続編 -初めての… 2-
ロッカールームを出て、自分のデスクに座り、
いつものようにパソコンを立ち上げると
一夜さんからメールが届いていた。
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おはよう。
もう長谷川部長から聞いてるかな？
後で俺も手伝いに行くよ。
−−−−−−−−−−
・・・？
メールの内容がさっぱりわからなかった。
何のことだろう？
長谷川部長とは総務部の部長だ。
その部長から何か話があるんだろうか？
パソコンの前で首を捻っていると
その長谷川部長が来て、すぐに意味がわかった。
「ちょっと急な話なんだが・・・、
今度、総務部が経理部と同じフロアに移る事になった。
仕事納めに合わせて引越しをするから、各自今日と明日、
荷物を段ボールに纏めておいてくれ。」
なるほど・・・一夜さんは一足先に経理部の方で
聞いていたのね。
明日は仕事納め。
毎年、私達が退社した後、清掃業者が入って大掃除をしてくれる。
それに合わせての引越しと言う訳だ。
引越し作業も荷物さえ纏めておけば引越業者がやってくれるらしい。
しかし、その荷物を纏めるのだけでも大変だ。
急な話だし、なにしろ年末で忙しい。
明日は仕事納めだからあまりやる事はないけれど。
今日はみんな揃って残業確定・・・かも。
―――夜7時。
ようやく通常業務が片付いて引越準備に取り掛かろうとしていると、
「うぃーす、手伝いに来たよー。」
一夜さんと経理部の男性社員が総務部に来た。
スーツの上着を脱いでネクタイを外し、シャツのボタンも
一つだけ外して腕捲りをする彼の姿に私は少しだけドキッとした。
一夜さんとは付き合い始めてまだ3日。
スーツを着ているところしか知らない。
だからこんな風にラフな感じの彼を見るのは初めてだ。
そして、そのラフな姿の彼にときめいているのは
私だけではなかった。
今朝、ロッカールームで一夜さんの噂をしていた
あの女の子達だ。
総務の男性社員と一緒に段ボールに書類や資料を詰め込み、
引越準備を手伝っている彼に熱い視線を送っている。
もちろん彼はその様子には気付くはずもない。
こうして私がもやもやした気分でいる事も・・・。
引越準備を始めてかれこれもう2時間―――、
経理部と同じ三階へ移った後のレイアウトは
すでに決まっているものの、それぞれの荷物と
パソコンの配線外しなどで意外にも時間がかかった。
それでも一夜さんや経理部の人達が手伝いに
来てくれたおかげでなんとか終わった。
そしてみんなで休憩室に行き、コーヒーを飲んでいると、
「前園さん、この後私達と一緒に食事に行きませんか？」
隣にある喫煙室からあの女の子達の声が聞こえてきた。
愛煙家の一夜さんと他の男性社員に混じって
同じ様に煙草を吸っている。
どうやら帰りに一緒に食事をして帰るつもりらしい。
休憩室と喫煙室の間には間仕切りというか
ガラス一枚で仕切られている。
だから休憩室にいれば自ずと会話も聞こえてくるし、
姿も見える。
一夜さん、一緒に行っちゃうのかな？
「あー、ごめん、今日はちょっと無理。」
すると、一夜さんはあっさりと断った。
今日は何か用事があるなんて言っていなかったから、
てっきり一緒に行くのかと思っていたのに。
「えー、じゃあ、明日は？」
「明日は納会があるでしょ？」
「じゃあ、その次の日とかは？忘年会しましょうよー。」
「うーん・・・俺、その日から帰省するからなー・・・」
一夜さんはあまり乗り気じゃないのか、困ったような顔をしている。
「それなら新年会は？」
そして、さらに彼女達が食い下がると、
「新年会かー・・・先の事はまだわかんないな。」
一夜さんはそう言って煙草を灰皿に押し付けると
スタスタと休憩室を出て行った。
「前園さん、逃げた・・・。」
「年明けにもう一回誘ってみようよ。」
「また断られたらどうするの？」
「新年会ってことなら大丈夫じゃない？」
一夜さんがいなくなった後、彼女達は早くも
次の作戦を立て始めた。
しかし、それは裏を返せば私も会えないという事だ。
今日は無理だと言っていたし、明日は納会があるし、
その次の日から帰省するって言ってたし。
年明けもいつ帰って来るとか聞いてないし・・・。
あれ？
て、事はー・・・
一夜さんの顔が見られるのは明日が今年最後？
「はぁー・・・。」
なんだかため息が出てきた。
一夜さんと付き合っているって言ったって
社内じゃ話せないし、もっぱら電話かメールだけ。
仕事帰りに一緒に食事もしていない。
私だって一緒に食事とかしたいのに・・・。
