帰っていいぞ。ごくろう」
代官は慌てて帰って行く。
何か胡散臭いヤツだな……。
その後俺たちはみんなが待つマンション1階のホールへと向かった。
◇◇◇◇◆◆◆
神殿の謁見の間を出た代官は、側近の者と何やら話をしている……。
「どうされました?」
「あの小僧め!神子たちを俺の屋敷に泊めさせねぇと言いやがった。折角の計画がぶち壊しだぜ!」
「計画って?」
「ああ、性奴隷専門の奴隷商人が家に呼んであってな、今夜后候補の神子たちを品定めさせる予定だったんだ」
「品定め?」
「ああ、神子たちには明日の儀式用のドレスを試着させてな、その様子を俺と奴隷商人で覗いて、神子たちの値段を決めることになってたんだよ」
「そんなことを計画してたんですか!」
「しっ!声がでかい!静かにしろ!」
「す、すみません。でも、値段を決めてどうするんです?」
「后になれなかった神子たちを性奴隷として売っぱらうんだよ。
もちろん、その前に俺たちで、さんざっぱら楽しんだ後にだがな!
ゲヘヘヘヘッ。男を知らぬ嫌がる生娘を犯すのはたまらんぜ!」
「そ、そんなこと許されるんですか?」
「神が后として選ばなかったんだぜ?つまりは神に見捨てられたんだよ。
捨てられたんだからそれはもうゴミだ!
どうせ捨てるゴミだったら俺がもらって楽しんでも文句はねぇだろう?違うか?
しかも、そのゴミが金にも化けてくれるんだぜ。一挙両得じゃねぇか?」
「なんかむちゃくちゃな理屈ですね」
「明日は絶対に、何としてもヤツには后をひとりだけ選ばせねぇとな!」
「どうしてひとりだけなんです?」
「あたりめぇだろうが!性奴隷は多いに越したことはねぇだろ?違うか?」
「はぁ……」
「ヤツが后をひとりに絞らずごねた時は、力尽くで言うことを聞かせるからな。
俺の息の掛かった神殿騎士10人をちゃんと集めておけよ。
俺がたっぷりと可愛がった後、"ゴミ"はちゃんとお前たちに回してやるからな。期待していいぞ。ゲヘヘヘヘッ!」
「はぁ……」
こんな悪巧みがなされているというのに、その頃シンとその仲間たちは新居での初めての夕食を存分に楽しんでいた……。