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第010話 天網恢恢疎にして漏らさず

 目の前で懲らしめようとしていた男が黒光りする何かモコモコしたモノに喰われている!


 先ほどまではしなかった強烈な"下水のような臭い"が地下室には漂っている。

 何かが『クチャクチャ』『カリカリ』と音を立てて男を喰らっているのだ!


 俺は"それ"がなんなのか確認しようと、神術で光の輪を天井に張り付けるように10個出した。

 まるでLED照明…シーリングライトのようにも見える。


 周りが明るくなった瞬間、黒光りするモコモコしたモノは細かく分裂した……と思ったら、なんとそれらは「ねずみ」のような生き物であったのだ。


「ねずみかっ!?」


 あたりが急に明るくなったことに加えて俺の声に驚いたのかそれらは四方八方に逃げ出した。

 皆、俺を避けて逃げていく。100匹近くはいたかも知れないな……。


 その中の一匹を"見えざる神の手"で捕まえてよく見てみるとやはり魔物ではなく"ねずみ"であった。

 魔石を持たないただの小動物"ねずみ"であったのだ。


 こんなのがいるところにキャルとシャルが監禁されていたのかと思うと、ゾッとした。



 喰われていた男を見る……ほぼ白骨となってしまっている。

 俺がロープで拘束して転がしておいたことが災いして、逃げることができずに、生きたまま食い殺されたようだ。


 仏教思想を持ち出すのもアレなんだが……因果応報ってところか……。


 だが…なんとなく後味が悪い……。

 でもまぁ、蘇生してやる義理はない!


 アンデッドにでもなったら面倒だ。必要な情報を入手したらさっさと火属性神術"烈火"を使って焼き尽くそう……。


 ということで、キャルとシャルを虐待していたクソ野郎の"魂の履歴"を確認してみることにした。


 この男は貴族の三男坊らしい。

 常日頃、父親や兄弟たちから馬鹿にされていたらしく、その鬱憤を、弱者を虐待することで晴らしていた。


 初めは昆虫の脚をむしり取ったりしていたが、そのうちに鳥や小動物を虐待して殺したりするようになる……。

 この手の人間がよく辿るお決まりのパターンとも言える。だんだんと犯行がエスカレートしていくのだ。


 そして遂に獣人であるキャルとシャルを毒牙にかけることになる……。


 闇奴隷商人とのつながりはなかった。

 男がキャルとシャルを買った"愛玩奴隷ショップ"の名前と場所を確認してから、この男の魂を"奈落システム"へと放り込んでやった。

 キャルとシャルの両親がいる"輪廻転生システム"へやるわけにはいかない……。

 まぁ…"輪廻転生システム"の処理待ちキューに入れたとしても、恐らくは、門前払いになるだろう。

 システムに弾かれてどのみち"奈落"に突き落とされるのだろうが……。


 こんなヤツをまっとうに転生などさせてたまるか!

 地獄の苦しみを味わってこい!



 俺はほとんどが白骨と化している男の死体を火属性神術"烈火"を使って灰も残らないくらいに焼き尽くす。

 死体の周りには念のためにシールドを展開してあるので、火災の心配はない。


 死体が完全に焼き尽くされるのを確認してから、念のために、"完全消火"神術を施し、すぐに"愛玩奴隷ショップ"の店先へと転移した。



 ◇◇◇◇◇◇◇



「犬族専用愛玩奴隷ショップ『ドッグドッキー』……ここだな』


 俺は店の中へと入る……。28歳の女が店の中にいる。

 魂の色は黒みがかった赤だ。


「あー店はやってないよ。昨日で閉店したんだ。帰ってちょうだい!」

「お前さんがこの店のオーナーか?」

「ああ"元"だけどね。つぶれちゃったからね。で、あんたなんかようかい?

 売った商品に対するクレームなら受け付けないよ!」

「お前さん、"闇奴隷商人"とつながっているよな?」

「な、ななな、なにをバカなことを言っているんだい!

 妙なことを言うと衛兵を呼ぶよ!」

「ああ、いいぜ……呼んでみな。俺は構わないぜ。

 なんなら俺が呼んでやろうか?」

「……」


 その時である……店の扉が不意に開く音がしたかと思うと、男がオーナーの女に話しかけた。


「おーい、プラチマ!迎えに来たぜ。西部へと向かう獣人の一団を……おっと客がいたのか?」

「あんた!逃げて!そいつはあたいたちを捕まえる気だ!」


 即座に"見えざる神の手"を2本出して、オーナーであった女と、店に入ってきた男の両方を捕まえ、生成したロープでグルグル巻きにしてやった。


「「なにしやがる!放せ!」」

「おい!兄ちゃん、てめぇは闇奴隷商人だろ?」

「な、なにを証拠に……俺はただの商人だ!いいから放せ!」


 "見えざる神の手"をちょきの形にして"かる~く"男の目をちょんと突いてやる。

 "かる~く"だ。


 ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!


 あらら……男の目からは血とともにドロッとした液体が涙のように流れる……。


「修復!……嘘はいけねぇなぁ~。正直に話した方がいいと思うぜぇ~?」


 すでに"魂の履歴"は調査済だ。

 男が闇奴隷商人の親玉であることは分かっている。女は男の内縁の妻である。


「ち、ちがう……俺はまっとうな……ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


 今度は右耳を摘まんで"かる~く"ひねってやった……"かる~く"だ!

 ん?なんか"ブチッ"という音がしてちぎれたな……?


「修復!……まだ分かんねぇようだなぁ~、嘘を言っても無駄だ。

 素直にゲロしな!」

「わ、わわわ、分かった!な、なな、なんでも話すからやめてくれ!た、頼む!」

「最初からそうすればいいのに……バカなヤツだぜ」


 なんか第三者が聞いたらどっちが悪人だか分からないだろうなぁ……。

 ふとそう思った。



 男も女も"闇奴隷商人"であることを認めた。

 そして、手下はここにいる女の他に11人いる。

 ノルムの町の西方8km程のところにある森の中の洞窟をアジトとして、街道を旅する獣人、特に犬族をメインに奴隷狩りをしているということだ。


 そろそろ足がつきそうなので、この町での商いをやめて西部へと拠点を移そうとしていたらしい。

 早く行動してよかった……危うくコイツらを取り逃がすところだった。



「……な、なんで俺たちのことが分かった?てめぇは誰だ!?」

「俺かぁ?俺はなぁ、この世界の"神"だよ!"神"!

 天網恢恢疎(てんもうかいかいそ)にして漏らさず……ってやつだ!

 まるっとお見通しなんだよ!ははは!」


 まぁ全くの偶然なんだけどね……。



 ◇◇◇◇◇◇◆



 俺は"闇奴隷商人"の"ボス"とその女を連れてコイツらのアジト近くに転移した。

 土属性の神術を使って穴を掘り、"ボス"とその女を首まで埋める。

 口には猿ぐつわをしてある。


「てめぇらは大人しくここで待っていろ!いいな!?」

「「んぐんぐ!」」


 何か言いたそうだが無視して俺はコイツらのアジトである洞窟へと踏み込む。


「な、なんだてめぇは!……ぎゃああああぁぁぁぁぁ!!!」


 俺は貴族の三男坊の腕を引きちぎってしまった地下室の一件を教訓に、デコピンで対応することに決めている。

 面倒くさいので、相手が剣で斬りかかってこようが、矢を放ってこようが、魔法攻撃をしてこようが…みーんな無視してそのまま攻撃を受けながら、されるがままにして、敵を順にデコピンで倒していった。


 敵の攻撃を受けるといっても、実際には、体の表面にシールドを"薄く"展開している。

 だから、怪我を負うこともなく、敵の攻撃の衝撃すらほとんど感じない……。

 相手のどんな攻撃も『なんかされたかな?』程度の感覚しかないのだ。


 シールドをこんなにも薄く、しかも、体の表面だけに展開する方法は全知師から教えてもらった。

 これは結構便利だな。



 最後のひとりを倒し、全員をロープでグルグル巻きにしてからアジト内を調べて回る。

 すると、アジトの最深部に牢があり、その中に獣人の子供たちが12人入れられていた。

 3歳から12歳までの子供たちであった。


「みんな!助けに来たよ!すぐにそこから出してあげるからね!……解錠!」


 牢の鍵が開く。

 俺は牢の扉を開けて、子供たちを順に外に出す。

 みんなは泣きながら牢の外に出てくる。俺に抱きついてくる子もいた。


「つらい目にあったね。もう大丈夫だよ。安心おし」


 "闇奴隷商人"たちは全員気絶している。

 一旦、コイツら全員をボスとその女が埋まっている側に、ボスたちと同じように猿ぐつわをして、地面に首まで埋めておくことにした。

 子供たちの親を"救う"方が先だと判断したからだ。


 俺が今ここで助けた子供たちは、略取されてから、まだ時間がそれほど経過していなかったのだ。

 だから…たとえこの子らの親が殺されてしまっていたとしても、蘇生できる確率が非常に高い。

 しかも、ここにいる子供たちとその親たち全員が、隊列を組んで西部を目指しているところを襲われていた。

 つまり、この子たちの親を一気に全員蘇生させられるかも知れないのだ!


 こっちを優先させることは考えるまでも無い!


 俺は"闇奴隷商人"のボスに犯行現場を白状させ、念のためにヤツの"魂の履歴"で確認した。

 犯行現場はここから西へ30km程離れたところにある林の中であった。

 その林は西へと向かう街道に沿うようにして、街道の北側にある。

 この林の中で野営しているところを"闇奴隷商人"に襲われたのであった。


 この子たちの親は……やはり皆殺しになっており、林の中に掘られた穴に折り重なるように埋められている。


 "闇奴隷商人"たちの頭を踏んづけてやりたい衝動が湧き起こる…が、子供たちが側にいる……グッと我慢する。

 コイツらには後で"た~っぷり"と己の罪がどれほど深いかを思い知らせてやる!



 さて……どうしたものか?

 子供たちをここに置いてはおけない…が、一緒に連れて行くと親御さんの遺体を見せることになる……。


 全員が蘇生できれば良いが、蘇生できない、あるいは、蘇生することがはばかられるケースがあるかも知れない。

 それに、子供たちの母親の中には殺される前に"闇奴隷商人"たちに凌辱された者もいる。

 ……そんな彼女たちが蘇生後にどう振る舞うのか…予想がつかない。



 やはり親御さんたちのもとへは一緒に連れては行けない……。

 そう判断して、俺は一旦子供たちを連れて、シオリたちのもとへ転移することにした。


 俺と子供たち全員、計13人をターゲットに指定して……


「今からノルムの町の神殿前に一瞬で移動するからね。びっくりしないでね。

 それでは……転送!」


 俺たちは、一瞬でノルムの町の神殿前広場に転移した。子供たちはみんな驚いているようだ。

 予めシオリには念話で連絡してあったので、テントの外まで迎えに出てきてくれている。


「おっ!シオリちゃん、待っててくれたのか、ありがとうな」

「いえ。それでこの子たちを一旦お預かりすればよろしいのですね?」

「ああ、それと身体を綺麗にしてやってくれ。下着や服も新しいのを着せてやってくれねぇか?」

「はい。承知しました」


「それから……なんか美味いもんでも食わせてやってくれ」

「分かりました。シンさんには申し訳ありませんが、この子たちと一緒に私たちも先に昼食を済ませることにします」

「ああ、すまんが頼む。

 ……えっ?もう2時なのかぁ?昼食が遅れてしまってすまん。

 お腹が空いただろう?」

「いえ。私たちは女子会でお菓子を食べていましたから……」

「おお、そうだったな。女子会かぁ…盛り上がっただろうなぁ~」

「はい。シンさんの話で……うふふ。バッチグーです!」

「は・は・は……。バッチグーの使い方が変じゃねぇか??」


 ここで念話に切り替える。


『シオリちゃん、俺はこれから殺されたこの子たちの親を蘇生しに行ってくる。

 だが、この子たちには期待を持たせるようなことを言わないでいてくれ』

『はい。承知しました』


「みんな聞いてね!俺はちょっと用ができてしまったんで出かけるけど、君たちのことはこの綺麗なお姉さんに頼んであるから大丈夫だからね。ここでちょっとだけ待っててね。それから……この綺麗なお姉さんが、美味しいお昼ご飯をご馳走してくれるから、期待してね」


 不安を口にする子もいたが、そんな子は年長の子が宥める。

 ん?シオリが頬を染めている?


「それじゃぁ行ってくる!……転移!」



 ◇◇◇◇◇◆◇



 今俺は土属性の神術で、遺体が埋められている場所を掘り起こしている。

 魔法を使って埋められたためか、かなり穴は深く、そのお陰で魔物や野生動物に荒らされてはいない。


 大きなブルーシートを生成して地面に広げる。

 すべての遺体を順に"見えざる神の手"で優しく掴みながら穴からシートの上へと寝かせていった。

 全部で11体であった。男性が6人、女性が5人である。


 シングルファーザーの家庭が1つあるということかな?


 そして、俺は女性の犠牲者たちのステータスを調べる。

 完全浄化神術の前のチェックだ。


 幸いなことに妊娠中の女性はいなかった。これなら完全浄化が使える……。


 すべての遺体をターゲットに指定し、まずは完全浄化を施す。

 さあぁ!今度は完全修復だ。……よし!無事完了!うまくいった。


 その次は、ちょっと手間だったが、ひとりひとり身につけていた衣服と靴を再現して装着させた。

 下着の方は確認するのもアレなんで、当然男女は別だが、みんな同じものを装着させてある。


 さてと……蘇生させても良い魂かを確かめねばな。魂の色の確認だ。

 ……ほっ!全員OKだ!良かった!!

 彼等の魂の色、赤黒い色はひとりもいない。

 それどころかみんな青色から青っぽい緑の範囲に収まっている。


 なんか人族に比べると獣人族の方が、魂が相対的に綺麗な気がするな……。


「子供たちは喜ぶだろうな!……蘇生!!」


 眩しくて目が開けていられないくらいの光が、遺体から一斉に放たれて、一瞬で消える……。

 みんなが意識を取り戻す前に、全員に精神安定化のために、状態異常修復神術を施しておいた。殺された時の記憶が蘇り、暴れるのを防ぐためだ。


 みんな、気持ちよく目覚めたようだ。伸びをしている者もいるな。


「えーと、復活おめでとう!幸運にも、お前さんたちは蘇ったのだ!」


 みんなお互いに顔を見合わせてなにやら話している……ざわざわしている。


「あー!お前さんたちの子供は、奴隷商人のもとから助け出してあるから安心してくれ!」

「子供たちは……子供たちはどこにいますか?」

「ああ、俺の仲間のところにいる。今頃遅めの昼飯でも食ってんじゃねぇかなぁ?すぐにあわせてやるから心配するな」

「どうして蘇生させて下さったんですか?」

「子供たちにはお前さんたちが必要だろうと思ってな……」


 夫婦で抱き合ったり、隣の者と固い握手をしていたり……生き返ることができたことを喜んでいるようだ。

 そんな中、素直に蘇生を喜べないでいる者たちがいた。

 俺はその者たちだけをみんなからは離れた場所へと呼び出す。


「お前さんたちが奴隷商人に凌辱されたことは知っている……。

 だが、身体は中も外も今は完全に綺麗になっている。

 身体の中は浄化してあるし、クソ野郎どもの痕跡も完全に排除した。

 それと、嫌かも知んねぇが……女性の身体はみんな"生娘"の状態に戻っている。治癒の過程でそうなった。

 しかも、お前さんたちの最盛期の状態だから…多分17、8歳の頃だと思うが…その頃の身体に戻っているはずだ」


「でも……ヤツらに…ヤツらに乱暴された記憶が……つらいんです。身体が汚れているようにしか思えないのです」

「ああ、残念ながら……心に負った傷までは治せていねぇ。だが、お前さんたちが望むのなら、嫌な記憶を完全に消してやることもできる」


「記憶が消せるんですか?」


 女性たちがざわつく。


「ああ、だが記憶にぽっかりと穴が開くし、何か副作用が出てくるかも知んねぇ。

 だから、できれば自分で苦しみを乗り越えて欲しいと俺は思っている」

「……」


「経験してもいねぇのに勝手なことを言うなと思うかも知れんが……今回のことは悪夢を見たとでも思い込んで、これからの人生を前向きに生きていって欲しい」

「……」


 凌辱行為は肉体のみならず、心までも壊す。

 いや心の方こそが壊される……とても罪深い犯罪だ。

 こういった場面を見るに付けそう強く感じる……。


 簡単に気持ちを切り替えられるものでもないだろう……。

 夫がどう思っているかとか世間体がどうとかを考える必要なんか全くない。

 まずは自分のことだけを一番に、大切に考えて欲しいものだ。心からそう思う。


 ちなみに…記憶を消したいと申し出る者はひとりもいなかった。



「ああーっ!生き返ってもこれからどうしたらいいんだぁーー!!馬車もないし、農具もない……何にもなくなっちまったぁ~。これじゃぁ親子4人で生きては行けない……」


 ひと息つくと現実が見えてきたのか、現状を悲観する者が現れだした。


「大丈夫だ!馬車も、農具も…当面必要なものは俺が用意してやるから……。

 それに西部開拓地には俺が送ってやるからそう悲観するな」

「……」

「大丈夫だって!なんとかなるさ!いやなんとかしてやるから!

 それよりも早く子供たちの喜ぶ顔が見たくねぇか?」

「貴方様は一体……?」

「俺か?俺はこの世界の"神"だ!」


 俺は眉間に光り輝く"印"を右手で指さした。

 その途端、俺が言っていることが本当だと確信できたのか、みんなが俺の足下にひれ伏す。


「まあまあまあ……面を上げてくれ。普通にしていればいいさ。

 それよりも子供たちのところへ行くぞ。準備はいいか?」


 みんなは頷いている。

 俺はブルーシートを亜空間倉庫へ仕舞った。


「それじゃぁ、俺の周りに集まってくれ!……よし!転送!」



 ◇◇◇◇◇◆◆



「おかあちゃーーん!おとうちゃーーん!」


 いつものようにシオリには事前に念話で連絡済だ。

 だから、ちゃんと子供たちをテントの外で待たせてくれていたのだ。

 感動の再会!良かった、良かった。


『シンさん!キャルとシャルが!』

『ん?し、しまった!』


 テントの入り口付近、シオリがしゃがんでいる横に……キャルとシャルが俯いて肩を大きく上下させている……泣いている。

 俺は彼女たちのもとへ駆け寄り、ふたりをギュッと抱きしめた。

 シオリもその輪に加わった。


「ごめんな、君たちのお父さんとお母さんは、もう天国に行っちゃったから…生き返らすことができないんだ……ごめん」

「ううう……。

 お、お父ちゃんと…お母ちゃんは天国にいるの? もうあえないのぉ?」

(ううう……)


 ああ……俺はなんてバカなんだ!!こうなることは予想できたのに……。

 キャルもシャルも目に涙をいっぱい溜めている……。


「ああ……多分会えないと思う」

「会いたいよぉ~。会いたいよぉ~。

 神ちゃま、キャルもシャルもお父ちゃんとお母ちゃんに会いたいのぉ-。

 会わせてなの。会わせてよぉ……会いたいよぉーーー!うわぁぁぁぁぁぁん!」


 一所懸命に堪えて!堪えて!堪えて!堪えて!…堪えに堪えてきたキャルの感情が…爆発した。

 キャルは号泣している。

 そして、シャルも声は出せないが号泣する……。ああ…胸が張り裂ける……


 俺とシオリは間にキャルとシャルを挟むようにして、4人で抱き合い泣いた。






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