page3:2人の関係
ガラガラガラ
「こんにちは、森久保先輩」
いつものこの声に少し安心しながらいつものように返した
「こんにちは、安藤さん。僕の小説は読んでくれた?」
彼女は本当に読んでくれたのか少し心配だが、どちらにせよ話を切り出さないと進まないと思ったため僕から言った。僕としては読んで感想をくれればそれだけで十分なんだが、実際どうなのかは安藤さんに聞いてみないとわからないので楽しみだ。
「はい。読ませていただきました。先にお聞きしてもよろしいですか?」
僕は何だろうと思いつつ頭を縦に振った。
「これってどこかに投稿したり、応募したりしましたか? 私的には面白くて、作品に吸い込ませる気分でとても楽しかったです。だからどこかにこれを出していればよいと思ったのですが」
感想を言いつつ質問してくれたのでとてもうれしくなりながら少し顔が緩んでしまった。この顔が気持ち悪くないか心配になったが、そんなことより、質問に答えなくてはならない。
「一応、出版社には何度か出したのだけど一次で落ちたりしてしまって駄目だったんですよ。だからあんまり自信はなかったんですよ」
悲しい雰囲気になりながら言った。だが、こんな雰囲気でよいわけがない。少しでも楽しい雰囲気に戻さないといけないと思う。
「あ、で、でも安藤さんが面白いって言ってくれただけで僕は満足です。直接そんな感想言われたことなかったし自分の作品に自信がなかったから安藤さんにもどんな風に言われるか心配でしかたなかったです。だから、ありがとうございます」
涙を目に浮かばせながら言ってしまった。非常に情けない。だが、今まで友達もいなく、何度も言うが初めて感想を言ってくれたのでどうしても我慢できず泣いてしまった。
「え、せ、先輩。急に泣かないでください。こっちが困りますよ」
安藤さんを困らせてしまった。これは僕自身がなんとかしないといけない。
「ご、ごめんなさい。ちょっと外の空気吸ってきます」
…数分後
「お待たせしました。先ほどはすみません」
頭を下げながら安藤さんに言って席に座る。そういえば、安藤さんが感想次第で読書友達になってくれるといった話があったが、正直そんなことはどうでもよかった。でも、できれば友達になりたいと思った。
「あ、あの。森久保先輩…。私でよければ、また小説読ませてくれますか?それから、読書友達という形で仲良くさせてもらってもよろしいですか?」
まさか、そんなことを考えていたら、言ってくれるなんて思わなかった。また泣きそうになったがさすがに二度も泣くわけにはいかないと我慢した。そして、僕はこういった。
「ほ、本当ですか!?僕でよければこれからよろしくお願いします。あ、敬語もなしでしたね。安藤というのも変ですし、僕の名前は下で呼んでいいから下の名前でもいい?」
と僕は聞いてみた。うれしすぎて早く話してしまった。
「ごめんなさい。下の名前はまた後でお願いします。私のことは、あんでいいですよ。先輩のことは森久保くんって呼びますね」
下の名前で呼べないのは少し残念だが仕方ないと思った。仲良くしてくれるだけでも十分なのに僕が欲をもちすぎてただけだなと思った。今ふと思ったのだが、あんはどんなジャンルを読んでいるのだろうか気になった。
「そうですよね。わかったよ。ところで…あ、あんってどんなジャンルの本を読むの?」
ちょっとあだ名みたいなので呼ぶのに慣れなくて詰まってしまったが、仕方がないと思った。あくまで僕の予想ではあるが、あんはミステリー系だと思うのだ。
「私は…一応、恋愛ものやラブコメディなどをよく読んでいます。友達作りのために読み始めて面白かったのでそのまま読んでいるんですよ」
あんが恋愛もののジャンルを読んでいるというのは、とても驚いた。明らかにあのクールなあんが恋愛ものを読むとは思えない。僕はSFものを書くが一番書きやすいのがSFなだけでいろんなジャンルの本を読んでいるのでわかる。
「あんって本当に恋愛もの読んでるの!?実際今読んでる本教えてもらってもいいかな?」
本当か確認するには本を確認するしかないと思い、聞く。でも、恋愛ものを読んでいるなら、もっと楽しく話せると思った。なぜなら、僕は恋愛ものの小説が一番好きだからだ。
「これを読んでるの。結構面白くて何度も読んでるわ」
そういって渡してきたのは、とある有名な作品だった。この作品は本業界でもかなり売れた作品で深夜だがCMでも流れたので、本が好きならかなり誰でも知っている作品だ。
「これは、僕も読んだことがある作品だからわかるよ、とても面白くて自分でも買ったしね。あ、ありがとう」
といい渡された本を返す。恋愛ものの本を読むということはそういう関係になってもおかしくはないということかな……いやいや、そんなのはあり得るわけがない、さすがに友達以上はないと思う。というか、僕は少し気が早いらしい。そんな焦っているわけでもないのに、こんなことを考えるなんて自分でもびっくりだ。
「い、いえ。どうも。森久保くん? よかったらなのだけれど、私も本を書いてみたいと思ったの。だから、私の書いた本を読んでもらえないかしら?」
あんからは意外な発言があったので僕はびっくりした。もちろん、僕としては大歓迎だ。そして、あんが書く作品も気になってしまった。
「いいよ。あんが書いてくれるなら文化祭での活動は僕だけじゃなくなるからとてもうれしいよ」
キーンコーンカーンコーン
そうこうしているうちに、最終下校のチャイムが鳴った。今日の活動はここまでになるので解散しなくてはいけなくなる。
「とりあえず、チャイムなったし今日は解散にするか、このことについては明日またにしよう」
そういってその日は解散になった。最後にあんがこういったのを聞いて僕はとてもうれしかった。
「まさ。明日また部活でお話ししましょうね」
その、あんの後姿はとても美しく後輩とは思えないほどきれいだった。