表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/98

第013話 インガの悲しい嘘

 槍の雨が降り注ぐ……。


 ああ…槍ってこんな風に飛んでくるんだなぁ……。

 槍の柄が小刻みに振動している……あのブレが小さくなると飛距離が伸びるの

かなぁ?


 こんなことを考えている余裕が俺にはある。

 ジャングルからものすごい数の槍が俺たちめがけて飛んできているのだが……。


 俺たちに雨のように降り注ごうとした槍は、俺たちの目の前で次々とシールドにはじき飛ばされていく……。

 槍がシールドに当たる瞬間、青い光がパッと一瞬光る。


 綺麗だな、これは夜に見てみたくなるな……。

 さて、そろそろ反撃するかな。


 えっ?『シールドを展開しているのに反撃ができるのか?』だって?


 説明しよう……。

 攻撃神術、例えばファイヤーボールを放つとしよう……。


 まず…俺から放たれたファイヤーボールは、即座にそれを覆うようにシールドに包まれる。

 ちょうどシールドで"カプセル詰め"されたファイヤーボールのような感じになるのだ。

 カプセルシールドの周波数変調パターンは防御シールドと全く同じである。


 カプセル詰めされたファイヤーボールが飛んで行って防御シールドに当たる。

 すると、当たった箇所の防御シールドとファイヤーボールを包んでいた"カプセルシールド"は周波数変調パターンが全く同じであるため融合し、直後に双方に穴が

開く。


 ちょうど……凹←こんな感じだ。このくぼんでいるところにファイヤーボールがある。見ての通り、シールドの外側にファイヤーボールが出たことになる。


 こうして外に出たファイヤーボールは真っ直ぐ敵へと向かって飛んでいくのだ。


 一方ファイヤーボールを包んでいたカプセルシールドの方は、そのまま防御シールドに吸収されるように一体化する。

 シールドにも表面積を最小にしようという表面張力のような力が働くからだ。


 当然、こんな多少面倒くさいことが自動的に行われるので、普通にファイヤー

ボールを放つよりも1ms程のタイムラグが発生することになる。


 どうだい?理解できたかな?……って俺は誰に向かって説明してるんだ??

 俺に話しかけている者は誰もいない……ぞ?

 おかしいなぁ?確かに聞こえたんだが……空耳か??



 それじゃあ、反撃するか!……と思ったところに全知師からストップがかかる。


 >>マスター、反撃しないで下さい。現在攻撃してきている生命体に関する新たな情報があります。彼等はマスターの命を受けて、この地を守っている者たちであることが分かりました。

 <<どういうことだ?


 全知師によれば……。


 このジャングルは、この惑星にとって最も重要な酸素供給源の1つであり、仮にここが消失した場合、この惑星のヒューマノイドは、それほど時を待たずして生存できなくなるらしい。

 それゆえ、地球へ行く前の俺は、この地にリザードマンを配し、自然破壊行為を未然に防ぐ役割を彼等に与えたとのことだった。


 そういうことなら……。


『神である俺が命ずる!リザードマンよ、ただちに攻撃をやめよ!……繰り返す、ただちに攻撃をやめよ!これは命令である!』

 マップ上で、俺たちを取り囲む生命体をすべてターゲットとして指定して、俺は念話で命令したのだ。

 その直後、彼等の攻撃がピタリとやむ……。



 ん?リザードマンの一体が近づいてくる?


「上様ぁーーっ!上様がいらっしゃるとはつゆ知らず、大変申し訳ございませんでしたっ! かくなる上はこの腹を掻き切ってお詫び致しまする!ごめん!」


 俺は高速移動し、短剣で自らの腹を切り裂こうとしているリザードマンの手を

掴む。


「おいおい!早まるな!お前さんは俺の命令通りに行動しただけじゃねぇか!?

 よくやっていると褒めてぇくれぇだぜ!」

「ああ、もったいないお言葉……ううう」

「この地はとても大事な場所だ! お前さんたちに任せて大正解だ!いつもありがとうな!」

「ははぁーーっ!」


「ところで最近、獣人たちがこの辺によく来てねぇか?」

「はっ!最近は頻繁に来ます。中にはここを焼き払おうとする輩もおります」


「そうか……それでそいつらはどうした?どこかへ行ったのか?」

「我々がすべて駆除致しました。我々の腹の中です。ガハハハハッ!」


「子供もいたんじゃねぇか?」

「はい。特に美味かったですね。子供の肉は柔らかくてたまりませんでしたよ」


 と言いつつリザードマンは俺の後ろにいる獣人の子供たちを見る。


 "きゃーーーーっ!"


 直後、獣人たちから悲鳴が上がる。皆、震え上がっている。


「俺の後ろにいる獣人たちは俺の大切な仲間だ。喰うんじゃねぇぞ!」

「はっ!心得ました!」


 ああ……可哀想に……騙された挙げ句、リザードマンに殺されて、喰われち

まったのか……。

 騙したヤツは絶対に許さん!必ず成敗してくれる!


「それからな、今後ここにくる獣人、特に親子連れの獣人は殺すな!

 このジャングルを破壊しようとするヤツも、できるだけ殺さずに追い返すようにしろ!いいな!?」

「はっ!今後はそのように致します」


「ここを開拓しようとする獣人たちはほどんどが騙されてここに来る。

 だから、そんな彼等を死なせたくはねぇんだよ。分かったかな?」

「あああ……!そうとは知らず……も、申し訳ございません!」

「いや。知らなかったんだからしょうがねぇ。今度からでいいから…気にするな。今までのことは不問に付す」

「御温情、痛み入ります」


「そういえばお前さん、名前は?」

「はい、残念ながら……名前持ちではありません」


「お前さんはこの地を守るリザードマンの王なんだよな?」

「はい。そうです」


「そうか、よし!俺が名前を付けてやろうか?」

「はい!身に余る光栄でございます!」


「命名する!今日からお前さんは"リザドゥ"と名乗れ!」

「ははぁーっ!ありがたき幸せ!

 ……おおおおおっ!力が……力がみなぎってくる!!」


 ん?なんだ?


 >>お答え致します。マスターから直接命名されたものは、レベルが大幅に上がります。特に魔物などの場合、上位種へと進化する場合もあります。リザドゥの場合、リザードマンからロイヤル・リザードマンへと進化しました。

 <<なるほど。命名の際のリスクは?

 >>命名には大量のエネルギーが必要とされますが、ほぼ無限とも言えるエネルギーが使用可能なマスターの場合、リスクはありません。

 <<分かった。ありがとう、全知師。


「おお!リザドゥよ。ロイヤル・リザードマンへと進化したようだな。これからもこの地を頼むぞ!」

「ははぁーっ!このリザドゥ、身命を賭して励みまする!」

「そうだ……今後、騙された開拓者の獣人がここに来たら、中央神殿の俺のところまで来るように伝えてくれ。頼んだぞ」

「はっ!承りました!」

「よし!それでは持ち場に戻ってくれ!」


 リザードマンたちはジャングルの中へと戻っていった。



 ◇◇◇◇◇◇◇



 俺は、岩でできた大きな看板をジャングルの入り口付近に設置している……。

 それには、騙されてこの地へやってくるであろう獣人たちへのメッセージが刻んである。

 そのメッセージの内容だが……簡単に言えば、『俺が面倒を見てやるから、中央神殿へ来い!』というものだ。


 神子のインガと西部開拓者たちのことはスケさんとカクさんに守らせている。

 みんなは少し離れたところで待機している……俺がしていることを見ているようだ。


 俺と一緒にこの地に来た "西部開拓者" のリーダーが、俺のもとへとやって来て

尋ねる……。


「あのぅ……神様、私たちも中央神殿へ行ってもよろしいのでしょうか?」

「ああ、もちろん!お前さんたちが嫌じゃなけりゃ、俺が面倒を見るぜ!

 農地を用意してやるし、住居も用意してやる」

「ああ……ありがとうございます。

 絶望の淵より我々をお救い下さり…なんとお礼を言えばよいのか…ううう…」

「頭を上げてくれ。まだ俺は何もしてねぇしな。

 中央神殿にもちゃんと俺が連れてってやるからな。安心しろ。

 みんなにはお前さんから話してくれ。希望を持たせてやってくれよ。

 俺はお前さんたちを見捨てねぇからよ!」

「はい。本当にありがとうございます」


「ところで、お前さんはどうして西部開拓に参加しようとしたんだ?」

「私はある大きな農場で雇われ農夫としてずっと働いてきました。

 結婚して子供も生まれ、子供が大きくなるにつれてだんだんと……このままじゃダメだと思うようになったんです。

 子供たちのためにも自分の農地が欲しくなったんです。それで……」


「なるほどなぁ。『鶏口となるも牛後となるなかれ』ってところか……」

「えっ?けいこー?」

「いやなんでもない。気にするな。バックアップは任せろ!だから……無理せずにがんばれよ!」


 男は、何度も何度も頭を下げて、俺に礼を言った後、みんなのところへと駆けていった……。足取りは軽かった。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 <<全知師、獣人族担当の管理助手はなんていう名だ?

 >>"シノ"という名前です。ここへ呼びますか?

 <<ああ、そうしてくれ。


 暫くするとヒョウ族?らしき獣人族の女性、美しい黒髪をしたすごい美人が俺の前に現れて跪いた。


「お久しゅうございます。上様」

「おお。シノ、忙しいところを呼び出して悪ぃな」

「いえ。上様のご用命とあれば、何を差し置いてでも駆けつけまする。

 獣人族の后候補者の件でしたら、選出は既に終えており、後は上様にお引き合わせするだけでございますが……」

「えっ?ああ……実はその件じゃねぇんだよ」


 獣人族の后候補か……そうだよなぁ……実験の目的が目的だからなぁ。

 シオン教を潰す前に、各地を回って契りを結んでこないとマズいのかなぁ???


「では、こたびはどういったご用件でしょうか?」

「ん?ああそうそう、お前さんのところの……獣人族の連中がな、西部開拓詐欺に遭ってるのは知ってるか?」

「いえ、申し訳ありません」


「ブーデル・ケルベルという名のたぬき族の男が犯人らしいんだが、架空の開拓地を農民に売りつけて、金貨50枚を騙し取ってるらしいんだよ。ここ、この場所にその架空の農地があるって嘘を言ってな」

「私の目が行き届かなかったばっかりに……。

 上様のお手を煩わせてしまいまして、本当に申し訳ありません。

 どんな罰でも承ります」


「お前さんを罰するわけねぇだろが!一所懸命がんばってくれてんのを、俺は

 よぉーく分かってるからな」


 シノは目をウルウルさせている。

 罰したくはないので、ついつい口から出ちゃったが……今日、初めて会ったのに『よぉーく分かってる』ってのは、白々しかったかな?


「それよりもな、騙された農民たちがここへ向かう途中に、"闇奴隷商人"の餌食になったり、ここへ来たら来たで、リザードマンの餌になったりと散々な目に遭ってるんだよ。

 だから、これ以上被害者が出ねぇように、ブーデル・ケルベルというクソ野郎をとっ捕まえて欲しいんだよ。できるか?」


「はっ!全力で事に当たります!」

「ただなぁ……"ブーデル・ケルベル"っていうのは多分偽名だ。

 マップで捜しても見つけられねぇからな。

 ここにいる獣人たちも被害者だから、彼等から男の特徴を聞いて捜査の参考に

するといい……」

「はっ!では今から彼等に事情聴取してきます!」


 そういうとシノは獣人たちが集まっているところへと向かう。

 そして、暫く彼等と話をした後、俺に挨拶をしてから転移により帰って行った。


 雰囲気から察するにシノも相当優秀な助手と思われる。

 俺はスタッフに恵まれている。

 しかし、それにしても美人が多いものだ……。



 ◇◇◇◇◇◆◇



 今、俺たちはインガの故郷"ガラン"の町から1km程離れた街道にいる。

 俺たち一行には子供もいる。

 ジャングル前から徒歩で向かうには、ガランは遠すぎるので、この地点まで一旦転移してきたのである。


 俺たちの目的地はガラン。

 西部開拓詐欺に遭った獣人たちが、ひょっとしたらガランの町に行ったかも知れないと思い、念のために行ってみることにしたのだ。

 それと、折角西部に来たんだし、インガを故郷に連れてってやろうという思いもある。



「インガ、故郷を離れてどれくらいになる?」

「そうですね……1ヶ月くらいでしょうか」


「そうか……ところで、インガ、もしも俺の嫁になりたくねぇのなら、この機会にガランの町に残ってもいいんだぜ?俺は無理強いだけはしたくねぇから……。

 お前さんの意思を尊重したいんだ」

「シンさんは私が嫌いなんですか?」

「なんでそうなる?お前さんを嫌いになるわけねぇじゃねぇか。

 なんでなんだ?俺がこの質問をすると、なんでお前さんたちは、みんなそういうことを言いだすんだよ?」


「私のことを本当に愛して下さっているのなら、そんな御為ごかしは仰らないはずです」

「うっ…確かに……愛しているかと聞かれると正直、分からねぇ。

 まだ知り合ってからそんなに時間が経ってねぇからな。

 だが、1つだけハッキリしていることがある。

 それは、俺はお前さんのことを心底大切だと思っているってことだ」

「……」

「大切だからこそ、お前さんの意思を尊重してぇんだよ。おかしいか?」

「……」

「俺とお前さんの間には明確な上下関係が存在する。

 弱い立場のお前さんが、俺から離れてぇのに言い出せないとしたら、それは不幸だ。

 上下関係を無視した本当のお前さんの気持ちを知りたかっただけなんだ」

「私はシンさんとずっと一緒にいたいです。どうか私を見捨てないで下さい……

 ううう」

「ったくよぉ、見捨てる分けねぇだろうが!絶対に見捨てねぇ、安心しろ!よし!お前さんの気持ちはよく分かった。これからはずっと一緒だ!」

「は……い…」


「あれ、インガ!どうしたのこんなところで、中央神殿に行ったんじゃないの?」

「あ、ツェータ!」


「インガ、こちらのお嬢さんは?」

「あ、はい。この子はツェータといって、私の親友です」

「ツェータ、こちらの方は……」

「初めまして俺はインガの婚約者のシンという者だ。

 この世界の神をやっている」


 インガの顔を潰さないようにしなけりゃな……。


「えっ?か、神様!……は、ははあーっ!」

「おいおい、面を上げてくれよ。人が見てるじゃねぇか。

 俺たちは忍びの旅をしている。このことは一応内密にな」

「は、ははは、はい!分かりました」


 ん?インガが頬を染めているな……どうした??


「インガ!やったじゃん!小さい頃からの夢が叶ったね!

 本当に神様のお嫁さんになるんだね!

 く~っ!嬉しい!!お祝いをしなくちゃ!」

「ツェータ!まだ候補のひとりに過ぎないんだから……」

「いや、インガは俺の嫁になってもらうよ」


 俺の嫁になることを望むみんなを俺は嫁にすることに決めていた。

 だから、インガが望んでいるんだったらこのように言ってもいいだろう……。


「ううう……インガ…よかったねぇ。生きててよかったねぇ……」


「生きてて?どういう意味だ?」

「インガは……ずっと統括神官一家に虐待されてきたのです……」


 以前インガは『統括神官様が父親で、その奥さまが母親代わりになって下さって私を大切に育てて下さった……』と言ってたんだがな?どういうことだろ?



 ツェータの話では……。


 インガは表向きは統括神官夫妻に拾われて大切に育てられたことになっているのだが……。

 インガが小さい頃は、実際に面倒を見ていたのは他の女性神官たちであり、赤ん坊から7歳くらいまでは、その女性神官たちに大切に育てられたらしい。


 ところが、インガが8歳くらいになると、突然、統括神官が自分たちの住まいに同居させて、まるで彼女を下女のように扱いだしたそうだ。

 単に自分たちに都合のよい雑用係が欲しかっただけだろうとツェータは言う。


 インガは、些細なミスで殴る蹴るの暴行を受け、いつも体中が痣だらけ……。

 インガが逃げ出して助けを求めても、統括神官の野郎は外面がいいから、インガの言うことをツェータ以外は誰も信じず、それどころか、逆に嘘つき少女呼ばわりするようになったらしい。


 そうか……そんなことがあったから、統括神官の家族みんなから虐待されていたことを俺に、正直に言えなかったのか……どうせ俺に本当のことを言っても信じてもらえない。言っても無駄だとでも思っていたんだろうな。可哀想になぁ……。



 何度も自ら命を絶とうとするインガを、そのたびにツェータが止め、ずっと彼女を励まし続けてきたらしい。


 インガはボーイッシュで活発な子だと勝手に思っていたが……。

 統括神官一家から解放されたことや、后候補に選ばれたことを切っ掛けにして、自分を変えようと努力しているのかも知れない……。


 やはりよく知り合わないと人の心なんてなかなか理解できるもんじゃないな。

 難解で複雑なんだな……俺は改めてそう思ったのだった。


「ツェータ、ありがとうな。お前さんのお陰で大切なインガを失わずに済んだ。

 心から礼を言う」

「いえ、そんな……」


 俺たちの会話を聞いていて我慢できなくなったのか、そこへスケさんとカクさんが加わり、この町にインガを迎えに来た時のことを話し出す。


「私たちがインガさんを迎えに来た時、統括神官はインガさんに成り済ました自分の娘を私たちに后候補の神子として連れて行かせようとしたのです。

 そして、私たちがそれを見破ると……」


 見破られた統括神官とその娘は、成り済ましの罪をインガに押しつけようとし、『インガがどうしても神の生け贄にはなりたくないと言うから、しかたなしに娘を身代わりにした』と、"いけしゃあしゃあと"嘘をついたらしい。


 更に中央神殿に向けて出発する前夜にも事件は起きた。


 インガは、早朝の出発に備えて統括神官の家を離れ、他の神子たちと一緒に町の宿屋に泊まっていた……。

 すると……統括神官の娘は、成り済ましを見破られた腹いせに、インガの部屋に忍び込み、その当時は腰まであった美しいインガの金髪に、あろうことか、樹液に汚物を混ぜたドロッとした液体をかけて逃げたということだ……。


 それで……インガは自慢のロングヘアを短く切らざるを得なかった……。


「インガ!」


 俺は気が付いたらインガをギュッと抱きしめていた。涙が込み上げる……。


 ……インガに酷いことをしてきたヤツらをどうしてくれようか!

 必ず報いを受けさせてやる!



 ◇◇◇◇◇◆◆



 程なくして俺たちはガランの町の検問所に到着した。


 今回もスケさん、カクさんが同行しているため、検問は一切トラブルもなく通過できた。呆気ないくらいだ。


 検問所で、西部開拓者らしき獣人が町に来なかったか尋ねると、一組だけやって来て、その一組も現在、牢に入れられているとのことだった。


 牢に入れられている獣人は全部で5人。すべて家族と言うことだった。

 両親に子供3人、計5人である。


 彼等は飲食店で無銭飲食をして捕まったらしい。

 だが、無実を訴えているとのことだ。

 この町の神殿騎士隊長に奢ってもらったのだと言い張っているらしい。


 もちろん神殿騎士隊長は知らないと言っている。

 こうなるとどちらの言っていることが正しいとされるかは火を見るよりも明らかである。


 飲食費+罰金で金貨1枚を支払えば釈放されることになったらしいが、獣人家族には支払えない。

 そこで、神殿騎士隊長が、獣人家族の長女で、14歳の娘を奴隷商人に売って、その代金で飲食費と罰金を支払うことを提案し、他にどうすることもできない獣人たちは泣く泣くその提案に従うことにしたらしい……。


 今、奴隷商人が娘を買い付けに来ているとのことである。

 奴隷商人はまるで待っていたかのように現れたらしい。


 怪しいなぁ……これは絶対に裏があるな。


「おい衛兵!俺がその獣人たちの飲食費と罰金を支払う!だからすぐに釈放しろ!す・ぐ・に・だ!急げ!」

「し、しかし……隊長の許可がありませんと……」

「えええーいっ!無礼者!このお方をどなたと心得る!このお方こそがこの世界を作られたお方であらせられるぞ!神殿騎士隊長ごときより下に見るとは!上様に、神様に対して失礼であろう!そこへ直れ!成敗してくれる!」


 スケさんが声を荒らげる!

 俺はわざとらしく、眉間の"印"を輝かせる!


「ははーーーっ!た、たた、大変申し訳ありません。い、今すぐに仰せの通りに致します!」


 衛兵はすっ飛んでいった。


 俺たちも衛兵の後を追い、牢がある建物の入り口まで来ている。

 すると、奴隷商人が中から出てきて、建物の方を振り返りながら舌打ちをした。


「おっと!そこの奴隷商人、待ちな!てめぇには用がある!」

「な、ななな、なんですか一体……あなたは誰ですか?」


 神殿騎士のスケさんとカクさんが一緒であるため警戒しているようだ。


「てめぇ……誰に頼まれて獣人の娘を買い取りに来た?正直に話せば良し……さもないと痛い目に遭うぜ?」

「だ、だだ、誰だろうがあなたには関係ないでしょうが……私は失礼する!」


 奴隷商人のターゲットカーソルの色、【魂の色】は、どす黒い赤である。

 だから遠慮はしない……。


「四肢粉砕!」


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


「修復!」

「はぁはぁはぁはぁ……。か、勘弁して下さい……」

「だったら正直に話せ!」

「わ、分かりましたよ……し、神殿騎士隊長です。隊長に頼まれました」


 奴隷商人の話によると……


 獣人家族は、西部開拓詐欺被害について相談するために、衛兵の詰め所を訪れたという。

 そして、その時対応したのが神殿騎士隊長であった。


 神殿騎士隊長は、獣人家族の長女に目を付け、彼女を性奴隷として奴隷商人に売り払うことを画策した。

 奴隷商人に引き取らせた娘を商品として売り出す前に、味見と称して、神殿騎士隊長自らが彼女を凌辱することにもなっていたという……。


 隊長は、食事を奢るから食事を取りながら今後のことを相談しようと獣人家族に持ちかけて、高級飲食店で一緒に食事を取り始めるが、途中で姿を消す……。

 後は我々が聞いた通りである。


 隊長と奴隷商人は、過去に何度も同じような手口により、田舎から出てきた娘等を毒牙にかけてきたのだ。


 許されざる者たちだ!これは死を以て償わせるほかはないな!


「これですべてを話しました。私はこの辺で失礼したいと思います」


 奴隷商人が立ち去ろうとする。


「アホかてめぇ!許されるとでも思っているのか?」

「勘弁して下さいよ~。私は騎士隊長の指示に従っただけですよ」

「まずは…てめぇたちが毒牙にかけた被害者を全員奴隷から解放して、俺のところへ連れてこい。話はそれからだ」


 まず俺は奴隷商人にナノプローブを転送により注入した。

 次に開発画面を起動して、この奴隷商人のイベントにイベントハンドラを割り当てる。

 そのイベントハンドラには監視と制裁を加えるためのコーディングがしてある。


「リブート!」

「……はっ!な、なんだ?一瞬意識が飛んだ?」


「いいか?6ヶ月以内に全員解放できねぇと、てめぇは死ぬことになるぜ。しかも酷ぇ苦しみを味わいながらな! 逃げようったってそうはいかねぇぞ。てめぇには印を付けておいたからな。どこに行こうがすべてお見通しだ。それに……ズルしても分かるからちゃんと全員助け出すんだぜ?いいな!」


「わ、分かりました。全員を奴隷から解放すれば許してもらえるんですよね」

「ああ、検討してやるぜ。7人全員を解放して中央神殿の俺のところまでちゃんと連れてこいよ。いいな?」


「な、なぜ7人だとご存知なんですか!?」

「俺はな……この世界の神だからな。何でもお見通しよ。だからズルは絶対に許さねぇからな。肝に銘じておけよ」

「は…い……」


 取り敢えず奴隷商人を自由にしてやった。

 奴隷商人の男はへこへこしながらその場を去って行った。



 ◇◇◇◇◆◇◇



 獣人家族が全員、牢がある建物から出てきた。

 隣には彼等を解放するために彼等のもとへ向かった衛兵がおり、何やら俺たちの方を見ながら、彼等に話をしている。


 そして、衛兵の話が終わると、獣人家族全員が一斉に俺のもとへとやって来て跪いた。


「ああ、上様、この度は本当にありがとうございました」

「危ねぇところだったなぁ。娘さんも無事でよかったよ」

「はい。このご恩は一生忘れません」

「ところで、お前さんたちも西部開拓詐欺の被害にあったらしいな?」

「……そうなんです。これからのことを考えると…ホントどうしたらいいのか……いっそ一家心中しようかとさえ考えてしまいます」


「かわいい子供がいるのにバカなことは考えるな!

 あそこに獣人が大勢いるだろ?

 あいつらもお前さんたちと同じ被害者でな。中央神殿の近くで農業をやってもらおうと思っているんだ。

 もちろん雇われ農夫とかじゃねぇよ。オーナーとして農業ができる。

 俺が農地も住まいも全部面倒を見てやることになっているんだが……どうだね?お前さんたちもよかったら一緒にくるかい?俺は歓迎するぜ?

 農地も住む家もすべて"ただ"でお前さんたちにも提供してやるよ」

「そ、そんなうまい話はどうも……」


 神殿騎士のカクさんが注意する……。

「無礼ですわよ!お控えなさい!上様に向かって失礼ですわよ!」

「も、申し訳ありません」


「一度騙されているからな慎重になるのも分かる。でもな……俺は信用できる男だと思うけどなぁ~?ははは」

「はい。失礼しました。どうか私共も仲間にお加え下さい。お願いします」

「おう!よかった。それじゃぁよろしくな。荷物はそれだけか?」

「はい。もうこれしか残っていません……」


「そう暗い顔をするな。子供たちが不安になるだろう?

 大丈夫だ!俺がついている!俺にドンと任せろ!いいな!」

「はい!」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ